タツミ in イェーガーズ   作:蛇遣い座

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第29話 クロメを狩る

 

 

 

電撃作戦によって帝都を襲撃せんと目論んだ革命軍本隊だが、この数週間を要塞シスイカンに阻まれ続けていた。

 

練度と士気の高い革命軍。それと互角を張るのが、ブドー大将軍率いる近衛軍である。守勢に回れば、その防御は堅実そのもの。強襲や内応、硬軟織り交ぜた苛烈な攻めにも揺らがず、持ち場を守り抜く。革命軍が帝都に進軍するには、このシスイカンの突破が不可欠。これほどの大軍勢が動けるルートは限られている。

 

全戦力を費やした革命軍に敗北は許されない。今回の反乱が失敗すれば、間違いなく協力者は皆殺し。今後10年はこの規模の動員は不可能だろう。とはいえ、ブドー大将軍に帝都の入口をシャットアウトされ、その間に最悪の事態――

 

 

――帝国最強、エスデス軍が迫っていた。

 

 

 

 

 

 

 

ナイトレイドの拠点。かつては喧騒に満ちていた大広間。長机と並ぶ多くの椅子。いまや空席が大半を占め、わずか4名が着席するのみ。最終決戦を目前に控えた、ナイトレイドの総員である。

 

「状況は悪い」

 

口火を開いたのは元将軍にして、リーダーのナジェンダ。その表情は固い。

 

「エスデス軍が帝都から出撃したと報せが入った。決戦は間近だが、いまだシスイカンを突破できていない」

 

「このままだと、エスデスとブドーの連合軍と戦争になるよな。悪夢みたいな話だ」

 

レオーネが肩を竦めて見せた。アカメも小さく頷く。

 

「誤算は、エスデスが西の異民族を殲滅してしまったこと。全てはそこから始まった。ヤツの常識外の進軍速度を知っているが、これほど短期間で城まで落とすとは。完全に想定外だ」

 

いかにエスデスといえど、本来であれば、城に籠った異民族を壊滅させることは困難である。しかし、今回は彼がいた。

 

「総司令ゴウラおよび近衛兵の暗殺。それが短期決着の要因だ。やってのけたのが――」

 

異民族軍の兵士から得た情報である。殺害現場から逃げ去る人物の姿。全身鎧の描写された紙を机の上に置いた。

 

「なっ……!これは、まさか!?」

 

二人が目を見開き、驚きの声を上げる。彼女達のよく見知ったモノだった。

 

 

――悪鬼纏身『インクルシオ』

 

 

殉職したナイトレイドのメンバー、ブラートがかつて使用し、今はタツミが所持しているはずの帝具である。

 

「……だが、別人が帝具を使った可能性も」

 

「いいや。昨日、タツミの腰にあの剣が差してあったよ。使いこなせるのか、偶然発動させたのかは分かんないけど。間違いないだろうね」

 

動揺を隠しながらアカメが反論するが、レオーネが否定する。

 

全てはタツミによる暗殺から始まった。西の異民族は総司令の死亡で隙を晒し、エスデス軍に蹂躙される。早期に相手の城を占領できたことで、革命軍が本格的に攻め込む前に彼女達は帰還。部隊の半数を帝都に戻すことができた。帝国最強エスデスとブドー大将軍が睨みを効かせることで、周辺領主の反乱や一揆の誘発を押し留めたのだ。結果、革命軍は劣勢に立たされている。

 

「ここだけの話だが。はっきり言って、エスデス軍に野戦で勝つ見込みは薄い」

 

両掌を組み、ナジェンダが低い声で現状を伝えた。アカメ達も薄々は気付いていたことである。ゆえに、革命軍本部はある作戦を立案した。

 

 

――ナイトレイドを含む、最精鋭部隊による大臣暗殺

 

 

最終決戦でエスデス、ブドーを帝都から引き離している隙に、宮殿を襲撃する。革命軍密偵が調査し、作成した最新版の内部図面。西の異民族からも暗殺者が送り込まれる予定だ。しかしこれは、ギャンブル性が高い。

 

「秘密裏に帝都に潜入する以上、そう多くは参加させられない。せいぜいが部隊単位。人数面で大きく劣ることになる。そして当然、大臣側もこの襲撃は予想しているはず。宮殿の警護は間違いなく厳重そのもの」

 

だが、両将軍が帝都で守ることはない。革命軍を討滅する絶好の機会。ここで最大戦力を出し惜しむ理由はない。

 

「エスデスのことだ。自分は戦場に出つつも、イェーガーズは全員帝都に残すだろう。羅刹四鬼の生き残りや帝国暗殺部隊。宮殿警護専門の帝具使いの存在も確認されている」

 

「こっちも全面戦争だな」

 

「ああ、そうだ。そして、今回は私も暗殺部隊に加わる」

 

「ボスが!?指揮官の仕事はいいのかよ」

 

「最重要作戦ということだ。それに、私には行かなければならない理由がある」

 

数秒ほど目を閉じて、ナジェンダは口を開いた。

 

 

――『勾玉顕現』を使用する

 

 

その意味を悟り、二人は息を呑む。

 

生物型帝具『スサノオ』――その切り札である『勾玉顕現』。使用者の生命力を吸い上げることで、絶大な性能を発揮するが、3度使えば必ず死に至る。次がその3度目。

 

「これだけの戦力差だ。スサノオの『勾玉顕現』は最低条件。開幕と同時に発動させる予定だ。その後は任せる」

 

「了解、ボス」

 

「ああ、任せてくれよ」

 

二人は真剣な表情で頷いた。

 

「安心したよ。じゃあ、夕食にしよう。今夜が最後の晩餐だ。スサノオが腕によりをかけて、皆の好物を作ってくれた」

 

「待ってました!」

 

 

 

こうして決戦に向けた、最後の夜が更けていく。

 

 

 

 

 

 

 

帝都に存在するイェーガーズ本部。タツミは円卓に並ぶメンバーを見回した。隊長のエスデス以外のメンバーが勢揃いしている。昼頃に彼女は大軍を率いて帝都を発ったのだ。夕食をとった後、皆の前で椅子から立ち上がる。

 

「みんなに言っておきたいことがあるんだ」

 

くつろいでいた仲間達が、不思議そうに視線を向けた。タツミは机から離れると、背中の鞘から取り出したエクスタスを床に置く。代わりに、腰に差した剣を抜いた。短く叫ぶ。

 

「インクルシオッ!」

 

タツミの全身を包むように、白色の物質が出現。形状は鎧。超級危険種を前にしたかのごとき、異様な雰囲気を身に纏った。室内に突風が吹き荒れる。イェーガーズの面々が瞬時に戦闘態勢に入った。

 

「落ち着いてくれ、みんな」

 

「タツミ……これはいったい、どういうことだ?」

 

いつでも帝具を発動できるよう警戒しつつ、ウェイブが問う。

 

「しかも、その鎧……「百人斬りのブラート」の所持帝具『インクルシオ』だよね」

 

覆面越しに口にしたボルスの言葉に、他のメンバーの顔に驚きの色が浮かぶ。

 

「え?でも、その剣……初めて会ったときから持ってたよな?」

 

「何でナイトレイドの帝具を……」

 

困惑する周囲に、タツミは複雑な気持ちで息を吐いた。これは、彼自身にとっても意外な事実である。

 

「エスデスさんから聞いたよ。記憶を失う前、俺がナイトレイドの一員だったんじゃないかって」

 

今度こそ一同が、声を揃えて驚愕した。特に反応が大きかったのは、正義を標榜するセリュー。形相を凶悪に変貌させ、声色も低く重くなる。

 

「悪に与する者には、死あるのみですよ?」

 

「おい!何言ってんだよ、一緒に戦ってきた仲間だろうが!」

 

ウェイブがわずかに怒気を込めると、セリューも矛を収めたようだった。正義を狂信的に信仰する彼女が最も心配だった。それゆえ、西の異民族との戦争後もインクルシオを隠していた。だが、実際にアカメと刃を交えて、彼は理解した。出し惜しみをして勝てる相手ではないと。

 

「自分の過去は分からないけど。俺はイェーガーズの一員だ。それは信じて欲しい」

 

正直な気持ちを語りかける。不安そうに仲間達を見回すタツミ。

 

「ふぅ……わかってますよ。それに、本当にナイトレイドだったかも不明ですし」

 

セリューも普段の表情に戻し、首を横に振った。他のメンバーも頷いている。認められたことに、タツミはホッと溜息を吐いた。

 

ここでようやく、彼は本題に入る。ナイトレイドでも屈指の暗殺者、アカメについて。先日の戦闘で、相手の凶悪な帝具の性能と彼女自身の実力を改めて認識したのだ。全力を発揮されては、こちらの被害が大きくなりすぎる。

 

「アカメの相手は、俺とウェイブで担当したい。刃の通らない、防御特化の俺達以外じゃ、たぶん厳しいと思う」

 

「まあ、それがいいよな」

 

ウェイブも同意する。だが、声を上げるものが一人。クロメが異議を唱える。

 

「ちょっと待って。人形なら『村雨』も関係無いよ。私もそっちを担当する」

 

「でも、斬られればマズイのは一緒だろ?」

 

「それを言うなら、タツミだってお姉ちゃんの剣に耐えられるの?」

 

アカメを殺すのは自分。死体人形のコレクションに加え、一緒に過ごす。任務で当たることを待ち望んでいた彼女にとって、これは見逃せない機会である。珍しくクロメは執着を見せ、その結果、なぜかタツミとの勝負をすることに――

 

 

 

 

 

 

 

練兵場の隅で、タツミとクロメは向かい合う。周囲にはイェーガーズの面々が、興味と心配の混ざった表情で見つめている。遮蔽物も無く、芝生の敷かれただけの平面の戦場。クロメは刀を抜き、タツミは異空間から現出させた鎧を身に纏う。

 

「確認だけど。俺が一手でも攻撃を当てれば、認めてくれるんだな?」

 

「うん。逆にその鎧を突破したら、タツミは別の場所を担当してもらうよ。ちなみに『八房』の能力は使わないからね」

 

「まあ、普通に刀で傷を付けられたら、アカメ相手じゃ即死だしな。諦めるよ」

 

別にタツミとて、アカメに因縁がある訳ではない。力不足であれば、クロメに任せても良いと思っている。だが、生存率で考えれば、自分が相対すべきだとも考えていた。

 

 

――瞬時に懐に入り込んだ、クロメの一閃

 

 

「うおっ!?」

 

「……へえ、避けるんだ」

 

静かに一言を口にする。続けて、首を斬り裂く切り返し。寸前に察知したタツミは、上体を反らすことで回避する。剣戟の嵐を潜り抜けた経験が、さらにアカメとの交戦が、淀みなく流れる高速の斬撃への対処を可能にしていた。

 

「やるね。いつの間にここまでの強さを……」

 

だが、絶え間なく続く神速の剣に、タツミは焦りと共に呻き声を漏らす。

 

「クッ……速い」

 

鎧を纏うことで遅れる初動。分厚い鎧越しで鈍る危機察知。むしろ本来の方が、回避能力は優れている。後方に回り込んだクロメが、遠心力を活かして胴を薙ぎ払った。慌てて振り返るも、タツミの反応は普段に劣る。だが――

 

――金属音と共に、弾かれる剣閃

 

「んっ……硬いね」

 

「あっぶねえ」

 

タツミの正拳を避け、大きく後方に距離を取るクロメ。深く安堵の息を吐くタツミ。

 

「ったく、何やってんだよタツミ。そんなの俺らの戦い方じゃないだろうが」

 

わずかに苛立った様子で、ウェイブがつぶやいた。その言葉がタツミの耳に届き、意味するところを理解する。

 

帝具『エクスタス』を所有した彼は、それに合わせて戦闘スタイルを考案した。同様に、帝具『インクルシオ』の場合もスタイルを変化させる必要がある。そんな当たり前のことに、ようやくタツミは気付いたのだ。

 

意識が切り替わり、頭が澄み渡る感覚。

 

「うおおおおっ!」

 

まっすぐにクロメに向けて疾駆する。鎧の重さはあれど、帝具による身体能力向上の特性。直線的な動作における速度は、普段を数段上回る。瞬時に距離を潰し、相手の正面に現れた。想定以上の脚力に、クロメの目が見開かれる。続けて流れるように皇拳寺の正拳突き。人外の筋力を発揮した拳は、埒外の重さを内包する。惜しくも彼女の横を通り過ぎた。

 

「うおっ!すげえ一撃!」

 

「……この威力、演習じゃ済まないよ」

 

周囲の面々の顔色が変わる。尋常でない破壊力を、その空振りから察した。頬を叩く風圧。空間が歪んだと錯覚するほど。眼前でそれを感じたクロメも、本能的に背筋を震わせる。だが、それで動きが鈍ることはない。冷静に攻撃を捌いていく。

 

右ジャブ、右フックから左ローキック。ただの一手で深い損傷を与えられる『インクルシオ』の攻撃力。ステップを踏んで、彼女は回避する。羅刹四鬼仕込みの拳法は恐るべきだが、それだけで倒せるほど歴戦の暗殺者は甘くない。

 

 

 

――眼球を狙った刺突

 

 

「ちょっ……クロメ、殺す気か!?」

 

あまりの容赦の無さに、ウェイブが驚きの声を上げる。一般的に鎧の硬度の薄い、弱点に対する一点突破。全体重を乗せて、人体急所を刺し穿つ。それをタツミは――

 

 

――あえて眼で受け止める

 

 

「これでも通らない……!?」

 

クロメの身体が一瞬、硬直する。隈なく覆われた鎧の硬度と、弱点でわざと受けるという判断に――

 

 

「ノインテーター」

 

 

タツミの手元に、武器が出現する。乾坤一擲。狙い澄ましたタイミング。カウンターで繰り出した、強力な横薙ぎ。インクルシオの剛力により、その威力は桁が違う。防御力を活かし、引きつけてから絶死の一撃。確実に仕留めたタイミング。

 

「もらった!」

 

だが、超反応でクロメが跳び退いた。

 

「これをかわすか!どうなってんだよ!」

 

ウェイブが思わず叫ぶ。人類の限界を超えた反射速度。それほどに有り得ざる回避である。

 

ノインテーターを振り抜きながら、しかしタツミは冷静だった。たとえ帝具の性能を使わずとも、一筋縄でいく相手でないと確信していた。間髪入れずに最後の手段に移行する。『奥の手』発動――

 

「消えた……!?」

 

クロメの視界から、敵の姿が消失した。珍しく彼女の顔に驚きが浮かぶ。

 

 

――『透明化』

 

 

生じた一瞬の硬直を、タツミは逃さない。渾身の脚力で突っ込み――

 

「うおおおおっ!」

 

 

――ショルダータックルが炸裂。

 

 

強烈な衝撃。大きく空気を吐き出し、クロメが吹き飛ばされる。数秒ほどの長い滞空時間の後、地面に背中から墜落。ゴロゴロと転がり、彼女の身体は止まった。

 

決着はついた。

 

「大丈夫か……クロメ?」

 

心配そうに声を掛け、駆け寄るウェイブ。周りの仲間達も同じく様子を確認に行く。しかし、彼女はむくりと上体を起こし、屈託のない笑顔を見せた。

 

「うん。私の負けだよ、タツミ」

 

清々しい気分だった。ここまでの力を示されるとは、予想だにしなかった。入隊から短期間での、類を見ない急速な成長。クロメだけでなく、イェーガーズの全員が、その戦闘力を認める。

 

「確かに、私達の帝具の天敵だね。お姉ちゃんは任せるよ」

 

タツミは頷く。突発的に始まった決闘だが、彼にとって得るものは大きかった。ナイトレイド最優の暗殺者、アカメと同等の剣士と斬り合う経験。そして、『インクルシオ』の活用法。

 

アカメに勝利するための手応えを感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

翌日、宮殿におけるもうひとつの最終決戦が幕を開けた。

 

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