この身はすべて愛の為に   作:SP

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お待たせしました、作者の都合上不定期更新なのでご了承を。


episode2

 

「うーん……」

 

 消毒液の匂いを鼻に受け、ふっと意識が上昇する。眩しいな……ここは……病院か。あの家族は……俺の左手はどうなった?

 

チラリと首を動かさず、視線だけを動かして左手を見てみるとミイラの様に包帯がグルグルと巻かれて固定されているのが見えた。あー、やっぱりこうなるよな。でも鎮痛剤が効いているのか殆ど痛みは感じない。

 

 すると隣で掃除をしていた看護婦さんが俺の顔を覗き込んで来る。どうやら俺が目覚めた事に気付いたらしい。すぐにドクターを連れて来ると伝えると、速足に病室から出て行く。随分寝ていたのか瞼が重いな。

 

 それから1分足らずでドクターはやってきた。と言っても特に大きな事はせず簡単な意識確認や質疑応答、そしてこの左手の傷について説明をしてくれた。何やら俺は丸2日寝ていたらしく、結構重傷の部類だったらしい。

 

 先生の話によれば俺は手の骨と骨の間を貫通していたらしく、骨折の心配はこそ無いが、神経系を少しやられたらしく、指の一部を動かす筋肉が傷付いているようだ。結論から言うと医者の下した診断は『1週間入院』。どうやらリハビリも必要らしく、結構完治まで時間が掛かりそうだ。

 

 先生が病室から出た後、暇潰しにとテレビを点ける。元々あまりテレビは好きではなかったが、手持ち無沙汰だし、俺が刺された事件がニュースになっていないか気になる。適当なチャンネルを回してみれば案の定昨日の事がニュースになっていた。

 

『先日の午前11時頃、人気アイドルグループB小町のメンバーであるアイさんがナイフを持った大学生に襲われました。アイさんは特に大きな怪我は無く、無傷との事ですが、ナイフを持った男性は数時間後、近くの道路にて交通事故に遭い、搬送先の病院で死亡が確認されました。警察はストーカーによる事件と考え捜査を進めています。』

 

 ニュースを見て、残念な気持ちが胸に込上げ、思わず口から溜息を吐く。どうやらあの男は死んでしまった様だ。事故に遭ったのが天罰とは言え、罪を悔い改めれば何時でもやり直せる年齢だろうに……

 

 大学生に関しては残念だが、アイさん達は大丈夫だったようだ。ニュースを見るに無事B小町はドームライブを成功させたらしいが、アイさんが襲われた事で世間は大騒ぎ、テレビを点けて見ればどのチャンネルでもその話題がやっている。しかし、どうにも妙だな、俺達みたいな訳アリならまだしも、ただの大学生がアイさんの自宅を突き止めるなんて、探偵でも雇ったのか?

 

 チャンネルをコロコロと変えながら何か面白い番組がやっていないか探してみる。どれも同じアイさんの事ばかりだ。まぁB小町は今じゃ国民的なアイドルグループだからな。そのセンターである彼女がナイフで襲われて死にかけた何て事が有ればそりゃメディアは大騒ぎするに決まっている。でもそんな彼女を救ったのだ、どうしても優越感に浸ってしまう。

 

『それでは今日の特集は人気アイドルB小町のメンバー、アイさんの襲撃事件についてです。先日、襲撃を受けた星野アイさん、なんとか怪我も無く、無事に一命を取り留めたアイさんですが、そこには彼女を身を挺して守った一人の男性が居たのでした。』

 

 適当に回した番組の特集を見て思わず頬が緩む。一般人である俺の名前や顔は暈されているが、俺が昨日この手を盾にして彼女を守った事件であった事はすぐに解った。犯人である男が死んでいる以上、こんな事を考えてしまうのは不謹慎だろう。だがあの家族の命を守ったのだ。そう考えると、自分がやった事が誰かの為になったと思えて、悪い気はしない。

 

 だがネットを開いてみれば其処には妬み嫉みが込められたコメントの嵐。中には『アイを助けた英雄になる為に大学生を焚き付けて襲わせた自作自演』なんて身も蓋もない声もある。

 

確かにアイを守った俺を称賛するコメントも多いが、どうしてもネガティブなものに目が行ってしまう。でもそれらを否定してくれているコメントを見つけた。でもこの人随分荒ぶってるな……俺の事を悪く言う嫉妬コメントに片っ端から反論している。いや……これは反論と言うべきなのか?

 

俺の味方をしてくれるのは有り難いけどもう少し語彙力鍛えようや。流石に全部『しねしねしねしね』って言うのはヤバいぞ。もしかしてコメ主は小学生か中学生なのかな?

 

でも俺への嫉妬や称賛よりも多かったのは、やはり犯人に対する批判の声だった。中には『事故で死んだのも自業自得』や『死んで当然』等と言った心ないコメントまである。やはりネットとは言え、こういった冷たい輩が世の中に居ると考えるとどうにも悲しくなってしまう。でもその分男に襲われたアイさんがファンに愛されているのだろう。

 

しかしアイさんか……昨日チラッと見た程度だったけど、キレイな人だったな。意識が朦朧とする中でも彼女の顔だけは鮮明に覚えている。それ程彼女は美しく、光って見えた。正直彼女を見て、あんなに夢中になる柴田や、襲われた事でネットで暴れる者の気持ちが解る気がする。そんな彼女が二児の子持ちなんて情報、下手したら全世界のファンが嫉妬で首を括りかねない。昨日見た子供の事は俺だけの胸に閉まっておこう。

 

 その後、大学から帰るついでに柴田が見舞いに来てくれた。だが何やらコイツには俺がアイさんを守った大学生である事は既にバレているらしく、入室するなり土下座で感謝の意を表してきた。どうやら、大学の知り合い殆どが解っているとの事だ。事件が起こったアパートと近くの大学を参照して、その中で事件当日に怪我したのは俺だけとの事も有って、すぐに解ったとの事だ。マジかよ、ネットって怖いな。これは退院後は面倒な事になると覚悟した方が良いかもしれない。だが誰かを守った事でこうして自分が知られるのは気恥ずかしいが、何だか嬉しい気もする。これが俗に言う『名誉』って奴なのだろうか。

 

 しかし、どうやら子供の事までは柴田も知らないらしく、『他に何か知っている事は無いか?』と言う俺からの質問に首を傾げながら否定していた。よかった、コイツに子供云々の事を知られたらマジで東京ドームを爆破しかねない。まぁ俺もコイツが何かを爆破したら多分対抗意識でスカイツリーを爆破させるだろうけど、大惨事には間違いない。

 

『また来るからな。改めてアイちゃんを救ってくれて有難う。ファンを代表して感謝する。』

 

 柴田はお見舞いの品としてやたら高そうなケーキや果物を置いて行ってくれた。何だか知り合いにこうも畏まられると調子狂うな。柴田が皮を剥いてくれたウサギさん型のリンゴをもしゃもしゃと食べる。意外と旨いなコレ、やっぱり高いリンゴだからかジューシーさが違う。

 

 すると再び耳鳴りがキーンと鳴り響き、五感が一気に研ぎ澄まされる。

 

 ―――病室外、扉から約1m60㎝に反応あり、足音は二人分、一人は男性、歩き方からして40代から50代、靴の種類は革靴、高級品だ。もう一人は女性、歩き方からして年齢は30代、靴の種類はハイヒール、これもブランド物と判断できる。二人共殺気なし、凶器の反応無し、動きからして此方に敵意は無いと考えられる―――

 

 慣れない反応の初対面の人間が近付いたから発動したんだろう。だが一体誰だ? 敵意が無いからアイさんみたいに襲われる事は考えられないけど、一応念には念をと考え、柴田がもって来てくれたフルーツの奥に隠れた物をチラリと見てみる。

 

「邪魔するぞ、月島輝星だな。」

 

「はい、そうですが……えっと…どちら様でしょうか?」

 

 病室に入って来たのは、金髪オールバックにサングラスを掛けた厳ついオッサンと、茶髪の若いお姉さん。するとオッサンはスーツの胸ポケットから名刺を取り出し、俺の手前に渡してくれた。おおぅ名刺か、初めて貰ったわ。大事に取って置こ。

 

「苺プロダクションの社長をしている斎藤壱護だ。こっちは妻のミヤコ。」

 

 苺プロダクション、確かB小町のメンバーが所属している芸能事務所だったか、思えばB小町について随分詳しくなってしまった者だ。エンドレスに推しのアイドルの事を語る柴田のせいで、気が付けば俺もドルオタの仲間入りをしてしまったのかもしれない。

 

「先日、襲われていたウチのアイを守ってくれたみたいだから、その礼をと思ってな。アイも感謝していたぞ、身を挺して守ってくれたとな。」

 

「そうですか……そのアイさんとあの子達は?」

 

「無事だよ、本当に君には感謝しきれない。君のお陰でアイは生きているし、ドームライブも成功した。」

 

 ニュースで解っていた事だが、改めてアイさんに怪我もなく、子供も無事の様だ。あの状況、相手が刃物を持っていたし、誰が怪我しても可笑しくなかった為、改めて胸を撫でおろし、自然と一息漏れる。アイさんや子供の無事は確認できた、だが本題はここからだ。

 

「社長さん、でもここに来たのって、俺にお礼だけでなく、他にありますよね?」

 

 社長さんは奥さんが持っているフルーツ籠を適当な場所に置かせると、俺の質問に頷いて答えた。流石の俺も馬鹿ではない。今この状況、事務所の者となると大方何をしに来たのか察しが付く。

 

「ああ、話が早くて助かる。君はアイの家の中に居た双子の子供を見たな?」

 

 素直に頷けば、『ああ、やっぱりか』と呟きながら頭を抱える社長さん。奥さんはそれを見て肩をポンポンと叩いている。

 

「あの…やっぱりあの子達って。アイさんの……」

 

「ああ、そうだ。その通りだ。」

 

 真意を暈して訊いてみるが、やはり犯人が言ってた事は本当みたいだ。社長さんは自棄になった様に溜息交じりに答えてくれた。アイドル事務所でのこういった事は一種の不祥事でもあるし、きっと社長さんは俺に告発しない様に口封じに来たのだろう。

 

「すまない、虫が良い話だとは覆うが、どうか昨日見た事は……」

 

「解ってます。誰にも言いませんよ。」

 

「そうか……済まないな。」

 

 口だけでも俺が垂れ込む意志はないと解ったからか、安心しながらも申し訳なさそうに椅子に座って項垂れる社長さん。この人顔を見るに結構キツそうだ。色々ストレスを溜めているのだろうか。

 

「当然ですよ。言いふらしてもメリットが無いし、何よりそんな悪趣味な事はしたくないので。」

 

 そう、誰しも知られたくない秘密は有る。皆他人に話せない藪蛇な事は幾らでも抱えているのだ。それを他人に言い振らしたりするのは悪趣味としか考えられないし、仮に言いふらしてとしても写真などの証拠が無い為、白い眼で見られるだけだろう。

 

「そうだ、忘れていた。これは事務所からの礼の品だ。」

 

 そう言うと社長さんは懐から分厚い封筒を俺の手前に渡してきた。おおぅ、これって口止め料ですか。こんな事本当にあるんだ。てっきり映画の中の世界限定かと思っていた。少々はしたないが封筒の中を見てみればギッシリと詰まった札束が見れる。

 

「……はい……っっ!?!?こんな受け取れませんよ!?流石に多すぎですって! 俺はただ礼目的で助けた訳じゃ無いのに……それにこんなもの貰わなくても俺は誰にも話しませんよ。」

 

最低でも200万、いや300万は入っているだろう、目玉飛び出るかと思った。正直口止め料にしては多すぎる。会社を経営している社長さんにとってははした金かも知れないが、俺からしたらかなりの大金だ。下手したら数か月間ニートできる。だが俺はただ自分の意志で勝手に彼女を助けたまでだ。雇われたボディーガードって訳でも無い以上、金を貰うのは少し違う気がする。

 

「何言ってる、適正どころか安いくらいだ。君は何千万もの費用がパァになる所を助けてくれたんだからな。」

 

「いや、だとしても現ナマでこんなに……無理です、お返しします!」

 

 別に金には困っていないのだ。なのにこんな大金を貰うと流石に悪い事をしていると思ってしまう。

 

「あのなぁ……この金は俺なりの誠意なんだ。それに一度出した銭だし、引っ込められねぇ。こういうのはしっかりと受け取っとけ、な?」

 

 社長さんはそれだけを言うと奥さんを連れてそそくさと病室から去っていく。どうしよ……とんでもない金貰っちゃったよ。まぁ取り敢えずは入院している間大学で世話になるだろうし、柴田に旨いラーメンでも奢るか。

 

 その後も病院の味が薄い事と、酒が飲めない事以外は特に不満も無く、入院生活は滞る事無く過ぎた。リハビリは確かにきついが、毎日必ず行っている成果が出て来ているのか、徐々にだが左手の神経の機能が戻ってきており、強く力を籠める事は難しいが握ったり開いたりすることはできるようになった。そして俺が入院してから5日後、無事に医師から完治を告げられる日には既に鎮痛剤も必要なくなり、微妙に傷が突っ張る程度にまで落ち着いた。

 

 そして退院前日の夕方、今日も柴田が持ってきてくれたリンゴをもしゃもしゃと食べていると、今日も斎藤社長が来てくれた。

 

 あの日以降柴田は毎日のように来てくれているが、社長もあの日以降時間が空いた日に俺の様子を見に来てくれた、売れっ子アイドルが所属している事務所の社長なのにこうして来ているのは、俺がアイさんの事に着いて話していないか監視と考えるのが妥当だ。

 

 だが短い時間とは言え、何回もこうして顔を合わせるとこの人の人柄も何となく分かって来る。この人は別に悪い人じゃない。きっと俺の監視だけが目的ではなく、まだ学生である俺の心配もしてくれているのだろう。

 

 だがその日、社長のお見舞いの品であるスナック菓子を食べていると、社長さんがメモ帳を取り出し、俺の前に差し出して見せた。そこには変わらず俺の隣の部屋である住所が書かれている。

 

 「そうだ、あの日以降アイと子供達が君に会いたがって訊かない。退院したら行って顔くらい見せてやれ。」

 

 ‥‥…ホワッツ?




主人公はコマンドーのメイトリックス並みの戦闘力を持っています。

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