紅蓮の男   作:人間花火

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もう11月かぁ、早い……って、もう中旬やん。 遅れてすまん。 仕事(ry


14発目 悪魔の戯れ

駒王学園、プールサイド。

コカビエルとの戦いが終わって数日経ったある日。 リアス・グレモリーとその眷属たちは、学園のプール掃除に勤しんでいた。

 

本来はソーナ・シトリー率いる生徒会の面々の役割なのだが、今回はリアス・グレモリーが進んでプール掃除を名乗り出たのだ。

 

理由は、先日の堕天使――――コカビエルの襲撃に際して、生徒会が多忙の毎日を送るなか、リアスがこの件を引き受けたことによる。

 

とは言え天気は晴れ、絶好のプール日和である。 リアスの眷属、「兵士(ポーン)」の兵藤一誠はもちろんのこと、メンバー全員が張り切り、掃除の後のお楽しみを目的にしていた。

 

黄色い笑い声が聞こえるここ女子更衣室では、駒王学園の指定体操服に着替える女性陣がそこにいる。

 

「朱乃、ゼノヴィアを見なかった?」

 

そう体操服の裾をきゅっと引き締めて訊いたのはリアス。 体操服の上からでも解るその豊満な胸にかかった紅髪を根元からたくし上げる。

 

「申し訳ありませんわ部長、私も気になってゼノヴィアちゃんの携帯にかけてみたのですが…………」

 

頬に手を当てて答えるのは「女王(クィーン)」、姫島朱乃。

「どうしたのでしょうか」、と困り顔も大和撫子。 リアスのバストサイズを超える彼女の胸は圧巻で、張りよりも海のような抱擁感を見ている者に感じさせる。 

 

「…………」

「真面目そうなゼノヴィアさんが遅刻なんて、珍しいです」

 

銀髪が綺麗な小柄な少女、「戦車(ルーク)」、塔城小猫はもくもくと着替えるも、心の中では少しだけ彼女もゼノヴィアを気にかけていた。 金色に輝く髪色は穢れ無き聖女を想起させる、「僧侶(ビショップ)」、アーシア・アルジェントも同様。

 

四人とも、朝から姿を見かけないゼノヴィアが気にかかっていた。 約束をなんの連絡も無くすっぽかすようなヒトではない。

 

「まさか、神の不在を知った異端として教会の追手がかかっているんじゃないでしょうね…………」

 

険しい表情で考え込むリアス。

ゼノヴィアが眷属になるとき、すべてを聞いた。 教会の対応、仕打ち。

教会でも一部でしか神の不在を知らない事実を知ったこと。 それにより彼らのゼノヴィアを見る目が変わったこと。

 

「…………もしそうだとしたら、守らなきゃ……」

 

ただの遅刻かもしれないのに、そういった邪推をしてしまう。 教会に忌み嫌われる悪魔の性であろう、否、彼女、リアス・グレモリーは特に眷属愛が半端ではない。 家族同様であるのだから、憤るのは当然だろう。

 

「…………ナイン・ジルハード」

 

コカビエル戦に際し、もっとも印象に残った男の顔を思い浮かべた。 金色の瞳で冷たく笑う紅蓮の男。

 

そのナインも異端とされてゼノヴィアと同様追放されたと聞いた。

初めはただの変人だと思った。 それがコカビエルとの戦いの後は一転して英傑扱い、後に異端追放。

 

事あるごとに周りの評価が上がったり落ちたり……少しだけ気の毒に感じた。

 

「もっとも…………こちらでは教会とは違ってあの男の評価を改めようとしているみたいだけれど」

「ナイン・ジルハードのことですか、部長?」

「朱乃…………ええ、まぁね。 どうにも初めのインパクトが大きくて…………って、朱乃?」

 

ニコニコして笑顔だ……だが、その内に隠れるどす黒いオーラを背から放つ朱乃に、リアスは目元を引きつらせる。

少し、思い当たる事があった。

 

「うふふ……私を…………盾扱いした男」

「ふぅ…………それは私も同感よ。 女を弾除けの盾に使うなんて紳士のすることではないし」

「もう会うことは無いと思いますけれど、うっふふふふふふふ…………もし会ったら…………」

「ほどほどにね、朱乃」

 

バチバチと身体から雷を数条走らせる朱乃。 よほど根に持っていたのだ。 普段なら女神のようにニコニコしている彼女だが、さすがにあの時のナインの行動にはむっとせざるを得なかった。

 

『防御魔法よろしく』

 

思い出しただけで目元が引く付く。 

すると、更衣室のドアが不意に開かれた。

 

「あ、ゼノヴィアさん」

 

アーシアが呼んだ先には、扉を開けたゼノヴィアが息を切らして立っていた。 膝に手を突いて深呼吸をすると、顔を上げる。

「ちょっと待ってくれ」という風に手を上げて再び息を整えるように肩を上下した。

 

「遅れたっ……はぁ……はっ…………すまない部長」

「気にしないで頂戴ゼノヴィア。 それより、後ろのお客さんは、だ――――」

 

そう言おうとした瞬間だった。

 

「…………え」

 

女子更衣室の中のすべてが停止する。 ゼノヴィアの入室により皆がそちらに目を向けていたゆえの驚愕。

リアスも、ゼノヴィアの後ろに居る人物のことを問おうとしたが、言葉が詰まった。

 

「れ…………………………」

「む、着替え中でしたか」

「大丈夫だ。 ほら、朱乃さんと小猫なんていま着替え終わったところだぞ」

「なるほどそれはいい」

 

女子更衣室内の天気が怪しくなってくる。 外は晴天だが、女性の怒りと言う名の暗雲が万雷を落とそうとしている。 そんなことを知りもしない客。 否、ナイン・ジルハードはリアスと朱乃の下着姿を見て、「ぉぉっ」と小さく感心した。 顎に手を当てて二人の躰を見つめる。

 

「…………よく分かりませんが、良い乳です?」

「…………」

 

発言直後にボッ――――とナインに向かって放たれた滅びの弾。 一歩横に身を引いて躱して扉も開けると、汚れたプールまで一直線に飛来――――着弾して汚れが散乱しさらに悲惨なことになっていた。

 

すでに着替え終わっているのに、条件反射で片手で胸元を隠したリアスが真っ赤になって身構える。

 

「はぁ………………はぁ……………………!」

「ふぅ…………」

 

不意打ちの一撃を涼しい顔で躱されたことに苛立ちを覚えたリアスが、最初に言うべきだった言葉を言い放つ。

涙目で。

 

「ここから出て行きなさい! 話はそのあとじっくり聞くわ!」

 

ぽーい、と小猫に放り出されたナイン。

その後バタンと、かなり強く閉まった女子更衣室のドアを見て頭を掻く。 なんとも遣る瀬無い表情になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうも」

「どうもじゃないわ。 もう、いきなり覗きだなんて。 あなたそれでも英国紳士?」

「実は私、ドイツ出身です。 いるんですよねぇ、キリスト教会所属だったからって英国人と間違われる」

「え、ウソ――――って、そんなことはどうでもいいのよ! 問題は、あなたがどうしてここにいるのか聞いているの!」

 

更衣室を出てプールサイド。

綺麗な紅髪を振り乱したり、両手で口元を覆って驚いたり、バリエーション豊かにころころと表情を変えるリアスは安そうな独りコントを展開していた。

その光景にナインは両手をポケットに突っ込んで苦笑いする。

 

「いやぁ、ゼノヴィアさんに連れて来られたんですよ」

「え…………あ、そういえば、あのマンションって…………」

「あれ、家賃の支払いは私が済ませていましたからね。 どうやら管理会社が悪魔に変わって賃金の変動があったようですが」

 

そう言ってナインはプール内に目を向けた。 すでにリアス以外の眷属たちがブラシなどでプールの汚れを掃除し始めているのを見て、やがて視線をリアスに戻して肩を竦める。

 

「ゼノヴィアさんの言うには、私もこの交流に加わって欲しいと言うのですがねぇ。 見たところ、私が入り込む隙など無いように見える、それでどうしようかと思案に明け暮れまして」

 

明け暮れている内に、ゼノヴィアが自分をここまで引きずって来てしまったのだと説明した。

 

「………………」

 

ジト目でナインの真偽を確かめるように舐めるように見回すリアス。 上目使いでまたじっと睨んだ。

両手を腰の後ろで組んでナインの後ろから顔を出す。 ナインはそのまま横目で視線を交わした。

 

「なんですか?」

「入れて欲しい?」

「はぁ?」

 

素っ頓狂な声を出すと、リアスが意地悪そうな笑みを浮かべた。 ナインの赤いスーツに覆われた胸板をツンと人差し指で押す。

 

「いやだから、私は別に…………」

「私は別に構わないわ。 朱乃はどう反応するか分からないけれどね」

「いいんですか?」

 

するとリアスは微笑んでナインの手首を取った。

ナインのぶらんとする手を開けて、リアスはその中に描かれた紋様を指でなぞる。

 

「錬金術って、便利よね」

「私としてはあなた方の力が万能すぎて眩しいですがね。 とりあえず、あなたが何を言おうとしているのか分かりました」

 

片目でリアスを見る。 ニヤリとしてナインに笑顔を投げかけた。

 

「それじゃあ、お願いできるかしら」

 

お嬢様風美人の悪戯な笑みを含めた頼み事。 上目遣いもいちいちあざとい。

 

「…………」

「ありがとっ」

 

ふっ、と息を吐いて肩を竦めたナインを見て肯定と受け取ったリアスはニコリと微笑んだ。

 

みんなー、とプールの中で掃除をする仲間たちに声を掛けるリアス。 ナインはその場で早速、プール内の壁に陣を描き始めた。

錬成陣発動のファクターとなる円を描く。 定義は苔や塵などの有機物。 あとは簡単に廃棄物を処理できるだけの…………炎。

 

その錬成陣に、手を――――触れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さ、みんな。 思う存分泳ぎましょう」

 

ナインの使う錬金術によりプールの汚れを一掃したあとは早いものだった。

これだけ大きいプールに水を張るのも普通ならば相当の時間を擁するものだが、朱乃の魔法によってすぐに溜まった。

 

これだけ手軽なのは、さすが魔力が充実した悪魔といったところだろう。

 

「錬金術クリーナーと言ったところかしら。 助かったわナイン」

「まぁ、これくらいなら安いものです」

 

プール内を一時炎の海と化したナインの錬金術は、いまでは透き通るような水が張ったプールに早変わりしていた。

 

「あなたは水着、持ってきていないの?」

 

そう言うリアスの白い水着姿を一瞥したナインは、表情を変えずに頭を掻いた。

 

「ふむ、買わないとありませんねぇ」

「あら、それじゃあ交流できないんじゃない?」

「私はこれで結構ですよ。 そこら辺に座って見学しています」

 

スーツの裾を捲り上げて近くのベンチまで歩いていくナイン。

胸の下で腕を組んだリアスは、困ったように顎に手を当てる。

 

「なにか、悪いわね……無理矢理付き合せちゃった……かしら?」

「…………そのことならばお構いなく」

 

独り言のつもりだったが、ナインには聞こえていたようで彼はその場で立ち止まっていた。

 

「私も人間だ。 そこのところは割り切って楽しむことはできる。

あなた、私を本当にただの爆弾好きだと思ってません?」

「違うの?」

「………………」

 

額に指を当てて考え込んでしまうナイン。

彼の意外な一面を見て関心半分、疑問半分を抱いてしまったリアスは、くすっと吹き出した。

ナインはそんなリアスを見てプールサイドに視線を向けて口を開く。

 

「私などと話している間にも、皆泳ぎ終わって寛いでいるようですよ…………行かなくていいんですか?」

 

低い声音で不敵に笑う。

 

「そうね」

 

凛とした可憐な声音でそう言うと茶髪の少年のもとまで歩き始めた。 しかし数歩歩くと立ち止まり、豊満な胸を揺らしながら振り向く。

 

「期待はしていないけれど、どう?」

「なにが」

 

そのあまりにも気の利かない返答に溜息をリアスは吐いた。 ああ、この男はさっきから……イッセーと違ってなんて鈍感で無頓着で――――

 

「…………惚けているのか、本気で眼中にないのか、先ほどから甚だ疑問よ? いまのあなたに感じるのは」

「ああ…………そういうこと」

 

昔から、女性の水着を見たら、世辞でもいいからまず褒めておけという言葉はある。

 

「え~っと」

 

自覚はあるのか否か。 そんな社交辞令的なものをもナインはそのまま素通りしていた。

 

「綺麗ですよ」

 

くびれた腰に突き出た乳房。 なるほど、彼女は絶世の美女なのだろう。

染めてもいない天然ものの紅髪は、ナインの今着る赤いスーツを連想させ、脚線美もモデル顔負け。 しかし、やはり――――

 

ナインの返答は、リアスにとって手応えを微塵も感じられなかった。 いや、感じたからと言ってリアスにとってはさほど重要度が高いわけではない。

 

ナインに好意を持っているわけでもないし、いまの彼女の中には別の少年が棲んでいた。

が、女としてのプライドはあの黒猫と同様。

 

すれ違っただけでも自分を目で追ってくる異性。 絶句してその美しい容姿に羨望の眼差しを向ける同姓。

リアス自身鼻にかけているわけではないが、ある程度の自信はあるし、何より、振り向かれないことの方が少なかったゆえの感情。

 

「棒読みすぎ……ま、期待はしていなかったけれどね。 いざなんとも思われていないと解ると堪えるわね」

 

つかつかと早足でもう一度ナインのもとに歩み寄り、そして彼の胸を片手でトスンと押した。

むっとした表情でリアスはナインを細めた目で見つめる。

 

「悔しい」

「やれやれ、なにも私に色気なぞかけなくても、あそこに解り易い少年がいるじゃないですか」

「わ・た・し・は!」

 

すると、リアスはそのままナインに詰め寄り――――両頬をぐいーっと力強く引っ張り始めた。

 

「悔しいと言っているのー!」

「どうしろと」

「うぐ」

「おっぱい大きい? て言えばいいんですか?」

「それ褒め言葉じゃないし…………いえ、場合によっては褒め言葉なのでしょうけれど、なんだか納得いかないわ………………」

 

ずーんとその場でへこむリアスの背中をパシパシ叩くと、そのままナインは踵を返す。

 

「ひょ~うど~うく~ん」

 

ベンチでジュースを飲む茶髪の少年―――兵藤一誠の肩を叩いた。 親指で後ろを指した。

 

「あれ、よろしく」

「お前、ナイン――――って、部長! どうしたんですかぁぁぁぁ!?」

 

よっ、と一誠の投げ渡してきたジュースをキャッチする。

あー、と蓋を開けて豪快に胃に流し込むと、薄ら笑いをしながらそこに座り込んだ。

 

「ふーん…………」

 

とん、とん、とこめかみを指で叩きながら背もたれに寄り掛かると、リアスと一誠の二人を自分の指でまとめて囲んだ。

カップリングのように指で囲んだ二人の異性。 ナインは首を傾げる。

 

「女、女…………異性、ねぇ。 どうにもピンと来ない」

「――――そういうのは、意識するものではなく、『正常な』男性ならば自然の摂理と同じくらい簡単ですわ」

 

氷をガリガリと噛み砕く音だけが反響する中、ナインの目の前に朱乃が佇んでいた。 いつもの笑顔は無い、真剣な顔でナインを真っ向から視線で貫く。

 

「ん? ああ、姫島さん。 先日はどうも」

「…………」

 

ぎし、とベンチが鳴り、二人目の同席者をナインに知らせた。 水着姿の朱乃は、横目でナインを見て―――逸らして正面を向いた。

 

「私、少し怒っているのよ」

「おお…………」

 

いつも物腰柔らかな敬語が印象的だった大和撫子の彼女に、ナインは少しだけ驚いた。

ここに来てため口。 普段敬語の人がため口を利くと、信頼の証だと人は言うが……。

 

「…………」

 

このとき、この場面は違った。

それが解っているナインは、さすがにどもる。

 

「や、やぁ、あのときはすみません。 仕方なかったんですよ、ちょうどいいところに居たので…………」

「…………」

 

返答が無い。

 

「ひ、姫島さ~ん…………?」

 

滅多に見れないナインの狼狽えた顔、半分開いた口。

そーっと、朱乃の顔を覗こうと前屈みになると、彼女はいきなり顔を上げた。

 

「ふふ」

「おお…………今度は笑顔。 なんだか怖いですねぇ。 う、裏がある…………絶対、裏が…………」

「うそ、気にしていませんわ。 少し驚かしただけ。

昨日の敵は、今日の友と言いますわよね?」

「…………割り切りますね」

「別に、あなたを少し誤解していただけですわ」

 

優しげな顔でナインを見詰めた。 朱乃は口元を緩ませて言葉を続ける。

 

「ただの戦闘狂なつまらない人かと思いましたが。 きちんと理性もあるようですし、急場な状況で冷静に振る舞える気性も持ち合わせている…………そういう人、大きな声では言えませんがリアスの眷属にはあまり居なくて」

「…………ん? グレモリーさんがそのように見えますが」

 

首を横に振った。

 

「いざ窮地と解ったら取り乱してしまう人がほとんど……私も含め、あのコカビエルとの戦いはただ突っ立っている案山子も同然でしたわ。 役に立てなかったのは本当のことです」

 

少し、朱乃がナインに近寄った。

 

「ふ~ん」

 

気の無い返事をすると、また朱乃は笑い出す。 上品に手で口元を押さえて肩だけ揺らす。

 

「ふふ、本当にあなたは飾らない人ですわね。 褒められたらもっと謙遜するかつけあがるかどちらかですのに」

 

うふふ、と笑う朱乃にナインは目元を引く付かせた。

 

「あ…………」

「どうかしました?」

 

いま思い出した。

ミカエルが言っていた姫島神社は、おそらくこの人に関係する。 言おうか、言うまいか、少し迷ったが――――挟む程度にナインは答えた。

 

「そういえば、あなたに少しお話があるのですがね」

「ん?」

 

首を傾げる朱乃。

 

「近い内に、姫島神社にお邪魔することになっているのですよ、私」

「まぁ…………どこでその神社を知りましたか?」

「詳しくは話せないのですがね…………」

 

(まだ話していない、ということですかミカエルさん。 というか、当の本人に知らせてないって…………)

 

「とにかく、後日お伺いすることになっているので、そのときはよろしくお願いします」

「はぁ…………」

 

納得いかない、というか事情がなんだか解らない朱乃にとっては疑問符が尽きないだろう、それも当然。

ナインは中途半端に話したことを少しだけ悔やんだ。

 

(やれやれ、ミカエルさんも人が悪い…………)

 

「朱乃、ちょっと来て頂戴」

「はい部長。 じゃあ、部長が呼んでいるので私はこれで」

「はいは~い、いってらっしゃーい」

 

パタパタと走って行く朱乃。 ナインはそのままベンチに寝転がった。

 

(まったり……ですねぇ。 たまにはこういうのもありか)

「やあナイン」

「ん」

 

寝転がるナインの視界に突然映ったのはゼノヴィアだった。 青髪が垂れてナインの頬をさらりと撫でる。

よく見ると、ゼノヴィアの水着もリアスや朱乃に負けず露出が多い。

 

「…………近い」

「ダメか?」

「別に」

「ならいいだろ?」

 

ナインの寝転がる頭の隣に座った。

 

「なぁ、ナイン。 さっきは嬉しさのあまり聞くのを忘れたが――――お前はこれからどうするつもりなんだ?」

 

ナインの頬を手で撫でながらゼノヴィアはそう言った。

 

「…………」

「なぁ、お前が良ければ、私からリアス部長に言って――――」

「それは無いねぇ」

「ま、まだ最後まで言ってないだろっ」

 

むぅ、とナインの頬を両手で挟むと、鼻で笑ってきた。

 

「この短期間であなたを眷属にしたリアス・グレモリーだ、それくらい私も予測できる。

眷属になり、この学園で楽しく生きようと言うのでしょう」

「………………」

 

図星……というようにゼノヴィアは手を頬から離す。

実際ゼノヴィアは心苦しい。 異端となって追放された者同士だが、ゼノヴィアは運良くリアスに見初められ眷属になった。

 

イリナは教会にこれからも忠誠を。 しかしナインは? ナインはどうなる。

 

同じ追放された者なのに、自分だけ早く安全圏に引っ込み、ナインはいまや在野。

働き手もない、拠り所もない。 縋るようにゼノヴィアはナインを見た。

 

「なぁ、ナイン…………」

「私はいまはこれでいい」

「…………」

 

ゼノヴィアは、無意識にナインの頭を自分の膝上に乗っけていた。

突然自分の頭が宙に浮いたと思ったら、今度は物凄く柔らかい肌触りと感触を感じてナインは片目を開く。

 

「…………これくらいはいいだろ」

「ふっ、物好きですねぇあなたも」

「悪魔になろうと…………いや、悪魔になったいまだからこそ解る。

私の本能がお前を…………欲しているんだ」

「…………」

 

沈黙が訪れる。 きっかけは些細なものだった。 聖剣奪還の任務の際、コカビエルを深追いして窮地に陥った。

そのとき、イリナがフリードに犯されそうになった危ないところでナインは現れた。

 

「…………っ」

 

胸が苦しい。

不謹慎で、イリナが聞いたら怒るであろう。

 

「お前がイリナを助けたと聞いたとき、私がフリードに襲われれば良かったかなと、思ってしまったくらいなんだ」

「ふーん…………………………って、え?」

「本音だ」

 

真顔でそんなこと言われても、とナインは困惑する。

 

「あなたも随分乙女になったものだ。 いや、悪魔になって、神への狂信が少しだけ欲望に向いているのか」

「そうだ、欲だ。 性欲だ。 私という雌は、お前という雄を欲しがっている」

 

ナインは起き上がると、ベンチから立ち上がった。 横目でゼノヴィアを見て言う。

 

「それがあなたの悪魔としての欲求か」

「ああ。 言っただろ。 リアス部長は、悪魔になったのなら、欲望のまま生きてみろと言った。

いま私がやってみたいことは、子孫をつくることで――――お、おいナイン、まだ話は――――」

 

むくれるゼノヴィアを放置してナインは向こう側に歩いて行ってしまう。

溜息を吐きながら欠伸をした。

 

「くだらない感情論。 ゼノヴィアさん、あなたも所詮、倫理の枠に嵌められた生き物と成り果てましたか」

 

『結局アンタは、ずっと一人』

 

あの少女の言葉を思い出し、ナインは苦笑した。

 

「そうだ、私は一人。 私を理解できるのも私一人だ、それは自覚しています」

 

流れるように過ぎ去った一人の少女の告白は一蹴される。 いや、これが本当に告白とは思わないが、少なくともゼノヴィアの言っていたことは「そういった」意味であったであろう言動だとナインは理解していた。

 

だが、ダメだ。 強靭な精神と屈折した理念を持つナインを振り向かせるにはこれでは足りない。

 

「まぁ、気持ちは受けておきますがね」

「ゼノヴィアさんに何かしたんですか?」

「む?」

 

澄んだ声色が聞こえる。 鈴の音のように高く、濁りの無い音色のような声。

それにナインは振り向いた。

 

「…………」

 

アーシア・アルジェント。 金髪の少女が、震えながらもナインの目の前に立っていた。

 

「ふふ…………はっ」

「ひっ…………」

 

少し笑っただけなのに、その笑い声がアーシアにとって恐怖の対象。 ナインはその反応を面白がりながら首を横に振る。

 

「特に何も。 少なくとも、他人に口外するような事柄でもないのでね。 しかし安心してください、ひどいことはしていません」

「本当ですか?」

「あなたに誓って」

 

すると、汗を握った手をさらに握るアーシアは、ナインに疑問を投げた。

 

「ゼノヴィアさんから大体のお話はお聞きしました」

「おお、ならば仲良くしましょう」

 

そう、手を差し出されたナインの手を、アーシアはじっと見つめたままやがて正面を向く。

 

「私、まだあなたが怖いです」

「ふむ」

「あなたが牢に連れられるとき、あなたのその冷たい目を見て、心底ぞっとしました。

これが、罪を犯した者の目なの、と」

 

金色の瞳とチラリと視線交わした。

震える声でアーシアは言葉を搾り出す。

 

「とても綺麗な瞳でした。 黄金に輝き、生気を確かに感じる希望の光。

それはつまり、罪の意識が無いということですね」

「ふぅ…………」

 

やはりこの少女の観察眼は侮れない。 伊達に聖女と呼ばれてきた少女ではないようだ、とナインは心底感心する。

肩を揺らして低くせせら笑った。

 

「あなたは強いなぁ。 いいえ、これからもっと強くなる。 その姿勢、思想(イズム)、貫き通せば悪魔などという壁を打ち壊し、本物の聖女になれる」

「私は、悪魔です」

「限りなく聖女に近い、ね」

「―――――っ!」

 

キッと、睨み付けてくる。 ナインにとっては心地いいほどの涙目だが、彼女は決死の覚悟だ。

初めてナインの瞳を見てから金色の瞳が怖くなってしまった。 しかし彼女は前に進む。

手を伸ばせば触れられる。 それほどの距離を保ってアーシアはナインに負けじと対峙した。

 

「いいねぇ」

 

通りすがり――――頭に手を置かれるとビクっと縮こまるが、それだけだった。

無意識に、手を置かれた頭に自分の手を置くアーシアは、ナインの後ろ姿を見送ることしかできなかった。




最近、原作主人公側じゃないだけでアンチ扱いする方が急増していると聞いて嘆いている作者。 これはアンチ作品じゃない!(震え声)

リアスたちをいじめるのはそこまでだ☆ 美少女だろ、美少女なら何しても許されるんだよ(錯乱)

ちなみに、話しが変わって申し訳ないですが、ミカエルからの贈り物というのは作者内で決定しています。
賢者の石ではないことは確かです。 期待していた方はすみません。 そこのところはオリジナルを出していきますので予めご了承のほどをよろしくお願いします。

その贈り物が、ナインのこれからの戦法に大きく貢献するのです。 贈り物イベントを踏破したら近々、人物紹介のようなものを書こうと思っています。 いつになるかはわかりませんが、本編と交えてひっそり一話分使って投稿するかもしれない。
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