タツミ in イェーガーズ   作:蛇遣い座

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第26話 異民族を狩るⅡ

 

 

 

幾人もの達人が繰り広げる、流麗かつ苛烈な剣の舞。金属音と風切り音が断続的に鳴る、巨大な城砦の一室。石造りの十メートル四方の空間で、タツミは死線を潜り抜けていた。大鋏の帝具を右手に、長剣を左手に、あらゆる方向から迫る死の刃を回避し続ける。

 

「チッ……しぶとい」

 

白装束の男の放つ、刺突剣の連撃を大鋏を盾にして弾く。手元でクルリと回し、タツミはエクスタスの切っ先を敵の首元へ突き立てた。しかし、反撃の突きは左側から迫る曲刀により中断。舌打ちする。

 

「クッ……何て面倒なんだよ!」

 

左手の長剣で弾き、曲刀使いの腹に蹴りを入れることで距離を空ける。だが、瀑布のごとく、続々と攻め手が押し寄せる。頭上から振り下ろされる直刀の一撃を、エクスタスの薙ぎ払いで強引に吹き飛ばし。懐に潜り込む短剣使いの刺突に、手首を取って皇拳寺の投げを放つ。ようやく包囲網から逃れ、一息吐くことができた。

 

「ハァ……ハァ…強え…。これが西の異民族最強集団『ソードマスターズ』かよ」

 

各剣術流派の達人が集うのが、総司令の近衛を担う白装束である。技量はタツミを超えている。

 

「それはこちらのセリフなのだがな。我らの連携をしのぐなど、貴様が初めてだ」

 

西部異民族軍の司令官、ゴウラが感嘆の声を漏らす。まさか必殺の刃の嵐を掻い潜るなど、信じられなかったようで、周囲の白装束も驚きと警戒を顔に出す。

 

 

 

しかし、一方のタツミは余裕などない。壁を背にして、敵の攻撃範囲を減らし、動き回りながら何とか包囲を突破したが、身体には至る所に浅い傷がついていた。極限の集中と自らが編み出した剣舞。それが無ければ、今の一連の攻防で間違いなく殺されたはず。それほどに厄介な相手なのだ。

 

――勝機は最初の一手のみ。

 

静謐と化した脳内で、タツミは判断した。エクスタスの特性を知らない、その一手で勝負を決める。

 

「セイッ!」

 

司令官ゴウラの裂帛の気合。凄まじい速度で振るわれる、瞬時の斬り下ろし。瞬剣と呼ぶに相応しく、専心したタツミでさえ、反射で受けるのが精一杯。眼前に迫る大剣を、何とか帝具の大鋏で受ける。

 

「ぐうっ……!?」

 

――重量感は異常のひとこと。

 

人の身では考えられないほどの、強烈な一撃。超重量武器であるエクスタスですら、ピンポン玉のように軽々と弾き飛ばす。引っ張られるように、タツミの身体も後方へと容易く吹き飛んだ。

 

敵による追撃の準備は万端。弾かれた先には曲刀使いと刺突剣使いが待ち構える。慌てて振り向いたタツミの眼に迫る尖った切っ先。極端に捉え難い刺突を、ギリギリで首を傾けることで回避。同時に胴体を斬り裂かんとする曲刀の横薙ぎを、地面にエクスタスを差し込み、急制動を掛けることで致命傷を避けた。

 

「やっべ……危ないところだった」

 

だが、今の一閃で腹に横一文字の赤い線が走った。わずかでも反応が遅れれば、腸を斬り裂かれていた。背筋に寒気を覚えつつも、タツミの直感はさらに磨かれていく。さらに視界外の上空から振り下ろされる直刀の打ち下ろし。

 

「……これに反応するか」

 

空気の流れや殺気、衣擦れの音。鋭敏な五感で収集した情報を、無意識化で分析。直感としてタツミは、エクスタスを上空に振り抜く。鳴る金属音。武器破壊は目的とせず、相手の身体を弾くことに意識を置いた。なぜなら――

 

「うああああっ!」

 

すでに懐に潜り込まれている短剣使いの対処が優先。最短の前蹴りを放つ。間合いを詰めていた相手を蹴り飛ばすことに成功。だが、しっかり受けられて、ダメージはない。それどころか――

 

「痛っ……やられたか」

 

防御と同時に短剣をふくらはぎに突き立てられた。右足から血が噴き出す。幸い腱には達していないようだが、それは運が良かっただけ。考えている暇もなく、次々と剣技が繰り出される。

 

最速の刺突剣による突きを、大きくサイドステップでかわし、袈裟懸けに払われる直刀はこちらも左の剣で受け止める。だが、直刀使いはニヤリと口元に笑みを浮かべた。ザワリと鳥肌が立つ。

 

「これはヤバい……!」

 

まるで蛇蝎のごとく、細い刀身がタツミの剣に絡みつく。手元の微妙な操作により、切っ先が円を描く。

 

――『巻き上げ』と呼ばれる高等技術。

 

タツミの剣が上空へと弾き飛ばされかける。寸前で握る手に力を込め、手を離すことは免れたが、左腕を高く掲げた無防備を晒すことになった。

 

「キエエエエイッ!」

 

狙い澄ました剛剣一閃。司令官ゴウラによる瞬撃が最悪なタイミングで放たれる。上体を浮かされ、回避は不可能。ならばエクスタスで防御すべきだが、それでは先ほどと同様の結果になる。ジリ貧を察したタツミは賭けに出る。斬り下ろしの剛剣の、速度が乗る前にエクスタスを打ち当てて、軌道を逸らすのだ。見極めをする余裕はない。一か八かで大鋏を振るう。

 

「チッ……やってくれる」

 

とっさに突き出した大鋏の刃が、相手の大剣と衝突する。ちょうど振り下ろそうとした瞬間に、タツミのエクスタスが割り込んだ。打ち負けることを覚悟したが、彼の手に残ったのは――

 

 

――異様なほどに軽い感触

 

 

「チッ……やってくれるではないか」

 

「この武器はまさか……」

 

あっさりと司令官ゴウラの両腕が弾かれる。タツミは予想外の事態にわずかに目を見開き、そして相手の武器の特性を理解した。おそらく『重力操作』の類――これが神速と剛剣の両立のタネ。

 

「ここで決めるっ!」

 

勝負所だと決断する。勝機である一手を、ここで使うと決めた。しかし、相手も隙を晒した現状を眺めるほど素人ではない。司令官ゴウラはバックステップで退避。挟み込むように左右から白装束の剣士が襲い掛かる。そんな中、タツミは目を閉じた。

 

「喰らえ、奥の手……!」

 

 

――エクスタスの刀身が、強烈な光を放つ

 

 

閃光弾に匹敵する発光は、近距離で受ければ一時的に視力を失わせるほど。左右の剣士が反射的に蹲り、呻き声を上げる。司令官ゴウラも硬直し、わずかにステップが緩む。今こそが唯一の勝機。全力で踏み出し、この戦闘で初めてエクスタスの両刃を開く。

 

「そうはさせぬっ!」

 

叫びながら、短剣使いが得物を投擲する。狙いは正確に進路上。思わず足を止め掛けるが、あえて無視して突撃を続行。脇腹に短剣が突き刺さる。

 

「うおおおおおおっ!」

 

司令官ゴウラを攻撃範囲内に捉えるタツミ。相手は視力を失っている。大きく開いた巨大な両刃。しかし、さすがは西方異民族最強剣士。心眼と呼ぶべきか。五感や予測を駆使して、正確にタツミの攻撃軌道を察知。耐久力の高い大剣で防御態勢を取った。

 

 

――司令官ゴウラの胴体が、大剣ごと両断される。

 

 

舞い散る血飛沫。床に崩れ落ちる、上下に分かれた人間の塊。カランと砕かれた大剣の破片が音を立てた。タツミは死体を確認すると、ゆっくりと振り返り、残りの白装束の剣士達を見据えた。

 

 

「大将首はもらったぜ。まだ、続きをやるか?」

 

 

静かに問いかける。司令官を失い、近衛である面々から浮足立った様子をかすかに見てとれた。彼は期待をしていた。リーダーを狩れば、戦争が終わるのではないかと。だが、白装束は互いに目配せをすると、再び包囲陣形へと戻ろうとする。

 

「……さて、どうすっかな」

 

タツミは重々しく息を吐いた。自分が生きて戻れる可能性が、限りなく低くなったことにである。脇腹の短剣を抜き、痛みに顔をしかめる。先ほどの交錯を終えたことで、極限の集中状態は途切れてしまった。

 

『奥の手』と『万物両断の特性』――これらを見せてしまった以上、警戒されて武器破壊など容易にさせてもらえないはず。すでにタツミは逃走に意識をシフトさせていた。

 

 

 

 

 

 

 

それから30秒後。そのわずかな時間で、戦況は一変した。静寂に包まれる室内。部屋の壁や床には至る所に、切り傷が付いている。その中心に、同じく全身に傷を負ったタツミがゆらりと傾く。帝具の大鋏が床に落ちる乾いた金属音。

 

「……やっぱ、こうなったか」

 

蒼白な顔色で、タツミはかすれた声を漏らした。右肩を刺突剣で貫かれ、だらりと利き腕を垂らす。足元には彼の血が池のように溜まっていた。白装束の剣士達が、油断なく彼を囲む。勝敗は決していた。

 

帝具の性能を見せてしまった以上、奇襲は通用しない。警戒する達人に武器破壊など、早々狙えるものではない。四方から削るようなヒットアンドアウェイ。押せば引き、死角から手傷を負わせる。持ち味の正面突破、万物両断には最悪の相性だった。

 

――あとは無理矢理に出口まで突っ切るしかないか?

 

無謀を承知でそんな考えがよぎる。帝具を拾う隙は与えてくれないだろう。逃走を最警戒している包囲網を、左手の剣一本で突破。生存は絶望的だ。

 

大量の血を流し、タツミの意識は朦朧とし始める。もはや、他に手段はない。帝具を拾うと見せかけて、真っすぐに踏み出した。

 

フェイントで前のめりになった相手をやり過ごして突破する。だが、目論見はやはり甘かったと確信した。心臓に向けて突き出される直刀。コマ送りのように、死を目前に先鋭化した知覚はそれを認識する。

 

ゆっくりと切っ先が心臓に吸い込まれていく。走馬灯のごとく、タツミの脳内が活性化する。

 

 

――ただひとつの単語が頭に浮かんだ。

 

 

無意識に口を突いて出る一言。生死の狭間の一瞬、タツミの生存本能がソレを選択した。全身全霊を込めて叫ぶ。彼自身の記憶に存在しないソレを――

 

 

「インクルシオォォォォ!!」

 

 

突如出現する、全身を覆う白色の鎧。装着された堅固な鎧が、胸を貫くはずだった直刀を止めた。甲高い金属音が鳴り響く。

 

 

――「悪鬼纏身『インクルシオ』

 

 

タツミの所有する、本来の帝具である。

 

 

「な、なんだこれは……!」

 

「まさか帝具……?だが、帝具はひとりに一つだけという噂では……」

 

白装束の剣士達が狼狽えた様子を見せる。生じたわずかな隙。同じくタツミにとっても未知の状況であったが、自然と体が動いていた。

 

「ノインテーター」

 

呼び声に応えるように、何もない空間から、突如出現した長槍。タツミはそれを握り、淀みなく、流れるように横薙ぎに振るった。

 

「ごえっ……!」

 

直刀使いの胴体を両断し、さらに同じく懐に踏み込んだ短剣使いの首を斬り裂いた。驚愕の表情に固まったまま、息絶える。予想外の光景に硬直してしまった敵は、慌てて距離を取る。

 

「信じられん……、どうなっているのだ!?」

 

残り2名。形勢は逆転した。無意識下の行動を終え、ここに来てタツミは思考を取り戻す。この帝具を所持している理由は、彼の記憶にはない。だが、その特性と使い方だけは、自然と理解できた。

 

堅固な装甲を誇るこの帝具。エクスタスとは対照的に、剣士相手には抜群の相性。タツミは大きく息を吐くと、ニヤリと笑みを浮かべた。

 

「よくも散々ぶった斬ってくれたな。」

 

 

 

 

 

 

 

この日、西部異民族軍に衝撃が走る。

 

総司令ゴウラおよび近衛『ソードマスターズ』が一夜にして全滅。最強剣士集団が容易に殺害されたという動揺は大きく、士気は低下。タツミが城門の鍵を破壊しておいたこともあり、翌朝、最上のタイミングで仕掛けられた攻城戦が、電光石火の勝利をもたらした。

 

あとは陣地を失った異民族に対する追撃戦、凄惨な殲滅戦があるのみ。エスデス軍は敗走する相手を狩り続け、容赦なく壊滅させた後、帝都への帰還を果たす。

 

 

 

決戦の舞台、帝都へと――

 

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