タツミ in イェーガーズ   作:蛇遣い座

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第9話 帝具の情報を狩る

「……以上が、今回の作戦の報告となります」

 

「そうか。……ドクターが死んだか」

 

執務室の椅子に座りながら、エスデスは表情を変えずに頷いた。目を閉じて、静かに溜息を吐く。

 

「幸いにも帝具は回収できました。セリューさんの武装のような、設計図のあるものに関しては作り直せるはずです。ただ、新たな帝具使いを探すのに少し手間は掛かるでしょうが」

 

「それでも、新兵器の開発ができるとは思えんな。あの男ほどの研究者はそうそう見つからないだろう」

 

残念そうに首を左右に振った。薬品や武器など、あらゆる方面の研究で現行技術を超越するDrスタイリッシュである。その頭脳の喪失は大きい。イェーガーズはもとより、帝国にとっても深刻な打撃であった。

 

「それで、タツミの件はどうなった?記憶は戻せるのか、戻せないのか」

 

「残念ながら後者です。薬の調合書は見つかりましたが、解毒法の記載はありません。ドクターの頭の中にしかなかったようです」

 

「……それは本当だな?」

 

「もちろんです」

 

念を押すエスデスの言葉に、ランはすぐさま頷いた。タツミはナイトレイドのメンバーであろうことは、今回の襲撃でまず間違いない。自分の色で染めるから、とエスデスは気にしないだろうが、ランとしてはそんな楽観はできるはずもない。イェーガーズの情報を流される可能性は高いと考えていた。タツミの記憶を戻す方法があったとしても、隠したかもしれない。だが、今回は本当にその方法は見つからなかったのだ。

自分のことも理解されている、とランは内心で隊長への評価をさらに上方修正した。

 

 

 

 

 

 

 

 

今回の件の報告が終わった後、2人はメンバーを集めた一室に到着した。すでにDrスタイリッシュを除いた全員が椅子に座って待機している。エスデスが中央の席に座り、ランも端の方の椅子に静かに腰を下ろした。

 

「皆も知っていると思うが、今回の作戦でドクターが殉職した」

 

神妙な面持ちで黙り込む一同。重い沈黙が流れる中、突然立ち上がったのはタツミだった。

 

「すみません!俺の力が足りなかったばっかりに……」

 

その場で頭を下げる彼の言葉を、エスデスは片手を上げて遮った。

 

「今回の作戦失敗は私のミスだ。複数の帝具使い相手に、お前達が逃げ切れただけで十分。ドクターの帝具まで回収できたのは、上出来過ぎるほどだ」

 

そして直後。抑えきれない怒気を込めて、ドンと拳を机に叩きつけた。

 

「ナイトレイドが釣れると思っていなかった。釣れたとしても、これまでのように単独での偵察だろうと油断した。完全なる読み違いだ。だが、次はこうはいかんぞ……!」

 

険しい表情で腕を震わせるエスデス。ナイトレイドへの怒りを噛み締め、濃密な殺意が漏れ出る。その威圧感に、周りの隊員たちも思わずつばを飲む。

 

「隊長、例の報告をしてもよろしいでしょうか?」

 

「……ああ、頼む」

 

仕切りなおすように、ランが片手を上げてその場で立ち上がった。ふっと刺すような緊迫感が緩んだ。手にした書類を、ランは机の上をすべらせるように各自に数枚ずつ回す。そこにはナイトレイドの似顔絵とそれぞれの特徴が詳細にまとめられていた。

 

「今回の交戦で得た、ナイトレイドの情報について報告します。ドクターの強化兵は、ほぼ全滅しましたが、情報収集に専念させた数名が帰還しました。それを元にしています。では、まず1枚目の紙を見てください」

 

そう言って示されたのは、手配書の他に数枚の似顔絵と、隣に精巧な刀の絵が描かれている。戦ったタツミには一目で分かる。

 

――アカメと呼ばれた暗殺者である。

 

「所持帝具は「一斬必殺『村雨』――非常に凶悪な帝具です。一太刀入れば、たとえかすり傷だろうと呪毒により即死させる。心臓さえあれば、どんな生き物でも」

 

ランが書類を片手に読み上げる。かつて一合だけ斬り結んだことのあるタツミは、あれを受けていれば即死だったのか、と頬が引き攣った。

 

冷や汗を流しながら、チラリと隣に座るクロメに視線を向ける。自分の姉だという彼女に対する反応を窺ったのだが、その瞬間にタツミは戦慄した。あまりにも凄絶な笑み。どす黒く煮詰まったような、濁りきった濃密な殺意を肌で感じる。

 

「よかった。お姉ちゃん、生きててくれて」

 

淡々と、小声でクロメはつぶやいた。

 

「ちゃんと私が殺してあげるからね」

 

至近距離で殺意を受けてしまい、タツミの全身から血の気が引いた。普段の様子からは考えられないほどの怨讐、いや執着か……?

 

理由はわからずとも、姉妹の間には決定的に殺意のやり取りしか交わせないだろうとわかった。

 

「対策としては、防御を固めることしかないでしょうね。相性で言えば、ウェイブの帝具が最も良いですね。他に弱点としては、心臓が無ければ村雨はただの刀です。私達にはどうすることもできませんが……」

 

そう言って、ランは次のページを開いた。ツインテールの小柄な少女の姿が描かれている。

 

「マイン、と呼ばれていたそうですね。所持帝具は「浪漫砲台『パンプキン』」――銃型の帝具です。セリューさんとタツミ君、そして私もわずかですが交戦しました」

 

エスデスが愉しげに続ける。

 

「遠距離射撃を可能とする帝具だな。射手の精神エネルギーを衝撃波として発射する。以前は帝国の元将軍、ナジェンダが使用していたが……。他の者に譲り渡したようだな」

 

「そのようですね。セリューさんが交戦した際も、所有者は彼女のようでした。特性は『ピンチのときほど威力が上がる』というもの。戦場の破壊跡から考えて、ドクターだけでなく、防御力に優れたカクサンをも一撃で消滅させたと考えられます」

 

タツミは拳を強く握り、自身の無力感を噛み締めた。

 

「飛行中の私を撃ち落としたように、射撃能力は非常に高いと思われます。翼で防御をしたのですが、それでも衝撃が貫通してきました。ピンチではなかったにも関わらずです。無防備で喰らえば、私達でも一撃で仕留められるでしょう」

 

「そうだな。超長距離からの狙撃こそが、『パンプキン』の真骨頂だ。今後、外に出向く際は狙撃に十分に注意しろ。射線を常に意識して、狙撃地点を確認しておけば、そうそう狙えないはずだ」

 

そう忠告して、エスデスは交戦した残りの2人に印象を尋ねてみた。タツミは首を振って、分からないと答える。マインは彼に仕掛けてこなかったからだ。しかし、セリューは少しの間、考えてから小さく片手を上げる。

 

「たぶんあの悪、肉弾戦はあまり得意じゃないと思います。戦ったときの身のこなしからして。立ち回りはともかく、純粋な接近戦なら、私の方が上だと思います」

 

「だからこそのツーマンセルですか。護衛を抜いて、射手に接近。セオリーですが、それが最も効果的でしょうね」

 

ひとまず、そこで話が終わる。次のページには、若い男の顔が映っていた。おそらくタツミと同年代。ナイトレイドにも男がいるんだ、と当たり前のことが頭に浮かび、彼は苦笑した。

 

「名前は不明。糸の帝具を扱うようです。隊長の方から、大臣に確認を取って頂きました。所有帝具の名は「変幻自在『クローステール』――非常に応用力に富んだ帝具です」

 

誰も戦ったことがない、今回の戦闘で初めて判明した帝具使いである。この情報の価値は黄金に等しい。全員が食い入るように書類を見つめ、情報を頭に叩き込む。

 

「一本の糸として敵を締めたり、拘束したりは当然として。周囲に張り巡らせて索敵の結界とする。束ねることで槍とする。自身の身体に巻き付けて鎧とする、など。多種多様な方法で戦闘を行っていたようです」

 

「なるほど。正攻法よりも搦め手を得意としそうなタイプだな。ああ、ちなみに奥の手は不明だ。大臣に聞いたが、有るかどうかもわからんそうだ」

 

元は帝国が所有していたものではあるが、全ての情報が残っている訳ではない。遥か昔に散逸している上に、相性の関係で使い手も少ない。かろうじて残っているのは、名称と大まかな能力だけであった。

 

そして、次はタツミの戦った金髪の女。レオーネと呼ばれた暗殺者が描かれていた。

 

「所有帝具は、「百獣王化『ライオネル』」。特性は身体能力の強化。彼女についてはタツミ君の方が詳しいでしょう」

 

ランが視線で続きを促した。周囲を見回し、タツミが口を開く。

 

「なんか、ずっと様子見みたいで、本気を出したのは一撃だけだったんだけど。これまで戦ってきた中で一番強かった。スタイルは徒手空拳。パワーはカクサン以上、スピードはトビー以上って感じだった」

 

「タツミ君が帝具で両足を切断したので、戦闘不能でしょう。悪くとも戦力はダウンさせられる。ただし、ドクターのような治療用の帝具使いがいれば別ですが……」

 

「治療できるかどうかは別としても。帝具自体は革命軍側にあるわけだから、誰かしらは使用してくるはずよね」

 

懸念を示すランの言葉に、覆面の大男、ボルスが続ける。やはり、帝具使いを殺し、帝具を奪ってこそナイトレイドを弱体化できるのだ。戦闘員そのものよりも、とにかく帝具の奪還こそが重要課題である。

 

「さて、今回の戦闘に参加していたのは残りは2人です。元将軍のナジェンダと、この男」

 

片目に眼帯をしたスーツ姿の麗人。彼女がナジェンダである。そしてもう一人が、頭に2本のツノ(?)が生えた長身の男。

 

「彼女たちが帝具を使用した形跡はありませんでした」

 

「まあ、ナジェンダは帝具の使用に耐える状態ではないからな。それでも戦闘力はイェーガーズの隊員に匹敵するだろう」

 

ナジェンダの右腕は義手である。かつてエスデスによって奪われたためだ。そんな状態でも、イェーガーズに匹敵する戦闘力を持つというのは、さすがに元将軍と言える。しかし、そんなナジェンダよりも要注意とされるのが、『スサノオ』と呼ばれていたこの男である。

 

「帝具使用の形跡が無いにもかかわらず、強化兵の殺害数は最多です。純粋に強く、速く、巧い。ナイトレイドの中でもトップクラスの戦闘力でしょう」

 

「生き残りから聞いた話だけだが……まさか、これほどの強者が隠れていたとはな」

 

エスデスが感嘆の声を上げた。Drスタイリッシュに言わせれば、強化兵は『歩』の役割だが、複数に囲まれればタツミでも突破は容易ではない。三桁に迫る殺害数からだけでも、その脅威を感じ取れた。

 

「今回は出てこなかったが、ナイトレイドのメンバーとしては『百人斬りのブラート』がいる。タツミも町で手配書を見たことがあるだろう?アカメと並ぶ有名どころだな。所有するのは「悪鬼纏身『インクルシオ』」――高硬度の鎧の帝具だ」

 

「悪鬼纏身……インクル…シオ…」

 

噛みしめるように、タツミはその言葉を反芻した。なぜその言葉に反応したのか分からない。聞いたことがあるような、とても大事なことのような気がしたのだ。

 

「鎧というと、俺の『グランシャリオ』と同系統の帝具ですか?」

 

同じく鎧の帝具を所有するウェイブが尋ねた。それに頷くエスデス。

 

「そうだな。『インクルシオ』の後期発展型が、お前の『グランシャリオ』だ。性能もわずかにそちらが上とのことだが……」

 

そこであごに手を当てて思案するエスデス。

 

「……全く同じタイプの帝具を作るとは考えにくい。『インクルシオ』よりも性能を上げる代償として、何かしら奥の手をオミットした可能性もある。『グランシャリオ』にはない奥の手が存在するのかもしれないな。まあ、想像でしかないが……」

 

「『インクルシオ』は使用者の負担が大きすぎるので、帝国でも長らく死蔵されていたそうですね。本格的な解析をされる前に、所有者のブラートは革命軍に渡ってしまった」

 

「将軍である私でさえ、実際に目で見て、性能をしっている帝具などせいぜい十数個程度だ。大臣であろうと、その数が増えるだけで全てを知っている者などいないかもしれない。」

 

意外そうな顔をするタツミに向けて、彼女は軽く肩を竦めて見せる。

 

帝国といえど、全ての帝具の情報を持つわけではない。それは彼らイェーガーズも同じである。だからこそ、戦闘では自身の情報を徹底的に隠し、相手の未知の帝具に対応することが必要だ。

 

しかし今回、最優先で秘匿すべきであろう敵の帝具の情報を得られたことは、今後のナイトレイドとの戦いを優位に進める武器となるはずだ。そう締め括り、エスデスは立ち上がって全員を見回した。

 

「これまで私達、イェーガーズは帝都周辺の賊の大半を殲滅してきた。残るはあとひとつ。それに専念する」

 

一息吐いて、冷たい敵意と煮えたぎる高揚とが混ざり合った声音で言い放った。

 

 

――革命軍ナイトレイドを狩る

 

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