紅蓮の男   作:人間花火

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2発目 二人の聖剣使い

ローマ、早朝3時。 数時間の睡眠のあと、飛行機に搭乗したゼノヴィア、イリナ、ナイン。

 

ローマと日本の時差はおよそ7時間あり、日本はローマよりも若干早く日の入りがある。

それにより、ローマを出る時間もだいぶ早くに出ないといけない。

 

「飛行機も久しいですね。 二人は最近こういった遠征の任務はありましたか?」

 

アナウンスが英語で流れたあとに、ナインが後ろの座席で前の二人にそう質問していた。

座ったままゼノヴィアがナインの問いに答える。

 

「まぁね。 最近はローマでしか活動していなかったから」

「私も、新しく授けられた聖剣を使いこなせなくちゃならなかったから、しばらくは国内活動だったわね」

 

人差し指を顎先に当てて話すイリナ。 この二人は貴重な聖剣の適性者だ、使い手が弱くては聖剣の真価は当然発揮されない。

腕を組んだゼノヴィアは目を細めて後部座席に居るナインを見ようとした。 さっきから気になっていた彼の服装に、彼女はシートを乗り出す。

 

ひょっこりと、青髪メッシュの髪と、整った彼女の顔が座席の上から出てくるのを見ると、ナインは片眉を上げて見つめ返した。

 

「その恰好はなんだジルハード」

「ん……ああ、これ」

 

ゼノヴィアが指摘したのはナインの服装。 ナイン以外の二人は、無難にも黒いスーツを着用しているが、彼は違った。

黒など地味でイケないという考えを持っているナインは、他の二人とは違い、赤く染まったスーツを着ている。

赤いワイシャツの上に、血のような、または紅蓮の炎のような色に染まり切った、これまた真紅のスーツ。

 

人生は派手に生きたいと思っているナインにとって、「紅蓮」という単語は称号以前に彼の唯一のアイデンティティとして機能している。

 

「私は『紅』が好きですよ。 凄烈で、美しく、燃え盛る炎のような色がね……」

「…………”紅蓮の錬金術師”か。 二つ名通りの人間だ。 だがなんだ、私から見ればお前はそんなに激しい気性には見えないが――――同年齢に敬語まで使っているしな、不思議だ」

 

それは外見の問題です、と鼻で少し息を吐いた。

 

「人を評価する上で、外見などなんの意味も持たない。 だが強いて言うなれば……」

「…………」

 

じっと、瞳を閉じて口角を上げるナインを見ていたゼノヴィア。 鋭い目つきで、元犯罪者の思考を探ろうと努めた。

 

「人が生を終える瞬間こそ、その人間を評価する材料になると私は思うのですよ。 無論それだけではありませんが」

 

てんで訳の分からない哲学者のようなことを言っているナインに、静かに溜息を吐いた。

 

「……お前は研究所で何をして捕まったんだ?」

「ちょっとゼノヴィア……」

 

そう率直に聞いたゼノヴィア。 イリナは尚も座ったままだが、咎めるようにシートを乗り出すゼノヴィアに言った。

 

しかし、これは確かに変わり者だ。 いや、変わり者が更に化学反応を起こした結果こういった人種が出来上がったのだろう。

 

この男がどんなことをして捕まったのか。 無論、爆殺したのは聞いてはいるが、なにせ現場の状況はナインとその殺された錬金術師たちしか知らなかったのだ。

 

当然ながらそういうことを聞くのは、イリナはもちろんのこと、ゼノヴィア自身も知らなかったゆえの質問だ。

それに、このナイン・ジルハードという男のペースで会話を進められては、正常なこちらとしては理解不能極まりないことばかり口走っていくだろう。

 

まず、普通の会話に持っていこうと努力する。

 

「…………」

 

ナインの罪状と囚人データだけでは、解らないことだらけだ。 一番早いのは、本人に聞く他無い。

しかしゼノヴィアは、実は少しだけこのことを聞くのを躊躇している。 検察や司法機関でもない自分が、そんな勝手に聞き出すような真似をしていいのか。

 

自分の罪を振り返ることなどしたくない者もいるだろうに。

 

しかし、その問いにはナインは薄く笑っていた。 膝の上で礼儀正しく置かれていたナインの手が、ゆっくりと裏返される。

 

「吹き飛ばしたんですよ。 これでね」

 

満面の笑み。 不気味だ、だが不思議と「気持ち悪い」という気分には至らなかったゼノヴィア。 何か、本当に子どものような笑みと声音で。 また対照的に、趣味に没頭する人のように生き生きと舌を滑らせた。

 

「楽しいんですよ。 人間というのはちょっといじくるとすぐ花火になって弾けるんです」

「…………」

「ちなみに私がその事件で錬成していたのは、主に黒色火薬という爆発物なのですがね。 これが意外と派手に弾ける」

 

何を言っているのか解らないだろう。 当然の如くナインの話は遠回りな表現が多すぎて解らない。

だが、唯一彼の喋っている言葉からではなく、手の平を見て察した。

 

右手に逆三角、左手に三角形の刺青のような紋様が刻みこんである。 それぞれ、太陽と月のような記号が彫られている。

 

熱く語るナインを放置して、ゼノヴィアは席に戻った。 イリナは、自分の両手をまじまじと見るゼノヴィアを見て、目を細めた。

 

「あいつの手の平―――見たの?」

「前に聖剣の研究機関の内部を見せてもらったとき、少しだけ『錬成陣』というものを見たことがあってな」

「それが?」

「うむ……」

 

ゼノヴィアは、両手を握り込むと後ろの座席に意識をやった。

 

「錬金術は門外だが、魔法にも陣が存在するように、錬金術にも、それを行使するための陣が在ることは私も知っている」

「―――――」

 

ゼノヴィアの言葉に、イリナは息を呑んだ。 錬金術とは、教会にとっては聖剣を復元するためだけの術なのだと思い込んでいた。 なんという視野の狭さ。

 

あの伝説級の聖剣を復元できるのなら、他のことも容易にできるということだ。 そこまで考えが至らなかった自分に腹が立つ。

 

そして、おとなしくなったナインを目で窺い、二人はひそひそと声のボリュームを低めて話す。

 

「……せ、聖剣を復元させるための術が、人殺しに使われていたの…………?」

「そんなバカなことをしたのは、奴一人で間違いは無いはずだ。 そんなことをしたら奴以外も検挙されるはずだろう?」

 

錬金術で殺人を行ったのは、ナイン・ジルハードただ一人。

二人は沈黙とともに考え込んだ。

 

本当にこれで良かったのか。

 

「……教会が与えたあいつの二つ名の意味がいま分かった」

 

そんな狂科学者めいた男を拘束から解放して良かったのか。

いままで二人は当然のごとく教会上層部には絶対服従だったが、今回ばかりは疑問を禁じ得ない。 そもそも、なぜそんなに殺しておいて死刑になっていないのか。

 

二人の少女の疑問は膨らむばかりだった。

 

 

 

 

 

 

 

日本―――成田。

約12時間のフライトを経て、三人は日本の空港に到着していた。 三人は飛行機を降りたあと、一息の休憩のために近くの椅子に座った。

ナインが首を回して欠伸をする。

 

「長旅でしたねぇ。 でも距離的には確か駒王町までここから少しも掛からなかったはず」

 

聖剣を強奪したとされるバルパーは、この日本を逃亡先に選んだ。

さらに日本の―――駒王町と呼ばれる町に入り込んでいる。

 

「ああ、駒王町に着いたら近くの教会で今夜は寝泊りだ。 明日から本格的に捜索しよう」

 

うん、と頷くイリナ。

悩んでいても始まらない。 それに、ナインと共闘することを教会に快諾した手前、いまさら取り消すこともできない。 彼の信心と実力に期待するしかなかった。

 

すると、イリナの肯定にナインは裏腹に不満そうに失笑する。

 

「極東の島国にまで来て、ま~だ教会ですか? こういう時くらい普通に行きません? ほら、アパートとか、マンションとか、色々あるでしょう?」

 

すると、ジトリと目を細くしてゼノヴィアはナインに詰め寄った。

長身のナインに、腰に手を当てて叱咤する。

 

「そんな大金、私たちには無い! まったく、何を言うのだジルハード。 それに、そのようなことでムダ金を使うこともないだろう?」

「それに、あなたは今まで地下牢生活だったんだから大抵のことには慣れっこのはずよ?」

「詭弁と思われるかもしれませんが、大切な仕事なのです。 健康管理もしっかりしなければなりませんよ?」

 

そもそも、聖剣使い程の者が教会から給与を貰っていない訳が無い。 前日まで犯罪者として投獄されていたナインですら釈放されたのを機に口座が解禁されたというのに。

 

しかし、本格的にゼノヴィアとイリナが真っ青になってきた。 ゼノヴィアがキリッとした瞳でイリナに聞く。

 

「ところでなぁ、イリナ。 飛行機でどれほどはたいたか解るか?」

「…………さっきの機内食でほとんど使い果たしちゃった……かも?」

「あら~、というか、私が眠ってる間になぁにやってるんですか」

 

機内でナインについて考えていた二人は、彼が眠っている間に機内食をがっついていた。 ほぼやけ食いに等しいが何も言うまい。

 

雲行きが怪しくなってきた。 せっかく技術の発達した国に来たのに、そこでも教会在住なんて御免である。ナインは似合わぬ苦笑いで本気で心配し始めた。

 

「…………では一万歩譲って宿は教会でいいとしますよ? いや譲りませんけど。

食事はどうしましょう?」

 

う、と棒立ちになったゼノヴィアの頬を、嫌な汗が伝う。

 

「それはあれだ、ほら……そのぅ」

「神の加護よゼノヴィア! この国の慈悲を買うの! そうすれば飢えは凌げるわ!」

「それは一歩も譲れませんよねぇ」

 

ではどうしろというのだー、と両手を挙げて抗議するゼノヴィアとイリナ。

慈悲を買う。 いわば乞食をしろということかと、ナインは心底呆れた。

 

「こんなことなら私が考えておけば良かったですよ。 もっと準備をしているものかと思いましたが、見込み違いでしたか」

「そ、そんなに言うならばお前に何か策があるのか!」

 

ビシィと指を突き付けるゼノヴィア。 ナインは思う、策も何も、これは常識の範囲内でしょうと。

そして、手荷物から手早く貴重品を取り出し、ある物をゼノヴィアに渡した。

 

はいと手渡されたゼノヴィアの手に一枚のカード。 覗きこんできたイリナも入れて、やがて二人して声を上げた。

 

「き、キャッシュカード……これがキャッシュカードか!」

「薄いのに硬い!」

 

ICチップ内蔵のカード。 バンクで貯金したお金を卸すために必要な、あのカードである。

ナインはごろごろとスーツケースを転がしながら二人を促す。

 

「行きますよ、早くしないと宿を取れない時間帯に入ってしまう。 あと、教会もやっぱり却下で」

「お前! これ不正なカードじゃないのか!?」

「……失敬な。 私はこれでも聖剣の元研究者ですよ?」

 

呆れるように言うナインはまるで無視し、珍しいものでも見るようにカードを凝視するゼノヴィア。 見上げて見たり、色々な角度からカードを見ている。

 

「変わっているのは、彼女たちもですね」

 

しっかしまぁ、と、乾いた笑いをしてゼノヴィアたちを見る。

 

「元囚人の私が同年齢の少女たちの世話をすることになろうとは……とりあえずは生き続けてみるものですねぇ。 変な気分ではありますが」

「聞こえているわよ、ナイン・ジルハード」

「…………紫藤さんですか」

 

カードを未だに観察しているゼノヴィアを置いて、ナインの横にイリナが着いて歩いていた。

ネクタイを締め直しながらツインテールを揺らして整える。

 

「安心してください、貧乏くじとは思いませんよ」

「思ってるんじゃないの? 頼りないって」

「少なくとも、あなたにはそういった評価はしていないつもりです」

 

「機内食で持ち金使い果たすのはどうかと思いますが」、と付け加えた。

ナインは歩きながら指を立てた。

「紫藤」という姓に、「イリナ」という名。 一時は日本に居たのではとナインは予想する。 対して、おそらくゼノヴィアはローマから出たことが無いのではと思わせるほどの世間知らず。

 

本当は二人ともかなりの練達者のはずだ。 聖剣を扱えるには、適正だけでなく身体能力も必要不可欠。

いままで主の敵と謳ってきた悪魔や堕天使らと実戦を積んでいない訳がない。

 

「しかしその年齢で親離れしている時点で自立していると思ったのですが。 案外考え無しの性分のようで」

「それはゼノヴィア。 一緒にしないで」

「同じです」

 

フン、と再び髪を揺らして言った。 そんなつんけんした態度の少女に、ナインは逆立った髪をさらに掻き上げる。

 

「…………前から思っていたのですが、私、あなたに嫌われてます?」

「元犯罪者とこんなに早く打ち解ける方がどうかしてるわ」

 

鼻で溜息を吐くと、ナインは皮肉をイリナに浴びせた。

 

「なるほど、柔軟性は相方の方が在るようだ」

「…………あなた、友達いないでしょ」

「さぁ、ご想像に任せます」

 

すると、イリナは立ち止まる。 俯かせていた顔を上げ、ナインを睨みつけた。

 

「うん?」

 

ナインも少し進んだあと、気づいて立ち止まる。

――――何か言いたそうですね。 ナインは内心ほくそ笑みながらそう思った。

 

夜、着陸後の空港の喧騒の中、イリナは正面からナインを見詰める。 見上げる形で彼を指差した。

 

「私たちを裏切ったら、絶対に許さないんだから」

教会(あなたたち)が約束を反故にしなければね。 であれば、あなたたちの剣なり盾なりになってあげますよ、エスコートしましょうか? フフッ、ガラじゃないですけどねぇ」

 

長くなった黒髪を後ろで一つに束ね、それにより生じる若干のオールバック。 横髪は刈り上げ。

どう見ても紳士からは程遠い、ワイルドなイメージを沸かせる身なり。

しかし、先刻彼は言ったのだ。 人は外見では無いと。

 

「破ると思うの?」

「長年『あの』計画を黙認してきた組織を、真に信じる人間なんて狂信者しかいないでしょう。 私は狂信者ではないので、信じません」

 

歩みを止めず、立ち止まるイリナに言い切った。

あなた方が私を警戒しているのと同じように、私も教会という組織の一員であるあなたたちを警戒している。

その歩む背中は、暗にそう示している気がした。

 

「あの」計画は、教会という一つの巨大な組織が起こしたことだが、人間が犯したことに変わりはない。

結局のところ、教会にもナインと同じような狂った考えを持つ者が潜んでいるのかもしれないのだ。

ナイン・ジルハードという僅かの膿を取り除いただけに過ぎない。

 

すると、ナインが歩みを止めてイリナをチラリと見た。

 

「ああ、裏切るときはちゃんと宣言しますから、紫藤さん。 私、こそこそすることはしないので。 というか好きじゃない」

 

その言葉に、イリナは不覚にも呆気に取られた。 口を半開きにしたまま、ナインがまた歩きはじめるのを見て―――やがて、愚痴を漏らした。

 

「もうッ、分っかんないわよぉ! この変態!」

「知っています――――ってちょっと、後ろ髪を引っ張らないでください」

「敬語使って気が利いて、用意周到。 こんな犯罪者なんていないわよ! だから変態!」

「だぁから自覚していますって、ねぇちょっと……」

 

後ろで束ねられた長い黒髪をぐいぐい引っ張るイリナに、肩を竦めたナインはや~れやれ、と手を上げた。

痛くは無いが、がくんがくんとナインの体をゆらゆらと揺らす。

 

「あ~、ひどいひどい。 あ、ゼノヴィアさん、私のカード返してくださいません? そろそろバンクに着くので」

「おいジルハード、このカード真っ二つに折り曲げたらどうなるんだ?」

「曲がりません、折れます――――って、ちょっと、板チョコ感覚で本当に実行しようとしないでくださいよ」

 

 

 

 

その後、ナインの貯金でマンションを借りた一行。 そこは、テレビでもよく話しのネタになる豪邸で、大きいマンションだった。

 

「ゼノヴィアさん、紫藤さん、あなたたちは選ぶということをしないのですか」

「一度こんな豪邸に住んでみたかったんだ」

「右に同じー」

「ここ、近辺のマンションで一番高いところじゃないですか……はぁ……前途は多難だ。 牢の方が気楽で良かったかもしれないなぁ」

 

そう溜息を吐くナインは、仕方なくその一室に足を踏み入れた。

ゼノヴィア、イリナ、ナインの順にスーツケースを玄関に置いて、リビングに入っていく。

 

「すごい、綺麗……」

「俗に言う、セレブと言うやつか? テレビもある」

「私も一時期日本に住んでたけど、こんな豪邸は初めて見るわね」

 

家内を見回す二人に、ナインは腕時計を見て息を吐いた。

 

「ギリギリでしたね。 こちらから電話していなければ野宿するはめになってましたよ」

「そのときは教会があるだろう?」

 

すでに時差により、夜中の0時を回っている。 着陸直後にすぐにこの宿に連絡を入れて、外国人一行ということでなんとかキープすることができた。

 

「そういえば、今回のこの教会からの任務。 主犯はバルパーさんですよね?」

「む、違うぞジルハード」

 

否定するゼノヴィアに、ナインは首を傾げた。 さらにゼノヴィアは続ける。

 

「確かにバルパーが聖剣を奪ったが、他に共犯がいる」

 

さらに首謀者もバルパーじゃないわよ、とイリナが付け加えるように言う。 では一体誰が主犯なのか、盗んだのがバルパーで、しかしそれを指示した存在もいるということか。

 

「堕天使の幹部―――コカビエルだ」

「聖書に名を残す堕ちた天使。 バルパーよりも、どちらかと言えばそちらが戦う上で本命の敵方ね」

 

――――コカビエル。 これは強い、強すぎると箔付きも成されている存在。

悪魔と堕天使、天使の三竦みによる大戦争で、各勢力の実力者が次々と戦死していく中残った強者。

 

ナインは真剣に話す二人を置いてリビングのソファーに座る。 口元をにやりとさせた。

 

「…………私はもともと変人です。 敵が強いか弱いかなんていうのは正直どうでもいいことですが……堕天使の身体の構造は気になりますね―――さらに幹部ともなれば尚更、楽しみだ、ああ……楽しみです」

「…………。 我々は、死を覚悟してここに来た。 ジルハード、お前も命を落とす可能性だって十分あるんだぞ」

 

ソファーに座るナインにそう言うと、彼はそのまま寝転がり、足を遊ばせる。

天井に両手を翳すように上げた。

閉じたり、開いたり、恋い焦がれるように「あの」狂気の陣が彫られた両手を狂気の瞳で見つめていた。 次第に、彼の笑みは深まっていく。

 

「そんなことは知りません。 教会上層部に言われたのでしょうが、所詮世の中生き残ったもの勝ちです――――主のために死ぬだの、本望だのなんだのと言っているのは、ここにはあなた方二人だけと知りなさい」

 

自分は、死ぬつもりなんてないし、まして逃げるということもしない。

 

「殺すのなら、こちらも死ぬ気で行くのは然るべき覚悟でしょう。 当たり前なことを言わないでくださいよ、フッフフ、フッハハハ……」

「ではお前に勝算はあるのか」

 

すると、ナインは身体を起こす。 喉を鳴らして満足そうに言った。

 

「とりあえず楽しみましょう。 最初から圧倒的な力の差がある相手に真面目に掛かっていく方が可笑しなものなのです。 そんなことより、首謀者はコカビエルとして他の共犯者は存在するのですか?」

 

ゼノヴィアは、ああと頷いて一枚の写真を取り出す。 テーブル上を滑らせてナインに渡した。

シャッと指でその写真を受け取る。

 

「ふむ、白髪……」

「フリード・セルゼン。 ヴァチカン法王庁直属の元悪魔祓い(エクソシスト)だ。 13歳で就任した戦闘の天才」

 

写真には、教会の象徴たる神父服と十字架を提げた少年神父が映っている。 右手には銃、おそらく祓魔弾の込められた特殊銃、そして左手には煌々と光る剣を持って狂気の笑みを浮かべている。

 

「はぐれ神父さんですか。 あとは?」

「あと一人いるのだが……如何せんこいつは教会の人間じゃないし、個人情報も掴めていない―――無名と言ってもいい」

「ほう?」

 

無名とは中々面白い。 てっきりコカビエル以外は教会関係の人間のみと思っていたのに。

目的は? 動機は? どちらにせよ、首謀者であり彼らのボスであるコカビエルから搾り出させなければならないわけだ。 その無名の共犯者も、自分のようにただなんとなく一緒にいるというわけでもないだろう。

 

とにかく、とゼノヴィアは腕を組む。 

 

「そいつらが戦う相手だ。 これからその捜索をするのだが……」

「?」

 

少し止まったゼノヴィアはイリナとうなづき合って立ち上がった。

 

「まず、この街を管理する悪魔に、挨拶と忠告、いや――――警告をしなければならない。 もちろんお前も来るんだ、ジルハード」

「……あぁ、なるほど、釘刺しです……か。 マメなことですねぇ」

「あーでもアポイントは必要か……ジルハード、行って来てくれ」

「え?」

 

私たちはこの中を探索する。 とイリナとともに階段を上がって二階へ消えてしまった。

 

「…………人遣いが……荒い」

 

ナインは溜息を吐いて玄関に向かう。

 

「元囚人とはこうも不遇なのですね…………相手が男性ならばとっくに花火にしているところだ」




戦闘はありませんでした。 誤字、脱字ありましたら気楽にご指摘ください。

キンブリーの髪型は一期と二期、どっちがかっこいいか賛否両論ですね。


ハイスクールD×D三期決定。 楽しみですな。

もし面白かったならどんなコメントでもいいから評価くれたら嬉しいな……なんて思ったり……欲しがりな人間花火でした(泣)

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