紅蓮の男   作:人間花火

16 / 52
今のところ週一単位で更新できていますが、難しいです。 日常会話とか描く日にゃ、作者がコミュ障だから台詞が思い浮かばない。

自分より頭の良いキャラクターを描くのって、不可能じゃね? と思った残念作者でした。
では、16発目、どうぞ。


16発目 異なる考え

一誠たちと別れたリアスは、朱乃と廊下を歩きながら思い詰めた表情をしていた。

 

それというのも、先の白龍皇についてだ。

数分前に彼の者と対峙したときに感じた、絶望的なまでの実力差。 いまの自分たちでは、束になっても敵わないであろう伝説の二天龍の一匹。

 

「部長、大丈夫ですわ」

 

そう言う朱乃も、心配そうにリアスの顔を覗きこんで不安を拭おうと努めていた。

 

「…………この街にはお兄さまも来ているし、ナインの言う通り下手に手を出してくることは無いと思うけれど……どうしても不安になるわね」

 

ナインの介入で事無きを得たが、相手は白龍皇。

古の大戦では天使と悪魔と堕天使、その頭たる神や魔王に物怖じすらせずに挑みかかった。 ドラゴンの中でも傑出した最強の怪物だ。

 

三大勢力が血で血を洗う戦争をしている中、その戦争圏内に入り込んでまで大ゲンカを続けたドラゴン。 それが、赤い龍――ウェルシュ・ドラゴン「ドライグ」と、白い龍――バニシング・ドラゴン「アルビオン」だ。

 

どの勢力も彼らドラゴンの強大な力には敵うべくも無かった。 いまになって考えてみれば、その思わぬ邪魔者(ドラゴン)のおかげで、三大勢力はいまの関係にまで収まっているのだが。

 

終戦後、いまは亡き聖書の神の持つ神器に封印され、人間に宿っては戦い、宿主が死ねば離れ、また宿るを繰り返している。

肉体を失おうとも、その滾りや生命力は常軌を逸するものゆえに、封印されても何回も出会い、戦う。 まさに戦いの権化と言えるドラゴンだ。

 

それほどまでに、この二匹のドラゴンの存在は巨大で強大。

 

本来ならば、その赤い方のドラゴンの宿主である兵藤一誠が、現在の白い方――――ヴァーリの抑止力にならなければならないのだが…………。

 

「…………いまはダメでも、いつか――――」

 

勝てると信じている。

強くなるには時が必要。 中のドラゴンを目覚めさせるのも、禁手に至ったのも、すべてヴァーリに遅れを取ってしまっている。 いや、神器に目覚めたのもヴァーリより遥かに遅延している。

 

だからこそ、一誠とヴァーリの正面衝突は避けたい。

堕天使に養われているとはいえ、油断はできない。 その首輪ですらも千切りかねないのが二天龍なのだ。

 

「それにしても、さっきのナインには助けられたわね」

「本人は助けた自覚など無いようでしたけれど…………」

「下僕たちも頑張ってくれていたようだし、私も少し見習わなくてはいけないわね」

 

溜息を吐いたリアスは少し微笑む。 安息の溜息が、朱乃の顔も綻ばせる。

 

ヴァーリが退いたのは、最初からやる気が無かったから。 と解釈することもできるが、それにしても限りなくアウトに近いグレーゾーンだったのは間違いない。

 

あそこで祐斗とゼノヴィアの介入が無かったら一誠はどうなった。

 

直接攻撃はしなくとも、ヴァーリが一誠にではなく、一誠の中に宿るドライグになにか刺激を与えてしまっていたらどうなっていたか。

 

ヴァーリがこちらに一瞬向けた不敵な視線を思い出す。

 

「宿命は逃れられないのね、イッセー」

 

そう思い詰めるリアスだが、ふと思い出したように顔を上げた。

 

「イッセー、大丈夫かしら」

 

ドラゴンの気に中てられたイッセーは、あのあとすぐに保健室に行かせた。 午前中の授業はそのまま飛ばされる形になるが、緊急なので仕方が無い。

 

それよりも、リアスは同行していった男のことを気にかけていた。

 

「ナインが何もしないと良いのだけれど…………」

 

 

 

 

 

 

 

「リアス・グレモリーの乳房に力を譲渡したらどうなるか?」

「おう」

 

駒王学園、保健室。

ベッドに寝る一誠は、カーテン越しの椅子に座っているナインと話していた。

校内の予鈴が鳴り終わると、ナインはその「よくわからない」話を続ける。

 

「あなたの神器が、十秒に一回、あらゆる力を倍加する能力なのは分かりました。

しかし、それでどうしてそういった話になるのか」

「この『赤龍帝の贈り物(ブーステッド・ギア・ギフト)』って力はなぁ、何も戦いの為だけのものじゃねぇんだよ! 男の夢を倍加することもできるんだぜ!」

 

得意そうに言う一誠。 上手いことを言ったと思っているのか、かなり得意げだ。

 

ベッドに寝ると言っても寝転がるだけ。 実際、左手に負荷がかかりすぎたために休養しているのであって、眠っているというわけではなかったのだ。 それに、その方がナインにとって話相手ができていい暇潰しになるのだ。

 

「………………」

 

しかし、どうにもこの二人の会話は、趣味嗜好等が見事に噛み合っていない。

 

「部長のおっぱい、お前も見てなかったわけじゃなかったんだろ?」

 

そう聞かれて顎に手を当てるナインは、足を組んで考え込んだ。 ピンと、人差し指を立てる。

 

「まぁ、彼女の際立った特徴といえばそれくらいでしょう。 あと髪」

 

そうだ、とさらに弁に熱が入る。

 

「あの大きなおっぱい。 至高のおっぱい! 形良し、そして張りもあるあのおっぱいに、俺の倍加した力を譲渡したらどうなるか…………俺は昨日、それを思い浮かべようと努めたがまったく想像できなかった!」

「あなた自身が開発した技ではないのですか?」

 

どんどん辟易していくナインだが、ここは大人の対応だろう。 なんとか気の利いた返答をして話を途切れさせない。

 

「この考えはな…………部長のお兄さん、魔王サーゼクスさまの提案なんだ。 昨夜、一緒に寝るときに俺に伝授してくれたんだ」

「なるほど…………」

 

どうやら冥界の王はプライベートではずいぶんと軽快に舌を転がせるようだ。

それにしても、兄が妹の躰について語るとは、中々ない趣向である。 ナインはニヤリと笑った。

 

「私の錬金術でも、膨らませることはできると思いますよ」

「ば、バカヤロー! んなことしたら膨らんだあと破裂して終わりじゃねえか! 笑えねえよ!

つか、お前に部長のおっぱいは触らせねえ!」

 

すると、ナインは残念そうに肩を竦める。 実際笑えない話であるために、一誠はナインを咎めた。

 

当然だ、この男の両手は、爆発させるためだけに刻まれた狂気の錬成陣形。 おそらくはナインの技量ならば膨らませるだけでも可能であろうが、そもそもそういった中途半端な選択肢を持たないのがナインの錬金術だ。

 

「しかし兵藤一誠、大きいのも善し悪しです。 大きければその価値が絶対に上がるというものではない。

それに、未だろくに神器の制御もできないあなたでは―――――」

「いや、俺ならできる」

 

根拠は、と苦笑して聞いた。 一誠はカーテンを開けてナインの肩に手を置いて目を輝かせる。

 

「エロに対してなら、俺は誰にも遅れは取らねえ自信がある。 そして――――エロがあればなんでもできる…………気がするんだよ!」

「奇乳になど成った日には目も当てられません。 止めておいたほうがいいですよー」

 

現状維持でいいじゃないか、何をそんなに躍起になるのか、とナインはやれやれと一誠の手を自分の肩からどかす。

 

「ふむ、しかし意外だ。 あなたは気の多そうな男に見える…………姫島さんどころか、塔城さんなどの眷属には一通り手を出したかと思えば…………本命であろうリアス・グレモリーにすら手出ししていないとはね。

優しいのか、単に甲斐性無しのヘタレなのか…………」

「う、うっせ…………どっちでもいいだろが」

「ヘタレか…………」

「そんな残念そうな顔で俺を見るな! そうだ、ヘタレだよ勇気出ねぇんだよ文句あるか! 俺だってなぁ、一日でも早く童貞を卒業してぇよ!

後、一歩―――――――あと一歩が踏みだぜね゛ぇ゛ん゛だよ゛ぉ゛ぉ゛ぉぉぉぉ…………!」

 

最後は消え入るような声で、現実に引き戻された一誠はナインの目の前で頭を抱えて項垂れる。

そんな一誠の肩をポンポンと優しく叩くナインは内心苦く笑った。

 

(ヴァーリも物足りないでしょうにねぇ。 兵藤一誠も、つくづく不幸の星の下に産まれた人ですよ。 いや、この場合五分五分というべきか)

 

美少女に囲まれて、そして憧れの女性に可愛がられる。 思春期には嬉しくないわけがない。

しかし、いつの間にか震える体を止め、真剣な顔で迫ってきた一誠にナインは眉を上げる。

 

「そういえば、ゼノヴィアとはどうなんだよお前は」

「え? どうもしませんよ」

「嘘だ! 絶対嘘だよ俺でも解るもの!」

「何が」

 

迷惑そうに一誠の捲し立てに対応するナインは首を傾げた。

 

「気づいてない!? かー、ダメじゃん! あいつ、俺を見るときとお前を見るときの目の色が明らかに違うもん!」

「もんって…………」

「熱い視線、お前は冷めすぎてて気づいてないみたいだな」

 

そのとき、プールでのゼノヴィアの言動と行動を思い出したナインは得心した。

 

「ああ、そのことなら断りました」

「そーかそーか、気づいてないか。 なら教えてやる―――――って、ええ!? もうそこまで発展!? というか断ったっておま…………」

 

ナインの発言にオーバーに驚く一誠は、恐る恐る聞いた。

 

「…………まさか、お前ホモなのか!?」

「そういうわけではありませんよ。 ただ…………」

「た、ただ?」

 

生唾を呑み込む一誠。 ゼノヴィア程の美少女を振るなんてこと、彼自身にとっては考えられない愚行だ。

他に想い人が居れば別だが…………。

 

(ナインの奴…………ゼノヴィアから聞いた話だと、俺たちと同い年で、部長よりも年下だって)

 

そんな若く、青いはずのナインが、可愛い女の子の誘いを断るなど据え膳を放置するも同然だ。

最近、祐斗の様子もおかしいし、それと同じ傾向だと同性愛というのも邪推せざるを得ない。

 

しかしナインの紡ぐ言葉には、一片の曇りもなく――――次に続く言葉に驚愕しないわけが無かった。

 

「三度の飯より爆弾が好きで…………眠ることよりも爆弾が好きで――――」

「は…………」

 

一誠の口が徐々に開いていき、呆けたように乾いた声を出す。

 

「異性との睦み事よりも――――爆弾が好きなのです。 これに偽りは無い」

「――――ってことはなにか、お前っ」

「人間というものには三大欲求というものがあるでしょう? 大体それらがヒトの欲求の頂点の三柱である」

 

まるでそれが人生のすべてあるかのように、ナインは片目で流し目を作る――――自分に、嘘は吐かない。

 

「私の中で、その欲求というヒエラルキーの頂点が爆弾で、次点で三大欲求――――つまり、睡眠欲、食欲、性欲が位置しているのです」

「ここに木場級に残念なイケメンがいる。 ゼノヴィアも難儀すぎんだろ…………」

 

かくん、と肩を落として溜息を吐く一誠。 自分の周りの男はどうしてこうもろくなのが居ないのかと落胆した。

すると、ナインは椅子から立ち上がる。

 

「そういうことなので、ゼノヴィアさんはいりません」

「な――――――」

 

一瞬、耳を疑った。 こいつはいま、なんて言った?

保健室の空気が一気に下がる。

 

「お前…………その言い方はねぇんじゃねぇのか?」

「?」

「お前を想ってくれてる女に対して、その言い方は――――!」

「なぜ?」

 

息を呑んだ。 常識外れな会話になっていくこの状況に、一誠はついに困惑し始める。

 

「私は私のやりたいように生きるのだ。 そもそも、なぜ私が一介の女性に振り回されなくてはならないのか」

「………………」

「私は私だ。 それとも、逆の立場でもそれを女に望むのか」

「て…………めぇ!」

 

それを言うのか、言ってしまうのか。 女が男を好きになることと、男が女を好きになることは確かに同じことだ。

だが、そこまで突き放すようなことを言う事ないじゃないかと一誠は激昂していた。

 

女は男と違って、変な部分で弱い生き物。 外見は強く振る舞えど、些細なことが切っ掛けでその我慢の堤防が決壊してしまうことがあるのだ。

 

なにより、常識からしてこの男は協調性というものが微塵も無い。 共に在るためには、共に生活していくためには、思いやりというものが必要不可欠だ――――にも関わらず、その不可欠な部分を完全に捨て去っている。

 

「…………お前らがヴァチカンに帰国してる間なんだがよ。

部長から聞いた話がある。 というか、部長がわざわざ調べたんだよ」

「ふむ?」

 

何を? と首を傾げると、一誠はナインの胸倉を掴み上げる。

 

「錬金術師ってのは、基本利己的な生き物だって言ってた。 その通りだなお前は」

「なるほど、グレモリーさんはそこまで私を意識していましたか」

「部長は、もしそれがお前に当て嵌まらなかったなら、近々眷属に迎えたいと言ってた!

そこでゼノヴィアとお前が異端追放されたって聞いて、部長は少し喜んでた! ちょっと不謹慎だとは思ったが…………」

 

胸倉を掴みつつ、一誠はナインを宙に浮かせようとする――――が、掴み上げる一誠の手を抑え、紙一重のところでナインの足は床から離れない。

 

「ふふ、その憤りは正しい。 あなたは優しい男ですね、兵藤一誠。

ゼノヴィアさんが眷属になったいま、一番近しい男性はあなたということになる。 いいですよ、そこまで彼女が可哀そうと思うなら、あげます」

「いい加減にしねぇとマジで殴るぞお前…………」

「どうぞ?」

 

その瞬間、拳がナインの頬を捉えた。 遠慮は無い。

その一撃はナインを床に叩き伏せ――――

 

「………………」

 

――――なかった。

胸倉を掴まれながら無防備にパンチを食らったにも関わらず、ナインはその場で踏み止まっていたのだ。

元一般人とはいえ、悪魔の一撃を人間が生身でまともに…………。

床とは思えない大きな地鳴りとともに足の裏で床を掴む。

 

そして、口元の血を拭きながらナインは笑った。

 

「ああ………………ふぅ。 覚えておくといい、兵藤一誠くん。 私のように人格が破綻した人間など、そう珍しくもないのですよ。 これから悪魔として生きていくのなら、少しずつ知って行けばいい――――この程度で頭に血を昇らせていては、身がもちませんよ、耐性を持ちなさい」

「そんな耐性いらねぇ!」

 

殴られたのにニヤニヤ笑うナインに益々イラつく一誠。

これは至極当然の展開だ。 それだけのことを、ナインは口走ったのだから、一誠には何の非も無い。

手を出した方が負けという世論もあるが、これは例外だろう。

 

「…………ゼノヴィアは、お前が好きなんだ。 それだけ、絶対忘れんな」

『なるほどなぁ、清々しいほどにクズな人間のようだな、紅蓮の錬金術師』

「ドライグ!?」

 

一誠の左手が赤く光ると、その主がその声を上げる。 二天龍――――ドライグ。

 

『こんな奴を解放するなんて、いまの教会は本当に馬鹿ばかりだったようだ』

「どうも二天龍。 お話するのは初めてか」

『確かに、お前のような奴は珍しくなかった』

 

そう、一誠の左手を介しドライグは話を続ける。

 

『だが、そういう奴は…………過去誰一人、ろくな生き方をした奴は居ない。 死に方もそれはもう惨たるものだった』

「ふーん」

『お前ほどに知識が豊富で強い奴が、なぜ神器に選ばれなかったのだと、お前を見た当初疑問で仕方が無かったが……いま解った』

 

そのとき、ドライグの声が険しくなる。

 

『神器が宿るのは、天文学的確率か、能力がずば抜けて高い者に宿る代物だが…………お前はそのどちらも凌駕するほどの、神嫌われ者だったということか』

「………………」

『…………お前のような奴が、どこまで生きられるかこの先見物だ』

「伝説のドラゴンにこの先を見られるとは嬉しいなぁ」

 

すると、ナインはふと腕時計を見て、保健室の時計を見た。

 

「それだけの気力があればもう大丈夫でしょう。 兵藤一誠、あなたは教室に戻っては?」

「………………分かんねぇよ……マジで」

 

駒王学園の制服の上着をナインからふんだくった一誠は、そう呟きながら保健室を出て行く。 それを見送り、ナインは自身も上着を片手に翻し、部屋を出て行く。

 

午前中の授業終了のチャイムが鳴ったのは、二人が出て行ったすぐ後だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………あら、ナイン?」

「ん…………?」

 

学園裏庭階段前。 昼休み時。

学園中をほっつき歩いたナインは、裏庭に差し掛かったところで意外な人物に呼び止められた。

 

「リアス・グレモリー…………?」

 

リアスだ。 階段の前で話し込んでいるが、その相手もナインに振り向く。

赤い縁の眼鏡が特徴的な女子生徒だった。

 

「ジルハードくん…………」

「…………どうも、ソーナ・シトリーさん」

 

その場には、リアスと朱乃、ソーナが居た。

だが、ソーナの隣に居る人物にはナインは覚えがなかったため、質問する。

 

「彼女は?」

「ええ、こちらは、生徒会の副会長。 そして、眷属でもある――――」

「真羅椿姫と申します」

「…………ナイン・ジルハードです、よろしく」

 

会釈程度に挨拶を済ませる。

 

「椿姫には私の『女王(クィーン)』の駒を使っていて、この学園の薙刀部の主将でもあります」

「ほぅ、それはすごい。 長物を扱えるのですか」

 

椿姫は眼鏡をくいっと上げて少し照れる。 スタイルも良く引き締まっている。 主のソーナよりは体の凹凸がはっきりしているところは、鍛錬を欠かしていない証拠だ。

 

「それで、ここでなにを?」

 

リアスに向いていたナインだが、ソーナが近寄ってきて言った。

 

「先ほど、兵藤くんにも聞いたのですが、白龍皇に会ったそうで」

「ああ、ええ、まぁね」

 

片手をポケットに入れてナインは返答する。

 

「今のところ、監視も必要ない存在ですよあれは」

「それはやっぱり、堕天使の紐付きだからかしら」

 

リアスがそう聞くと、ナインは頷いてソーナに向いた。

 

「はい、彼は戦闘狂ではありますが、聡明である。 こんなところで騒ぎは起こさないでしょう――――何より、いまの赤龍帝に不満があるようですしね。 しばらくは泳がせてくれるんじゃないですか?」

「泳がせる?」

 

リアスが眉をひそめると、ナインは手を振って笑った。

 

「戦闘狂というのは、相手が強ければ強いほどその闘争心を燃え滾らせる。 いまの赤龍帝では遊び相手にもならないと思っているなら、強さが極限になるまで放置を決める――――ああいう手合いなら、これは常套手段ですよ。 その方が楽しいですからね」

「…………舐められている、ということですか」

 

ソーナまでもが眉をひそめる。 舐められているのは気に入らない。

一誠は赤龍帝である前に悪魔でもある。 同じ種族がそのように舐め切られるのは面白くないのだ。

しかしまぁ、とナインは息を吐く。

 

「私はそういう思想は理解できないし、この先理解したくもないですがね」

「でも、悔しいけれど白龍皇のその気質のおかげで、イッセーとは未だぶつかっていないのだから私は安堵するわ」

「まぁ、頑張ってくださいね」

「他人事よね」

「他人事ですから」

 

むぅ、とむくれるリアス。 少しくらい助けてくれてもいいじゃない、と。

 

「ジルハードくんは、白龍皇とはどうだったのですか? 校門前で白龍皇の不審な行動を阻止したのはあなただとリアスから伺いましたし」

 

真剣な表情でソーナがナインに詰め寄った。

 

「どうだったと聞かれましてもねぇ。 憎まれ口を二言三言叩き合ってそれで終わりでしたよ」

「ふふ…………」

「…………なんですかグレモリーさん」

 

いきなり横で噴き出したリアスに、ナインは眉を上げる。 ごめんなさい、とリアスは覆っていた手を口から離した。

 

「堕天使の紐付き、天使の紐付きって言い合ったわよね、あなたたち。 ふふっ、思い出して、それで少し笑ってしまったわ…………」

「むぅ…………」

 

頭を掻くナインに、リアスは肘で小突いた。

 

「本当のことでしょう? でもあのとき、とても安心したのよ。 危険な状況だったのに、あなたたちと来たら子供みたいに言い合い始めたから」

「…………」

「なるほど、そうだったのですか…………」

 

関心高そうにソーナはナインを見た。 眼鏡越しから来る視線に、肩を竦める。

ナインは居所が悪そうに佇むが…………別の話に変えようと切り出した。

 

「そういえば、午後からでしたよねぇ、授業参観」

「あ…………っ」

「ん…………っ」

 

その一言で固まるリアスとソーナ。 なるほど、ここにいまの彼女らのアキレス腱があるのかと、ナインは内心意地悪く嗤った。

 

「恥ずかしいんですか? 悪魔といえどこういうところは人間と変わらないのですね」

「あ、あなたには関係ないわ!」

 

ふん、と腕を胸の下で組むリアスの横で、朱乃もくすくすと笑って話に入って来た。

 

「うっふふ……ナインさん、部長は、お兄様であるサーゼクスさまについても懸念しておられますが、父君にも心配しておられるのですわ」

「へぇ、リアス・グレモリーさんのお父さんですか。 さぞかし渋いのでしょうねぇ」

「朱乃!」

「ソーナ・シトリーさんは?」

 

ニヤニヤとリアスの赤面した顔を見るナインは、次にソーナに目を付けた。

二人とも常に冷静沈着で、美人、麗人を形にしたような人物像なだけに、そういったイメージのギャップを見ることを面白がっている。

 

話を振られたソーナは明らかに呆気に取られた顔になる。 ナインとはあまり接点も無かった故に、こちらに来るとはあまり思わなかったのだろうがしかし…………甘いと言わざるを得ない。

 

「私は…………その…………」

「ん~?」

 

そのとき、ソーナにとってはナイスなタイミングで、ナインにとってはバッドなタイミングで午後の授業の予鈴が鳴った。 それに気づくと、ソーナはわざとらしくナインの魔の手から逃れ出ようと後ずさった。

 

「椿姫、行きますよ」

「はい、会長」

「あらら、行っちゃいましたね」

「逃げたわねソーナ…………!」

 

そう拳を前でギリギリと握るリアスに、ナインは不敵な笑みを作って言った。

 

「まぁ、いいです。 今回、とりあえず私も関係者として授業参観を見て回ろうかと思っているんです」

「え゛」

 

露骨に嫌な顔をしたリアスを見て親指を立てる。 

 

「途中であなたの兄や父君に会うかもしれませんが、あなたの姿も少し拝見しておきます」

「遠慮しておくわ! というか来ないでいいわ!」

「まぁそう言わず。 姫島さん、教室はどちらに」

「うっふふ、こちらですわ」

「ちょっと朱乃! あなたは私の眷属なのよ、主の嫌がることはやめなさーい!」

 

学校という教育機関に通うなら誰でも通る道、授業参観。 しかしその他にさらにもう一つ、憂鬱なことが増えてしまった。




次点で三大欲求とナインは明言しましたが、頂点と次点には歴然とした差がありますです。

ps.この話を投稿前に手直ししたとき、リアスが胸の上で腕を組んでる描写があって急いで直した。 あの胸の上で腕を組むとか超人しかできないですねごめんなさい。

誤字、脱字。 おかしな表現ありましたらお願いします。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告