この身はすべて愛の為に   作:SP

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誤字報告ありがとうございます。

主人公の月島は、るろうに剣心の緋村剣心と経歴が近いかもです。いや、もしかしたらFateの衛宮切嗣かな? いやこの場合は殺せんせーかな? まぁ何はともあれ黒幕のお父さんを鼻で笑えるレベルだという事は覚えていてください。

あとメイトリックス並みの強さなのに何で大学生相手に怪我してるの? との質問ですが、YouTubeで見た元特殊部隊の人曰く「刃物を持った者との戦闘になるなら怪我するのを覚悟しろ」との事なのであしからず。それに狭い閉鎖空間での戦いだし、後ろに保護対象が3人いるし(早口)

 


episode3

 

 退院した翌日。

 

 既に左手の傷は治っており、もう傷が痛むことは無い。神経や掌の動脈をやられていたのに、よく数日でここまで回復した物だ。自分の治癒能力には頭が上がらない。だが退院手続きやら荷物の搬送やらを終えた後に、俺は後回しにしていた大きな問題に直面していた。

 

 そう、一昨日聞いたアイさんが俺に会いたがっていると言う事実だ。確かに嬉しくないと言えば嘘になる。だが。元々女性の部屋や家に招かれる事自体久々なのだ。しかも相手は売れっ子アイドルグループのセンターのアイと来た、こんなの聞いたら下手したら柴田が本気で発狂して辺り一面を火の海にしかねない。それ程貴重な体験なのだろう、だがどうしても女性の部屋と言う事で躊躇してしまう。女性の家なんて本当に何年ぶりだろう。

 

 斎藤社長から貰ったメモ帳の切れ端を見て見れば、そこには自分の隣の部屋の住所が書かれた文字が並んでいる。何やらアイさんは引っ越さなかった様だ。だがストーカーに住所を特定されて殺され掛けているのに不用心すぎないか?

 

 まぁ色々考えたが、何時までも尻込みしては居られない。それにどの道会わなきゃいけないんだ。俺は意を決してインターホンを押せば、部屋の中からピンポーンと聞こえる。すぐにガチャリと開錠される音が聞こえたが、どうやらチェーンロックは付けている様で、前の様にドアを開けてはいない。良かった彼女も今回の件で学んだ事もある様だ。

 

「はーい。ってあー! あの時の!コウセイ君だよね?」

 

「ええ、あの時はどうも。」

 

 ドア越しにちょこんと顔を出しては、少々大袈裟なオーバーリアクションを取るアイさん。俺はそんな彼女に軽く手を上げ挨拶を済ませる。しかしこうしてゆっくりと顔を見るのは初めてだけど、綺麗で整った顔だな、流石アイドルなだけある。だが先日の事も有ってか俺の眼には少し顔色が悪く見えた。

 

「ほら入って入って!色々お礼とかしたいし。」

 

 ロックを外し手を掴んで部屋へと俺を連れ込むアイさん。ちょっとアイドルなのにそんなホイホイと男を家に連れても良いの? そんなこんなでアイさんに引っ張られながらリビングへと向かうと、そこには3歳くらいの双子の子供がソファーに座っていた。

 

「紹介するね、ウチの子の愛久愛海と瑠美衣!」

 

 アクアマリンとルビーってキラキラネームかよ。凄い名前だな、流石に一流アイドルとなるとネーミングセンスもぶっ飛んでいるのか。

 

「あーっ!あの時のアイの恩人さんじゃん! 良かった!退院したんだね!」

 

「無事退院できたようで何よりです、手はもう大丈夫なんですか?」

 

「ああ、もう怪我は治ったよ。」

 

女の子の方は俺の姿を見るなり声を上げて喜んでいたが、男の子の方は落ち着いた雰囲気で静かに微笑んでいた。でもこの子たち何だか年不相応な雰囲気だな。どうにも大人びている雰囲気がある。もしかして俺みたいな訳アリ……いや、それは考えすぎか? 

 

 子供たちに促されながらソファーに座ると、アイさんが正面に座り、何処か真剣な表情を見せると、静かに俺に頭を下げて来た。綺麗な髪にドキリとする。

 

「この前は本当にありがとう。きっとコウセイ君が居なかったら今頃私は……こうしてアクアとルビーと一緒に居られるのも、ドームライブが成功できたのも全部コウセイ君のお陰、本当にありがとう。」

 

「いや、そんな大層な事をした訳じゃ無いよ。俺はただ……誰かが目の前で死ぬのが怖かっただけ。ただそれだけだったから。」

 

「それでもだよ、本当に感謝してもしきれない程助けられちゃった。」

 

 笑顔こそ浮かべてはいるが、アイさんの眼は真剣だ。キラリと輝く星を映した瞳は真っ直ぐに俺を見ている。俺が救った命……そう考えると瞼が熱くなり、心臓の鼓動が強く打たれる。命を助けるなんて、俺には縁のない事だと思った。感謝されるなんてもってのほかだ。だけど俺は助けたんだ。彼女の命を、アイさんの命を救ったんだ。感極まり無意識に瞼から一筋の涙が零れる。

 

「……あっ」

 

「ご、ごめん、そうじゃないんだ。改めてちゃんと生きているんだって、助けられたんだって思うと……ゴメン、すぐに止めるから。」

 

 頑張って止めようとするけど、勝手にポロポロと涙が落ちる。するとハンカチを手にアクア君が俺の右目を、ルビーちゃんが俺の左目の涙を拭ってくれる。

 

「母が言ってる事は本当です。あの時、俺は何もすることが出来なかった。貴方が居てくれたから母は助かったんです。本当に感謝しています。」

 

「そうそう、ママの命を救ったなんて、世界一の偉業なんだからもっと胸を張って良いんだよ。」

 

 まったく、慰めてくれているつもりなんだろうけど、これじゃ逆効果だって。ほら、君達の所為で涙が溢れて来ちゃったじゃん。コレだから子供は……子供は……

 

「コウセイ君が守ってくれて、私は母親としても、アイドルとしても生きることが出来た。助けてくれて本当にありがとう。」

 

 違うよ、違うんだアイさん。生きてくれて、助けられてくれて、守られてくれて、むしろ感謝すべきなのは、救われたのは俺の方なんだから。

 

 

「ありがとう、もう大丈夫だから。」

 

どうにか溢れる涙を引っ込ませた後、俺は涙を拭ってくれた双子に礼を言い、再びアイさんへ向き直る。少し泣いた後に女性に顔を見せるは気まずいと思うが、アイさんはケタケタと笑っていた。

 

「あははは、まさか泣いちゃうとは思わなかったよ。」

 

「すいません、つい感極まっちゃって。こんな事言われた事なかったので……」

 

 今までこうして面と向かってしっかりとした感謝の意を伝えられた事なんて正直、今まで生きて来て何回あっただろうか。しかも自分に助けられたって事なんて、信じられない事だと思ったから。

 

「お兄ちゃん、この人今まで辛いこと多かったのかな?」

 

「妹よ、こういう時はそっとしといてやれ。」

 

 双子が達観している者同士のやり取りをしているが、今はしっかりとアイさんに伝えないといけない事が有る。

 

「アイさん、その………」

 

「ん? なになに?」

 

 改めてアイさん向き合う、彼女は笑顔を浮かべてこそいるが、俺の表情から何か重要な事だと察しているのか、視線は真剣そのものだ。

 

「生きていてくれて、ありがとうございます。」

 

 彼女の目を真っ直ぐに見つめてそう言うと、アイさんは少し驚いたような表情をしていた。だが数秒の沈黙ののちに小さく噴き出すと、再び笑い声を上げ始めた。

 

「はははっ! 何それ! 私がお礼を言う側なのに、変なのっ!」

 

「そう、ですよね。でも嬉しかったんです。貴方が生きているのが、こうして無事なのが。」

 

 アイさんは笑っているが、実際病院で彼女の生存を知って、こうして感謝されると自分が今までしてきた事が少しでも他人の為になっている様な気がして、人が悪いかも知れないが嬉しかった。

 

「ねぇ、この人どういう思考回路してんの? 聖人過ぎない?」

 

「……お前も大きくなれば解るさ。」

 

 両隣の双子がコソコソと内緒話をしているが、正直丸聞こえだ。てか聖人とか思考回路とか難しい言葉知っているんだな。もしかして二人そろってギフテッドって奴なのか? でも下らない事を考えたお陰で随分頭も冷えたし、心にも余裕ができた。ああ、そうだ。今日ここに来た本来の目的を忘れる所だった。

 

「ゴメン今日の目的忘れてた。コレ返すよ、あの時はありがとうね。」

 

 俺は鞄からあの時止血に使ったハンカチを取り出して、テーブルに置く。勿論洗って血は落としているし、シミ一つ残していない。

 

「ありゃ、別に返さなくても良かったのに。」

 

「それでもずっと借りっぱなしはダメだと思って。」

 

 気にしてたら引っ込めるつもりだったけど、アイさんは何事も無い様に受け取ってくれた。有難い、正直国民的アイドルのハンカチを借りパクする訳にもいかないしな。他には……あ、そうだ。彼女には渡そうと思っていた物が有るんだった。

 

 俺は数日前に斎藤社長から貰った封筒をテーブルに置く、この金は斎藤社長はこの金を自分の誠意と言っていた。正直こんな事をするのはそれを無下にするようで、罪悪感が無いと言えば嘘になる。だがこんな大金、これしか使い方が思い浮かばなかった。

 

「これ何?」

 

「入院していた時に斎藤社長が俺にくれたモノだ。正直これしか使い道が解らなくて……」

 

 封筒と手に取り、中身を覗いて見れば『ぎゃっ!』とアイドルがしていけない表情をしながらフリーズするアイさん。封筒の中が気になったのかアイさんの隣に移動した双子たちも同じ顔して固まっている。やっぱりこういう所って親子なんだな‥‥

 

「こ、こんなの受け取れないよ! そもそもこれってキミが貰うべきお金でしょ?! なんで私にっ?!」

 

「いや、色々考えたよ? 貯金とか、こんな札束有れば車も買えるとか、美味い料理もたくさん食えるとか、でも……結局どうも勿体ない気がして……思いついた使い道がコレで‥‥」

 

「でもこんな大金‥‥」

 

 流石のアイさんも度肝を抜かれた様で、札束の入った封筒を口をあんぐりとさせた状態で見つめている。

 

「お、お兄ちゃん。こんな分厚い諭吉さん、ドラマでしか見た事ない……」

 

「お、落ち着け……こんな事流石にドッキリか何か……は、はははっ、嘘だろオイ。」

 

 双子も色々驚いている様だが、俺も考え無しでアイさんに金を渡した訳じゃない。何も考えていないなら普通に貯金して終っている、それ以上に有効的と考えた上での事だ。

 

「大学までの費用として1人あたりの養育費は約800万以上、少なくともこの金の倍は掛かる。それが二人分である以上、今の段階からでも貯金は多い方が良い。この金はそれに当ててくれ。」

 

「で、でも……」

 

「アイさん……世の中金って訳じゃ無い。でも社会で人を育てるには金が必要になる。……俺は天涯孤独の身だ、家族は居ない。でもアイさんにはこの子達が居る。この金は俺には無い家族の為に使ってくれ、正直、コレが俺にとって一番の使い方だと思う。」

 

「そ、そう言う事なら‥‥」

 

「お、お兄ちゃん! どうしようこの人マジで良い人なんだけど!」

 

「ま、まさかこの社会にこんな心を持った人が居たとは‥‥」

 

 アイさんは手を震えさせながらも、テーブルに封筒を置く。双子が何か言っているが俺はそれ程大層な人間じゃない。この金を渡したのは、結局の所過去にやってきた事への罪滅ぼしなのかもしれないのだから。

 

「そう言えば……引っ越さなかったんだね。」

 

「う、うん……引っ越したばかりだし、それに何回も違う場所に住むのはアクアとルビーにとっても大変だろうしね。」

 

 大方理由は解っていたが、ストーカーに殺され掛けても住所を変えない理由として、やはり周りの環境をコロコロと変えるのは子供にとってもストレスの源になると考えたのか、俺の質問にそう答えるアイさん。それにアイさんは暈してはいるがやはり引っ越したばかりという事は金銭面的にもキツイ事も有るのだろう。

 

「実害は初めて?」

 

「う、うん……」

 

 やはりナイフで襲われて死にかけた事がショックだったのか、頷くアイさんはテレビで見るよりも表情が暗く見える。

 

「一度住所が誰かに割れてあんな事になっている以上、せめてボディーガードとか雇った方が良い。心配ないと思うけど、住所が拡散されているとなると、キミ以外だけじゃない、この子達にとっても厄介な事になる。」

 

「うん、そうするよ。」

 

 アイさんの顔を見てみるが、やはり顔色が優れない。気丈に振舞う為なのか、いつもの笑顔こそ浮かべているが俺から見れば正直痛々しい。ナイフで襲われるなんて人によってはトラウマになる事も多いのだ。それも無理もない。

 

 ―――目元の化粧の下に隈あり、隈の濃さと網膜血管から睡眠時間は3時間以下と考えられる。呼吸音、脈拍から察するに軽度の不安神経症の可能性あり――――

 

「……月島君? どうしたの?」

 

「‥‥あ、いや……」

 

 顔をじっと見つめられたのが気になったのか、不思議そうに此方を覗き込んで来るアイさん。一瞬彼女の胸元がみえてしまい、思わず目を逸らす。馬鹿変な目で見るな月島輝星、それに今は伝えなきゃならない事が有るだろ。

 

「アイさんは今大丈夫……ではありませんよね。育児とアイドルの仕事の両立は大変でしょうし、それにあんな事もあって色々混乱してるのは解ります。でも……貴方には子がいる、その体は貴方の物だけじゃ無いんです。だから、その……余計なお世話かもしれないけど、無理だけはしないでください。アイドルとしてじゃなくて、お隣さんとして幾らでも相談に乗りますし、出来る事なら力に成りますので。」

 

 ああ、自分の口下手が嫌になる、これじゃあ上手い事隣である事を利用して繋がろうとする厄介な男にしか見えないじゃん。でも彼女が色々一人で悩んだり、怖がったりする事を無くしたいってのは本心だけど……

 

「そうだね、ありがと。」

 

 でもそんな下手な台詞に対してアイさんは少し驚いたような顔をすると、テレビでは見た事ない小さな微笑を浮かべてきた。思わず今まで見た事も無い彼女の表情に少しドキッとしてしまう。だがもう用は済んだ、伝えたい事は全部伝えたし、渡す物も全部渡した、今日はもう帰ろう。

 

「それじゃあ、色々長居するのもアレだし、帰ります。」

 

「えー、もうちょっとゆっくりしていけばいいのにー。」

 

 惜しむような事を言うアイさんだが、流石にこれ以上厄介になるのは不味いだろう。立ち上がりリビングから出て行こうとする。しかし直後ズボンを誰かにクイクイと引っ張られた。

 

「あ、あのっ!」

 

「ルビーちゃん?」

 

 俺を止めたのはアイさんではなく、双子の子供で女の子の方のルビーちゃん。何か言いたい事が有るのか俯いていたが、意を決したように顔を上げて口を開いた。

 

「あのっ、月島さんはママのファンなんですか?」

 

「いや、違うよ?」

 

 瞬間『ヒュー』と乾いた風が俺とルビーちゃんの間に吹き、部屋の中の時間が止まった。一瞬の静寂の後ルビーちゃんが困惑した様に話す。え? これもしかしてだけど、ちょっと悪い空気?

 

「え? 月島さんはママを怪我しながら助けましたよね?」

 

「うん」

 

「それ所か私達の事も考えて、貰ったお金をママに渡してくれましたよね?」

 

「そうだね。」

 

「ここまでするのって、ママのファンだからじゃないんですか?」

 

「違うよ。そもそもアイドルにはあまり興味無いし、アイさんの事は人から聞いた程度には知ってるけど、今のアイドルに関しては疎くて……」

 

 そうだ、俺の動機は単純、過去の清算と贖罪だ。昔多くの人達の幸せを奪ってきたし、泣かせてきた。だから少しでも目に見える人は助けて、今までやってしまった罪を償いたい。

 

「そうなんだ……」

 

 だがそれを知らないルビーちゃんは再び俯くと、何かを堪える様にわなわなと震え始めた。瞬間キーンと耳が鳴る。おかしい、彼女からは全く殺気を感じないのに、俺の脳がルビーちゃんに対して大音量で危険信号を発している。

 

 ―――危険を察知、詳細不明、緊急退避の必要あり――

 

「お兄ちゃん!」

 

「ああ!」

 

 瞬間双子が俺の両足をガシッと掴む。え? 何? どしたの急に? すると双子にそのまま連行される形で再びソファーへと移動させられた。でも君たち以外と力強いのね。一応この双子を振り払う事も出来るけど、下手に抵抗したりすれば怪我してしまうだろうし、抗わずに棒立ちにだと急にこの子たちが手を離した時に危険だ。されるがままにならざる負えない。

 

「ママの事興味ないどころか、アイドルすら知らないなんて許せない! 今からママの販促ライブからドームライブまで全部の映像見て貰うんだから!」

 

「ひ、ひええぇっ?!」

 

 え? アイさんの全部見せられるの? 強制で? 何トチ狂っているのこの子? ビビりすぎて変な声出たわ。そんなことを考えている間に隙アリと言わんばかりに双子は俺の両足に座り拘束を施してくる。

 

「ちょ、ちょっとアイさん! この子たちどうにかして! このままじゃ俺何時間も帰れない!」

 

「ぷっ、ああははははっ!」

 

 アイさんの笑い声こそ響くが、こっちは泣き声しか出ない。結局俺に掛けられた双子の拘束は解除される事は無く、アイさんのライブ映像のDVDを延々と見せられ、双子が夕方に疲れて寝落ちするまでルビーちゃん主催の強制鑑賞会は続き、俺が家に帰るのは本来予定していた時間の約3時間後の事になった。

 

 





 月島輝星

 ごく普通の大学3年生であり、友人でありB小町のファンである柴田勝己からの紹介でアイについては知った。偏差値72の大学に所属しており学力は非常に高い。学部は文学部、英語が割と堪能。その他にも直感が優れており、その場の『異物』を感知する事に長けている。

 

 大学に入学するまでの詳しい情報や経歴は不明。

 

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