リコリス・リコイルが1クール12話で完結する話だったら   作:725404

5 / 10
9話「Happening that shouldn't happen」2/2

 たきなはフルオートでの連射をマガジン一つ分終えると、今度はセミオートに切り替えて正確に狙いをつける方向へシフトした。

 いざとなればまた同じように弾をバラ撒き始めるのではないかと思わせることが足止めには必要だった。

 真島の指揮でトラックドック側へ進もうとしていた男たちはたきなのバラ撒いた銃弾がアスファルトで跳ねるのを見て尻込みし、各々倉庫の影やトラックの扉に隠れた。

 そこから慎重に顔を出し、先ほどからずっと邪魔をしているヤツがどこへいるのか周囲を見渡そうとするたびに、今度は正確に狙ったたきなの銃口が男たちのボディアーマーを狙った。

 もんどりうって倒れる男たちの中で、真島だけはじっとトラックに隠れ、目を閉じていた。

 

 それからゆっくり手だけトラックの影から出し、片手で持ったキアッパ・ライノの銃口がどこへ向いているのか、サイトも見ることなく、てきとうに見えるような持ち方で引き金を引いた。

 咄嗟の判断でたきながサッチェルバッグを構え、隠し紐を引っ張った。

 銃弾がたきなの元へ飛び込んでくるのと、防弾エアバッグが展開するのは同時だった。

 

「おっ、そこにいんだな、オイ。今すぐぶっ殺してやる! 聞こえてんだろ!? 返事はしねえのか、クソガキ!」

 

 威圧的な暴言を吐き散らした真島は、大声を上げながら二度、三度とリボルバーの引き金を引いた。

 一秒あまりの防弾エアバックの有効性を最大限に利用してトラックの影に隠れたたきなは隠れ場所を移動し、植え込みのレンガが積まれた物陰へうつ伏せになった。

 

『ちょーっち問題発生。中にトラックがあって、それを脱出させないといけないみたい。どうする?』

「……こっちでもトラブル発生です。なぜか居場所が割れました」

『えっ!? 大丈夫、ねえ! たきな!?』

 

 たきなも危機的状況だったが、千束も問題が発生しているようだった。

 本来であればもう作戦の次の段階に入っている予定だったのだ。

 正面出入口にはトラックが横付けされて塞がれている以上、リリベルたちは別の逃走経路を生み出さなければいけなかった。

 

 それがこの位置だった。

 千束が侵入するための部分以外もフェンスはすでにいくつか切断しており、後は今千束が隠れているトラックを使ってフェンスを破り、トラックドックを開けてリリベルたちと千束を収容し、そのまま側面を突き抜けて隣の倉庫の出入口から道路へ出るという作戦だった。

 しかし千束はリリベルたちの接触がトラブルが起きた上に、たきなは身動きが取れない状況になってしまった。

 なぜ見えないはずの暗闇の中で、まったくたきなの方を見ることもなく、場所を突き止めることができたのか一切分からなかった。

 原因を考えなければ、このままでは蜂の巣にされかねない。

 そんな中で救いの手が差し伸べられた。

 

『たきなはこっちで支援すっから、状況教えなさい』

 

 ミズキだ。

 

 

 **

 

 

 千束は倉庫から出られない理由を無線でまくし立て、たきなはふむふむと頷いた。

 

『生き残っているリリベルを全員無力化した上で、トラックドック側へ持ってこれませんか?』

 

 気絶したリリベルたちを積荷のようにトラックに載せられないかというたきなの案は全員が却下した。

 この状況で真島たちだけでなく、リリベルたちとも敵対する羽目になるのはどう考えても危険だったからだ。

 

『トラックは大型じゃないのよね?』

『うん、中型のトレーラートラック』

『頭はちゃんと出入口側に向いてる?』

『向いてる。あー、切り返せば多分いけるよ』

 

 千束はミズキが何を考えているか分かった。

 たきなも理解し、伏せたままじりじりと移動し、トラックの下へ潜り込もうと位置を変えた。

 

『このトラックはここに放置しても良いですかね』

『そっちの出入口を塞ぐのに使えそうならアンタ運転しなさいよ』

『その必要はない。倉庫に面した道路に真島たちのトラックがあるからそちらを使おうとするはずだ。ミズキ、道路側の連中は私が足止めするから、合図に合わせて出てくれ』

『りょーかい。いつでも行けるわよ!』

 

 もともとの予定である側面からの離脱という方法を流用しつつ、倉庫内にあるトラックを利用して、リリベルたちを逃がすという作戦だ。

 だがそのためには正面出入口で待ち構える真島たちが銃火を集中させるのを防がねばならなかった。

 それと同時にたきなが真島に狙われている状態を脱する必要もある。

 二つの問題を一手に解決するために、ミズキの乗る車が重要だった。

 

『まずは道路にいる連中をこっちで抑えるから、千束はトラックドック側から侵入する連中に対応しなさい』

『はーい』

『たきなはその場で待機。可能ならトラックの運転席まで後退しなさい』

『了解です』

 

 原因は不明だがたきなの隠れ場所は突き止められている。

 足止めとしての用をなさなくなった以上、一度後退して、ミズキの突入後に備えるしかなかった。

 たきなの掃射を警戒しなくて良くなった真島の仲間たちが早速トラックドック側へ近づき、挨拶代わりに倉庫の壁越しにフルオートでAKMSを撃ちまくっていた。

 倉庫の壁は通常のものであり、防弾性能は期待できない。

 トラックドック側のシャッターや壁があっという間に穴だらけになり、扉も壊れて、開きっぱなしになった。

 そこへ数人の男たちが突入していく。

 だが、倉庫の外では真島たちの思い通りにはならなかった。

 

 トラックの運転席から降りた男たちが、堂々とAKMSを抱え、増援が来ないか見張っている。

 一台のトラックにつき二人がつき、道路で見張りをしている。

 しかしその男たちの持っている銃が突然派手な音を立てて粉砕された。

 数秒遅れて銃声が響くが、その間に四人全員の銃が破壊され、地面には大きく抉れた跡が残った。

 もちろん男たちは衝撃で吹き飛ばされており、トラックのドアに一人は背中を打って息を詰めている有様だった。

 あまりに突然のことで、男たちが真島へ報告するは一瞬遅れた。

 

『今だ!』

『あーい!』

 

 男たちがトラックの中へ慌てて入り、付けっぱなしのエンジンをそのままに二速発進させようとしたところを、猛然と横を駆け抜ける一台の乗用車があった。

 ミズキの乗るフォレスターだ。

 喫茶リコリコのロゴ付きの赤いフォレスターは、トラックばかりの大井埠頭の道路を激しいエンジンを立てて走り、ギュッとブレーキをかけると、滑るようにしてリリベルたちのいる倉庫の入り口へと滑り込んだ。

 

 そして真正面にいる真島たちのトラックの横へ止めると、助手席側のウィンドウを開けて、ハンドルから片手を離したミズキがスモークグレネードを投擲した。

 グレネードによる攻撃だと察知した真島たちは素早くトラックで身を守れる位置に移動した。

 弾けるような音とともにスモークが展開し、正面出入口一帯が煙に包まれた。

 その間にたきなは隣の倉庫側に止めていた自分たちのトラックのコンテナによじ登り、そのまま伏せた状態で狙いを定めた。

 たちまち二人撃ち倒したが、真島は死角にいて狙えなかった。

 ミズキはすぐさまウィンドウを閉じたがたちまち車は真島たちの手によって蜂の巣となった。

 いくらスモークが広がろうと車の位置くらいは分かる。

 しかしミズキの車はもちろんDAの予算で防弾仕様になっている喫茶リコリコの社用車だ。

 AKMSの7.62x39mmにも耐えることができた。

 特殊なエアレスタイヤでパンクの心配もない。

 それでも車内は銃声で満たされ、いつ撃ち抜かれるか分からない不安でミズキは叫びだした。

 

『ぎゃーっ! 助けなさいよアンタたち!』

『自分でアクセル踏みゃ逃げれるっしょ。てかこっちの準備終わったみたーい』

 

 今から出るよ、と言った千束のインカムからは銃声が響いている。

 倉庫内に入ってきた真島の仲間たちを千束は相手にしていたようだった。

 その隙を利用して荷物の積み込みを終えたリリベルたちが正面出入口のシャッターを突き破ってトラックを出す。

 真島たちの注意がミズキの車からリリベルたちへ切り替わる。

 

「向こうに居たクソガキが狙ってくる! 車内に戻ってリリベルを追える準備を整えろ!」

 

 スモークの範囲から出てしまうとたきなからの銃撃を受けてしまうと察知した真島は逆にスモークを利用し、自分たちが隠れることにしていた。

 その中でトラックを移動させ、自分たちも道路へ出る準備を整えるつもりらしかった。

 リリベルたちがどうやって道路に出ようとしているのかはまだ分かっていない様子だったが、少なくともその目算があるからこそトラックで倉庫から出てきたのだと判断していた。

 一方でミズキも相手がトラックに乗り込むことは読んでいた。

 車を切り替えしてスモークの範囲から出ると、今度は運転席側のウィンドウを開け、トラックの正面に銃を向けた。

 

「そうはさせないわよ!」

 

 ミズキへの注目が少しでも向けられるよう、あえて叫ぶ。

 握っているのはCurveというレーザーサイト付きの小型拳銃だ。

 9mmパラベラム弾より短い.380ACP弾を使う銃であり、リリベルのベレッタARX160で使用する5.56x45mm弾すら貫通しない防弾仕様の車両には全くの無力だと思われた。

 真島の仲間たちで、運転席に座る男は銃口を向けられてもヘラヘラと笑うばかりだった。

 それでもミズキは引き金をひいた。

 

「うわっ!?」

「おりゃあ! どんなもんじゃい!」

 

 と言いつつ二発撃ったミズキはすぐさまウィンドウを閉じた。

 一方でトラックは動きが取れなくなっていた。

 フロントガラスが一面黄色いペイントで汚れ、全く正面が見えなくなっていたのだ。

 ミズキが撃ったのは訓練用の水溶性インクが詰まったペイント弾だったのだ。

 この隙にリリベルの運転するトラックは倉庫内にいたリリベルと積み荷を乗せ、側面のフェンスを突っ切って隣の倉庫へ入り、そのまま道路へと抜けた。

 ウィンドウォッシャーでペイントを洗い流している間にトラックは消え去り、スモークこそ晴れたものの、真島たちが狙っていたリリベルは倉庫を後にしていた。

 

「クソッ、もういい、撤退するぞ」

 

 真島はトラック後部で唸るようにそう漏らすと、倉庫内にいる千束や眼の前の車内で震えているミズキ、隣の倉庫に止まったトラックの上で伏射姿勢を維持しているたきなを尻目に、トラックを道路へ向けた。

 

『道路へは出さず、このまま完全に制圧しますか?』

『いや、そこまでは頼まれていない。おそらくリリベルたちには使っていなかったが以前のように重火器を持っている可能性もある。今回の件を楠木に報告しよう』

『じゃ、これで終わりか』

『アタシMVP? MVPじゃない!?』

 

 興奮が収まらない様子のミズキだったが、ドアをノックする音にびくりと肩を跳ねさせ、うわああと叫んでギアを入れようとした。

 

「ちょいちょい。みんな大好き千束ですよー、もうアイツらじゃないって」

「ビックリさせないでよ! ふざけんなっ」

 

 ロックを解除してドアを開けると、助手席に乗り込んできた千束にえぐりこむようなチョップを繰り出すも、ミズキの手は空を切る。

 どかりと座った千束はリクライニングを倒すと、腕を伸ばして後部座席のロックも解除する。

 そこへトラックから降りてきたたきながヘルメットを脱ぎながら乗り込んだ。

 

「頭が蒸れますね、これ」

 

 そういって頭を左右に揺らしたたきなは、黒い髪を手で梳かした。

 

「どっちかはトラック運転して帰んなさいよ。あそこに置いとくわけには行かないでしょ」

「あっ、そっか」

 

 完全に二人ともそのことを失念していた様子だったが、疲れ切った身体を起こすのは二人とも遅かった。

 

 

 **

 

 

 そうして喫茶リコリコとしては無事依頼をこなし、リリベルたちの逃走を補助した。

 真島たちはリリベルのトラックが多数の民間トラック群に紛れ、追うことは出来なかった様子だ。

 それは成功を告げる吉松からの感謝のメールでも明らかだったし、作戦中にドローンで状況をずっと見ていたクルミも確認済みだ。

 

「なあ、おかしいだろ。今回の作戦は」

 

 それでもクルミは終わったあとに真っ先にミカへ詰め寄った。

 レミントンM700の入ったバッグを地下へ片付けた後のミカは、杖を置いてカウンター前に座る。

 

「作戦は成功した。誰も死ななかった。問題は起きなかった。これでは不満か?」

 

 クルミはかぶりを振って隣のスツールに腰掛けた。

 カウンターにノートPCを置いて、作戦中に撮った録画を流した。

 

「さっきの作戦中にリコリスが支援をしなかったのは、明らかにおかしいだろ。真島たちがラジアータに検知されていないはずがない」

 

 真島の仲間たちは道路に堂々と立ってAKMSを構えていた。

 銃声が周囲に聞こえるのも気にしていなかった。

 隠蔽する気のない態度であることは明らかだった。

 それでもリコリスは来なかった。

 ミカは答えなかったが、クルミの言葉は止まらなかった。

 

「そもそもリコリスが襲われた後、おんなじ連中が今度はリリベルを襲撃っていうのもおかしい。何が目的なんだ。DAはどこまで状況を把握している。ミカ、どこまで話を聞いているんだ? ボクに対する襲撃もなにか裏があったのか?」

 

 クルミの言うことはもっともだった。

 ラジアータの感知能力があれば、今回ほど明確な襲撃は事前に把握できていないはずがなかった。

 武器の準備や集合は監視カメラの映像や交通網の監視を二十四時間体制で行っているラジアータであれば十分察知可能だ。

 もしその段階で検知できていなかったとしても、襲撃が始まってからでも十分事件は明らかになっていたはずだ。

 銃声は三十分以上響いていたし、道路には堂々と武装した男たちが立っていた。

 この状況を把握できないラジアータではない。

 そもそも民間人の誰かが通報をしていたっておかしくない状況だった。

 それでもDAはリコリスを派遣しなかったし、喫茶リコリコへの支援もなかった。

 

「私は何も知らない。誰が何を知っているのかも分からない」

 

 ミカはさっきの作戦ではなく、別の何かですっかり疲弊しきってしまっているという風に、言葉を漏らした。

 

「どういうことだ?」

「DAは内通者を警戒しているはずだ。千丁の銃器密売に関わる内通者をな。そいつはラジアータのデータを改ざん可能で、作戦情報を把握して、外へ流すことが可能な存在だ。楠木は誰が内通者なのか分からないから、今回の事案でもどういった事情でリコリスが出動しなかったのかは、隠匿されることになるはずだ」

 

 それは喫茶リコリコが孤立しているという事実でもあった。

 DAは各支部への情報提供を抑えることで、内通者がどこにいるかを探ろうとしているのかも知れなかった。

 ミカはその事情に巻き込まれ、楠木からの情報が降りてこない状況に陥ってしまった。

 喫茶リコリコは少数支部のため、他の支部以上に情報不足は手痛い。

 

「でも少なくとも今回の事件で少しは事態を読み解くヒントは得られたと思いますよ」

 

 地下の武器庫から戻ってきたたきなが二人の会話に割って入った。

 横には無言で一緒についてきた千束もいる。

 

「それは例えばどんなことだ?」

 

 クルミがたきなの方へ目線を向ける。

 手元のノートPCでは、たきなが伏射姿勢で真島たちを狙っている様子が俯瞰映像で流れていた。

 

「先立ってのリコリス襲撃事案は、少なくとも吉松が主犯ではないということですよ」

「ほう」

 

 続けてくれ、の意味でクルミがたきなに相槌を打った。

 

「リリベルとリコリスを襲撃した実行犯はどちらも真島です。彼は吉松に雇われている傭兵という可能性もあったと思います。しかし今回、二人は明確に敵対していました。二人は仲間じゃないということでしょう」

「だからリコリス……千束を襲撃したのは吉松の指示じゃなかったってことか」

 

 そうなります、とたきなは頷いた。

 千束も横で強張った顔を自分の手で揉んでいた。

 吉松は喫茶リコリコで千束に人を殺すことが正しいことかのように諭していた。

 まるで、真島を殺すべきだったかのような言い草だった。

 だけどあの発言はたまたま時期が悪かっただけの偶然であり、まさか救世主たる張本人が、千束を殺そうとしていたわけではなかったのだ。

 

「でもそれだと変じゃない?」

 

 最初からずっと話を聞いていたミズキが畳の座敷スペースで足を投げ出し、日本酒の入ったお猪口を片手に口を出した。

 

「何か今話した部分におかしな点がありました?」

「うん。だってそれだとどうやって吉松は銃の密売の情報を得たのよ」

「なんでヨシさんがそんなこと知ってないといけないの」

 

 咎めるような調子の千束に、ミズキはあっさりとした声で答える。

 

「だってウォールナットにハッキングを依頼したのはアラン機関のエージェント、ヨシさんでしょ?」

 

 吉松はアラン機関のエージェントとして、ウォールナットにラジアータのハッキングを依頼している。

 つまり、銃の密売に関する情報を把握しており、どのタイミングでハッキングをすればいいのか知っていたということだ。

 もし吉松と真島が繋がっていたとしたら状況は分かりやすい。

 取引の成功のために、リコリスたちを孤立させるため、ラジアータのハッキングを依頼した。

 同時に実行部隊の真島たちには、内通者による欺瞞情報を利用し、三時間前に取引を終わらせるよう支持した。

 吉松が作戦の指揮を取っていたという考え方は、真島が吉松の兵隊だったという前提に基づけば、比較的簡単に導き出すことができる。

 しかし実際のところ、吉松は真島と敵対していた。

 ということは、吉松が真島を指揮していたという考え方は間違っているということになる。

 では、どうやって吉松はラジアータのハッキングをウォールナットに依頼できたのか。

 

「あの事件に関係しているのはDA、リコリス、ウォールナット、喫茶リコリコです。そして武器商人と買受人である真島、作戦の妨害をしたウォールナットと指示を出した吉松氏。以上が関係者と言えるでしょう」

 

 この中に吉松に情報提供した存在がいるというのがたきなの主張である。

 それには全員が同意した。

 少なくとも無関係の第三者がこの事件に関われる余地はない。

 

「ハッキングを依頼したのは密輸を成功させるためだ。それならDA、リコリス、喫茶リコリコは除外していい。そして買受人である真島もな。そうなると残った関係者は一人だけだ」

 

 銃の密売人。

 武器商人たち。

 たきなが射殺した連中だ。

 

「え~、武器商人と吉松が繋がっていたとしたら、今回の作戦もかなり見方を変えるべきじゃない!?」

 

 ミズキは焦ったように声を震わせた。

 

「今回の作戦とそんなに関係ありますかね」

「大アリ、って可能性も十分あると思うわよ。ねえ?」

 

 ミズキに話を振られたクルミは顎に手を当てて考えると、眉間に皺を寄せて苦々しげに頷いた。

 

「なるほど。そういうことか」

「どゆこと? ねえ、たきなは分かった?」

 

 たきなは千束に体を揺さぶられるのをされるがままに受け入れつつ、頭だけは猛然と思考の渦の只中にいた。

 そして二人が何を言いたいか分かり、千束へと説明をしようと口を開く。

 

「吉松氏は密売人と関わっていました。密売は今回と同じように大井埠頭で起きた事案です。取引場所は今回の倉庫とは別ですが、大井埠頭はリリベルの国内活動拠点でもあります」

 

 そして、とたきなは言葉を続けた。

 

「DAの保有するラジアータの管理下に置かれているため、基本的に税関をすり抜けるような形での大規模密輸は不可能です。リリベルの手引きによる密輸を例外としますが」

 

 リリベルが密輸ルートを管理しているのは、国外事案のために必要な部分に限られる。

 しかし実際にリリベルが密輸に関するノウハウを保有しており、密輸ルートを確保している以上、ラジアータの監視の目を出し抜いて大規模な銃器密輸に関わることは可能だ。

 実際に千束の人工心臓に関わる違法な医療機器の密輸は無事に成功している。

 今回の銃器密売に携わった武器商人は、このリリベルが管理する密輸ルートを利用したのではないか、という推測だ。

 そしてそれなら吉松が両方の事件に関わっていることに説明もつく。

 武器商人とリリベルは別の組織ではない。

 武器商人はリリベルの味方――もしくはリリベルそのものだったという可能性だ。

 つまり銃器密売に関する一連の騒動は、DAに対するCDの裏切りだったというわけだ。

 

「武器の密売事件はDAがリリベルの不正を捕捉し、追い詰めることができた事件だったということです」

 

 だった、と過去形なのは結局の所リリベルとの関わりは推測でしかないからだ。

 武器商人たちはみな死んでいる。

 たきなが殺した。

 

「楠木司令も言ってくれれば良かったのにね~」

「現場軽視ってやつ?」

 

 ミズキと千束は落ち込んだ様子のたきなにフォローを入れる。

 もしこの推測が正しければ、武器商人は本当に殺すべきではない証人だった。

 普段よりもずっと重い状況での判断ミスだったから楠木司令はたきなにここまでの処分を下しているというわけだった。

 むしろ本部からの追放で済んでいるだけマシとも言えるかもしれない。

 それでも、もしこの事情を知っていたら、とたきなは思わずにはいられなかった。

 

 

 **

 

 

 翌日の営業日の午後に、喫茶リコリコに備え付けられているテレビでニュース番組が流れていた。

 普段はあまり誰も見ていないが、今は全員がぼんやりとテレビ画面を見上げていた。

 

『こちら現場です。現在は周辺一帯が封鎖され、近隣住民の方々は避難誘導を受けています。わたしたちもここから先は危険なため、近づけません』

 

 流れているニュース画面では土煙が巻き上がり、全体的に暗い。

 それでも何を映しているかは一目瞭然だ。

 蜘蛛の巣のように何重にも梁が通され、倒壊を防ぐための補強がされている。

 そびえ立つというより、辛うじて保っているといえるような巨大建造物、旧電波塔。

 その巨躯が、土煙のなかで失われようとしていた。

 最上階である第二展望台は元から西側に傾いており、地上からの補強用鉄骨を段階的に設置することで倒壊を防いでいた。

 

 しかし今や鉄骨は折れ砕けており、無残に地面へ突き刺さっていた。

 そして補助がなくなった第二展望台は西側に倒壊し、五百メートル近く下方にある地面へと激突して跡形もなかった。

 電波塔事件の後に補強工事を行った際、危険を鑑みてすでに窓ガラスは撤去されていたが、ガラスの代わりにへしゃげた鉄骨や歪んだフレーム、内貼りされていた断熱材や、内装の床のパネルが地面に激突した勢いで広範に渡って破片を撒き散らしている。

 

 その余波で粉塵が吹き荒れているため、まるで土煙が巻き上がっているように見えているのだった。

 一段下の第一展望台も補強用の鉄骨が、展望台との接点を失っている。

 しかし元々補強のために工事している間は倒壊を免れていたように、第一展望台は辛うじてその威容を地に落とすことはなかった。

 それでももう一般人がうかつに近づけるような場所ではなくなっていた。

 いつ全壊してもおかしくない状態で、旧電波塔はテレビに晒されている。

 

『事故原因は不明ですが、一般人の立ち入りが封鎖されている現在も旧電波塔に電気は通っており、常に複数の業者が立ち入りをして保安作業を行っていたとのことです。現在も消防、警察、そして管理をしていた都の委託事業者によって復旧作業と原因究明が行われているとのことでした』

 

 そして次のニュースに移った。

 次も事故に関するニュースだった。

 

『佐藤達夫経済産業大臣が本日、ブラジルへの公式訪問のために搭乗した航空機が、目的地であるサンパウロ・グアルーリョス国際空港への途中で墜落しました。事故により、経済産業大臣を含む乗客・乗員44名が死亡し、2名が重症とのことです』

 

 事故機であるコレイオス航空787便は日本時間で午後9時に出発したが、現地時間で午後4時頃に目的地の空港付近で墜落したと報じられた。

 

『経済産業大臣は財政・金融政策やエネルギー政策、地方創生政策など、さまざまな政策の担当大臣であり、彼の死は日本政界に大きな影響を与えることが予想されます。佐藤大臣の後任については、今後政府が検討することになるそうです。なお、今回の事故で亡くなったほかの日本人は……』

 

 二つの事故。

 どちらも『事故』である。

 事故ということになっている。

 

「これ、もしかして……」

 

 たきなが口を開きかけたとき、ミズキの携帯が震えた。

 ミズキはしばらく携帯を触って、テレビ画面と見比べたり、黙って画面をスワイプしていた。

 やがて顔をあげると、コーヒーから目を離したミカと顔を見合わせる。

 

「密輸を取り仕切っていた組織は壊滅。本拠地は旧電波塔だったんだって。CDを潰したのはDAよ」

 

 電波塔事件のあと、国有地になっていた旧電波塔は秘密組織であるCDにとっては格好の隠れ蓑だった。

 

「じゃあ大臣の方は?」

「CD、事務次官と共謀して大規模な密輸ルートの構築に携わってたって」

 

 経済産業省は安全保障上の観点から輸出入品目を厳格に管理している。

 大量破壊兵器やその関連技術、軍事用品は特にその管理と密接な関わりがある。

 そうした品目の輸出入に関する手続きの大部分に経済産業省の許可が必要だ。

 逆に言えば、経済産業省とCDが協同で働きさえすれば、ラジアータの影響を無視して密輸ルートの構築を行うことが可能だった。

 官僚側のトップである事務次官と組んで、大臣がリリベルから利益を得るために、不正に協力していたというのは十分ありえることだった。

 だが今回肝心のCDの兵隊であるリリベルの日本拠点が壊滅した以上、大臣や次官の後ろ盾はなくなった。

 DAが表立って動くことが可能な状況が整ったというわけだ。

 そして事件を事故へ変貌させる手腕を遺憾なく発揮したDAは大臣を事故に遭わせた。

 もちろん次官も一緒だ。

 リリベルを利用したCDによるDAへの攻撃はすべて不首尾に終わり、DAの楠木司令が勝ったという形になる。

 

「でも、どうやったんだろーね」

 

 千束が素朴な疑問を口にする。

 

「どうやってってアンタ、そりゃリコリス動員したんでしょ」

 

 ミズキが当たり前のことのように答える。

 

「リコリスの装備は基本的にクリスベクターSBRとかグロック21みたいな小口径弾を使うし、隠密行動を主にしてるわけじゃん」

 

 千束の装備が特殊なのであって、リコリスは現場では拳銃や軽機関銃といった取り回しの良い銃を装備している。

 一方でリリベルは作戦の地域によって様々な銃や装備を使いまわし、特定の銃や装備を基本としていない。

 つまり、リコリスとの戦闘を想定し、装備を整えている可能性は十分ある。

 その状況でどうして撃退に成功したのだろう、と千束は疑問に感じているわけだ。

 

「まあ司令のことだし、そういう場合も想定して準備してたんじゃなーい?」

 

 ミズキは無責任に放言したが、なにか情報を持っているというわけでもないのでそれ以上の回答はできないという事実の現れに過ぎなかった。

 千束も問い詰めてもムダだと分かったのか、気にしても仕方ないと思ったのか、あっさり引き下がる。

 

「まあ、これで一連の騒動も終わりかー、あっけないもんだ」

 

 そういう千束の目は外に向いていた。

 喫茶リコリコからも見えるはずの旧電波塔の突端が、今は見えなかった。

 

 

 **

 

 

 旧電波塔の内部、一階は壁やガラスが砕けて、床へ散らばっていた。

 その上には死体がいくつも転がり、内臓や血を撒き散らして、伏せている。

 商業施設として元々作られていた区画は、大きな廊下とその両端にいくつものテナントが入れるように細かく壁で仕切られており、そこには血溜まりに伏せたリリベルの死体が転がっている。

 

 奥にあるアートミュージアムとして計画されていた展示スペースだ。

 LEDライトや音響装置をいくつも複合的に備え付けることができるように電源タップが複数置かれた展示スペースには、色彩と光の代わりにサーバーラックが収容されており、複数のモニターで管理していたことが伺える。

 それら全てに大量の弾痕が刻まれ、モニターは完膚なきまでに砕け散っていた。

 一番奥には髭面の壮年男性が血を零して倒れている。

 

 虎杖司令。

 

 CDの司令である彼は、首から貫入した銃弾による大量の出血で死んでおり、最後に座っていた椅子には彼の血が溢れて水たまりが出来ていた。

 その血溜まりを踏み荒らした真島は、乱暴に虎杖の死体を椅子から転げ落とし、足蹴にする。

 そうしてポケットから震える携帯を取り出すと、着信に応じた。




次回の10話更新は5/1(月)を予定しています。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。