あの後、結局櫻という名の魔法少女が私のことを追うことはなかった。
ヒヨリとカゲロウという双子の魔法少女もいたわけだし、少なくとも単独行動による危険性というものはなかった。それに、彼女の実力であれば、私の後を追うことなど造作もなかったはずだ。にもかかわらず、彼女はそれをしなかった。
私の後を追えば、組織の居場所だって掴めたはずなのに。
一応、私がいる場所はあくまで組織の支部的な扱いの場所であって、本部はまた別の場所にあるらしいが、それでも組織のアジトの内の一つを掴めるというのはかなりでかいはずだ。
援軍の心配をしてこっそり尾行した可能性もあるが、それはないだろう。
私は一応今までの訓練でそういう類のモノに対する感覚が鋭くなっている。仮にこっそり後をつけられていたとしても、よっぽど洗練された動きでなければ私は気づける。
まあ、こちらとしては深追いされない方がありがたい。仮に櫻が私の後をつけ、組織の他の者に始末されたとしても、それは私の手柄にはならないし、特に利益がないわけだし。
「シロ、どうしたの? 難しい顔をして」
ボーッとしている私に、クロが声をかけてくる。
そうか、今日は休暇だった。といっても、訓練がないだけで外出はできないのだが。
一応、私は魔法少女との戦闘という任務をこなしてきたことになっている。量産型の怪人一体と、『
量産型の怪人ならまだしも、『
しかし、特にお咎めもないというのなら、甘んじてそれを受け入れるべきだろう。
「ちょっと考え事してただけ」
「ふーん。まあでも、ここ、何にもないし、やることないもんね」
クロは心底参ったかのようにそうぼやく。
そういえば、私がいない間、クロは何をしているのだろう。
1人で訓練に励んでいるのだろうか。だとしたら物凄く退屈そうだなと思う。
「クロはやっぱり、1人で訓練してるの?」
「訓練? ん、ああ。うん。してるよ。してるしてる」
………随分と適当な返事だ。絶対訓練してなさそうな感じの。多分サボってるんだろう。今までの私との訓練中も、何度か手を抜いている場面はあったし、クロはあまり訓練が好きではないのかもしれない。
「ちゃんと訓練しておかないと、外出許可でないよ」
「ソーダネー」
「また適当な返事して…………。外の世界、行ってみたくないの?」
「んー、別に興味ないよ?」
小さい頃はクロも真面目に訓練に取り組んでいたはずなんだけど…………。どうしてこんなに怠け者になってしまったのだろうか。ポテンシャルだけで言えば、おそらくクロは私よりもあるだろう。本気で取り組めば、私の実力を越えることだって可能だったはずだ。実際、幼少期は途中まで私よりもクロの方が魔法の扱いに長けていた。
けれど、突然クロが訓練で手を抜き始めたのだ。
何がきっかけだったのかは分からない。私に分かるのは、今まで魔法に興味津々で訓練も本気で取り組んでいたクロが、急に魔法への関心が薄れ、訓練もなあなあで済ませるようになった、という事実だけだ。
「……もったいない」
「何が?」
「クロって、せっかく魔法の才能があるのに、それを無駄にしてるから」
「……ロのためだよ…」
「え?」
「……何でもない。まあ、強いていうなら、魔法を極めるっていうのが面倒臭くなっちゃったからかな。簡単に言えば興味を失っちゃったんだ。よく言うでしょ? 好きとできるは違うって」
まあ、確かに才能があるからといって、必ずその道を極めなければいけないというわけではない。サッカーの才能がある人がいたとして、その人が野球やバスケットボールなどの他のスポーツをやる道を選ぶ可能性もあれば、逆に運動に全く興味を持たずに、芸術に目覚めたりする可能性だってある。サッカーの才能があっても、サッカーに対して興味関心を持つとは限らないためだ。
だから、クロの言い分もわからなくはない。わからなくはないのだけれど……。
私は、クロの横顔を見る。
相変わらず、何を考えているのか分からない。双子のはずなのに。ずっと一緒に過ごしてきたはずなのに。
記憶のある限りでは、私とクロは少なくとも3歳くらいから一緒に過ごして生きてきた。
なのに、私はクロのことを、何一つ理解できていない気がする。
「クロって普段から何を考えて生きてるの?」
「どうやって組織を潰そうかな、とか」
「え………?」
「……冗談だよ」
本当に、何を考えているのか分からない。組織を潰そうだなんて、そんなことを考えても仕方ないのに。
だって、私達は組織に従うのが当たり前で、組織の後ろ盾がなければ、生きていくことすらできないのだから。
「でも、シロは組織にいて、不満に思ったことはないの?」
「ない………と思う」
不満に感じたって、仕方がないから。
だから、私は組織に対して不満を抱いたことはない。不満を持ったところで、それを消化する術はないのだから。
一番楽なのは、何も考えず、ただ組織の言うがままに動くことだ。それさえしていれば、私はクロと共に生きていける。
だから、不満なんて………。
「シロって、嘘つくのが下手くそなんだね」
「え……?」
私は、嘘をついたのだろうか。
ついた覚えはない。だって、実際に私は組織に不満を持っても意味がないと思っている。
「あんまり、自分を押し殺さない方がいいと思うよ。ゆっくり、自分の気持ちと向き合ってみたら?」
自分の気持ちと、向き合う?
そんなことを言われても、私は気持ちを押し殺した覚えも、自分の気持ちに嘘をついた覚えもない。
「人間なんだから、不足に思っていることはあるはずだよ。もう一度じっくり自分の気持ち、整理してもいいと思うな」
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昨日一日中自分の気持ちについて整理してみたが、結局、私自身何を不満に感じているのか、それが全く分からなかった。食事、睡眠に文句はないし、クロと過ごせればそれで満足だ。
そんな私に、何の不満があるのだろうか。
そう思いながら、私は今日も街を歩く。
一昨日の失敗を取り返すために、今度は妖精型の『
『
そして、案の定、怪人を2体も連れていた私の姿は思いの外目だったのか、2人の魔法少女が、私の前に姿を現す。
片方は、青色の髪をポニーテールにしてまとめている、いかにも真面目そうな魔法少女。
もう一方は、緑色の髪の身長が小さめな魔法少女だ。
確か彼女らとは、私が初めて外出した日に出会った気がする。といっても、顔を見ただけで、直接戦闘を繰り広げたわけではないので、うろ覚えではあるが。
しかし、どうしてだろうか。
私は、魔法少女を倒すために、組織から街へと赴いてきた。
組織からの褒美、すなわち、クロと一緒に外出する許可をもらうために。
他にも、魔法少女の首を持っていけば、様々な報酬が私を待ち受けているだろう。
だから、魔法少女の方から私の元へやってきてくれるのは、私にとってはありがたい話のはずなのに。
どうしてか、魔法少女がここへやってきたことに、何となくいい気分になれない。
それだけじゃない。
私は今、『
戦いたく、ないと。
そう、思っている自分がいる。
自分で、自分のことがよく分からない。
思い出すのは、一昨日戦った双子の姉妹の姿。
どうして今、彼女達のことを思い出したのだろうか。
そんな風に、私が思い悩んでいる内に。
2体の『