『
あるいはそれは、私が直接手を加えずに、怪人に束達のトドメを刺させようとしていたからなのかもしれない。私が、卑怯者で、偽善者だから。
けれど、『
これは、もしかしなくても私が殺せということなのだろう。
『
…………逃げられはしないだろうか。
誰かの命を奪うなんて、私には………。
「おい、何だこれ。お前がやったのか?」
そんな私に、怒気を含んだ声で話しかけてくる少女が1人。
金髪の髪をローテールにした活発そうな少女だ。多分、私の初任務の時、『無』属性使いの
そんな彼女の目は、まるで私を責めているようで………。
「わ、たしは…………」
確かに、束や八重という2人の魔法少女をこんな目に遭わせたのは、私だ。
束の服はボロボロだし、八重の方も全身血だらけで、まともな状態とは言えない。
だから、責められて当然だ。
なのに。
「私、じゃない……私は………違う…………」
私は、耐えられなかった。
責められたくない。
私は、やりたくてやったんじゃないんだから。
私は悪くない。
違う。違う。違う。
「しらばっくれんなよ。逃がさないからな」
そんな私に、目の前の少女は容赦なく魔法を放ってくる。
手加減するつもりなど一切ない。当然だ。友人の命を故意に危険に晒した相手に、慈悲をかけようと思える人間など中々いない。
私は、『光』の属性によって作り出した壁を使って、空中へ駆け上がっていく。
空中へ逃げ込めば、魔法少女からの魔法も届きづらくなる。
それに、空中からの遠距離攻撃は、地上でのそれよりも相手を狙い撃ちしやすく、また、魔法も急速落下するため、余計に避けづらい。
「勝負ありだね……」
私は金髪の少女に対して、勝利宣言をする。が………。
「
金髪の少女は、全身の魔力を集めて一塊にし、その魔力を下方向に放ったその勢いで、私のいる位置まで一気に舞い上がってきた。
「あっ……」
「落ちろ」
私はそのまま、金髪の少女に突き落とされる。
私には、この状況をどうにかする力は備わっていない。
ああ、多分死んだかも。
体がふわふわする。
時間が、異様に長く感じられる。
「シロちゃん!!」
けれど、私の身体が地面に叩きつけられてミンチになることはなかった。
私の身体は、下にいた少女によって受け止められた。それも、なるべく私の身体に負担がかからないように配慮しているのが分かる。
じゃあ、誰が?
クロは、組織の拠点から出ることは許可されていない。第一、クロならば私のことを『シロちゃん』だなんて呼ばない。かといって、組織の幹部や下っ端共が、私を助けることなんてあり得ない。私はどこまで行っても『道具』でしかなく、仮に私が死んだとしても、クロという代替品だって存在するのだから、組織の人間がわざわざ戦地に赴く理由もない。怪人なら言葉を発していることがおかしい。だとすれば、私を助けたのは……。
「
初任務の時に出会った魔法少女、櫻だった。
★☆ ★☆ ★☆ ★☆ ★☆
金髪の少女、
ちなみに、怪人達には見捨てられた。やっぱり、私は『道具』でしかなかったのだろう。
「どうして、私を助けたの?」
「誰かを助けるのに、理由はいらないよ」
私の問いに、真っ直ぐで、澄んだ瞳をしながら、そう答える櫻。
自分のために誰かを殺そうとした私とは大違いだ。
「櫻、その、悪かった。私も頭に血が昇ってたっていうか………」
「謝るなら、シロちゃんに謝って」
櫻は来夏に対して不機嫌そうにそう告げる。
その様子を見るに、私のことを助けたことに、打算だとか、そんなものは存在しなさそうだ。
魔法少女は、他人のためにそこまで動くことができるのか。
「やりすぎた。ごめん」
来夏は、私に対して深く頭を下げながら、謝罪の言葉を口にする。
私は、そんな来夏に、何も言葉をかけることができない。
来夏は、私に対して謝らなくちゃいけないようなことをやったわけじゃない。
ただ、敵を倒そうとした。それだけのことなのだから。
「…………帰る」
居心地が悪い。早くこの場から去ろう。
どうせここにいたって、何もない。組織以外に、私の居場所はないのだから。
「待って!!」
櫻は、そんな私を引き止めようとしてくる。
そんな櫻の様子に、私の歩みは少しだけ遅くなる、が、すぐに歩く速度は元通りになる。
本当は、帰りたいなんて思っていない。
正直、今の何の成果もない状態で組織に帰れば、何を言われるか分からないし、それに、組織にいる限り、私は魔法少女達を殺さなければならない。
そんなのは、嫌だ。でも、組織に戻らなきゃ、私の面倒を見てくれる人はいなくなるし、私がこの世界で生きていくことができなくなってしまう。
だから、帰るならなるべく早めにしなければならない。
幸い、櫻には私を害するつもりはないようで、私が組織に帰るとして、強引に私を連れ戻したりなんかはしてこないだろう。
そう、だから、帰るしか、ない。
★☆ ★☆ ★☆ ★☆ ★☆
はぁ……何やってんだろ、私。
今、私がいるのは、公園のブランコ。
つまり、私は帰ると言っておきながら、わざわざ
成果が何もないのだから、なるべく早く帰ったほうがいいんじゃないかと思って、わざわざ櫻達の元から離れたのに、これじゃ意味がない。
わかってる。帰りたくないって、そういう気持ちが、私をそうさせてしまっているのだってことくらい。
周りはもう暗いし、周囲に人の気配はしない。
静かで、落ち着く。
けど、同時に、どこか寂しくて、悲しくて………。
「ねぇ。隣、いい?」
そんな風に、孤独に苛まれている私に声をかける珍妙な人物が、1人。
透き通るくらい綺麗で、雪のように白い髪をツインテールにし、汚れをしらなそうな真っ白で細い手の少女だった。髪には星の形をしたヘアピンをつけている。
「別に、いいけど」
私がそう言うと、彼女は私の隣のブランコに腰をかけ、少しだけゆらゆらと揺らしながら、私に声をかけてくる。
「名前、聞いてもいい?」
「………シロ」
「そっか。私はるな。よろしくね」
その口調は、単調なもので、事務的なようにも感じられた。
仲良くする気はないのだろうか。いや、仲良くしようとする気力がない、そういう風にも感じる。
自己紹介をしたってことは、最低限のコミュニケーションを図ろうとはしているのだろう。ただ、それをするだけの気力が身彼女にはないのだろう。
私達はしばらく、互いに無言でブランコをゆさゆさと揺らし続ける。
何往復させた頃だろうか、隣にいたるなが、唐突に口を開いた。
「シロは何で、ここにいるの?」
「帰りたくないから」
「そっか、るなも一緒。帰りたくない」
そう告げたるなの表情は、寂しそうで、辛そうで。
私はそれまで、自分のことを、悲劇的なヒロインとして見ている節があった。そうやって感傷に浸らなければ、私の精神が持ちそうになかったからだ。でも、彼女を、るなを見て、思った。
辛いのは、私だけじゃないんだと。
「ねぇ。また、ここに来てもいい?」
「いいよ。ていうか、先にいたのはシロでしょ」
私はブランコから降り、公園の出口に向かって歩き出す。
「またね、るな」
「うん。またね、シロ」
さっきまでの憂鬱な気分が、少しだけマシになった気がする。
そして、この日初めて。私に友達ができた。