タツミ in イェーガーズ   作:蛇遣い座

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第33話 アカメを狩る

 

 

 

革命軍からアカメが受けた任務。それは、帝国腐敗の元凶となった人物達の暗殺である。

 

最終決戦時の標的は6名。

 

大臣オネスト――権力を欲しいままにし、国を腐らせた諸悪の根源。最優先暗殺対象。

 

将軍エスデス――戦争を好み、乱の種を蒔く魔人。

 

コウケイ――軍需物資を横流しして私財を肥やす。自分に楯突く将軍達を、大臣と共謀して次々と無実の罪で陥れた。

 

サイキュウ――大臣を補佐し、悪事の片棒を担いでいる。反乱分子の処罰のために暗殺部隊を設立。

 

ヨウカン――妊婦の腹を裂き、胎児の性別を当てるゲームなど、数々の残虐な遊びで大臣を楽しませた。

 

ドウセン――民を苦しめ、各地で大量の金を搾り取り、賄賂として献上することで大出世した。

 

以上の悪人達の抹殺こそが、アカメの使命。革命軍の悲願でもある。ひとりでも残せば負けと思え。彼女はそう伝えられている。

 

戦場にいるエスデスを除く5名は現在、宮殿にいる。この帝都において、最も警備の厳重な場所であるからだ。

 

「ひいいいいいっ!た、助けてく……!?」

 

宮殿の一室。腰を抜かし、泣きながら懇願する中年の男の首をはねるアカメ。豪華な居室に死体が転がった。アカメの足元が流れ出た赤い液体で濡れる。完璧な防護であるがゆえ、標的は安心して宮殿内で暮らしている。コウケイ、ドウセン、そしてたった今ヨウカンを排除。エスデスを除けば、残り2名で任務は完了である。

 

「ぐっ……だが、強行突破は厳しかったか」

 

痛む脇腹を押さえ、小さく咳き込むアカメ。止血はしたものの、左腕と太腿に巻いた包帯が赤く染まっている。イェーガーズの待ち伏せを強行突破した際に放たれた追手。羅刹四鬼のスズカ、クロメの放った複数の死体人形。一斉に襲い掛かるそれらの強敵を倒す代償は大きかった。

 

死体も含めて、誰もが超一級の暗殺者、戦闘者の集団だったというのに、相手は時間稼ぎを狙う。一刻も早く暗殺に向かいたい彼女は、無理にでも短期決戦に持ち込む必要があった。

 

結果、強引に敵の包囲をぶち抜いた訳だが、性能はおよそ8割ほどに低下したと彼女は感じていた。しかし、それも関係ない。

 

「ヤツらさえ葬れば、終わりだ」

 

得られた時間は値千金。大した抵抗も受けずに、任務の半分以上を完了した。続いて、最大の標的にして帝国腐敗の諸悪の根源、大臣オネストの暗殺に取り掛かる。すでに居場所は掴んでいる。見張りの警備兵を音もなく殺害し、大臣の私室の扉の前で息を殺す。

 

歴戦を生き残ってきたアカメに油断はない。相手が誰であろうと、細心の注意を払う。非戦闘員と思しき大臣だろうと変わらない。扉に耳を付け、室内に人の気配を感じ取る。突入後のパターンはすでに身体に染みついている。

 

扉を開き、駆け出す。内部の様子を一瞬にして把握。

 

「な、何者ですか、アナタは……!」

 

狼狽える肥満気味の男。即座にアカメは標的と断定。思考を挟むより早く駆け出し、剣を振るう。常人には視認すら不可能。怯えた様子の素人であろうと、彼女に容赦はない。首を狙う一閃。

 

 

――それが空を切る。

 

 

紙一重で届かない。避けられた。

 

アカメの驚愕は一瞬。すぐに切り返しで袈裟懸けに斬り下ろす。踏み込んで放たれたそれを、大臣は右前方に同じく踏み込むことで回避。だが、その顔には隠しきれない焦りが浮かんでいた。

 

「残念です。さすがアカメ……油断を望むのは難しいですか」

 

余裕を示すように口を開く大臣に対し、無言で最速の剣を繋げる。三度目の斬撃。流れるようにスムーズな連携。死の危険に相手の口元が歪み、呻き声が漏れる。

 

両手を脇の位置に引きつけ、腰を落とす。誰もが予測不可能な行動を、大臣はとった。

 

「皇拳寺百裂拳!」

 

ただの文官であるはずの中年男が放つ、強烈な連続攻撃。速度、重さ、精度、共に超一流の域。全世界を飛び回り、高度な技量を身に着けた息子のシュラ。あの戦闘者に比べても遜色ないほどの技量である。

 

「……これは、拳法!?」

 

アカメが驚愕に目を見開く。重く硬い拳が彼女の眼前に迫る。

 

――大臣は帝具を所持していた。

 

全ての帝具を無効化し、破壊するという脅威の『アンチ帝具』。それはアカメの『村雨』だろうと、『至高の帝具』だろうと、同様に無力化できる。状況を一変させることが可能な、大臣の切り札である。そう、発動さえできたならば――

 

相手が悪すぎた。

 

目の前の暗殺者は、歴戦の帝具使い。初見の相手だろうと、発動のタメなどむざむざ作らせたりはしない。何もさせる気はない。疾風怒濤の攻め。隠し玉である皇拳寺の拳法を出すも、彼女は皇拳寺の最高峰、羅刹四鬼を複数屠った玄人である。身体が相手の技を覚えていた。

 

 

村雨の刃が、肌を優しく撫でる。

 

 

一筋の赤い線が大臣の腕に描かれる。ほんの些細な、掠った程度の傷。しかし、大臣の顔が恐怖に固まった。声を上げる間もなく、その身体が膝から崩れ落ち、地面に倒れ伏す。ピクリとも動かない。

 

――『一斬必殺』

 

誇張ではない。文字通りの性能を以って、帝国腐敗の根源は命を落とした。

 

 

 

アカメは一息吐き、達成感を押し殺して気持ちを切り替える。残りの標的は1名。暗殺部隊の考案者でもある切れ者、サイキュウのみ。この男を最後に回したのには理由がある。

 

「地下だな」

 

宮殿内に籠っていた他の標的とは違い、すでに危機を察知して逃走を図っているはず。暗殺部隊を考案したサイキュウの行動は、彼女にとっては予測しやすいものだった。宮殿内部の図面から考えれば、おおよその隠し通路は読み取れる。

 

刀身をべっとりと濡らす鮮血を、横に一振りすることで散らし、鞘に納めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

宮殿から続く地下通路。要人退避を目的に作られた石畳のトンネルは、広大かつ長大。元々は部隊規模での護衛も検討されており、数キロにも及ぶ。昼間にも関らず、陽の光が届かないそこは、漆黒の闇に包まれていた。しかし、夜目が効くようにアカメは訓練済みである。

 

灯りもつけずに、しかし慎重に駆ける。目線の先には、ランプの灯りと数名の人影。

 

物音を立てないように注意しながら、静かに距離を詰めていく。だが、その彼女の耳に後方からかすかな足音が届く。警戒感を高め、背後を振り向いた。敵襲に備え、即座に抜刀。

 

先ほど残してきた、仲間の姿。西の異民族の援軍。白装束の女性が大剣を片手に駆けてくる。前方の敵に気付かれないよう、無言でゆっくりとアカメの傍まで歩を進める。戦力は2倍。戦況も有利になった。その仲間を――

 

 

――アカメは両断した

 

 

クロメの死体人形であると、即座に看破したのだ。ドサリと上下に分かれた肉塊が地面に落ちる。直後、肌を刺す強烈な気配。殺気を感じた彼女は、背後に刀を振るう。

 

高く鳴る金属音。刀に伝わる衝撃。アカメの視界に映る人影。鋭利な刃が煌く。続けて高速で放たれる剣閃。それを避け、受け止め、後方へと跳び退いた。相手の姿を視認し、やはりとアカメは静かに得心した。

 

「やはり立ちはだかるか、クロメ」

 

「さすがお姉ちゃん。こんな手には掛かんないか」

 

刀を振り抜いた態勢で、黒の制服に身を包んだ少女が微笑した。

 

「でも、何で気付いたの?コレが死体だって」

 

「よく見れば動きに違和感がある。表情の変化も乏しい。注意すれば間違えることはないさ」

 

「ふーん。結構引っかかるの多いんだけどね」

 

何気なくつぶやかれた一言に、アカメの表情がわずかに陰る。ナイトレイドの仲間も、同様に葬られたと察したからである。

 

「じゃ、やろうか」

 

「そうだな」

 

互いに視線を交わしたのち、小さく頷いた。クロメは口元にクッキーを運び、噛み砕く。薬物投与による性能強化である。彼女の発する雰囲気が禍々しいものに変わる。瞳孔が開き、敏捷性および反応速度が増大。肉体の限界を超えた。今回は最大限の効果を発揮する特注品――

 

『超強化薬』

 

アカメは相手の脅威を認識しつつも、視界の先に集団を捉えた。やはり標的のサイキュウと護衛の兵士で間違いない。その内のひとりが焦った様子で駆け寄ってくる。

 

「私が相手するから、先に行ってて」

 

「わかりました」

 

兵士が集団の元へ戻り、サイキュウ達が慌ただしく逃げ出す。ランプの灯りが遠ざかっていく。一刻も早く追い掛けたいアカメであるが、目の前の妹は専心せずに突破できる相手ではない。まずは一対一の決着。

 

「葬る」

 

彼女も精神を殺人のモードに切り替える。冷静に冷徹に、妹を殺害するための方策を実行する。まるで精巧な機械のように。

 

両者共に一歩を踏み出した。動作は俊敏にして神速。下手な揺さぶりは掛けず、正面から斬りつける。先手はアカメ。一斬必殺の剣閃。初手で決める覚悟で胴を薙ぎ払う。しかし、さらに右前方に踏み込むことでクロメは回避。同時に交差しながら袈裟懸けに一閃。目を見開き、上体を反らすことで何とかしのぐアカメ。続けざまに四度、相手の八房の刃が翻る。

 

 

――想像以上のキレ

 

 

表情に出さずに、アカメは唇を噛み締める。薬物による性能強化は、暗殺部隊のお家芸だが。しかし、これほどの強化率は異常も異常。敏捷性および反応速度はもはや予知の域。竜巻のごとき刃の舞、苛烈な攻めにさすがのアカメも苦戦を強いられる。

 

「あはははっ!さすが超強化薬!いけるよ!」

 

高揚状態のクロメが無数の斬撃を放ちながら哄笑する。激しく動き回り、前後左右から果敢に攻め立てる。わずかにアカメの反応が間に合わず、白刃が胸を撫でた。横一文字に肌を裂く。血飛沫が舞う。

 

「今の私なら、お姉ちゃんを殺せる」

 

「まさかここまで……」

 

赤く血の滲む胸を押さえながら、アカメは苦々しげに口元を歪める。妹の人間を超えた性能に舌を巻く。さらに、連戦による自身の負傷。現状、相手の方が優っていると静かに認めた。その上で、殺害方法を考える。戦い方を変えると決めた。

 

――帝具の性能に頼った戦法に。

 

「はあああっ!」

 

裂帛の気合と共に、無数の剣技が放たれる。竜巻のごとく、縦横無尽に高速で斬り裂く刃の渦。猛攻の合間を縫って、アカメは小さく剣を挟み込んでいく。交差法気味に細かく刃を翻す。手の甲や足先を狙った、かすり傷ひとつ付けるための剣。舌打ちと共に、クロメは大げさに後方へ跳び退く。

 

「なりふり構ってないね。確かに、これは厄介……」

 

モーションの小ささで速度差を補い、かつ性能は一斬必殺。

 

油断なく剣を構える姉の姿。相手が帝具に頼るならば、彼女にも『八房』がある。しかし、残念ながら頼りの死体人形はすでに全滅。純粋な剣技で以って上回るしかない。クロメはここに至り、戦況が五分になったと認めざるを得なかった。愉快そうに口元を吊り上げ、彼女は刀を握り直す。

 

「ふふっ、それでこそお姉ちゃんだね。殺しがいがあるよ」

 

「私は倒れる訳にはいかない。民を救うために」

 

姉妹で見つめ合い、さらに戦意を高めていく。張り詰めた緊張感。敵味方に分かれた暗殺者が、互いを斬り殺す意思を持って向き合う。闇に包まれた地下空間で、裏稼業同士。

 

 

因縁の決着がつこうとしていた。

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