あくまで『並行世界における、同一人物』…という事です。
10数体の深海サイボーグが、次から次へとサイバノイドゼロへと飛びかかる。
その動きは動物的な荒々しいもの。水かき状になっている手から生え揃った鋭い爪が、サイバノイドゼロを狙う。
その攻撃をひとつひとつ確実に捌きながら、手にした日本刀に似た武器…サイバブレードを構える。
すると、襲い掛かる動作のあまり胴がガラ空きになった個体を見つけた。
彼女はその僅かな隙を捉え───
その瞬間。
金属同士が摩擦し、鈍くぶつかり合う重い音が静寂にこだまする。
サイバブレードの刃部分が、サイボーグの胴部分を勢いよく斬ったのだ。
胴体部分が裂傷を起こしてひしゃげ、歪むと同時に、サイボーグは機能不全を起こしたのか、動作を停止する。
それを見逃さず、サイバノイドゼロは、3〜4体の未だ健在なものたちに向かって、停止したサイボーグの躰をまるでボールのように蹴り抜いた。
勢いのまま吹き飛んだ身体。相当な重量を誇るそれは、狙い通りに命中。大きな衝突音を立てながら、同士討ちを招いた。
──────まったく、こんなんじゃ埒が開かないじゃない。
あくまで声を出さず、心の中でサイバノイドゼロは呟く。
彼女の目的は、このサイボーグたちにあるのではない。
このサイボーグたちを操る存在そのものにある。そいつさえ叩ければ、厄介な思いをしないで済むのだが。
それに彼女には、1つ気がかりな事があった。
自分がこのサイボーグの手から逃した、金髪に浅黒い肌をした人間の少女の事だ。
今やこの街…ゴゥレム=シティには純粋な人間は1人もいる筈はない。
街自体も高い防御壁に守られており、よほどの身体能力がなければ立ち入る事はできない筈、なのだが。
まさしく、謎が謎を呼ぶ…といった風だ。
その思考を邪魔するが如く、サイボーグたちの襲撃が終わる事はない。
サイバブレードを構え直し、次なる動きに備える。
が、その刹那。
どこからが放たれた1発の銃弾が、サイボーグの身体を貫通した。
サイバノイドゼロが思わず振り返ると、そこには…
先程救出した少女、メイがスコープ付きの頑強なメットと、ハンドガン型の武装を手に、すっくと立っていたのである。
「何よ、それ!って、なんで戻ってきてんのよ、危ないじゃない!」
「いやあ、ごめんごめん、助けてもらってばっかじゃ悪いかなあって…」
予想外の出来事にサイバノイドゼロは狼狽えた。
よもや先程助けた一般人が自らの危険を顧みずに、戦いの場へと戻ってくるとは。
しかもその手には、仰々しい武器までもが握られているのだから。
「あんた……一体何者なの?」
サイバノイドゼロに問われると、その少女はこう言い放つ。
「うちはメイ!旅人やってんの!よろしく!」
「そんな物騒なもん持った旅人がどこにいんのよ!?」
自称、旅人の少女に思わず突っ込む。
が、敵の襲撃は止まない。
すぐさま背中合わせの格好で、互いの背中を守り、構える。
「ちょっと、銃しか装備してないのに一緒にやるつもり!?…こいつらの力は人間越えてんのよ、どうにかなるもんじゃ…」
「大丈夫大丈夫!ほら、うちって案外、体は丈夫なんだよね〜」
「だからホント何者なのよ、アンタは?」
サイボーグたちはしぶとく、何度も襲いくる。
サイバノイドゼロが1体の胴体を薙ぎ、その勢いのままに1体、また1体と切り伏せてゆく。
メイはその優れた身体能力でサイボーグの攻撃をかわしつつ、冷静に目標を定めた。先程負わされた二の腕の怪我も治癒している。全快状態だ。
手にした特殊銃器・クロスフレイライザーの引き金を引く。
放たれた銃弾が、サイボーグのボディをしかと貫通した。
すると、サイバノイドゼロが何かに気づいた。
寂れた研究所。その暗闇に潜む、何者かの気配を捉えた。
すかさず彼女は、メイにその方向を指差し、命じた。
「あれを撃って!」
「"あれ"?何もいないんじゃ…!?」
「いいから撃つの、ほら早くッ!」
「わ、分かった!」
困惑しつつも、指差す方向を撃ち抜く。
すると突然、
耳障りな金切り声のような音と、ぐじゅり…と、湿り気を帯びたものが蠢く音が聞こえた。
その音の正体は、程なくして、物陰からずるずると這い出てきた。
それは、大きく開かれた蒼い単眼に、複数の触手を生やした肉塊…ともいうべき、グロテスクな外観をしたアメーバ状の生命体であった。
「何?…この生き物…?ちょっとグロすぎない!?」
驚くばかりのメイを見やり、サイバノイドゼロが口を開く。
「…あれはザイオス。今、この街に蔓延っている新種の生命体。そして…すごく打たれ弱い」
すると、言うが早いか、そのアメーバ生命体…ザイオスの身体がみるみるうちに赤いスライムのような液体になって溶解してゆく。
形すら保てず、スライム自体の粘度も徐々に減り、水のようなさらさらとした質感となっていく。
よく見ると、ダイヤル式リモコンのような装置がザイオスの屍体だったものに浮かんでいた。
装置内にその液体が入り込みショートしたのか、リモコンは火花を上げ、すぐに停止する。
と、同時にサイボーグたちの動作も、まるで時間が止まったか、あるいは石像となるがごとく、止まった。
このリモコンこそが、サイボーグたちの動作を司る操縦装置だったのだ。
戦いがひと段落し、一息を吐いたサイバノイドゼロはメイに向き直る。
「あのサイボーグは、人間を改造したもの。50年ほど前に作られた骨董品。おおよそどっかの悪趣味な連中が持ち去ってコレクションでもしてたみたいね」
「コレクション…?え…うちには何がなんだか…」
「メイ…とか言った?…安全に旅を続けたいんだったら、回り道してでもこの街を避けて行くべきだったわね───でも、命と
「ああ、そうかなー?」
ヘルメットを取り、メイは少し照れ臭げに頭を掻く。
手首に光るタグ付きのアクセサリーが、わずかな光を反射しながら揺れる。
…まったく、恐ろしいぐらいに脳天気な旅人だこと。よく今まで無事にやってこれたもんね…
サイバノイドゼロは心中でごちた。彼女が今まで見たことのないタイプの人間だ。
じゃあ、街からの抜け口は教えるから───と、言いかけたその時だ。
突然、巨大な地響きがこだました。
ズシン、ズシン…と、大きな質量を持つ物が大地を闊歩する、そんな音だ。まさに青天の霹靂。
発生した地面の揺れに驚く、メイとサイバノイドゼロ。
「うわあっ、ととっ!…何、今度は何なわけ!?」
「これは単なる地震じゃない!──こいつはっ──バイクに乗りなさい!早くっ」
自らの足たる、バイクとサイドカーに跨った2人は、エンジンを入れると、すぐさま発進させ、急いで現場から離れていく。
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夜霧に包まれ始めたゴゥレム=シティを闊歩する、足音の主。
それは、体長60メートル。体重30000トンの巨体を誇る、巨大な生命体であった。
歩行形態は四足歩行、全身を覆うのは一つ一つがきめ細やかな純白の体毛で、所々が赤く染まっている。
後ろ足と比較しても、前足が大きく発達しており、大きな鉤爪が3つずつ生えそろっていた。
野生の狼と、恐竜…獣脚類を併せ持ったかのような外観の頭部には、赤く染まった双瞳が備わり、外界を見下ろしている。
巨獣…VVアサルトは、空気を震わせ、夜の廃街を引き裂くように咆哮した。
その姿を照らすは、空に浮かぶ欠けた月のみであった。