私の名はシロ。
悪の組織によって、人工的に造られた魔法少女、らしい。私としては、そんな風に言われてもピンと来ない。
母親がいたような記憶があるし、なんなら姉もいた気がする。けれど、はっきりした記憶はないので、本当のところどうなのかは分からない。
魔法少女。
10代くらいの少女に時々現れる、魔法の力を持った戦士だ。
彼女らは、その魔法を使って、悪の組織が造った、『怪人』という化け物から街や人々を守る。
そんな魔法少女の姿を見て、何を思ったのか、悪の組織側も魔法少女を戦闘員として使うことを決めたらしく、その結果生まれたのが私なんだそうだ。
だから今も私は、戦闘訓練を行っている。
「また負けたー! シロ、やっぱり強くなってるね。どんどん差がつけられてるや」
たった今、私との模擬試合に付き合ってくれていた彼女の名は、クロ。
私の双子の姉で、彼女も私と同じく、組織によって生み出された人工の魔法少女だ。
「クロも、強くなってきてると思う。前に見せてた隙、なくなってるし」
私が褒めると、クロは照れているのか、まるで困ったなとでもいうかのように頭をポリポリと掻いている。
恥ずかしがり屋なのだろうか。まあ、クロもあまり深く追求されたくはないだろうし、ここら辺にしておこう。
「それにしても。私達って1日8時間以上訓練させられてるよね。労働基準法違反してない? 残業手当くらい出してほしいよなぁ〜」
「そもそも私達給料自体貰ってないから」
給料こそ貰ってはいないが、私とクロは食事も、衣類も、風呂も、全て組織によって用意されている。
組織の中には、娯楽の類のものはないようだが、風呂にも入れるし、衣服もある。加えて食事も用意してくれるのだ。今のところ、私としては不満はない。
私的には、クロとこうやって下らない雑談を交わしたりする時間が、物凄く楽しい。だから、本当に不満はない。
時々喧嘩したりすることもあるけど、クロは私にとって唯一の家族だ。クロと一緒なら、どこででも生きていける気すらする。
しばらく2人で談笑していたところ、1人の男が、私のことを呼び出す。
5人いる組織の幹部の1人。
コードネーム『アスモデウス』。
常に私達の動向を監視している男で、基本的には無口で、私達にも干渉してこない。
仕事以外の無駄な作業には取り組まない、勤勉な人というイメージがある。
そんな彼が、何か私に伝えようとしている……?
まさか、来たのだろうか。私が戦う時が。
私達が訓練をしているのは、当然組織に危害を加える魔法少女に対抗するためだ。
「第2被験隊………シロ、だったか。お前に出撃許可が出た」
案の定、私に魔法少女と戦闘する許可が出されたことを伝えるために、
今までは、特訓期間ということで、組織の建物の外へ出たことはなかった。けれど、やっと来たのだ。
今までの、特訓の成果を見せる時が。
★☆ ★☆ ★☆ ★☆ ★☆
私は初めて、外の世界の大地を踏み締める。
これが、外の世界……。
組織の中では、見かけるのは私とクロ、そして、アスモデウスというコードネームの男のみだった。たまに他の幹部が覗きに来ることもあるが……。
しかし、外の世界というのは、こんなにも広かったんだなと改めて感じさせられる。
街を歩いているのは、複数の人々。
歩いていると、誰かしらとすれ違う。全く顔を知らないし、名すらも知らない人々だ。そんな人々と、何度かすれ違う。組織にいるときは、こんなことはなかった。
新鮮で仕方がない。
もしクロも来れるのなら、今度一緒に来たいと思った。
この感動を、クロとも共有したい。
……って、いけない。
任務をこなさないといけないんだった。
確か、そろそろ組織の派遣した怪人が暴れ出す頃合いだ。
私はその混乱を聞きつけてやってきた魔法少女と戦闘し、これを討つ。
『か、怪人だー!』
『きゃー!』
街の人々が騒ぎ出した。
……時間だ。
私はすぐに魔法少女の戦闘衣装へと変身を遂げ、右手にステッキを持ち、騒ぎの現場に駆けつける。
街の人々からすれば、私は怪人を成敗する正義の魔法少女に見えたかもしれない。
まあ、姿を見られても困ることはない。魔法少女には常に認識阻害の魔法がかかっており、一般人には魔法少女を見ても、その正体を看破することはできない。
っと、そうこうしている間に、私は騒ぎの中心へとやってきていたらしい。
そこでは、ゴリラのような見た目をした怪力の怪人が、街を破壊している光景と、そんなゴリラの怪人を止めようと、魔法を放ちながら近づく桃色の髪の魔法少女の姿があった。
あの桃色の髪の魔法少女の相手をするのが、今回の私の仕事になりそうだ。
「そこの白い子! もしかして貴女も魔法少女? だったらお願い! 手伝って!」
桃色の髪の子は、ゴリラの怪人の相手をしながら、私に援護を要求してくる。
勿論、答えるつもりなんてない。
私は桃色の髪の少女に対して魔法を放ち、彼女の動きを妨害する。
「なっどういうつもりなの!?」
「確かに私は魔法少女だよ。でも、私は貴女とは違う。そこの怪人の味方で、貴女達魔法少女の敵」
私は、怪人と一緒に桃色の髪の魔法少女に攻撃を加え、彼女を追い詰めていく。
桃色の髪の少女は、私に対して本気を出すことができないでいる。
困惑しているのかもしれない。だって、今まで彼女にとって、魔法少女は、共に怪人を退治する仲間でしかなかったのだから。
まさか、敵に魔法少女がいるとは思わなかったのだろう。
順調だ。このまま攻めていけば、魔法少女を1人倒すことができる。
手柄を挙げれば、組織から報酬として休暇が貰えるかもしれない。
もしそうなったら、クロと一緒に休日を過ごしたい。もしその時にクロにも外出許可が出ていれば、一緒に外に出てみるのもいいかもしれない。
そんな風に考えながら、桃色の髪の少女を攻める。
「櫻!!」
しかし、そんな私達の猛攻は、桃色の髪の少女を助けにきたもう1人の魔法少女によって止められてしまう。
私達の邪魔をしたのは、赤色の髪を持った、ツインテールの少女だ。
彼女の表情は桃色の髪の少女のことを心配しているように見える。仲間、だろうか。しかし、厄介だ。せっかく魔法少女を1人倒せそうだったのに。
「貴女、どうしてそんなことするのよ! 私達と同じ魔法少女なんでしょ!?」
赤色の少女は、私のことを、信じられないものでも見るかのような目で見てくる。
どうして、か。そんなの、決まってる。
「私は、貴女達を倒すために生み出された存在だから。貴女達を倒せないのなら、私が生まれてきた意味がない」
私の言葉を聞くと、2人の表情は悲痛なものへと変化する。
そんなにおかしなことを言った覚えはないのだけれども…。
私は、そのために生まれてきたのだ。
組織からすれば、魔法少女達を倒せないのなら、私が生み出される必要などなかったということになる。
勿論、私としては魔法少女を倒せなかったとしても、死ぬつもりなど毛頭ない。クロとの生活は楽しいし、魔法少女を倒すという目的は義務的にやっているだけなのだから。
「貴女の心は、傷まないの…? それって、誰かの命を奪うってことだよ。本当に貴女は、それで納得できるの?」
桃色の髪の少女が、私に尋ねてくる。
誰かの命を奪う?
何を言っているのだ。私がするのは、
そのはずだ。
だって、殺せなんて一言も言われてない。
「殺さないよ?」
だから、私は素直にそう答える。だって事実だ。私は殺せなんて言われてない。
「櫻さん! 大丈夫ですか!」
「あ? 何で魔法少女が邪魔してるんだ?」
「擬態型の怪人? まあいいわ。私達で街の人の避難は済ませておいたから、後は怪人を倒すだけよ」
………どうやらもたもたしすぎたようだ。
私が2人と会話を交わしている間に、彼女達の仲間と思われる魔法少女が3人ほどこの場にやってきてしまっていた。
流石に5対2じゃ勝ち目は薄そうだし、逃げるしかなさそうだ。
初陣がこれとは……納得いかないが、背に腹はかえられない。
今は引くしかなさそうだ。
怪人は…………、見捨てるか。どうせ量産型だし、特別な個体というわけでもない。どうせ怪人には感情も何もない。ただ設定された通りに動く、機械のようなものだ。
そんな怪人よりも、私の命の方が大事だ。
「私は帰るから。またね」
一応挨拶は欠かさない。
クロも、挨拶は大事だって言ってたし。
それにしても、私は魔法少女を殺さなければいけないのだろうか。
人を、殺さないといけないのだろうか?
今まで深く考えたことはなかった。だって、組織の言うことはただ只管に聞いていただけだったから。
でも、もしそうなら………。
嫌だな。
誰かを殺すのは。
でも、まだ殺さなきゃいけないと決まったわけじゃない。
帰ったら、クロに聞いてみよう。