BLEACH 魂魄の幻想郷(ユートピア)   作:桂ヒナギク

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1 消える魂魄

 その日、尸魂界(ソウル・ソサエティ)で、不思議な現象が観測された。

 死して魂魄となった人間の霊が、魂葬をしたにもかかわらず、尸魂界へと召されなかったのである。

 不審に思った死神たちは、原因の調査に乗り出した。

 同時刻の現世。

 死神代行の少女、影山(かげやま) 玲奈(れな)。彼女は空座町に住んでおり、空座第一高校に通っている。

 今日も、帰宅中に魂魄と出会い、魂葬していた。

 その魂葬が、先の観測された不審な現象と繋がるのであったが、玲奈には知る由もなかった。

「君!」

 魂葬中、抜け殻となって倒れていた自分の肉体に対して、通りかかった男性がそれに声をかけていた。

「やば!」

 玲奈は慌てて肉体に駆け寄ると、中に飛び込んだ。

 ガバッと起き上がる玲奈。

「うわ!」

 驚き戸惑う男性。

「君、呼吸と脈が止まってたけど……」

「ああ、大丈夫ですよ」

 玲奈はすっくと立ち上がって家路に就く。

「ただいまー」

 帰宅する玲奈。

「おかえりー」

 と、奥から聞こえる母の声。

 玲奈は階段を上がり、二階にある自分の部屋へと入る。

「帰ったか、玲奈」

 そこには、尸魂界出身の端正な顔立ちをした黒髪の死神、一ノ瀬(いちのせ) 瑠璃(るり)がいた。

「あら、来てたの?」

「ああ。先刻、お前が魂葬した魂魄が、尸魂界へ来る途中にどこへ消滅してしまった。私はその現象を調べるために、こちらへ来たんだが、何か知らないか?」

「え? 知らないよ。私、いつも通り魂葬しただけだし」

「致し方ない。唐沢のところに行くか。お前も来い」

「え……今、帰ってきたばかりなんだけど」

「たわけ。戦闘になったら貴様の戦力が必要不可欠だ」

「いやいや、ちょっと一息つかせて」

 母親が階下より上がってきた。

「玲奈、一人でなに騒いでるの?」

 死神は霊体であるため、普通の人間には見えない。

「え? ああ、なんでもないよ」

「そう? ならいいけど。あ、おやつのプリン、食べるなら、着替えて下りておいで」

「うん」

 階段を下りていく母親。

 玲奈が着替えようとすると、悟魂手甲をはめた瑠璃が、彼女の体を突き飛ばし、肉体から霊体を押し出した。

「うわああああ! 何をするのよ!?」

「来い!」

 玲奈を引きずって連行しようとする瑠璃。

「待って待って! 体が腐っちゃう!」

「ならばこいつを入れとけばいいだろう」

 瑠璃がキャンディーのようなものを取り出し、玲奈の肉体の口に放り込んだ。

 すると、肉体が勝手に動き出し、すっくと立ち上がった。

「何が起きてるの?」

義魂丸(ぎこんがん)だ。便利な代物だから尸魂界から持ってきた」

「影山 玲奈です」

 自己紹介を始める義魂丸。

「行くぞ」

 瑠璃はそう言って、玲奈を唐沢の元へと連行する。

「あいつ大丈夫なの?」

「案ずるな、大丈夫だ」

 二人は唐沢という人物が経営する商店へとやってきた。

「唐沢! いるか!?」

「はいはーい」

 店の中から冴えない男が出てくる。

「ご用件はなんで?」

「先刻、玲奈が魂葬した魂魄が、尸魂界へ参らず何処かへ行ってしまったのだ。なにか心当たりはないか?」

「んー、それは不思議な話ですね。ちょっと調べてみましょうか?」

「ああ、頼む」

「それでは少々お時間を下さい」

 唐沢は店の奥へと戻っていった。

 小一時間ほどし、調査を終えた唐沢が、二人に(くだん)の話を始めた。

「通常、魂葬された魂魄は地獄蝶に導かれ、断界を通らずに尸魂界に向かうのは二人はご存知ですね?」

「ああ」

「だが、例の魂魄が断界に紛れ込んだ痕跡が見つかりました。その魂魄は断界で何らか方法によって、別の空間へと連れ去られたようですねえ」

「行き先はどこだ?」

「さあ、そこまでは……。ただ、最近、浮遊霊たちの間で噂になってる、理想郷(ユートピア)に向かった可能性というのもあるかもしれません」

理想郷(ユートピア)?」

「どこにあるんだ?」

「わかりません。ですので、普通の霊体のふりをして、断界に行って下さい。そうすれば、何か掴めると思います」

「了解した」

 玲奈と瑠璃は変装をすると、唐沢が開いた穿界門から、断界へと飛び込んだ。

 断界を進むと、二人は光に包み込まれ、何処かへと遷移してしまう。

「ようこうそ、魂の楽園(パラダイス)へ!」

 その声に振り返ると、そこにはタキシードを着た男が立っていた。

「ここはどこだ?」

「おー、あなた方は若くして亡くなってしまわれたようだ。でもご安心を。ここは現世で死を迎えたものが辿り着く、天国というパラダイスなのさ!」

「パラダイス?」

「ここでは、あらゆるものを手に入れられる。例えば、彼氏が欲しければ、想像するだけで向こうからやってくる。そんな夢のある世界なのさ」

「引き寄せの法則が加速した世界なんですかね?」

「そう思っていただいても構いません。どうです? この世界の住人になりませんか?」

 タキシードの男は、懐からバッチのようなものを取り出した。

「それは?」

「これは(ホロウ)という怪物から魂魄を守るために開発された特殊な宝具です」

 瑠璃は思った。

(莫迦な。そんな宝具、私は聞いたことがない)

 玲奈は小声で瑠璃に言う。

「(調査のためよ。話に乗りましょう?)」

「(ああ、そうだな)」

 二人は宝具を受け取って、胸に装着した。

(……?)

 玲奈は違和感を覚えた。

 横では、瑠璃が死んだ魚のような目をしていた。

「瑠璃?」

「ん? ああ、なんでもない」

「では、お二方を住居にご案内しましょう」

 二人はタキシードの男に連れられ、アパートへやってくる。

「今日からここがお二方のお部屋になります。仲良くご利用下さい」

 二人は部屋に入る。

 扉が閉まる刹那、部屋の外でタキシードの男が、ニヤリとほくそ笑んだ。

(……!?)

 タキシードの男の表情を玲奈は見逃さなかった。

「ねえ、瑠璃」

「どうした?」

「この宝具なんだけど?」

「これか? 先刻、彼が虚から魂魄を守るためにつけろと言っていたやつだな。これがあれば大丈夫だろ」

「瑠璃!」

 玲奈は瑠璃から宝具を外した。

「は!? 私は今何を?」

 瑠璃は我に返る。

「瑠璃、これは危険よ」

「それは確か、先刻の男が虚から守る宝具と言っていたな。それをつけた刹那、私の意識が飛んだように感じたが」

「これにはなにかあるわね。これは私が預かるわ」

「お前は平気なのか?」

「今のところ何も。変な違和感はあったけど」

 玲奈はどこからか工具を取り出すと、宝具そっくりな偽物をあっという間に作り上げ、瑠璃に渡した。

 瑠璃はイミテーションであるバッチを胸に着けた。

 

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