その日、
死して魂魄となった人間の霊が、魂葬をしたにもかかわらず、尸魂界へと召されなかったのである。
不審に思った死神たちは、原因の調査に乗り出した。
同時刻の現世。
死神代行の少女、
今日も、帰宅中に魂魄と出会い、魂葬していた。
その魂葬が、先の観測された不審な現象と繋がるのであったが、玲奈には知る由もなかった。
「君!」
魂葬中、抜け殻となって倒れていた自分の肉体に対して、通りかかった男性がそれに声をかけていた。
「やば!」
玲奈は慌てて肉体に駆け寄ると、中に飛び込んだ。
ガバッと起き上がる玲奈。
「うわ!」
驚き戸惑う男性。
「君、呼吸と脈が止まってたけど……」
「ああ、大丈夫ですよ」
玲奈はすっくと立ち上がって家路に就く。
「ただいまー」
帰宅する玲奈。
「おかえりー」
と、奥から聞こえる母の声。
玲奈は階段を上がり、二階にある自分の部屋へと入る。
「帰ったか、玲奈」
そこには、尸魂界出身の端正な顔立ちをした黒髪の死神、
「あら、来てたの?」
「ああ。先刻、お前が魂葬した魂魄が、尸魂界へ来る途中にどこへ消滅してしまった。私はその現象を調べるために、こちらへ来たんだが、何か知らないか?」
「え? 知らないよ。私、いつも通り魂葬しただけだし」
「致し方ない。唐沢のところに行くか。お前も来い」
「え……今、帰ってきたばかりなんだけど」
「たわけ。戦闘になったら貴様の戦力が必要不可欠だ」
「いやいや、ちょっと一息つかせて」
母親が階下より上がってきた。
「玲奈、一人でなに騒いでるの?」
死神は霊体であるため、普通の人間には見えない。
「え? ああ、なんでもないよ」
「そう? ならいいけど。あ、おやつのプリン、食べるなら、着替えて下りておいで」
「うん」
階段を下りていく母親。
玲奈が着替えようとすると、悟魂手甲をはめた瑠璃が、彼女の体を突き飛ばし、肉体から霊体を押し出した。
「うわああああ! 何をするのよ!?」
「来い!」
玲奈を引きずって連行しようとする瑠璃。
「待って待って! 体が腐っちゃう!」
「ならばこいつを入れとけばいいだろう」
瑠璃がキャンディーのようなものを取り出し、玲奈の肉体の口に放り込んだ。
すると、肉体が勝手に動き出し、すっくと立ち上がった。
「何が起きてるの?」
「
「影山 玲奈です」
自己紹介を始める義魂丸。
「行くぞ」
瑠璃はそう言って、玲奈を唐沢の元へと連行する。
「あいつ大丈夫なの?」
「案ずるな、大丈夫だ」
二人は唐沢という人物が経営する商店へとやってきた。
「唐沢! いるか!?」
「はいはーい」
店の中から冴えない男が出てくる。
「ご用件はなんで?」
「先刻、玲奈が魂葬した魂魄が、尸魂界へ参らず何処かへ行ってしまったのだ。なにか心当たりはないか?」
「んー、それは不思議な話ですね。ちょっと調べてみましょうか?」
「ああ、頼む」
「それでは少々お時間を下さい」
唐沢は店の奥へと戻っていった。
小一時間ほどし、調査を終えた唐沢が、二人に
「通常、魂葬された魂魄は地獄蝶に導かれ、断界を通らずに尸魂界に向かうのは二人はご存知ですね?」
「ああ」
「だが、例の魂魄が断界に紛れ込んだ痕跡が見つかりました。その魂魄は断界で何らか方法によって、別の空間へと連れ去られたようですねえ」
「行き先はどこだ?」
「さあ、そこまでは……。ただ、最近、浮遊霊たちの間で噂になってる、
「
「どこにあるんだ?」
「わかりません。ですので、普通の霊体のふりをして、断界に行って下さい。そうすれば、何か掴めると思います」
「了解した」
玲奈と瑠璃は変装をすると、唐沢が開いた穿界門から、断界へと飛び込んだ。
断界を進むと、二人は光に包み込まれ、何処かへと遷移してしまう。
「ようこうそ、魂の
その声に振り返ると、そこにはタキシードを着た男が立っていた。
「ここはどこだ?」
「おー、あなた方は若くして亡くなってしまわれたようだ。でもご安心を。ここは現世で死を迎えたものが辿り着く、天国というパラダイスなのさ!」
「パラダイス?」
「ここでは、あらゆるものを手に入れられる。例えば、彼氏が欲しければ、想像するだけで向こうからやってくる。そんな夢のある世界なのさ」
「引き寄せの法則が加速した世界なんですかね?」
「そう思っていただいても構いません。どうです? この世界の住人になりませんか?」
タキシードの男は、懐からバッチのようなものを取り出した。
「それは?」
「これは
瑠璃は思った。
(莫迦な。そんな宝具、私は聞いたことがない)
玲奈は小声で瑠璃に言う。
「(調査のためよ。話に乗りましょう?)」
「(ああ、そうだな)」
二人は宝具を受け取って、胸に装着した。
(……?)
玲奈は違和感を覚えた。
横では、瑠璃が死んだ魚のような目をしていた。
「瑠璃?」
「ん? ああ、なんでもない」
「では、お二方を住居にご案内しましょう」
二人はタキシードの男に連れられ、アパートへやってくる。
「今日からここがお二方のお部屋になります。仲良くご利用下さい」
二人は部屋に入る。
扉が閉まる刹那、部屋の外でタキシードの男が、ニヤリとほくそ笑んだ。
(……!?)
タキシードの男の表情を玲奈は見逃さなかった。
「ねえ、瑠璃」
「どうした?」
「この宝具なんだけど?」
「これか? 先刻、彼が虚から魂魄を守るためにつけろと言っていたやつだな。これがあれば大丈夫だろ」
「瑠璃!」
玲奈は瑠璃から宝具を外した。
「は!? 私は今何を?」
瑠璃は我に返る。
「瑠璃、これは危険よ」
「それは確か、先刻の男が虚から守る宝具と言っていたな。それをつけた刹那、私の意識が飛んだように感じたが」
「これにはなにかあるわね。これは私が預かるわ」
「お前は平気なのか?」
「今のところ何も。変な違和感はあったけど」
玲奈はどこからか工具を取り出すと、宝具そっくりな偽物をあっという間に作り上げ、瑠璃に渡した。
瑠璃はイミテーションであるバッチを胸に着けた。