紅蓮の男   作:人間花火

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アニメオリジナル超展開すぎ笑った。 あそこで悪神かよー、残念。

そしてなにより作者的に超絶残念賞は、フェンリルの旦那。 なんよあれ。 俺はなぁ、俺はもっとこう、遊戯王に出てくるようなカッコイイフェンリルを期待してたんだよぉ!(血涙)

…………フェンリル仲間にする気なくなってきたわ……(ボソリ)


23発目 捨て身の定義と離れた主従

「…………ふむ、どうやら成功したようですねぇ」

 

錬金術の発動によりうねる電撃を纏い、ナインは一つ安息を吐く。

 

この学園のどこかにいるハーフヴァンパイアの時間干渉型の能力による結界で一時窮地に陥っていたナインだったが、その類稀なる機転と能力の高さがそれに勝った。

 

両拳を握ったり開いたり、肩回し、首をごきりと鳴らしたナインは、片目を瞑る。

 

「少々博打要素もありましたが、まぁ結果オーライでしょう」

「こいつ、マジで時間停止を弾き返しやがったっ…………」

 

アザゼルの驚愕はその場で動ける者たちにも共感を得ていた。 リアスを初めとする、サーゼクスやセラフォルーなどトップ陣も目を丸くする。 だがその中で、ミカエルだけが口をつぐんでいた。

 

「…………ナイン、あなた、いま自分が何をやったか分かっているのですか」

「ん~?」

 

ミカエルが険しい表情でナインに諫言した。

 

「いまのは、自身に対しての錬成です。 あなたの考えは、人間の奥底にある『魂』というものから更に『気力』というエネルギー体の一種を錬成し強くするといったもの」

「その通り」

 

不敵な笑みでミカエルに向く。 すると、ミカエルは一際強い眼差しでナインを見つめ返した。

 

「口で言うには簡単なものです。 しかし、人間に限らず、生物というものは非常に複雑な構造をしています。 70種以上の物質で構成されているなか、本来見えざるエネルギー体である『魂』にまでその錬成意識を到達させることなど、人間には不可能だ!」

『―――――』

 

エネルギー体だとか、魂とか、気力とか、そういった言語を、リアスたちはよく分からなかったが一つだけ解ったことがある。

人間を構成する物質は70種以上にも及び、さらにそれを体内で錬成対象とせずに「理解」しながら掻き分け、目的の錬成対象である「魂」にまで到達したということになる。 理屈は解る、理屈は。

 

これが一体どれほど荒唐無稽な技術なのか、もはや神業に匹敵する錬成法をやってのけたナインに、リアスたちは勿論のこと、サーゼクスたちも脂汗を滲み出させていた。

 

「――――っこれが、超科学界の傑物か…………!」

「はっ、精神がまともじゃないねぇ…………」

「失敗すれば、あなた自身の体内に列する内臓部を滅茶苦茶に混合させてしまうことだってあったのです。

どれだけ精巧な錬成が必要だったか…………成功したから良かったもの、もし失敗していたら――――」

「そんなことは知らない」

 

失敗したその後、すなわちifを考慮するなどバカバカしいのだとナインはミカエルの諫言を聞き入れない。

 

「科学のみならず、技術というものは人の犠牲の上に成り立ち初めて形を成していくものだ。 ミカエルさん、あなたも、私とは比べものにならないくらい長い年月に渡り人間界を見て来ていた。 なら解るはず」

 

ナインらしくも無く熱く、力強く、骨が軋むほど拳を握り締めた。

 

「人類のみに非ずすべての存在において、生ける者は世界の進歩のための生贄になるさだめなんですよ」

「―――――」

「その進歩のためならば、如何なる犠牲を払おうとも省みない。 悼みはしましょう、真っ当ではありませんが私だって人間ですからねぇ」

 

これが、この男を超人にしている所以。

 

「だが、その犠牲が肉親であっても、たとえ自分自身であったとしても、それが己の進歩のためならなんでもしましょう」

「以前あなたは、教会にて、生き残った者が結果として勝者なのだと説いていましたね、それではいまあなたの言っていることは矛盾します!」

 

ゼノヴィアにも、イリナにもそう言った。 コカビエル討伐の際に交わした言葉の内の一つにもそれがあった。

ミカエルは、その言葉がナインの教会時代の口癖になっていたことを天から見て、聞いて、知っていたのだ。

 

しかし、ナインは笑った。

 

「確かに、生き残れば勝ちだ」

「なら…………」

「生き残ってるじゃない」

「――――っ! 詭弁です!」

 

どうしていいか解らないトップ以外の者たちは、そこに立ち竦むしかなかった。 しかし、イリナとゼノヴィアだけは、哀しそうな目でナインを見ていたのを、リアスは見逃さなかった。

 

「ここで私が錬成に失敗し、死んだら。 私という存在など所詮それまでの男だったのでしょう。

世界に選ばれなかった敗北者として潔く死を選ぼう―――――不安もリスクも無い人生などクソ以下だ。 生きていく価値も無い」

「…………おいよ、ずいぶんと話が大きくなりすぎてるぜ、ナイン。 さっきはお前に二つの選択肢があった。

普通の人間なら……いや、まともな精神持った奴なら誰でも解る。 どっち選んだ方が一番無難かっつー分岐点をよ」

 

アザゼルがミカエルを制し、前に出た。 ナインと真正面から対面する、目は逸らさない。

 

「身を任せて停まっちまえばそれで済んだだろ? あとは大人である俺らに任せておけば良かった。

なにをそんなに意固地になってまで危険を犯し、停止の結界を撥ね退けた? 俺はそこが解せねえ」

「…………ああいった窮地を、私は待っていたのだ」

「…………」

 

頬杖を突き直し、アザゼルはナインの言葉に耳を傾けた。

 

「人間というものは、差し迫った危機が無ければ真価を発揮しない節があるのですよ。 私は奇跡など信じませんが、そういった背水の状況下の方が通常の状況よりも覚醒しやすい、または成功しやすいのではと思った次第です」

「…………頭ブっ壊れてんのか。 人と話してる気がしねぇなこりゃ、はは」

 

空笑いのアザゼル。 つまりこの男は、自分の足が止まったときすでにその状況が自分の能力を高めるいい機会であると判断したのだ。

 

一種の判断能力が常人とはズレているため、躊躇いなく危険に身を投じたと言えよう。

しかしそんな大事を、ナインはいますでに過去のものと片づけていた。

 

それよりもとこの今の状況を見回した。

ナイン自身、もう少し早くこの事態に対応するつもりだったが、思いの外長い問答をしてしまったと思った。

 

「さて、終わったことは置いておき、何なんですかねこの状況は」

 

平然と別の話に切り替えるナインを見て、皆冷えた肝もいまは平常に戻っていった。

ミカエルが気を取り直して校庭を見る。

 

「ナイン、これは攻撃を受けているのです」

「誰に?」

 

すると、アザゼルが校庭に向かって指を差した。 その瞬間、閃光がまばゆく光る。

振動が建物を揺らし、夜空が赤く染め上がっていた。

 

黒いローブに身を包んだ者たちが無数に宙を移動して攻撃を仕掛けてくる。

 

「うぉっ!?」

「………………」

 

一瞬の煌めきは、目に直撃を受けると完全に眩んでしまうほどの光力だった。 それを目の当たりにし、一誠は驚きの声を隠せない。 リアスや祐斗、ゼノヴィアとイリナも心ここに非ずといった感じだ。

 

「いつの世にも、時代も、勢力と勢力が和平を結ぼうとすると、それをどこぞの集まりが嫌がって邪魔しようとするもんだ――――魔術師集団のテロリストだよ」

「なるほどね。 して、この奇怪な能力の出所はどこなんですかねぇ」

 

朱乃やアーシア。 そしてシトリー眷属出席者であるソーナや椿姫も停まっている。

ナインはこの状況の原因はどこからなのか、前髪を掻き上げながらアザゼルに問いかける。

 

「さっき、ハーフヴァンパイアと言ったろう?」

「私の眷属よ…………」

 

リアスがアザゼルとナインの間に割って入った。 その身体は紅のオーラに包まれ、静かに怒りを燻らせているようだった。

 

「ギャスパー・ヴラディ、私のもう一人の『僧侶(ビショップ)』よ。 でもなんで…………」

「そいつの神器、『停止結界の邪眼(フォービトゥン・バロールビュー)』を、一時禁手(バランス・ブレイカー)状態にしたんだろうな。 こいつは強力だ」

 

言うと、アザゼルはナインに振る。

 

「錬金術師。 『神器』と『禁手』、この用語は解るよな」

「言わずもがな。 神から人に、賜り宿る無双の代物」

 

顎に手を当てる。

 

「『禁手』については、神器の力の限界突破と言った感じでしょう」

「大体合ってる。 そいつがいま、敵の手によって暴走している状態ってわけだ」

 

あらら、と他人事のように笑ったナインは、今度はアザゼル越しにリアスに視線を送った。

 

「リアス・グレモリーの眷属は暴れ馬が多いなぁ。 手綱は握っておかないと」

「…………分かっているわよっ」

 

もっともな意見に、さすがのリアスも下唇を噛みながらもナインの指摘を受け入れる。

万が一のためにギャスパーともう一人、塔城小猫に留守を守らせていたのにと、リアスは内心悔しがった。

 

「しかしやられたな」

「ええ、転移魔方陣も封じられ、そしてこのタイミングでリアス・グレモリー眷属の力を逆利用……どう考えても出来すぎています」

 

こちら――――会議室のある駒王学園新校舎は、敵方の攻撃を一身に受けていたが、サーゼクス、アザゼル、ミカエルの防御結界で事無きを得ている。 それにしても、この魔力弾の弾雨を校舎の外装に傷一つ付けずに防護しているのは驚愕ものだ。

 

だからこそ、トップ陣であるサーゼクスとセラフォルー、アザゼル、ミカエルは冷静に相手を分析できる。

それぞれの頭たる所以の貫録と対応だった。

 

「でも、これじゃ自由に動けない。 そのグレモリーさんの眷属が囚われているなら、まずそれをさっさと奪い返さなければならないですねぇ」

「もっともだ紅蓮の。 んじゃ早速だが、お前が救出に向かってくれ」

「え、なんで」

 

アザゼルの突然の言葉に、ナインはきょとんとした。 あの不審な黒いローブたちがひしめく外にいきなり飛び出して行けとは人遣いが荒いのではないか、と。

 

しかしすると、ナインを押し退けて名乗り出る者がいた。

 

「いえ、私が行きます。 私は、あの子の主です。

主には下僕を守る務めがあります!」

 

リアスだった。 彼女の瞳には優雅なれど闘志が満ち溢れていた。

下僕を道具のように悪用したこと、後悔させてくれると。

 

「だってさ」

「だってさじゃねぇっ。 外は魔術師で一杯だぞ、それに時間との勝負もある。

リアス・グレモリー一人に行かせても、そりゃ至難だ」

「…………確かに、アザゼルの言う通りだよリアス。 それでも、行く気かい?」

 

サーゼクスに見つめ返されても、リアスの瞳はぶれなかった。 もともと彼女は自分の眷属を家族のように大事にする女性だ。 その兄であるサーゼクスも、その返答は予想できていたものと思える。

 

「相手の戦力を避ける策ならあります」

 

グレイフィアが丁寧に進言した。 この状況下にあって彼女の物腰は、見る者を安心させる、とても心強いものがあった。

 

「お兄さま、私の部室に『戦車(ルーク)』の駒があります。 そうすれば……」

「なるほど、キャスリングか」

 

駒同士を一手に入れ替えるチェスにおける特殊法。

部室に囚われている眷属がいるとすれば、そこにあるリアスの空きの駒である戦車(ルーク)の駒と、リアス自身が持つ(キング)の駒とをそっくり入れ替えれば完了だ。

 

悪魔の駒(イーヴィル・ピース)」などというもの、噂には聞いてはいたがそんな便利なことが可能なのかと、ナインは感心した。

 

「だが、それでも無理だぞリアス・グレモリー」

 

ヴァーリが横合いから入る。 意外な発言者に、一同がその人物に目を向けた。

 

「遠目で見たが、あの校舎の中も魔術師の巣窟、そして罠だらけだ。 下手をすれば外より酷い」

 

すると、ナインがへらへらと笑って言った。

 

「じゃあ逆に考えれば、それほど敵はその停止の能力に頼り切っているというわけだ。

そこを奪還すれば戦功第一間違いなしですねぇ」

「不謹慎なことを言わないでちょうだい、ナイン」

「冗談ですよ」

 

リアスから後ずさる。 しかし、ヴァーリの言う事が本当なら厄介だ、リアス一人であれ以上の兵力を突破するのは無理難題である。

時間制限有り。 その時間切れがいつ訪れるか分からないこの状況において、一人一人との戦闘に一喜一憂していては遅すぎる。

 

一人一撃とまでは言わないが、それほど迅速に進行しなくてはならない。

 

「俺が行きます! 俺が部長を守ります!」

「つっても、なぁ~」

「な――――!」

 

一誠も進み出るが、如何せん乱戦や掃討戦に慣れていないのは致命傷。

 

「数に物言わせて来るやつらに一人一人相手してたら時間が無くなる、やっぱナインだ。 

ミカエル、良いだろ?」

「…………分かりました。 ――――ナイン」

「仕方ないですね、それじゃ、こういうのはいかがです」

 

人差し指を立てた。 リアスと一誠、二人を見ればおおよそ理解できる。

理屈じゃない。 主だから、後輩だから守りたいのだ。

 

しかし我が儘は戦場に通用しない。 かと言い、彼女たちは士気においてはナインを上回っていた。 士気を維持するためには、行かせる他ないのかもしれないのだと、ナインは考察――――最終的にリアスと一誠を会わせ、ハーフヴァンパイアを救出させればいい。 自分は繋ぎでいいだろう。

 

「そのキャスリングとやら、一人しか転移できないのですか?」

「いや、私の魔力を使えばあるいは…………」

 

上手くすればもう一人転移させることができる。 そうサーゼクスは言うとナインは不敵に笑った。

我が策成れりと。

 

「ではまず、私とリアス・グレモリーを転移させてもらいます」

「な――――」

「話は最後まで聞きなさい、兵藤」

「―――――」

 

鋭い金色の瞳で一誠を制する。 先ほどまでの弛緩した雰囲気は一切感じられない、触れれば切れる佇まい。

抜き身の刀のような様相。

 

「このお二人はどうしてもその暴れ馬くんを直々に助けに行きたいようなので、そちらを優先していまさっき脳内で作戦を立てました。 段取りはこうだ――――私とグレモリーさんの二人で旧校舎に転移、その後、敵を薙ぎ払いながらそのハーフヴァンパイアのもとまで辿り着く。 その際、すぐには突入せずにそこであることをします」

「ある……こと?」

 

リアスは眉を顰めてナインの言葉を聞き入った。

 

「私がそこで、新たな転移魔方陣を書き上げ、この会議室と繋げる。 魔力はリアス・グレモリーから拝借させていただきます」

「そんなこと――――」

「できないことはない……できるのか、ナイン? キミは錬金術師だろう?」

 

サーゼクスが険しい表情でナインに聞く。

 

「まぁ、伊達に教会で人間兵器やってなかったんで、それくらいのことはなんとか。

要領は錬金術とは少し違うし、魔術は門外漢ですが、そういった利便性に優れた移動法は習熟しています――――任せてください」

「よっしゃ決まりだ。 異論はねぇな、赤龍帝。 あとヴァーリ、お前は結界の外に出て攪乱してくれ。

白龍皇が出たとなりゃ、奴らも少しは乱れるはずだ」

「…………」

 

納得のいかなそうな一誠。 当然だ、自分こそがリアス・グレモリーの側仕えと信じて来たのに、なにやら負けた気がしてならない。

確かにナインやアザゼルたちの言う事は理に適っていたが、理屈ではないなにかが、一誠を納得させていなかったのだ。

 

一方、アザゼルに命を言い渡されたヴァーリは、一人、”了解”とつぶやくと瞬く間に窓から外に飛び出して行った。

そこに、ナインは一誠の肩を叩く。

 

「リアス・グレモリーもあなたを望んでいる。 だがいま、そうは言っていられない事態なのだ」

「分かってる…………分かってる!」

「後半は一緒に居られますよ。 そのためにはまず、己ができることをしなければ。 その人には、その人にしかできないことがある」

 

ナインは首を鳴らしながら魔方陣に立つ。 リアスを見ると目を逸らしてきた。

何も不満なのは一誠だけではないのだ。

 

「…………よろしく、リアス・グレモリー」

「…………分かったわ、よろしく、ナイン」

 

その瞬間、ナインとリアス、二人の姿を魔方陣の光が包み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「赤龍帝、まーだ膨れてんのか? 後で落ち合えるんだからよぉ、そんなしょげんなって」

「しょげてねぇよ…………」

「じゃ、なんでだ」

 

アザゼルの問い掛けられると、一誠は拳を痛いほど握り締めた。 己の無力を、無能を悔やんだ。

それを察したアザゼルは、肩を竦めて言い放つ。

 

「まーお前弱いしなぁ。 でも気にすんな。

考えて見ろ、コカビエルを斃した奴だぞ? しかもお前よりも前から戦い続けていて、実戦の叩き上げで基礎戦闘力も申し分ない。 近年稀に見る戦う錬金術師だ、どう考えたってお前とじゃ釣り合わねぇよ」

 

まず経歴からしてギャップ有り過ぎだしな、とアザゼルは付け加えた。

一誠は負い目を感じているのだ。 年齢が同じなのに、この違いはなんなのだと。

 

「兵藤一誠、お前はお前にしかできないことがある」

「それ、ナインも言ってたぞ…………」

「だからだよ、ほれ」

「?」

 

唐突に投げられた物をキャッチする一誠は、小首を傾げながら渡された二つの腕輪を眺めた。

 

「そいつを、ナインの転移魔方陣がここと繋がるまで持ってろ。 お前の神器(セイクリッド・ギア)の対価になってくれるはずだ」

「ば、バランスブレイカーになれるってのか!?」

「ただし、考えて使えよ? 何しろまだ試供品でしかも使い捨てだからな。 もう一方の腕輪はハーフヴァンパイアに付けてやれ」

 

白い腕輪が二つ。 大きさからして二の腕の奥まで通す輪のようだ。

それが、一誠の持つ赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)のさらに禁手化(バランス・ブレイク)の補助をしてくれると言う。

 

意を決した一誠は、その腕輪を嵌めた。

 

やれることは全部やってきた。 例えただの人間に毛が生えた程度の悪魔であろうと、死ぬわけにはいかない。

 

「部長……後で、必ず…………っ」

 

その瞬間、教室に魔方陣が現れる。 尋常でない気配を察知したサーゼクスはそれと同時に目を見開く。

真っ赤な魔方陣に、一人の女性が、杖を掲げたまま顕現する。 その笑みを不敵にさせた。

 

「まさか――――!」

「―――――世界に、破壊と混沌を」

 

言うや否や、杖先から夥しい魔力を無差別に放出しながら衝撃波を生み出した。

魔力の量、質からしてもただ者でない何かが、この場に降臨しようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁっ!」

「――――ごふっ」

「…………」

 

リアスの紅に染まった魔力の弾が魔術師を直撃すると、その勢いで飛んできた背中をナインが蹴り飛ばした。

 

その際、一発の蹴りで廊下の壁面に人がめり込むのは、先ほどナインが自身におこなった錬金術の新技法、「錬気」による身体超強化の恩恵だ。

 

錬金術で練り上げた「気力」は、人体の皮膚表面、骨髄に至るまで鉄の強度にまで鍛え上げさせる。 ただし、これは「変化」ではない。

錬金術を使ったにも関わらず、その身体は変化しているのではなく、昇華していた。

 

錬金術師であるにしても、迫撃をも得意としているナインだ、錬金術で強制的に鉄の強度に練り上げたとしても、身体も追いついているゆえ過剰な負担にもならない。

 

教会に入った当初は、錬金術で類稀な発想や技術を天性として持ち得ていたナインだが、その代わり身体的な才能は平凡だった。

それがなぜ武闘派錬金術師として名を馳せたか。 簡単だ。

 

知的好奇心。

 

人にああいう動きは無理でも、悪魔や堕天使のような人で無い者なら容易くできてしまう。 それはなぜか。

なぜ悪魔はあんなに身体能力が高いのか、肉体が頑強なのか。 奇天烈な態勢からの有り得ない近接体術。

外見骨格は人間とそんなに変わらないのに、なぜだ、なぜだ―――――なぜなのか。

 

そういった疑問を、疑念を、ナインは抱き続けていた。

ついには、好奇心から――――極限に至るまでの身体強化に思考が行き着いた。 それが現在だ。

 

いまのナインは、ある程度の攻撃なら素手で受けられる自信があった。

そんな鉄の強度と化した腕を引いたナインは、いつもの調子で首を傾けてリアスに向く。

 

「さっきからこっちにばかり敵を吹き飛ばして来るのいい加減やめにしましょう、ね?」

 

すると、リアスはどす黒い笑顔を張り付けてナインに向けた。

 

「ふふっ、なんのことかしら」

「そんなに私が兵藤くんと成り代わったのがお気に召さなかったので?」

 

ナインもさっきは少し強引すぎたかもしれないと後悔したが、この旧校舎の内部に降り立ってみてようやく理解した。

 

「この兵力をあなたたち二人だけで突破するのは無理ですよ。 それはあなたも解っているはず」

「だって…………」

「論じたって始まりませんよ、いまこうしているときだって、停止の能力は高められている。

全員停まったら本当にアウトだ」

 

いまもナインとリアスの周りには、数十人の魔術師たちが身構えている。

ゆらゆらと、不気味に漂うローブの者たちは侵入者である二人を再び即座に取り囲む。

 

「しかも埒が空かない。 伏せていなさい」

「え、ちょっと待ちなさいって―――――」

 

これでは自分が来た意味が無い。 旧校舎の制圧を迅速におこなうためにナインはリアスと共に来たのだ、ここで足踏みはしていられない。

 

「ハーフヴァンパイアを奪い返されたら面倒だ、侵入者を捕らえろ!」

「悪魔は殺せ―――――ん? く、黒い弾……?」

 

周囲を囲む魔術師たちは、そのとき目の前に投げられた黒光りする球体に視線がいった。 円を描く様に素早く回転するナインの手元から投げられたものだ。

すると一人の魔術師が、リアスが伏せているのを見て青ざめる。

 

「て、擲弾だ! 撃ち落とせ!」

「こんな近くでは無理――――――」

 

瞬間、それぞれの目前で連鎖的に爆発を引き起こす無数の黒い球体――――「投擲弾」。 魔術障壁もここまで接近されては展開の仕様がない。

錬金術により錬成したスタンダードな爆発物だが、ナインにとってこれが一番使い勝手が良いのだ。

 

爆発するまでの時間差を計算して操る時限擲弾は、瞬く間に魔術師たちを吹き飛ばし、包囲を打ち破る。

 

「あなた、そんな近くで…………鼓膜は大丈夫なの?」

「慣れてしまった」

 

ユニークに笑って見せるナインに、リアスは苦笑した―――――と、その後ろに影――――

 

「よっ」

「がぁっ」

 

リアスの背後に迫った残党を文字通り一蹴する。

顔面を足裏で潰されて吹っ飛ぶ魔術師の手から離れたナイフを、空中でキャッチするとリアスは驚いた顔をしてそっぽを向いた。

 

その直後、今度は自身の後ろから来る魔術師の膝にそのナイフを突き立てる。

 

「がぁぁぁぁぁあッあぐあ――――!」

「もう少し愛想を良くしてくれた方が私としては守り甲斐があるのですがねぇ。 どうにもならないよう――――で!」

 

膝を押さえて悶える敵の顎をつま先でガツンと蹴り上げると、肩を竦めてそう言う。 その言葉にリアスは溜息を吐いた。

 

「別に、あなたのことは嫌いではないわよ?」

「ならどうしてそんな浮かない顔をしている」

 

胸の下で腕を組んだリアスは、少し赤くなって膨れっ面になった。

 

「あなた、何を考えているか分からないんだもの。 掴めないというか、予想できないというか」

「ははぁ」

「な、なによ」

 

ニヤニヤと得心するナイン。 リアスは後ずさる。

 

「兵藤くんや他の男性のような反応を見続けてきたあなたにとって、私のような未知数の人には近寄り難いと、そういうことですか」

 

思考能力が他とは常軌を逸する人間(ナイン)。 人並みの思考を持つ悪魔(リアス)

どちらが普通で、どちらが異常かはその人物の中身が決めることだ。 悪魔だろうと人間だろうと、決まった定義は何一つ存在しない。

 

「と、着いたようですね」

「…………! もう?」

 

早い。 辺りを見回せば、先ほどまで隊列を組んで攻撃を仕掛けてきた魔術師が一人も居ない。

代わりに爆発や爆風の爪痕が刻まれていて、死屍累々の様相を呈していた。

 

「やっぱり……速い」

 

認めざるを得ないと、リアスは感心する。 建物一つの制圧までに十分と掛からなかった。

 

するとナインが床に、何やら魔方陣らしきものを刻みつけているのを見て、リアスもしゃがみ込んだ。

ミカエルから渡されたとされる名品「牙断」を持ってガリガリと削る様に陣を描いて行く。 その様は、原始的だった。

 

いままで、魔方陣など手間もかけずに魔法で刻み込んでいたため、ナインの行動は、より人間的な部分を垣間見させた。

 

「私はいままで、グレモリー家専用の魔方陣を使っていたから、そういう一般的な転移魔方陣は新鮮ね」

「魔力はあなたからいただくので、私のも万能ではありません。 ただ、教会での仕事では隠密の任務もおこなっていたので、相手の転移妨害もすり抜けられるくらいはできないと――――失礼、ここに魔力を注入していただけますか」

「ええ、分かったわ」

 

リアスは自分の両手を、ナインの刻んだ魔方陣の中心に置いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分前、新校舎。

突如とした乱入者による衝撃波で、会議室の崩壊とともに落下の危機に見舞われた一誠たちだったが、三トップの防御結界で完全に防いでいた。

 

結界内では、リアスとナイン以外の三大勢力会談の要人たちが、この衝撃の犯人を睨んでいる。

 

「先代レヴィアタンの血を引く者――――カテレア・レヴィアタンっ」

「ご機嫌よう、現魔王サーゼクス殿、セラフォルー殿」

 

深いスリットの入った煽情的なドレスに身を包む女性は不敵に笑み、杖を下げた。

その女性の登場に、一番驚いた様子なのはセラフォルー。 いつもの軽快な雰囲気は無く、事の事態を少なくともさっきよりは重く受け止めていた。

 

「あなたが……どうしてここに」

「三大勢力のトップが共同で防御結界……なんと見苦しいこと」

 

挑戦的な笑みで言うカテレアと呼ばれた女性。

 

「旧魔王の一族……過激派の者たちが人間界に入り込んでいたのか」

「その通り」

「しかしカテレア、これはどういうことだ」

「見ての通りです、サーゼクス。 今日この会談のまさに逆の考えに至っただけです。 神と先代魔王がいないのならば、この世界を変革すべきだと、私たちはそう結論付けました」

「世界を変える…………そこまででかい事を考えているなら、もちろん先導者がいるよな。

お前ら旧魔王ごときに世界を変えられるとは思えない」

 

そうアザゼルが言うと、カテレアは攻撃的に反論する。

 

「黙りなさい、私は、私たちはオーフィスの力などなくとも、世界を滅ぼす力を持っています!」

『―――――っ』

 

オーフィス。 その名を聞いて全員が目を見開いた。

よりによって、このテロリストの先導者が最強のドラゴンとは。 赤龍帝、白龍皇、その上には、無限の龍神(ウロボロスドラゴン)オーフィス。 最強の座に着く無双の龍。

 

「…………やっぱりか、だが、オーフィスの野郎も大概勝手な奴だ。 先見の明を持っているとは到底思えないんだが?」

 

アザゼルの問いかけに、カテレアは息を吐く。

 

「オーフィスには、力の象徴としての、力が集結するための役を担っていただくだけです。 彼の力を借り、世界を一度滅ぼし、再構築するのが目的! 我々、『禍の団(カオス・ブリゲード)』旧魔王派の目的!」

禍の団(カオス・ブリゲード)…………やっぱり実在してやがったか」

「何なんだよ、そのカオス・ブリゲードって」

 

一誠がそう問うと、アザゼルは人差し指を立てて説明し始めた。

 

「最近その存在が鮮明になってきたんだがな、テロリストだよ。 三大勢力の危険分子を集めていると聞くし、その中にはお前のような中途半端な奴じゃなく、ちゃんとした『禁手』に至っている人間も所属しているとも聞く。

まだ未知数の危険分子の集合体だ」

 

すると、カテレアが周りを見回す。 何やら一誠たちの陣営を探る様に視線を向けてきているが、やがて不機嫌そうに舌打ちをした。

 

「紅蓮の錬金術師は? 出席させていないのですか」

「…………なぜ、そこで彼の名が出てくる」

 

サーゼクスは眉根を顰める。 なぜここでナインの名を。 しかも、カテレアがナインの名を知っているのか疑問符が尽きない。

カテレアはその問いにフッと鼻で笑った。

 

「彼には、このクーデターの協力者になってもらう手筈でした」

「なんだと…………」

「…………」

 

しかし、持った杖で勢い良く地面を突き、苛立ちを見せる。

 

「しかし、こちらから何度も呼びかけてやっているというのに、あの男ときたら”うん”と言わないのです。 結局、あの男は引き抜けず仕舞い…………ここに居たら少し遊んであげようかと思いましたが」

「ダメだカテレア。 ありゃこっちのもんだ。 お前らみたいな非生産的な妄想族には勿体ない逸材なんだ――――やるかよ」

「…………あなたと紅蓮の男との接触はあまり聞いていないですが」

 

カテレアの問いに、アザゼルは不敵に笑んだ。

 

「一目見りゃ解る。 そして、そりゃいまさっき現実にもなった――――神器の禁手化(バランスブレイク)を、聖剣も神器も持たん人間が無効化するなんつー夢物語を実現したぞ、あいつは。 認めるなっつー方が頭おかしいぜ」

「…………あなたの話を聞き、ますます惜しいと思いました――――そんなことならば、もっと前から力づくでも虜にしていれば良かった」

「…………待てアザゼル」

 

その瞬間、一誠の下から魔方陣が浮かび上がった。 ただ事ではない事態に、アザゼルが不敵に笑む。

やっとか、と。 本人が居ないもんだから話が弾まないったらないぜ、と余裕な笑みを浮かべる。

 

「―――――何やら、私の噂をしているようですが。 どーもお初に…………えーと、誰?」

 

光も止まぬ内に、その男はカテレアを指差してアザゼルに問いかける。 それに、アザゼルはゲラゲラ笑いながら耳元で言った。

 

「カテレア・レヴィアタンだ、旧魔王の一族。 戦争戦争言ってて追い出された奴らだ」

「納得」

「…………紅蓮の、錬金術師――――ッ!」

 

一誠が魔方陣から消えるのと同時に、紅の光の中から現れたのは、ナイン・ジルハードだった。

 

「さて、つまらぬお嬢様のお守りも終わり、私も自由だ――――祭りにしましょう、きっと楽しい」

 

悪戯っぽく、冥界陣営、特にサーゼクスたちには聞こえないよう、皮肉を言いながら開戦の火蓋を自ら切ったのだった。 目の前にいるなら、打ち倒すべき敵であろうと。




文章、語句等、おかしいと思ったらご指摘ください。

ちなみに、ハイスクールD×D用錬金術を現在開発中なので、次の更新がまた遅くなるかもしれないです。
テレビに追いつくのは無理かな……
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