仮面ライダーストレイライト   作:きゅー。

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第1章 : 魔都憂愁(フラック・シティ・ブルーズ)
1-1 Singlar:虚しき街にて


その街は、既に死んでいた。

街としての役目をとうに終え、今はまさしくもぬけの殻だ。

吹き抜けた一陣の夜風が荒れ果てたアスファルトを撫で、伽藍堂となったビル街の隙間を駆け抜け、手入れのされなくなった植物が蔓延り、建物の外壁を覆い尽くしている。

 

それに不可解な物体が、町のあちらこちらに点在していた。

30メートルはあるかという体高の、錆びついた装甲の警邏ロボットが、姿勢を崩した状態で機能を停止しているのだ。

 

この街の名は俗にゴゥレム=シティと呼ばれている。

もともと一般人には立ち入る事のできない、ありとあらゆる科学実験を行う為の都市であった。

これまで数多の科学者が格好の場所として使用してきたが、今やその役目を終えて、街の残骸だけが残っていた。

 

*****

 

「えーっと…この辺かなあ…?」

そんな街の、とある夜更け。

ほの暗い部屋の中を、眩い手持ちライトが照らしている。

がちゃがちゃ、と雑然とした何かを掻き分ける音とともに、その少女…

メイは埃を被った一冊のノートを、打ち捨てられた書類の山から見つけ出した。

「よっし…あったあったぁ〜…コレコレ〜!」

金色と茶のグラデーションがかった髪に、浅黒い肌の色。メリハリのついた、所謂モデル体型。

それがメイの特徴だ。

同時に彼女は『旅人』でもある。自らサイドカーに乗り、これまで世界中を廻ってきた。

だが今、そんな彼女が訪れていたのは、おおよそ人々が立ち入るのを憚られるような場所でもあった。

 

ここはある研究機関により作られた施設…その跡地。

10数年前に廃棄されたその建造物は、メイ自身にとっても馴染みの深いものだった。

部屋の間取りも、その空間も。全てが懐かしく感じる。

メイは記憶の中の情景と、今見ている光景を照らし合わせた。

 

「わかっちゃいたけど…ひどい…」

 

誰にもなく、メイは呟く。

もぬけの殻となった施設は、今や朽ちた廃墟。

美しかった施設の窓は、今や割れ落ちたガラスの破片に変わった。

荒らされた書棚に、床に無残に散らばった、子供向けの絵本の数々。

タカの目に、ワシの翼、ゴリラの腕、チーターの足を持つ少年の物語。

滅びゆく地球に、突如円盤がやってきた物語。

どれもメイが幼い頃に読んだものばかりで、その事が余計に感傷を際立たせる。

昔、この場所を照らしていた照明群は、今やボロボロになった配線が剥き出しにされている。

人の手による管理をあまさず捨て去ったそこは、メイの過去の温かな記憶の余韻を残さず拭い去った。

 

「……まあま、目当てのものはゲットしたし、そろそろ出ちゃおっかな」

探し求めていた目当ての品であるそのノートの埃を払い、バッグに仕舞うと、この廃墟から出る為に歩を進めていく。

 

すると、どこかで。

───カチリと、なにかを回す音がした。

例えば、つまみ式のダイヤルのような…

 

「………はっ!」

その異音に気づいたメイは、途端に殺気を感じた。

自らの背後から、誰かが追ってくるような……

恐ろしい予感がし、一目散に出口へ駆け出す。

 

すると突然、外壁が轟音を立てて一気に崩れ落ちた!

粉砕された瓦礫が飛散し、辺りに散らばり、壁には大きな横穴が開く。

その横穴から顔を出し、メイを睨みつけるように姿を露わにしたのは────

 

銀色に閃く鱗状の肌。ギョロリと吊り上がった大きな双眼。

半魚人を彷彿とさせるそのフォルムの怪物たちは、1体、また1体と、まるで無感情なロボットのような動きで集結してゆく。

 

そしてまた、

カチリ。ダイヤルを回す音がした。

 

すると途端に、まるでスイッチが入ったかのごとく、その異形の怪物

たちは機敏に走りだし、逃走を図るメイを追い始めたのだ。

 

「やばいやばいやばいやばいやばいーーッ!!」

叫び声を上げながら、暗闇を無我夢中で走り続けるメイ。

それを一心不乱に追う怪物ども…深海サイボーグたちの群れ。

 

とうの昔に"死"を迎えて久しいこの街、『ゴゥレム=シティ』は、今宵、久方ぶりの波乱を迎えつつあった────

 

****

 

その少女の視界は、赤みがかっていた。

目に映るもの全てが真紅に染まっている。

だがそれは、少女の身体そのものが、赤く着色された培養液の中にあったからだ。

身動きが取れない。大人しく液体の中に沈むしかない。

肢体のあちこちに電気コードに似た配線が癒着し、少女の動きを封じると同時に、体の維持を行うための成分を注入し続けている。

朦朧とした意識の中で、その少女…アサヒは、ある声を聞いた。

耳…というよりは、意識そのものに訴えかけるような。

低く響き渡る、壮年くらいの男の声だ。

「アサヒ、おまえは…自由に…」

それを聞いた途端、視界が真っ白く染まってゆく。

夢から醒めて、意識が浮上していく感覚だ────

刹那、彼女の脳裏に浮かんだのは。

古びた写真立ての中であどけなく笑う、ある少女の顔だった。

 

「……ん、んん…っ」

眠たげな眼を擦りながら半身を起き上がらせると、アサヒは周囲を見渡した。

ハイライトの薄い水色の瞳が揺れる。

冷たい夜風が吹き付け、ふわりと亜麻色の髪を撫でた。

その首元には金属と皮でできた首輪のようなものが巻かれており、前部には細長い筒状のアクセサリーがぶら下がっていた。

 

アサヒは、この「ゴゥレム=シティ」で育った者である。

彼女はこの世界に生を受けてからずっと、その胸に抱く好奇心が赴くままに行動していた。

 

「あれ?何でわたし、こんなところに…?」

アサヒは小首を傾げた。

夢から覚醒したばかりで、眠る前後の記憶があやふやになっているのだ。

それもそのはず、アサヒが眠っていたのは────

 

地上から60mもかくやという高さの、聳え立つ電波塔の中腹部分だったからだ。

常人ならば、まず自ら足を運んだり、到達し得ないであろうその危険区域。あまつさえそこで眠ろうという気になる者はいないであろう。

アサヒが何故、このような場所で眠っていたのか。

それは、拾った図鑑や本で見た動物類を効率よく見つけるため、高いところへ登ったのはいいものの、疲れ果ててしまったから…という理由であった。

 

「あー!思い出した!」

ようやく記憶が呼び覚まされたのか、アサヒが叫んだ。

すると────

 

「…とぉーっ!」

全く臆することなく、電波塔から遥か真下に広がる地上へ向かって、高くジャンプし、そのまま急降下していくではないか。

重力に従うまま、その身は自由落下してゆき、地面が瞬く間に近づく。

だが。

 

「んしょ…っと」

アサヒはそのまま、巧みに着地した。

常人ならばまず無事では済まないであろう大跳躍。

しかし彼女の身体は、全くダメージを負っている様子は見受けられなかった。

そして彼女はそのまま…

「探すぞー!幻のマダラオオトカゲ!」

と叫ぶと、宵闇の中に浮かぶ廃墟へと、単身向かっていったのだった。

 

******

 

「ちょいちょいーッ!!あんま追っかけてこないでー!!」

深海サイボーグたちのメイへの追跡劇は、未だ続いていた。

サイボーグたちは体力の概念そのものがない。「指令」が続く限り、どこまでも対象を追跡する。

メイ自身の身体能力すら上回る走力で、彼女を捕縛しようと手を伸ばしてくる。

何故自分がこんなにも追いかけられなくてはならないのか。

そもそもこのサイボーグたちは何者なのか。

疑問はいくつも脳内に浮かんでは消える。

建物を脱出し、乗ってきたバイクまであと少し。

 

だが、サイボーグの1体が、メイの二の腕付近を掴んだ。

「…っぐぁ…ッ!?…あぁっ…!」

サイボーグの腕力は常人のそれを遥かに上回る。

筋肉と骨が軋む音と滲みだす壮烈な痛覚に、メイは顔を歪ませた。

走りを止めざるを得なくなったメイの周囲には、1体に続けとばかりに、追手のサイボーグたちが次々と追いついた。

じりじりと迫る、奇怪なる軍団。

 

───────ああ、うち、もう終わったわ…

 

自分の"終わり"をメイが悟った、その時だった。

 

何処からか、激しい轟音が聞こえた。

排気音と、内燃機関が唸りを上げる音が織りなす二重奏。

音のする方を見やると、1台のバイクがこちらに向かって走っているではないか。乗り手は夜の闇に紛れて判別できにくかったが、バイクは緑の蛍光色をボディカラーに取り入れたデザインだった。

サイボーグたちも音に反応してか、動作を止めてその光景を凝視している。

バイクはやがて、サイボーグたちから2〜3m離れた場所に停車。

降車した乗り手が、ヘッドライトに煌々と照らされながらその姿を露わにした。

 

「え…?…何…?…ヒト…?」

メイは困惑した。その乗り手の姿もまた、異形のモノであったからだ。

170cmくらい程の身長。スラリとした体躯と手足を覆う、ガントレットのような硬質な鎧。

首元からはマフラーのような布が垂れ下がっている。

装甲には所どころにマーキングが施され、配線が剥き出しになったような外観の部分もあった。

まるで機械でできたような見た目だ。

そのマスクに備えられた切長気味の深緑の眼が、冷たくサイボーグたちを捉えた。

 

「驚いたわ、こんなトコに人間が居たとはね…まあいいわ」

 

腰に携えたホルダーから、日本刀らしき武器を抜いたその異形…サイバノイドゼロはなおも言い放つ。

 

「今は特別気分がいいから、露払いだけはしといてあげる」

 

*****

サイバノイドゼロが刀を抜いた、ちょうどその頃。

とぼとぼと、廃墟を歩く人影があった。

アサヒだ。

 

「ああ、今日も見つからなかった」

 

どうやら目当てとする"マダラオオトカゲ"は見つけられなかったようで、それが彼女の落胆の原因であった。

道すがら、アサヒはふと空を見上げた。

 

さながら、今のアサヒが暮らすゴゥレム=シティは空虚な箱である。

人が万遍なく消え、静かすぎる街の残骸だけがその姿を残す。

 

そんな街で、アサヒは孤独だった。

否、孤独しか知らなかった。

生まれた時から、ずっとひとりぼっちだったのだ。

【自分の虚しさを埋めたい】

その思いから、図鑑で見た生き物を探す行為に没頭していたのである。

無論、内側から湧きあがった好奇心そのものはある。

自分の知らない物を知りたい。誰しもが持つ普遍的な感情。

しかし、それでも自らの寂しさを埋め合わせる事は難しかった。

 

「───つまんない」

 

それは、自らの興味の対象が見つからなかった事への言葉か。

それとも。

 

1人の少女の言の葉は、静かに夜へと溶けてゆく。




【TIPS・敵】
・深海サイボーグ
身長:個体によって異なる
体重:個体によって異なる

かつて深海要塞都市を築いたマッドサイエンティスト集団が、人間社会を征服するための兵士として作った半魚人型サイボーグ。
陸上と水中での活動が可能で、その素体には人間が使われていた。
なお改造の過程で人間としての自我は消失しており、改造後は極超音波式のダイヤル型指示器を通じ、ホストの命令に従って行動する。

件の深海都市そのものは約50年前に崩壊したものの、開発技術そのものは流出していたようで、「ゴゥレム=シティ」内にもデッドストック品として多数存在している。

(昭和41年7月公開 東映・ラム・フィルム合作作品「海底大戦争」にて登場)
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