タツミ in イェーガーズ   作:蛇遣い座

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第7話 ナイトレイドを狩る

背の高い木々が左右に生い茂る。林の中にある小道を4人の男女が歩いていた。帝都周辺に潜む、賊の隠れ家を殲滅した帰りだった。タツミとDrスタイリッシュ、そして男女の強化兵がひとりずつ。その中でも特にタツミは、意気揚々と大股で歩いていた。

「お疲れ様、タツミ。よくやったわね」

 

「おう!全然、大したことなかったぜ。数も少なかったし。結局、俺だけで十分かもな」

 

「あら?油断しちゃダメよ。ここまではウォーミングアップ。これからが本番なんだから」

 

Drスタイリッシュはそう言って、両脇に控える2人に視線を向けた。彼らは今回の討伐のために連れてきた強化兵である。『目』『耳』『鼻』と呼ばれる彼らは、偵察に特化した強化人間である。五感の内のひとつを強化されており、その探知能力は常人を遥かに超える。その中の『耳』と呼ばれる少女と、『鼻』と呼ばれる青年が今回の討伐に随伴していた。

 

「足音が聞こえます。北西200mくらいを追跡しています」

 

「人間の臭いが……2人分です」

 

「ふーん。首尾は上々ね。じゃ、あとは頼むわよ、タツミ」

 

索敵用強化兵の報告に、口元を緩ませるDrスタイリッシュ。状況が飲み込めていないのは、賊の討伐と言われて連れられたタツミだけだった。

 

「えっ……どういうことですか?」

 

「尾行されてるってことよ。まず相手は間違いないでしょうね。ナイトレイドよ」

 

一瞬の驚きの後、タツミは表情を引き締める。強敵との戦闘に向けて、モードを切り替えたのだ。Drスタイリッシュは白衣のポケットを探り、拳銃のようなものを取り出した。それを天に向けて引き金を引く。上空へ向かって、紫色の煙球が発射された。

 

「さあて、チームスタイリッシュ。熱く激しく攻撃開始よ」

 

ナイトレイドに対する攻撃の狼煙である。空へ昇る毒々しい紫色は、事前に想定していたナイトレイド包囲網の合図。『目』と呼ばれる強化兵が遠方から即座に察知し、大量の強化兵が戦場に投入される。ニヤリと嫌らしい笑みを浮かべた。

 

「すでに広域での包囲は終わってるのよね。あと数十秒もあれば、ここら一帯は戦場になるわ。とても逃げ切れはしないわよ」

 

「……っ、スタイリッシュ様!こちらに近付い……」

 

『耳』の少女が振り向いた瞬間、その首と胴が斬り離された。同時に『鼻』の青年の胴体も両断。鮮血が噴き出し、辺りに赤い雨が降る。

 

Drスタイリッシュがその少女の姿に気付いた頃には、すでに護衛は両方とも事切れていた。目の前には、刀を一振りした体勢で彼を見据える暗殺者。長い黒髪、黒目、黒装束に、まるで血のように鮮やかな真紅のネクタイ。しかし、何よりも目を引くのが一振りの日本刀。

 

「その刀は……帝具『村雨』!ナイトレイドのアカメね!」

 

いきなり大物が来た、とDrスタイリッシュは舌打ちした。まさか躊躇なく仕掛けてくるとは。強化兵の到着は間に合わない。一息の間に踏み込み、すでに刀を腰に構えていた。首元に鋭い切っ先が迫る。

 

 

「葬る」

 

 

相手はナイトレイドでもトップクラスの暗殺者。あまりの剣速に、たった一歩すら動くことができない。その死神の鎌は――

 

 

――寸前で二人の間に割って入った、タツミの短剣によって止められた。

 

 

「た、助かったわ……」

 

「なっ……タツミ!?」

 

鍔迫り合いを続けながら、タツミは意外なほどの力強さを感じていた。とても女の細腕とは思えない。身体能力は、常人を遥かに超えている。だが、なぜか困惑の表情を浮かべて、目の前の少女は後方へと跳び退く。一足一刀の間合いから離れ、安堵の息を吐くタツミ。

 

「これがナイトレイド……なんて速さだよ」

 

ドッと全身から汗が流れた。割って入れたのは偶然に近い。恐ろしく鋭い斬撃。タツミの眼でも追いきれない神速に、一切の無駄のない剣捌き。たった一合で理解させられた。明らかに自身よりも格上の戦闘者であると。

 

「ったく、俺で何合持つかな……。Drスタイリッシュ、下がっててくれ」

 

「いえ、その必要はないわ」

 

覚悟を決めて両手で剣を握るタツミに、彼はそう一言つぶやいた。その瞬間、物陰から現れた人影が暗殺者に衝突する。Drスタイリッシュの製作した最強の強化兵、トビーが足首から生やした刃で蹴りかかったのだ。

 

「クッ……さすがに決まりませんか。スタイリッシュ様、この女は私が受け持ちます」

 

さすがはナイトレイドの暗殺者。心臓を狙う白刃を、瞬時の判断で刀の腹で受け止めていた。だが、高速で移動するトビーの衝撃まではどうしようもない。林の奥まで二人同時に吹き飛ばされていく。

 

「俺も加勢に……」

 

「待ちなさい。トビーは彼女との相性が良いわ。それよりも、私の護衛をしてちょうだい」

 

「まあ、そうか。じゃあ、このまま逃げるぞ」

 

一気に森が騒がしくなってくる。アカメ以外にもナイトレイドが何人かいるようだ。至るところから金属音や鈍い破壊音が聞こえてくる。

 

タツミは周囲がナイトレイドと強化兵に囲まれていること。Drスタイリッシュは準備を万全に整えていることを理解した。援護があるのであれば、この場は彼を連れて帰還することが最優先であると判断する。ただし、本人は知らないが、今回の襲撃の目的はタツミの奪還である。ならば、その最優先目標である彼を易々と逃がすはずがない。

 

「やっべ、もう来てやがる」

 

焦った声でつぶやきつつ、タツミは白衣の背中を突き飛ばした。直後、その場所を通過する光線。Drスタイリッシュに当たるはずだったレーザーが背後の大木をなぎ倒す。

 

「ちょっとアンタ、何してんのよ!?」

 

レーザーを照射した帝具使いが声を上げる。銃型の帝具を持つ小柄な女子が怒った様子で物陰から現れた。その顔を手配書で見た覚えがある。

 

「ナイトレイドのマインか……!」

 

「よけいなことするん……えっ?」

 

先手必勝。相手は暗殺者とは思えないほどに無防備である。上段から斬り掛かろうとするが、その剣が届くよりも先に、横からの一撃が蹴りこまれた。

 

「ごほっ……さらに新手かよ」

 

数メートルほどを蹴り飛ばされながら、振り向くとそこには金髪の女の姿があった。空中で反転して地面に着地する。しかし、立ち上がった瞬間、足元がふらついた。たった一撃でこのダメージ。やはり、ナイトレイド相手は荷が重い、と感じる。

 

「よくわかんないけど。とりあえず蹴らしてもらったぜ」

 

「レオーネ、ありがと」

 

新たに現れた獣耳の金髪の女と、マインと呼ばれるツインテールの少女。2対2だが、非戦闘員のDrスタイリッシュを考えると圧倒的に不利。どのようにしのぐか、タツミの脳内が高速で回転するが策は思い浮かばない

 

「おいタツミ。一体どういうことだよ」

 

レオーネと呼ばれた女が声を掛ける。なぜ自分の名を知っているのか。そして、意外にも敵対的でない声音に疑問を覚えた。しかし、絶体絶命の状況を前に、その疑問を瞬時に打ち消す。頭の中を戦闘モード、それもトビーやカクサン以上の強敵相手へと切り替える。

 

「……話ができそうな状態じゃないみたいだな。ちょっと痛い目見てもらうぜ」

 

「うおおおおっ!」

 

雄叫びを上げて気持ちを昂ぶらせつつ、それでいて自然体での構えで。現在の持てる全身全霊を以ってして、タツミはナイトレイドに斬り掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

それから数十秒が経過した。

 

ここまで十数合ほど打ち合って、いまだタツミは倒れていなかった。相手に傷を負わせることすらできていないが、それでもまだ彼は立っていた。イェーガーズに加入してからここまでの戦闘経験のおかげであろう。

 

間合いに入らせないよう、外からレオーネの首を狙い、横薙ぎに斬り払う。それはスウェイで紙一重で避けられ、お返しに強烈な右拳を放たれる。右に身体をひねることで、ボディへのカウンターを回避する。

 

「おっと、これも避けるか。本当、見違えるねえ」

 

続く顔面への一撃は短剣の腹で防御。同時に、反動を利用して後ろにステップし、大きく距離を取る。これで何度目の攻防になるだろうか。ここまで何とかしのげているが、タツミの背中は汗でびっしょりと濡れていた。だというのに、相手の方はまだ余裕がありそうだ。

 

「いやあ。お姉さん、驚いちゃったよ。ずいぶんレベル上がってるじゃん」

 

肩で息をしながらも、タツミは意識を目の前の金髪の女に集中する。本来ならばもう一人の敵の射撃にも注意すべきだが、そんな余裕はなかった。タツミとレオーネ。2人の戦闘技術にそこまでの差はない。だが、身体能力に天地ほどの開きがあった。

 

これが彼女の使用する帝具「百獣王化『ライオネル』」の効果――

 

「そんじゃ、こっちから行くよ」

 

四肢による縦横無尽の連続攻撃。一撃ごとが恐ろしく早く、そして重い。タツミの戦闘経験で似たタイプなのは筋骨粒々の大男、強化兵のカクサンだが、それよりも強い。全神経を総動員して、あるものは避け、あるものは刀で受け、何とかしのいでいく。

 

ここまでタツミが戦えているのには、いくつか理由がある。ひとつはナイトレイド側の理由。タツミは殺す気で戦っているのに対して、相手は生け捕りを狙っているということ。大怪我をさせないよう威力を抑え、急所への攻撃も避けている。マインの方も、とある理由から援護射撃をすることができていない。

 

そしてもうひとつ――

 

「操られてるか脅されているか。どっちか分かんないけど、とりあえず眠らせるよ」

 

「いつまでもやられっ放しで……!」

 

先ほどまでよりもギアを入れ替えたのか。さらに拳速を上げたストレートが迫る。だが、それをタツミは凄まじい反射速度で首を捻って避ける。レオーネの顔が驚愕に固まった。

 

 

――ギアを上げたレオーネの攻撃よりも、タツミの順応力が勝った。

 

 

「素質はあると思ったけど、このタイミングでっ……!?」

 

心臓を狙い突き出された剣の切っ先を、ギリギリで止めるレオーネ。だが、その表情には焦りの色がありありと見える。下手をすれば殺されていた、と彼女の全身から血の気が引いた。後方へと飛び退き、呼吸を整える。レオーネから発せられる雰囲気が明らかに変貌した。

 

「死ぬなよ、タツミ。こっからはマジでやる」

 

ズシリと肩に圧し掛かる強烈なプレッシャー。一級危険種よりも濃密な威圧感。ギアを上げる程度では済まないと感じた、レオーネの本気である。これまで以上に苛烈な攻めを、タツミは確信した。この距離では先手を取って決めるのは難しい。とにかく初撃をしのぐことに専心し、自然体の構えで短剣を握る腕をだらりと下ろす。

 

 

身体能力アップに特化した帝具『ライオネル』。こと、純粋な速度においては――アカメをも上回る。

 

 

反応すら叶わぬ神速が、タツミの腹にめり込んだ。

 

「がはっ……」

 

腹の中の空気が全て吐き出された。一歩も動けず、完全に彼女の拳がぶち込まれる。その威力は巨大危険種の直撃に匹敵した。タツミの全身に衝撃が伝わり、砲弾のごとく吹き飛ばされる。

 

「ちょっと、レオーネ。アイツ大丈夫なの?」

 

「寸前で力を抜いたから、死にはしないさ」

 

壊すことではなく、飛ばすことを目的としたようだ。その渾身の一撃は、数十メートル以上を弾き飛ばす。そして、それを確認したレオーネとマインは残る白衣の男、Drスタイリッシュに視線を向けた。

 

「ようやく邪魔もいなくなった。お前、イェーガーズの一員だよな?」

 

「さっきの戦闘に参加しなかったってことは、非戦闘タイプの帝具使いね。さっさと片付けて、タツミを捕まえに行きましょ」

 

レオーネが拳を、マインが銃をそれぞれ向ける。しかし、Drスタイリッシュは余裕に満ちた表情で口元を歪めて見せた。両手を大きく左右に広げて誰にともなくつぶやく。

 

「タツミ、よくやったわ。アナタのおかげで到着できた」

 

――数十人もの強化兵が、彼を守るように出現した。

 

その中には彼の最高傑作のひとり、カクサンの姿もある。Drスタイリッシュはこの作戦のために、ナイトレイド全員を相手取ることも視野に入れて全戦力を投入している。

 

本当の戦いはこれからよ、と彼は言い放った。

 

 

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