タツミ in イェーガーズ   作:蛇遣い座

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第28話 マインを狩るⅡ

 

 

 

マインの帝具――「浪漫砲台『パンプキン』」

 

 

精神力を衝撃波に転換して、撃ち出す。つまり――

 

 

――ピンチになるほど威力が増す。

 

 

 

ゆえに相手を追い詰めず、初手の奇襲で終わらせるのが鉄則。鎧の帝具を身に纏い、ウェイブが選んだのは、高高度から急降下しての一撃。己の得意技である破壊力抜群の跳び蹴り――グランフォール

 

「チッ……しくじったか」

 

人間の死角となる頭上からの強襲。マインが避けられたのは、半ば偶然に近いものであった。目標を外した蹴りは、固い地面を粉々に破壊し、生まれた衝撃が彼女の身体を勢いよく吹き飛ばす。大口径の砲弾の直撃を超える威力。鼓膜を震わす轟音。

 

彼女にとってはさらに幸運なことに、余波を受けて吹き飛ばされ、ウェイブの追撃を避けていた。身の丈ほどの巨大な銃を握ったまま、爆風に乗って転げまわる。

 

「その鎧……まさかイェーガーズとワイルドハントの合同作戦だなんて」

 

素早く身を起こし、現れた襲撃者に銃口を向けるマイン。忌々しそうに舌打ちする。防御に特化した全身鎧の帝具。以前のナイトレイドとの交戦で、この帝具が『インクルシオ』と同系統であると彼女は知っている。

 

「ナイトレイドのマインだな。ここで狩らせてもらうぜ」

 

「最悪の相性ね。ガチガチに防御を固めた近接特化型。ピンチ、には違いないけど……」

 

とはいえ、初対面の相手である。頭では分かっていても、心までは危機感を認識できていない。出力は精々7割、と彼女は見積もった。

 

「まあ、やりようはあるけどね」

 

 

 

 

 

 

一方、襲撃を受けたワイルドハントだが、戦局はナイトレイド側に傾いていた。

 

3対3の状況だったが、すでに半分以上が死亡。イゾウはアカメに斬殺され、錬金術師に創造された怪物も、スサノオに叩き潰された。そして、唯一残っているのはドレスを纏った少女ドロテアであるが、彼女も敗北寸前。

 

獣化したレオーネによって、両脚を砕かれている。大岩を頭上に掲げ、今にも押し潰さんとする相手に命乞いをしていた。

 

「待ってくれ!妾はまだ死にたくないのじゃ!」

 

「お前に殺されたヤツらも、そう思っていただろうよ」

 

「永遠の命を……若さを謳歌したいのじゃ」

 

涙ながらに叫ぶが、レオーネは冷めた瞳を向けるだけ。交渉は決裂。ワイルドハント最後のひとりに、大岩を投げ落とそうとしたところで――

 

 

――ドロテアの心臓を刀が貫いた。

 

 

「何っ……うおっ!あっぶねえ……」

 

「残念。さすがに両方は無理だったね」

 

殺気を感じ取り、大きく後方に飛び退いたレオーネが、突如現れた少女を睨み付ける。そこには味方のはずのドロテアを刺殺する、クロメの姿があった。どろどろに濁った瞳で薄く笑う。

 

「ふふ……早い者勝ち。コレはもらうね」

 

「あっ!そうか……しまった」

 

レオーネが舌打ちする。息絶えたはずの錬金術師が、ゆらりと幽鬼のごとく立ち上がる。

 

 

――「死者行軍『八房』」

 

 

殺した相手を人形として操る、凶悪な帝具である。彼女のコレクションに、また一人帝具使いが加わった。

 

ナイトレイドの視線が彼女に集まった瞬間、第二陣の暗殺が試みられる。アカメの背後から迫る、大鋏を構えたタツミの奇襲。その肉体を両断せんと、一息の内に懐へと跳び込んだ。じゃきんと、両の刃が瞬時に閉じられる。

 

「タツミ……!?」

 

振り返ったと同時に、超反応で上半身を地面に傾けた。アカメの髪が一房、切り落とされる。大鋏の刃が頭上を通り過ぎた。タツミの『万物両断』は不発。さすがは歴戦の暗殺者。危機察知の精度は群を抜いている。

 

「くっ……葬る!」

 

攻撃を回避し、反撃の一刀を振るうアカメ。不安定な態勢のタツミへ向けた、妖刀による致死の一撃。カウンターとなる神速の斬り上げ。首元を狙ったそれは、しかしタツミが左逆手で抜刀した剣によって防がれる。耳をつんざく金属音。

 

そのままタツミは微妙な手首の動きで切っ先を操り、相手の刀身を抑え込む。初めて見せた剣技にアカメは目を見張る。同時に足先をは真っすぐに走っており、彼女の鳩尾へと前蹴りを叩き込む。

 

「チッ……やっぱりやるな」

 

――だが、わずかに届かない。

 

刀の柄から左手を離し、正確に防御されている。

 

意識を下に傾け、頭上から大鋏による唐竹割。そんなコンビネーションを狙っていたが、タツミは瞬時に方針変更。相手の冷静さを奪えていないと判断。前蹴りで伸ばした足を引きつつ、後方へとバックステップ。しかしここは相手の反応が速い。直後、アカメから放たれる必殺――

 

 

――無防備に伸びた脚への斬り払い

 

 

たった一筋でも刃が入れば即死。凶悪な帝具の性能を最大限に発揮してきた。

 

だが、寸前のタツミの反応が間一髪で命を繋ぐ。逃げを打っていたおかげで、アカメの刀が届く前に、一手だけ差し挟むチャンスが生まれていた。

 

後方へと跳びながら、タツミはエクスタスを振り払う。首を両断する超重量の刃。殺意を十全に乗せた一閃。その刃が届く前に彼の命は尽きるだろう。だが、それでも構わずに全霊で腕を振り抜く。

 

ここでアカメも厳しい判断を強いられる。

 

同じく致死の一撃。カウンター気味のそれに対して、彼女は防御することを選択。武器破壊されぬよう、衝撃を上手く殺して受け止め、彼女自身も威力に乗って後ろへと跳躍。彼我の距離を大きく開かせた。

 

両者生存。お互いに視線を交錯させ、一息を吐いた。

 

「さすが、と言うしかねえな」

 

見事と呼ぶ他ない、熟練の技量と判断。タツミは素直に称賛し、同時に苦汁を滲ませる。奇襲を仕掛けた側であるはずの、自分が斬殺される寸前だった。

 

この首が、自分でなくエスデスのものならば、間違いなく落とされていた。重要度の違い。相打ちの危険を冒す必要はない。あの一瞬で、そう判断されただけ。命を拾ったに過ぎないと理解した。

 

 

 

しかし一方、アカメの側も無表情の裏で驚いていた。初手こそ相手に奪われたものの、その後の斬り合いで本来ならば殺せているはずだった。かつてのタツミが相手ならば。

 

武器術、剣術、格闘術。それらを合成したオリジナル。よどみなく流れる一連の動作に、飛躍的に向上した技量を感じ取る。かつてとは別人とも思える、埒外の成長速度。剣技や経験においては、まだ自身が優っているが、命を賭ける必要がある。そう認識を改めた。

 

実際のところ、タツミの実力はいまだ彼女に及ばない。それを埋めたのはふたつ。事前にイゾウと戦うアカメを見ており、剣筋をある程度把握できたこと。そして、西の異民族総司令ゴウラ暗殺の死線を潜り抜けたことである。

 

一瞬の隙で命が消える、危険極まる剣の舞。様々な剣を操る達人集団『ソードマスターズ』との対戦で、剣士への順応力を身につけていた。

 

「大丈夫、タツミ?」

 

「ああ。そっちはどうだ?」

 

「うん、帝具は回収したよ」

 

クロメが頷いた。死亡したワイルドハントの連中から、貴重な帝具を回収する。今の奇襲によって周りの意識が離れた隙に、彼女は人形を動かしていた。シュラの『シャンバラ』とイゾウの『紅雪』、そしてドロテアの『アブゾディック』は死体ごと確保。これでイェーガーズの任務は完了した。

 

「うーん。お姉ちゃんは殺しておきたいけど、これ以上は危険なだけかな」

 

クロメが残念そうに頬を膨らませた。この場にいる、ナイトレイドのメンバーは3名。アカメ、レオーネ、スサノオ。

 

邪魔なワイルドハントが消え、さらにレオーネの『奥の手』を見れただけで十分。あとはウェイブがひとり削れば、結果は上々である。

 

「あと5分もあればいいかな」

 

クロメとタツミは、目的を時間稼ぎに移行する。

 

 

 

 

 

 

 

森の中を走り回りながら、マインは焦燥感に駆られていた。後方へと上体を反転させ、『パンプキン』による射撃を繰り出す。標的は高速で迫りくるひとりの男。漆黒の全身鎧を纏ったウェイブである。脳、心臓、膝。正確に急所を狙う銃撃を、彼は意にも介さず疾走する。

 

堅牢な防護により、放たれた衝撃波は甲高い金属音を響かせるだけ。容易に弾かれたことに、マインは顔を顰める。

 

「硬過ぎでしょ……」

 

「逃がすかよおっ!」

 

一秒も掛からず、正面に回り込んだウェイブ。振り下ろした右拳を、とっさに帝具を盾にして受ける。強烈な衝撃にマインは呻き声を漏らす。

 

「まだだっ!」

 

さらに一歩踏み込み、ウェイブが右脇腹を拳を放つ。速度、技術共に文句なし。まぎれもなく超一流の武術家である。彼女は左腕を防御に回すが、そんな脆い防御ごと柔らかい脇腹に拳が突き刺さった。

 

「ごぼっ……!」

 

飛躍的に強化された身体能力。人外の膂力により、左腕もろともに内臓を破壊される。大量の血を吐きながら、彼女は数メートルの距離を吹き飛んだ。ゴロゴロと地面を転がり、立ち上がろうとするが膝から崩れ落ちる。

 

追撃のチャンスではあるが、ウェイブは相手の決死の覚悟を決めた瞳に、攻めを躊躇してしまう。情報が頭をよぎったからだ。

 

 

――「浪漫砲台『パンプキン』」の特性

 

 

死が間近に迫った、この危機的状況。全精神力を込めて放たれる一撃に、脅威を感じたのだ。鉄壁を誇る鎧の帝具だろうと、下手に受ければ殺される可能性がある。

 

「さて、どうすっかな。リスクを冒すかどうか」

 

ウェイブは全身鎧の中で小さくつぶやいた。正面からの対決であれば、この少女を殺す自信はある。だが、相応の深手を負うリスクは拭いきれない。右足を後ろに引いた半身の構え。距離を空けたまま、彼は逡巡する。

 

「頼むわよ、パンプキン」

 

目の前の強敵を見据えながら、マインは帝具の銃口を正面に向ける。左腕の骨は粉々に砕かれ、だらりと垂れ下がったまま。内臓は破裂したらしく、足元はふらつき、口の中は逆流した血液が溜まっている。しかし、その瞳だけは敵を睨み付けたまま、鋭い光を放つ。

 

 

全ての精神力を消費して、極大の一撃を放つ。

 

 

「……ふふっ、ベストコンディションよね」

 

自分に言い聞かせるように、彼女は微笑した。全身全霊の一撃が直撃すれば、ウェイブだろうとただでは済まない。たとえ殺しきれなかったとしても、大きく距離を引き離すことができるし、遠距離にいる仲間達に異変が伝わるはず。アカメ達が援軍に駆けつけてくれれば、状況は逆転する。

 

互いに見つめ合う膠着状態。それを打破すべく、ウェイブがわずかに前傾姿勢を取った。マインも相手が前に出た瞬間を狙って、極光の一撃を発射するつもりだ。意を決してウェイブは足を踏み出し――

 

 

――二人の間に割り込む人影

 

 

刀を携えた黒装束の女――ナイトレイドのアカメである。

 

 

「なっ……アカメ!?援軍かよ」

 

「ナイス!助かったわ!」

 

突如現れた増援に、両者が対照的な反応を示す。安堵の声を上げるマイン。とっさにバックステップで距離を取るウェイブ。両者の間に割り込んだアカメを警戒する様子を見せた。

 

「ふぅ……ありがとね、殺されるところだったわ」

 

張り詰めた緊張感が解け、大きくマインは息を吐く。無言のまま、アカメは彼女の隣に歩み寄る。かすかな違和感を覚えるも、敵前で視線を外せる訳もない。意識だけを仲間に向けようとして――

 

「アカ……!?」

 

 

――その首を、長い針が貫いた。

 

 

驚愕に目を見開くマイン。振り返る彼女の瞳には、アカメではなく、しかし見知った顔が映った。死んだはずの仲間の姿だった。

 

「チェルシー……何で…?」

 

ヘアバンドをした少女、かつてのナイトレイドの仲間である。その瞳に光は映っておらず、快活さは全く見られない。変わり果てた様子に、マインは全てを悟る。脊髄を精確に抉られ、彼女の手足は動きが止まった。膝から崩れ落ちる。必死に銃を握る手に力を込めるが、わずかに銃口が震えるのみ。

 

「クロメの……死体人形……アンタら…!?」

 

死者の魂を冒涜する無情。かつての仲間を操り、同士討ちさせたのだ。死の間際に憤怒の表情を浮かべ、マインは地面に倒れ伏す。瞳から生気が消失する。無念と共に、彼女は息絶えた。

 

その場に立つのは、ひとりの男と一体の死人。

 

「悪く思うなよ。そっちがやったのと同じことだぜ」

 

ウェイブは軽く息を吐き、首を左右に振った。声音は悲しみに満ちていた。

 

 

 

――ナイトレイド残り4人。

 

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