この身はすべて愛の為に   作:SP

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黒幕のパパはサイコパスとか言われていますが、主人公は別のベクトルでサイコパスになるかと思います。あとアイさんは後々引っ越させます。


episode4

 

「あー、ひどい目にあったよ。」

 

 あの後、子供たちが寝落ちしてB小町ライブ強制鑑賞会がお開きになった後、俺は軽くアイさんに挨拶を済ませ、自分の部屋へと戻っていた。本来は夕方前に帰る筈だったが、既に日は落ちており、外は真っ暗だ。

 

「全く、やっぱり子供は苦手だな。」

 

 苦笑しながらもソファーに寝転がり、天井を見上げる。思えば今日の半分を子供達と一緒に居たせいか、一人暮らしをしている自分の部屋が妙に静かに感じてしまう。こうして妙な寂しさを覚えるのは、何やかんや言って俺も子供達との時間を楽しんでいたのかもしれない。

 

 そう言えば腹減ったな……何時も午後3時には間食として甘菓子とかの軽食を食べるけど、今日は予定外の事が有ったからな。……もういい時間だし晩飯でも作るか。寝転がっている状態から腹筋を使って跳ね起きる様に立ち上がると、俺はそのまま冷蔵庫へ向かいて適当な食材を取り出す。キャベツに豚肉にピーマン‥‥今日は回鍋肉にでもしよう。

 

 スマートウォッチを起動させ、時間を測り始める。まずは適当に肉を切り、キャベツを切り、ピーマンを切り、調味料をフライパンに落とし込み、軽く炒める。思えば随分自炊にも慣れたものだ、こうして料理すること自体縁が無かったからか、一人暮らしを始めたばかりの数年前は、見るに堪えない程の真っ黒な炭ばかり作っていたのが懐かしい。

 

「よっと。」

 

 約30分後に回鍋肉が完成すると適当な皿に盛り付ける。入院生活で腕が鈍って居たか心配だったが、折角退院した事だし、今度柴田に何か旨いモン作ってやるのも良いかもしれないな。

 

その後は20分で食事を済ませ、約10分の皿洗いを終えて、30分で風呂から出て着替えると、俺は本棚へと向かう。そう言えば本の数も随分増えていたな……確か全部で96冊だったか。目標の100冊まであと4冊だ。最初は読書なんて柄ではないと思ったが、ここまで来ると最早コレクターと言われても反論できない。

 

さて、今日は特にやる事も無いし、これから先は趣味の時間だ。俺はスマートウォッチの電源を切り、ソファーにリラックスした姿勢で座ると、本の世界へと入り込む。

 

 本の名前は「ドン・キホーテ」。この本の内容は一人の男を主人公としておりその世界にはもう騎士は居ないが、男は自分を騎士と思い込んでいる。だが自分を騎士だと思い込んだ男は、旅をしていくにつれて次第に騎士の居ない世界に自分の居場所が無いと感じていくというものだ。

 

 本を読むのは好きだ、例えジャンルがフィクションでもノンフィクションでもまるで自分だけの頭の中で物語が広がり、ページを捲る度に世界が広がっていく。そして気が付けば、本のページは最後の一枚となっており、名残惜しさを覚えながら、俺は物語をすべて読み終える。だがどうにもこの本の主人公が自分と似ているのは気のせいだろうか。どうにもこれは今の俺の心情を書かれている様で、自分に通じる何かを見た気がした。

 

 時計を見てみれば日付は既に変わっており、時刻は深夜12時。皆寝静まっている時間だ。俺の体感時間では1時間程度だったが、もう読み初めてから既に4時間以上が経過している。時間とは夢中になっている時はあっという間に過ぎる物だ。

 

 本を閉じ、ベッドに横たわり目を瞑る。明日は大学の授業は無い、だが特別に夜更しする理由も無い。それに眠っても可笑しくない時間なのだ。さっさと寝よう。

 

 だが数分後、どうにも落ち着かず、俺はべッドから起き上がる。……眠れない。眠れない自分を恨みながら特に意味も無くベランダに出てみれば、そこには満天の星空が広がってた。

 

 真っ暗な世界に点々と光っている星たち、だがその中でも目を引くのは丁度俺の頭上で輝いている一際大きい星だ。これが俗に言う一番星って奴か? だが星空とは不思議なものだ。すっかり見慣れた物だと思っていたが、何時見ても美しいと感じられるし、よく見てみれば星座が見えたりと飽きが来ない。

 

「コウセイ君?」

 

 ベランダに身を乗り出しながら星空を眺めていると、隣から女性の声が聞こえた。前のめりになりながら横を覗いて見れば、そこには寝間着姿なのかラフな格好をしたアイさんがいた。

 

「アイさん……また会ったね。こんばんは。」

 

「うん、そうだね。」

 

 深夜と言う時間帯と言うのもあってあ、昼間の様な明るさは感じられず、少しダウナーな雰囲気を纏っている。一瞬だが彼女の姿を見て優越感を覚えたのは内緒の話だ。

 

「アイさんも、星、見ていたの?」

 

「うん、何だかあの日以降、眠れなくて……暇潰し。」

 

 やはりこの前の事が忘れられないのか、昼間の見立て通り眠れていない様だ。だが職業柄テレビの撮影やライブなど体力を使う仕事も多いだろうに、彼女の様子を見るとどうにも心配になってしまう。

 

「その…大丈夫なの? 寝不足で身体壊したりは …」

 

「平気、これでもプロだし。体調管理はしているよ。」

 

それはどうだろうか。確かに入院していた頃、テレビでバラエティー番組に出ていたアイさんを見たが、全く異常を感じさせない姿をプロフェッショナルに相応しい見せていた。だが彼女もまた人間、あんな事があった以上相当メンタルにダメージを負っているだろうし、何かしらの不調があっても可笑しくない。

 

だからといって下手に彼女の仕事のやり方に口出しする権限は俺にはない。ただ俺が今のアイさんに言えるのは一つだけ。

 

「くれぐれも無理はしないでね。昼にもいったけど、もう君の身体は君だけの物じゃないんだから。」

 

「もう……解っているよ。でも昼間の事もそうだけど、コウセイ君って私の事心配しすぎじゃない? もしかして……今日見たライブの映像とかでファンになっちゃった?」

 

ベランダに頬杖を付きながら微笑むアイさん。彼女の服装も相まってかテレビで見た時のような明るさは影を潜め、どこか妖艶さを感じる姿だ。

 

「………どうだろうね。」

 

「あははは、やっぱり魅惑のオーラは誰でも虜にしちゃうねー、困った困った。」

 

 今度はキメ顔しながらアイさんは誇らしげにそう話す。何だか脳内が忙しい、さっきまで彼女に色っぽさを感じていたのに、今度はあざとさとさという物を認識し始めている。なんだか何も疚しい事は無いはずなのに、見ているこっちが恥ずかしくなってきた。もう一回星でも見よう、

 

 今の季節は冬だしオリオン座あるかなー……照れ隠しにアイさんから目を放し、夜空へ目を向ける。きらきらと輝く星々を眺めていると、再びアイさんが口を開いた。

 

「ねぇコウセイ君、私ね……」

 

 先程までの茶を濁すような口調とは打って変わって真剣な声のトーン。何か伝えたいことが有るのだと察した俺は彼女の方に顔を向き直す。だがアイさんはこちらを向いておらず、少し俯いており、どこか話す事を躊躇っているようにも見える。

 

「何かは知らないけど…言いたくないことなら無理には…」

 

「ううん、違うの。ちょっと色々言葉選ばなきゃ、コウセイ君怒ると思ってさ。」

 

 怒る? 俺が? 一体どんな話だろうか。それに言葉を選ぶというのも気になる。だがそんな事でもしっかりと話したいと思っている彼女の意思を尊重し、深く聞き入れする様な事はしない。今の俺にできるのは、アイさんが話始めるまでただ待つだけだ。

 

 そして数分後、アイさんは心の準備ができたのか、静かに息を吐くと何処か自嘲する様に、どこか申し訳なさを感じるような声で話し始めた。

 

「私ね……実は君が怪我したのに結構責任感じてるんだ。」

 

「責任? そんな、あれは俺が勝手にやった事だし、君が責任を感じる必要なんて……」

 

しかしアイさんは俺の言葉を聞いても首を横に振り、それを否定する。

 

「助けてくれたコウセイ君にこんな事言うの凄く性格悪いけどさ、私ってあの時に殺されても文句言えない立場だと思うんだ。」

 

俺が助けた事その物を否定する様な言葉をアイさんは自嘲気味に話す。確かにこれは言い方を考えなければ人の怒りを買うだろう。

 

だが俺は困惑こそすれど、決して怒りは湧かなかった。彼女と話したのは今日1日だけだ、だがそんな時間でも彼女が一見いい加減に見えて決して馬鹿ではない事は解った。きっとそう考えるのも理由がある筈だ。

 

「何でそう思ったか、聞いても良い?」

 

「私が嘘吐きだから……かな。」

 

まるで罪を告白する様に、重そうな口を開くアイさん。そういえばあの時、刃物を持って襲ってきた男はアイさんの事を「嘘つき」と罵って、叫んでいた。それを気にしている様だ。

 

「あの時……確か、リョースケくん? も言ってたよね。『アイは嘘吐きだ』って。その通りだよ。ずっと『愛してる』って嘘をついてきた。自分を騙して、ファンを騙して、子供を騙していた。あれは本来コウセイ君じゃなくて、私が受けるべき報いだったんだと思う。だから、無関係な君を巻き込んじゃったのは‥‥ちょっとね。」

 

 てっきり自分が殺され掛けた事にメンタルをやられていると思っていたが、見当違いだったようだ。まさか無関係の俺が怪我した事を気にしていたとは。でも『愛してる』か……アイドルの言うアレは大抵はリップサービスだと思うが、それを真に受けて暴走したファン見たのも、きっとショックだったのだろう。

 

「やっぱり、『愛してる』なんて嘘吐く理由って、仕事だからってのもある?」

 

「うん‥‥そりゃプロだし、アイドルだし、でも……私は、多分、怖いんだと思う?」

 

「……怖い?」

 

 突然の告白に聞き返す俺に、アイさんは静かに頷く。彼女の目には昼間の様に輝いていた星は見えない、アメジストを彷彿させる青紫色の瞳が俺を写している。

 

「私ね、施設の子なの。だから誰かに愛された事も無いし、誰かの事を愛した事もないんだ。だから『愛してる』ってよく解らなくて、『嘘は飛び切りの愛』って自分を騙して、解っている振りをして嘘を吐いていた……それで嘘を吐き続けていたら何が本心かも、何が嘘なのかも解らなくなっていて……全部噓だって考えると……怖くなっちゃった。」

 

 静かに、消え入りそうな声で話すアイさんにテレビで見る様な華やかさは感じられない。その姿はまるで必死に自分が今まで吐いてきた嘘に苦しみ、『愛』という存在に悩む一人の女性に見えた。

 

 でも施設の子か、あそこは確かに家族で訳アリの子達が集まる場所だろう。だからきっと真っ当に親からの愛情を受けることが出来ずに、きっと今まで『愛』という概念を感じたことが無いのだろう。

 

 俺の場合はちょっと特別で、施設に近い所で育てられた。だが俺が居た所でも、アイさんが居た施設でもきっと『愛という者が解らない』という子が多いのは共通している事だろう。だから何となくだが、アイさんの心情が俺には想像できる。でも彼女の場合はきっと‥‥俺はしっかりと彼女に自分の意志を伝えるために、一旦会話を区切って、一呼吸を置いてから話を始める。

 

「……俺も偉い事言えないけどさ、アイさんはしっかり愛されていると思うよ?」

 

「え?でも…私、嘘つきだし。」

 

「ううん、嘘吐きでも君は愛されているよ。誰にも愛されていなかったら、まず君はあんなに人気になっていないじゃん。それにスタッフの人にも愛されていなかったら、普通は干されているよ。」

 

 そう、芸能界に限らず、仕事をする上で一番大事なのは結局コミュニケーション能力なのだ。どんな仕事であれ周りから信頼され、慕われて、愛されないとやって行けない。ファンという概念が付くアイドルという職業なら尚更だ。

 

「勿論仕事の人達だけじゃない。君は自分の子供にも愛されている。昼間ルビーちゃんとアクア君に半ば強制的にキミのライブ映像見せられていたけど、愛してなきゃあんな事しないだろうし、そもそもキミが助かった事を俺に感謝したりしないよ。」

 

「そう……かな?」

 

「周りに愛されているって事は、キミは少なからずその人たちを愛してるって事。そもそも愛なんて人それぞれの考えであって、星の数だけ存在するんだ。だからアイさんの言う『嘘は愛』ってのも間違ってないと俺は想うよ。」

 

 『嘘は愛』。端から聞けば意味が解らず首を傾げる輩が多いだろう。だがこれは彼女の、星野アイなりの『愛』の表現なのだ。アイさんは嘘を吐いたせいで自分に報いが来ても仕方ないと言っていた。確かに、悪行を行えばその報いは回り回って自分に戻って来るだろう。だが彼女はそれを受ける必要なんて何処にもない。

 

「……こう考えるのは極端かもしれないけどさ、アイさんは『愛』として、ファンの為に嘘を吐いていたんでしょ? 別に私利私欲で嘘を吐いていたわけではないのだから。報いとかそう言うのは気にしなくても良いと思うよ。アイさん何も悪い事して無いんだし。」

 

 アイさんは何も言わない。彼女は静かにただ俺の言葉を聞いている。そして数秒後、彼女は静かに溜息を吐くと再び彼女の瞳に輝く星が現れた。

 

「本当に、極端な考えだね。……でも、ありがと。」

 

 彼女はそう言うと、少し呆れたように、再び溜息を吐き、ベランダへと寄り掛かる。

 

「でも‥‥何だか不思議。普通なら内緒にする事なのに、キミの前だと何だか…スラスラ勝手に口から出て来ちゃう。」

 

 確かにアイドルなどと言った芸能人はプライベートや個人での悩みを一般人に言うの余程親密な間柄じゃないと珍しいだろう。今更かもしれないが、国民的アイドルのプライベートでの相談。優越感を感じざる負えない案件だが、アイさんが俺に悩みを話せた事に、俺はある程度心当たりがある。

 

「それはきっと、俺も嘘吐き()()()人間だからなのかな。」

 

「えっ?」

 

「さっ、今日はもう遅いし俺は寝るよ。余り夜更ししないようにね。じゃ、おやすみ。」

 

「えっ? ちょっと!」

 

 鳩が豆鉄砲を食ったような顔をするアイさんだが、俺は気にせず部屋の中に入って行く。もし人が彼女を『嘘吐き』と呼ぶなら、俺はきっとそれ以上の『大噓吐き』なのだろう。むしろアイさんはマシな部類だ。俺らは必死に全てに嘘を吐いて、全てを騙してしたのだから。

 

 窓から見える一番星はダイヤモンドの様に輝いている。結局俺は数時間後に目を覚まし。ただその星をベッドに横たわりながら眺め、夜明けを待ち続けるのだった。




みんなしっかり眠ろうね。この作品の主人公は非常に闇が深い人物で、中二病な設定がマシマシになると思います。作者は芸能界を滅茶苦茶に引っ掻き回す主人公を書きたいので、どうか痛い事になっても悪しからず。

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ご感想お待ちしています。

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