悪の組織をやめたい魔法少女の話   作:布団から出られない

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3 やめたい

『特別個体(オリジナル)』の怪人達が、2人の魔法少女に絶え間なく攻撃を加え続けている。

魔法少女達は『特別個体(オリジナル)』の攻撃に対処するのが精一杯で、反撃する様子はない。

 

そうだ。『特別個体(オリジナル)』の怪人に魔法少女1人で対処するなんてことは不可能なのだ。櫻という名の魔法少女が異常だっただけで、本来であれば『処刑人(ジャッジメント)』1人で何人も魔法少女が狩れたはずなのだから。

 

それだけ強い『特別個体(オリジナル)』の怪人の相手を、2人はかろうじて出来ている状態なのだ。

ここに私が追撃を入れれば、多分2人を倒すことは可能だろう。

いや、だが。

 

別にいいじゃないか。待っていれば、怪人達が勝手に魔法少女を始末してくれる。私が介入する余地などない。放っておけばいい。私はただ見てるだけでいいのだ。

 

考えなくていい。

 

待っていれば、全て終わる。

 

何も考えるな。何も………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何で私は、考えないようにしてるんだろう。

疲れるから? じゃあ、何で疲れるんだろう。

 

頭を使うから。それはそうだ。

でも違う。別に、頭を使うことなら普段からやっている。じゃあ、何で今、考えると疲れてしまうんだろうか。

 

魔法少女が、怪人にやられている光景を見るのが辛いから?

私は、魔法少女のファンだったのだろうか。

 

いや、そんなことはない。

 

じゃあ、何故……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「液体型の怪人には、攻撃が通じないみたいね。困ったわ」

 

「妖精型の怪人も、宙に浮いていてこちらの攻撃が届きづらいみたいです。中々厳しい状況ですね」

 

2人の少女は、互いに戦況の報告をしている。会話から察するに、彼女らには状況を打開する手段はないのだろう。

今、私が2人を攻撃すれば、2人を追い詰めることができる。魔法少女の首を、持って帰ることができる。

 

攻めるなら、今だ。

 

私はステッキを手に取り、『光』の魔法で2人の魔法少女へ攻撃を加え始める。

 

「あの子も動き出したみたいだわ!」

 

「八重さん! 怪人の相手を頼みます!」

 

私が動き出したことにより、2人の魔法少女は分担して戦うことにしたようだ。

八重と呼ばれた、青い髪の少女は怪人2体の相手を。逆に、『風』の魔法を扱う、緑髪の少女が私の相手をしてくれるようだ。

 

「貴女が、シロさんですね。私は深緑 束(みろく たばね)という名で、貴女と同じ魔法少女です。私は、貴女と無条件に敵対するつもりはありません。どうして、怪人の味方をするんですか? 脅されている、とか。何か理由があるのなら言ってください」

 

どうして? ああ、そっか。戦う理由、か。

 

そんなの、決まっている。

 

「私は、魔法少女を倒すために、組織で生まれた魔法少女。貴女達と戦うのが、私の役目!!」

 

そうだ。何を迷っているんだ。私の役目は、魔法少女を、殺害すること。そのために私は生み出された。それがこなせなければ、私の存在意義などないし、クロとの生活も失われてしまう。

 

だから、殺す。

 

私は、束という魔法少女の体勢を崩すために、彼女の足に蹴りをいれる。

まさか魔法を使わずに攻撃するとは想定していなかったのか、束は私の思惑通りバランスを崩す。

 

「もらった!」

 

私はそのまま、束にステッキを向け、魔法を放つ。

束の体は、私が魔法を放った瞬間、横方向へとすっ飛んでいった。

 

私が魔法を放った方向とは、全く異なる方向だ。

 

つまり……。

 

「避けた?」

 

「痛いですね…………」

 

にしては、束の体は思いっきり壁に叩きつけられている。

 

いや、そうか。

 

「もしかして、『風』の魔法の使い手?」

 

「正解ですよ。『風』の魔法で無理矢理貴女の攻撃を回避したんです」

 

私の問いかけに、束は素直にそう答える。敵に情報を簡単に渡してしまっていいものなのかとも思うが、使っている属性については戦っていればバレるし、問題はないのだろう。

 

「まあ、避けなかったとしても、あの攻撃では私を倒すことはできなかったと思いますよ」

 

「別にあの攻撃一つで仕留めようとしたわけじゃない」

 

束はあの時バランスを崩していたのだ。そこで彼女に一撃を加えることができれば、その一撃では倒せなくとも、なし崩し的に彼女に何度も魔法を撃って、倒すことくらいできた。だから、私はそう反論したのだが。

 

「そうですね。でも、貴女には私を殺すことはできないと思いますよ」

 

「何が言いたいの?」

 

「櫻さんから聞きましたよ。貴女、怪人が魔法少女のことを殺そうとした時、咄嗟に庇おうとしたみたいですね。貴女にとって、敵であるはずの少女を」

 

「……………」

 

「大人しく降伏してください。悪いようにはしません」

 

本当は、分かってる。

私に誰かを殺す度胸なんてないことくらい。

組織のやってることは、きっと『悪』なんだろうということも。

 

本当は、こんなこと、やめたいって思ってることも。

 

『あんまり、自分を押し殺さない方がいいと思うよ。ゆっくり、自分の気持ちと向き合ってみたら?』

 

クロの言う通りだ。結局私は、自分の気持ちと向き合うことを避けて、自分を押し殺していたんだ。

 

気づいてた。けど、蓋をしてた。

 

だって、考えたところで、無理なんだから。

私は組織に逆らえない。組織は私の原点(オリジン)なのだから。

 

私は黙って、ステッキを束に向ける。

 

「従うつもりはない、ということですか」

 

それに応じるかのように、束もまた、ステッキを構える。

 

私は横目で八重という魔法少女が『空舞う蝶(シルフィード)』と『動く水(スライム)』に苦戦している姿を見る。

 

『動く水(スライム)』は自由な動きで八重のことを翻弄し、また『空舞う蝶(シルフィード)』はそんな八重を上空から魔法を飛ばすことで追い詰めていっている。

 

束は私に降伏するよう要求してきたが、そんなことを言えるような余裕は彼女らにはなかったのだ。

 

「お仲間さん、危なそうだね」

 

そんな束に対して、私は煽るようにそう言い、挑発をする。

彼女の冷静さを欠かせ、戦況を有利に動かすためだ。

 

「あの怪人達、ただの怪人というわけではないみたいですね……」

 

だが、束は冷静さを欠くことはなかった。ただ、彼女の注意が八重と『特別個体(オリジナル)』の戦闘に割かせ、集中力を欠かすことには成功しそうだ。

 

私はその勢いのまま、束との戦闘を開始する。

お互いに魔法を撃ち合い、多数の弾幕が空中を跋扈する。

 

互いに回避しては攻撃し、回避しては攻撃しを繰り返す。

対魔法少女の戦闘は、クロとの訓練でしっかり取り組んできた。

 

そのおかげか、私の攻撃に、束は対応が遅れつつある。

 

悲しいことに、このままいけば、私は彼女らの命を奪うことになってしまうだろう。

 

 

逃げたい。

 

嫌だ。

 

この手を汚したくない。

 

帰りたい。

 

 

 

 

クロは今頃、組織で呑気に訓練にでも取り掛かっているのだろうか。

 

羨ましい。

 

何で、私はこんなことしなきゃいけないんだろう。私の方が訓練に真面目に取り組んで、実力が高かったから?

それなら、クロでよかったじゃないか。クロの方が、魔法の才能はあった。私なんかより。

 

私じゃなくて、クロがやれば………。

 

 

 

 

 

 

 

…………やめよう。

クロは何も悪くないのだから。

 

いくらここで現実逃避したって、現状は変わらない。

 

 

「ごめん、なさい……」

 

私は、罪悪感からか、思わず小声でそうこぼす。

 

きっと、彼女のことを、大切に想っている誰かは存在するんだろう。

 

私がクロのことを大事に想っているように。

 

 

私は今から、そんな彼女達の命を奪うことになる。

 

だから……。

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんなさい………」

 

 

 

 

少しでも、罪悪感が薄まるように。

 

 

 

 

 

「ごめんなさい…………」

 

 

 

 

 

 

私は何度も、そう呟きながら、攻撃を繰り返していく。

 

 

 

 

 

 

 

見れば、八重という少女は、『特別個体(オリジナル)』の怪人の手によってか、体中血塗れで。

 

 

束もまた、私の攻撃でボロボロになってしまっていた。

 

 

 

 

そんな光景を見て、私は………。

 

 

 

 

 

 

 

何故か、涙が溢れ出て止まらなかった。

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