タツミ in イェーガーズ   作:蛇遣い座

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第5話 強化兵を狩る

タツミとクロメが仕事を終え、帰還した翌日。イェーガーズ本部の一室に、8人のメンバーが勢揃いしていた。会議用の大きな長机のを囲んでそれぞれが座り、立ち上がったエスデスが周囲を見回す。普段は和気藹々とすることも多いメンバーだが、本日は誰もが少し固い表情を浮かべている。

 

「昨日、クロメから報告があった件についてだが」

 

しかし、彼女だけは獰猛に、愉しげに口元を吊り上げる。

 

「朗報だ。どうやら私達を狙う命知らずが現れたようだぞ」

 

対照的にウェイブとタツミは嫌そうな表情を見せた。エスデスの言葉を、当事者のクロメが補足する。

 

「仕事の帰りに尾行者に仕掛けてみた。実力はたぶん帝具使いクラス」

 

それを聞いて、憂鬱そうに肩を落とすウェイブ。

 

「以前、私も帝都で尾行されたことがある。気配から察するに、帝具使いと同等だろう。偵察に帝具使いが出張る組織など、私の知る限りひとつしか存在しない」

 

 

――殺し屋集団『ナイトレイド』

 

 

その単語に、この場の全員の雰囲気が一変した。タツミの身体がブルリと震える。刺すような敵意と押し潰されるような威圧感。戦闘態勢に入るとここまで違うのか。驚愕と共に、自身の力不足を悟った。明らかにこの中で頭ひとつ実力が下だ。

 

だが、その戦意はすぐに収められる。剣呑な雰囲気が鳴りを潜めた。

 

「誘い出して狩るというのも手だが。今回、直接対決はあとに回そうと思う。ナイトレイド以外の帝都周辺の賊を狩りつつ、タツミの強化に当てる」

 

「タツミ君を……なるほど、確かにそうですね」

 

「まあ、元々はアレを使えるヤツをってのが目的だったわけだしな」

 

ランとウェイブも納得した風に頷く。タツミだけはよく分からない様子だが、他の面々はエスデスの意図を汲み取ったようだ。恋人かわいさだけではなく、イェーガーズの戦力増強の方策を――

 

「これ以後、単独行動は禁止だ。部隊を3グループに分け、それぞれで賊の討伐を行っていく」

 

第1班――エスデス、セリュー

 

強烈な制圧力を有するペア。帝国最強を誇るエスデスがメイン。主に郊外での大規模組織の殲滅を担当。

 

第2班――ウェイブ、クロメ、ボルス

 

対人戦闘などの局地戦を得意とする。主に帝都内での捕縛や討伐を担当。多勢が相手の際は、大火力の帝具を有するボルスが焼き払う。バランスの取れた編成。

 

第3班――タツミ、ラン、Drスタイリッシュ

 

イェーガーズ本部にて待機。後方支援タイプのDrスタイリッシュ。参謀として、ランは情報を収集して精査する。タツミはひたすら特訓。

 

「うふふ。訓練でいくら怪我しても、私が治してあげるからね。腕くらいならドンドン切り落としちゃっていいわよ」

 

「いや、それは勘弁してください……」

 

お茶目に自分の顔をツンツンと突く中年の男に、タツミは嫌そうに答えた。エスデスの指令が下り、これから彼は地獄の特訓が始まることになる。

 

 

 

 

 

 

天高く太陽が昇りきる頃。賊の殲滅のためにエスデスが遠征している間、タツミは練兵場で剣を振っていた。素振りではない。対人間相手の実践訓練である。

 

目の前には、のっぺりとした仮面で顔を覆った男。不気味な容貌の男は、ナイフを持ってタツミへと襲い掛かる。地面が爆発したかのような勢いで跳び出した。その速度は一般人とは比べ物にならない。何せ相手はDrスタイリッシュの製作した強化人間。その身体能力は、かつてタツミが戦った帝都警備隊長オーガに匹敵する。

 

「うっお!」

 

鋭く閃く白刃を間一髪、柄の部分で受け止める。タツミの首の手前まで迫った刃は本物のナイフである。当たれば絶命必至の状況に、彼の全神経は研ぎ澄まされる。ギリギリと互いに押し合う最中、突如、相手のナイフから力が抜けた。それによって、タツミの身体は前方に浮かされる。

 

「しまっ……おおおっ!」

 

自身の心臓へ突き出される刃を眺めながら、とっさに彼は全力で相手を蹴り飛ばす。崩れた体勢ゆえに威力は期待できないが、それによって距離を作り出すことに成功した。

 

「ほぅ、良い判断ですね」

 

見学していたランが感嘆の声を漏らした。

 

蹴り飛ばされた地点から再び男は疾走する。今度は下段から首を狙うパターン。しかし、タツミは半身の体勢で半歩左前方にズレることで、その一閃を回避する。同時に右後方に振りかぶっていた剣を袈裟懸けに斬り下ろす。

 

「もうその動きは見切ってんだよ!」

 

裂帛の気合を込めた一撃は、強化人間の肩に命中し、勢いよく吹き飛ばした。ちなみに、タツミの剣は刃引きした模造刀である。

 

「次っ!」

 

いつの間にか練兵場は数十人もの強化人間が出現していた。音もなく現れた男たちは、それぞれに異なった武装を施されている。

 

その中のひとり。強化人間が獲物を持って襲い掛かる。今度は槍を武器とする男のようだ。同じく真剣での苛烈な攻めをしのぐタツミ。その様子を眺めながら、感心した風にランは隣の白衣の男に話しかける。

 

「……凄まじい成長速度ですね。対人戦の技術を、見る見るうちに吸収しています」

 

「吸収というよりも、思い出しているんでしょうね。命がけの戦いが、その記憶を引き出している。……だとしても、これは異常よ」

 

Drスタイリッシュの言葉は正しい。かつて身体で覚えた戦闘の記憶。帝具使いと幾度も遭遇し、戦った経験。しかし、それだけではない。プラスして、様々なタイプの強敵との連戦が彼の引き出しを急激に増やしている。両方が奇跡的に噛み合った結果が、この常識外の速度での進化である。

 

「末恐ろしい、という言葉がピッタリですね」

 

端整な顔立ちをわずかに硬直させ、戦慄と共につぶやいた。反対にDrスタイリッシュは興味深そうに口元を歪める。

 

「トビーとカクサンを呼んでこなくちゃね」

 

「その方々は……?」

 

「ここらの強化人間を将棋の『歩』だとすると、彼らは『飛車』『角』。彼らに勝てるようになれば、帝具無しのイェーガーズ隊員と実力は同等以上になるわ」

 

何週間かかるかしらね、とDrスタイリッシュは肩を竦めて見せた。人体を理解しつくした彼にとっても、予想できないかのようだった。その声には楽しげな色が混ざっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タツミの特訓を強化兵達に任せ、二人は室内へと戻っていた。Drスタイリッシュの研究室からでてすぐのベンチに腰掛ける。日差しが照ってきて少し暑くなってきたのだ。

 

「2組とも賊の討伐に向かいましたが、ナイトレイドの方はまた仕掛けてくるでしょうか?」

 

「どうかしらね。強化兵に監視をさせているし、合図が出ればすぐにわかるはずよ」

 

現在は強化兵達が、イェーガーズ本部の最上階にて、ローテーションで常に信号弾を待っていた。ナイトレイドが現れれば、即座に増援として出撃する準備は整っている。研究室から持ってきたジュ1ースの片方をランに手渡した。ありがとうございます、と丁寧に礼をする。

 

「標的はイェーガーズか、クロメさん個人か」

 

「エスデス隊長はそう推測していたけど。私としてはもう一つ、選択肢があると思うのよね」

 

「タツミ君、ということですか?しかし、革命軍を暗殺し続けた彼女と違い、彼には実績がない。狙われる理由がないでしょう。……それとも、ナイトレイド従来の目的の、私腹を肥やした役人の御曹司だとでも?」

 

「そりゃないでしょうよ。礼儀もなってないし」

 

そう言って、Drスタイリッシュは肩を竦めて見せた。

 

「まあ、あくまで考え方のひとつってだけよ。深い意味は無いわ」

 

ベンチから腰を上げると、飲み干したジュースの容器を片付けに部屋へと戻る。

 

あごに手を当て、思索にふけりながらランに背を向けた。彼の感じていた疑念。それがより強くなっている。ポツリと誰にも聞こえないように一人ごちた。

 

「あの子、やっぱり環境適応力がありすぎる。まるで似たような組織に所属していたかのように。それがナイトレイドの構成員だったのかしら」

 

一般市民にしては強すぎ、エスデスによって強制的にイェーガーズに加入させられた、タツミへの第一印象だった。そして、彼は一計を案じる。フェイクマウンテンで意識を失ったタツミが医務室に運ばれたときに、それを実行した。すなわち――

 

 

――薬物によるタツミの記憶消去。

 

 

「隊長にバレたら殺されるわね」

 

小さく笑みを浮かべて、彼はつぶやいた。

 

だが、それを気にしている様子は無い。彼が考えているのは、貴重な被検体となりうる帝具使いのことだった。尋常ならざる潜在能力を持つであろうナイトレイドを好きに実験すること。彼らを捕獲できるチャンスと感じていた。

 

撒き餌として使えるかしらね。

 

Drスタイリッシュは、人知れずほくそ笑んだ。

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