紅蓮の男 作:人間花火
次回は時間かかるかも……すみませんです。
『この地を管轄としている悪魔はこの近くの学園に在学している。 悪魔は夜間に行動する生き物だから、おそらくまだいるだろう』
先の話し合いで聖剣強奪の首謀者と、その共犯者たちの全貌が明かされてきた。 詳細不明の男が一人いるが、それ以外はある程度名の知れた人物。
コカビエル、バルパー・ガリレイとフリード・セルゼン。 そして、名前も人物像も不明な男が、今回の聖剣強奪のメンバーだ。
夜道を歩く中、ゼノヴィアの言葉を思い出すナインは欠伸をした。 口を片手で押さえる。
「それでなぁんで私がわざわざアポ取りに行くはめになるんだか」
――――立場が弱いのは面倒ですね。 片や元犯罪者、元受刑者――――片や聖剣使い、聖剣の適性者、教会からの厚い信頼。
世知辛い、というか当たり前の上下関係に気づくナイン。
聖剣強奪犯を捕まえるより先に、やらなければならないことがこれだ。
この駒王町を管理する悪魔に事情を伝える。 聖剣を奪った主犯とされる堕天使コカビエルだが、この堕天使に、万が一にもこの土地を管理する悪魔が手を貸せば面倒なことになるのは目に見える。
悪魔と堕天使は元来敵対関係にあるが、聖剣となれば悪魔も危惧する代物なため、それを奪った堕天使と協力し、将来、教会の仇となる恐れがある。
そういった理由で、学園に向かうナイン。
「だからって夜中に行かなくてもねぇ」
そんなことを言っているがしかし、目先の娯楽を見つけたナインは久しぶりの人街に出て嬉しそうにしていた。
真っ赤な身なりをしている彼はかなり目立つが―――それが奇異の視線だけではないことには気づいていないようだ。
「あ、あのバイクいい音を蒸かしていますね……爆発させたらさぞ爽快だろうに」
しかし、そんな視線を本人はお構いなしに妄想に耽る。 真紅のスーツのポケットに片手を入れて無表情でそんなことを考えている。
そう、悪魔の気配を探りながら練り歩いていると、一際大きな学び舎―――学校の校舎が見えて来た。
「…………そういえば、悪魔は人間界の政治や行事にも首を突っ込んでいると聞いたことがありますね」
”駒王学園”と大きく描かれた校門を見る。 夜中だからなのか、学園校舎の周りには誰も居ない。
静寂に包まれた学園――――日中はここに学園生が賑わっているが、今となっては魔境と言えるほど異様な空気に満ちていた。
「………さて」
新校舎を眺めたあと、旧校舎を見る。
古びた作りの校舎に、ナインは感嘆した。
おそらくは、こちらの古そうな校舎は使われず、あちらの綺麗な校舎が本校舎なのだろうと推測する。
そうして古びた校舎の方へ歩いて行くと、壁を伝いながら手の平で撫でるように滑らせた。
ナインの癖の一つだ。 形ある物を見ると、決まってする行為。
見て、触って、確かめる。 錬金術師は、ある程度の知識と能力があると、触れた対象の構成物質を大体は理解することができる。 例外はあるが。
「ん~? いやしかし古ぼけている割には、どことなく手が入っているような……それに……」
今度は両手を旧校舎の壁に合わせた。
「汚れやほこりが少なくて、これじゃ少量の材料にしかならない、残念」
そう言いながら、まったくお構いなしに旧校舎に入って行った。
ゆっくりと歩きながらもそれは火のように迅速に旧校舎を侵していった。 もはやアポイントを取ることなど二の次になり、この雰囲気ある旧校舎に興味津々にこの紅蓮のスーツは進んでいく。
そして、一つの教室にたどり着いたとき、ナインは大きく笑った。
閑散とした廊下で声も無く肩を揺らし、低い声音が廊下を響かせた。
「当たり、ですか。 まったく嫌ですねぇ、爆発させたいと思っていた建物に『ヒト』がいるなんて」
こういうときはっ……と、とナインはポケットから手を出した。
こういうときは扉を叩いて挨拶するのが礼儀というものだ、と当たり前なことを思いながら実行した。
扉を叩く……すぐ横に掛けてある”オカルト研究部”という木のプレートを見て微笑した。
「なんとも、洒落た名義なことで……」
『どなたかしら?』
扉を叩く音に、返って来た返事は女性の声。 凛として、さらに大人びた声音だった。
ナインは扉に右手を押し付けて軽く呼吸する。
悪魔――――普通ならば敵対関係にある存在。
しかしあちらの返答が予想外に早かったため、扉の向こうの気配の数を読むことを放棄したナイン。
仕方なく呼びかけるように挨拶をする。
「教会の者ですが……」
『え?』
「ああ……」
言った後しまったと思ったナイン。 この扉の向こうに悪魔がいると確信しておきながら自分が教会の人間だとあっさり明かしてしまった。
しかし、時既に遅しというもの。
当然あちらは……敵意を剥き出しに……いや、あちらも困惑しているようだった。
先ほどはあんなにも早く返答が返ってきたが、今度はかなり間がある。
―――一方、扉の向こう。
私、リアス・グレモリーは困惑していた。 教会の人間と名乗る人が、律儀に悪魔の居る教室の扉を叩いてきた。
低い声音だった。 「男の人」というのが強調されて解る…………ちょっとカッコイイ低音。
「誰でしょうか―――教会と名乗っていましたが」
私の眷属―――「
ここには私と彼と小猫、アーシア。 そしてもう一人―――朱乃もいる。 イッセーは夜中の悪魔の仕事で出ているけれど、相手が一人ならば恐れることは無いと思う。
いや、恐れるって……戦うと決まったわけじゃないのよ私、冷静にならなければ。
それに、自分から教会なんて名乗ってしまう人に後れを取るはずがないわ。
初めてのケースに少し焦る自分を奮い立たせて私は一度咳払いをした。
「いま開けるわ」
そう言い、私は扉に掛かっている施錠の魔法を解いたのだった。
◇
「あ、開けてくれたんですか。 門前払いは少し覚悟していたのですがね」
「あなたは…………?」
悪魔が教会の人間の来訪を許した事に少し感心するナイン。
入室後、部屋を見る。
奇妙な紋様が描かれ、円陣を見るからに錬成陣と錯覚しそうになるがナインはすぐに自分の錯覚を否定した。
「魔方陣……」
目を細めて陣を見て、そしてそのままの瞳で目の前の五人を見た。
金髪が二人……整った顔立ちの少年と……可愛らしいロングヘアーの少女。
黒髪が一人―――ポニーテールの長身の女性。 健全な女子高生制服には似合わない抜群のスタイルが目を惹く大和撫子。
銀髪の女の子が一人――――小柄で、可愛らしい容姿をしている。
そして――――。
「ねぇ?」
眺めるナインに、紅髪の女性が訝しげに話しかけてきた。 目を細めた様もまた美人を湧き立たせる。
真紅に染まった艶やかなロングヘアー……ナインの鼻にも僅かにその色香が漂うが、本人はまったく頓着せずも頭を掻いた。
「あ~失敬。 挨拶が遅れまして――――ヴァチカン法王庁、つまり教会からの使者ですが……今度そちらに改めて挨拶しに行くのでよろしく。
それと言伝を……どうやら他にもお仲間の悪魔がいるようなので、そちらにもよろしくお伝えください」
まぁ、それだけなんで、と立ち去ろうとするナイン。
仲間の悪魔とは、彼女らとはまた別の気配のことだ。 すでに新校舎の方に数名感じ取っている。
感じ取ったと一概に言っても、魔力がある程度高い者しか察知できていないわけだが。 それでも学園の中に彼女らとは別に悪魔がいることは判断できる。
「あっ…………!」
すると突然、金髪の少女の方が短く悲鳴を上げた。
誰もがナインのあっさりとした退室に呆気に取られていて呼び止めようとしなかったが、この少女だけは違った。
何か酷い物でも見たかのような声に、ナイン以外の一同が彼女に振り向く。
「そんな……ジルハードさん――――っ」
「ん……あなたは……」
掠れた声で己の名を呼ばれ、やっと振り向くナイン。
両手で口元を覆って後ずさる少女―――怯えきった瞳が、僅かに分かる体の震えが、他の眷属たちを刺激した。
「アーシアはこの人を知っているの? こういった人とは無縁だと思っていたのだけれど……」
紅髪の女性はそう言ってナインを見た。 なおも震えながらアーシアと呼ばれた金髪の少女は口を開く。
「…………ナ、イン……ジルハー……ドさん……教会所属の――――錬金術師さんです」
「え―――――」
「…………」
いまにも消えかかるような言葉で、目の前の紅蓮のような容姿をした男の名をその場に刻む。
「――――――! ―――――ッッ―――――っ」
この少女―――アーシア・アルジェントにとっては口に出すのすらも恐ろしい名前だった。 脳髄までもがこの男の暗黒の微笑で包まれ、瞳孔が開いたその一瞬だけアーシアを過去の記憶へと飛ばす。
ナインは、そのアーシアの様子を見てほくそ笑んだ。 どちらにせよ、自分が名乗るまでもなく彼女が自分の正体を暴くことになる。 ナインはそう思い、さっきの自分のうっかりは忘れようとしていた。
そんなほくそ笑むナインを見てなぜか怯えるアーシアを、ポニーテールの女性が庇って彼をキッと睨みつける。 庇われたままぶるぶると震えながら男を見た。
「どうしてあなたがここに……」
「…………」
状況は読めないが、アーシアがナインを怖がっているのは事実だ。 祐斗と小猫は立ち上がって臨戦態勢に入る。
「…………アーシア?」
片手で眷属たちを制し、紅髪の女性―――リアス・グレモリーは説明を求めた。
目の前の赤いスーツの青年。 若干逆立った髪と、鋭いが冷たい目つき。 確かにアーシアの友達とは考え難い。
「あなたは捕まって……ヴァチカンの地下深くに閉じ込められていたはずです……どうして――――」
アーシアの消えるような叫びに、それを遮るようにナインは頭を掻いた。 鬱陶しそうにコツと靴を鳴らして口を開いた。
「…………はっきり言っていいんですよ。 私が同じ研究所の錬金術師を、綺麗に弾けさせ――――」
「いやぁぁぁぁあッ! 言わないで、言わないでくださいっ!」
「…………大丈夫? ……アーシアがこんなに怯えるなんて――――何者? 何が目的?」
しゃがみ込み、震えるアーシアを撫でながら、リアスがナインにそう聞いた。
――――彼女のせいで第一印象最悪ですよ。 と面倒くさそうにしながらリアスの問いを――――無視した。
「久しぶりですねアーシア・アルジェント。 まぁもっとも? 『聖女』の貴女とお話ししたことなんて一度もないですけどね。 それでも、あなたは教会の信者たちの心の支えで有名でした」
そのあと、ナインは笑って言った。 小さい笑いから、湧き上がってくるような嘲笑の奔流。
「クックク、フハッハハ! それがどうやって、私が投獄されていた二年間のうちに悪魔になったのか、興味深いところではあります……が、ふっははは!」
「部長……さん。 彼は教会ではとても有名な錬金術師です。 とある事件が理由で、ヴァチカンの地下に……」
まだオブラートに包む気ですかこの娘は、とナインは心中手を叩いて面白がった。
すると、アーシアをもう一人の金髪の少年が遮る。 彼の教会に対する憎悪の念がナインを撫でた。
「牢屋、だろう? 僕も一時期ヴァチカンに居たからね――――あの地下牢は大罪人を押し込めて生き地獄を味わわせる―――冥界にもっとも近いとされる人間界の牢獄だよ!」
「おっとと、ちょ~っとちょっと待ってください。 そういうのは今度にしましょう。 また会えるんですからね」
「アーシアさんのこの怯えよう、そして地下牢獄――――あそこは滅多なことでは入らない場所だと聞いた」
空間から黒い剣を抜き取るように出現させる祐斗。 その視線は、ナインに向けて放たれていた。
その様相に、自己紹介すらしていないのになぁ、と頭を掻くナインは停戦を促した。
しかしそれを祐斗は聞かない。 彼は―――ある理由で教会の人間を差別なく憎んでいるのだから。
「キミの罪はなんだ――――錬金術師!」
「っ――――たく面倒くさいなぁもう」
神の如き瞬速移動。 祐斗は前に躍り出て一気にナインに肉薄していた。
「せッ!」
「――――っと……あなた、短気って言われたことありません?」
「生憎そういった経験はないね!」
「では別の何かがあなたを動かしているということか……その目が物語っている」
黒い剣の切っ先をナインは躱す。 足を薙いできた―――身体を躍らせて跳躍する。
首を薙いでくる―――屈み避ける。 軽業師のように、祐斗の剣戟を悉く避ける、飛び回る。
そして腹を薙ぐべく、剣が横に一閃されたとき、ナインは、仰け反りざまバク転して距離を取った。
「…………速いですね」
伊達に武闘派として鍛錬を積んでいない。 ナイン・ジルハードの身のこなしは、見ている者も圧倒していた。
リアスも思わずハッと息を呑む。
「祐斗が捉えられないなんて……」
(動きそのものはどうってことないけど。 この赤い人……反応と対応を上手くマッチさせているのか、攻撃がなかなか当たらない!)
祐斗も心中でこの男の身体能力に驚愕する。
さらに驚くべきは―――祐斗の動きを見ていること。 人間が悪魔の速さを肉眼視するなど、言葉にするだけ滑稽だというのに……。
すると、唐突に一足飛びで豪華絢爛なテーブルに乗っかるナインは、そこから再び一足飛びで窓へ飛ぶ。
逃走を図るつもりね、とリアスはそう察し、手に魔力を集め始めた。
「…………元犯罪者ということね。 その割にはあまり慎みが無いみたいだけれど―――そんな危険人物、ここで逃がすわけにはいかないわ。 グレモリー公爵の名において!」
普段ならば冷静でいるはずのリアス・グレモリーが、可愛い眷属を怯えさせた代償をナインに払ってもらおうといきり立つ。 そしておそらく、彼女がナインに攻撃的になった一番の原因は―――彼、ナイン・ジルハードが元犯罪者で、囚人だったことも噛んでいるだろう。
彼女は―――いや、感情を持つ動物ならばすべての者が抱く感情だ。 犯罪者=悪という概念。
ゆえに、反射的に防衛本能としてナインを迎撃する考えに至った。
リアスの手に青白い光が灯ると、ナインよりも速く窓の鍵にその光が接触する。
「施錠の魔法よ――――どんな衝撃にも耐え得る硝子と化せ!」
「追加――――ですわ!」
朱乃の放つ黄色い波動も、青白い光に続いて窓を鉄壁に変化させる。 魔法による強化ガラス――――もちろん体当たりなどではビクともしない。 生身の人間ではどう足掻いても越えられない壁。 これで逃げることは叶わない。
ナインのあの終始にやけた表情を歪ませることが――――できると、皆は思っていた。
「魔法……面倒ですね。 魔力が施された物質には
強行する他、選択肢は無い。 リスクはあるが。
「動きが止まったわ!」
そう眷属たちに呼びかけるリアス。
するとナインは、両手を合わせたあと――――不敵に笑んだ。
なにかの重りを擦り合わせたような鈍い音が響き渡る――――逆三角の錬成陣と、三角の錬成陣が円を成してナインの術に働きかけた。
まるで面倒そうな拍手のように成された両手合わせに、ナイン以外のそこにいる全員が訝しむ。
「近づくと吹き飛びますよ? いいならいいんですけどね」
その瞬間――――ナインは合わせた両の手を窓ガラスにバンと接触させる。
その直後、バチっと、火花が散って迸った。
数条の雷がうねったとき、魔力で強化された窓ガラスが白く光る。
「きゃ!」
「うっこれは――――!」
「―――――」
電気のような数条の筋が窓ガラスに走った直後の出来事だった。
短い破裂音が教室内に反響する。 ガラスが破裂するように割れて飛び散る。
リアスと朱乃、二人の補助魔法によって強化されたガラスが勢いを持って割れた。
爆発の勢いと強化されたガラスが四散するとなると、相当の殺傷性を有しているだろう。
それにハッと気づいたリアスと朱乃が、障壁を出現させて眷属たちを守る。 散弾銃のごとく飛んでくるガラスの破片は教室を破壊し、テーブルやソファーは蜂の巣と化していった。
しかし、割れる直前に窓の真下に身を屈めたことにより被害を受けていないナインは笑う。
そして、爆発が止んだときはすでにナインは割れて四散した窓の淵に立っていた。
あー、危ない、と呑気にガラスの破片をつまんで弄びながら、障壁の中でひとかたまりになっているリアスたちを薄く笑い飛ばす。
「魔力を纏ったガラスの破片――――気を付けてくださいね――――よっ」
そう言うと、およそ三階の高さから身軽に飛び降りた。
空中で一瞬不満そうにして自分の両手を見る。
「風船程度の爆発力……やはり材料がガラスと若干の金属と……酸素だけでは足りないし、なにより魔法の施術が邪魔でした……
スタ、と三階から平然と着地したナインは、わき目も振らず、ゼノヴィアたちの待つマンションへ走って行ったのだった。
「逃がした……わね」
障壁を解いたあと、束ねられた黒髪を揺らしながら走り去っていくナインを、割れた窓から見てリアスは目を細めていた。
◇
「なに、リアス・グレモリーと交戦した?」
マンションの一室、ゼノヴィアがリビングでそう聞いた。
ソファーから体を起こしたナインは、横で溜息を吐くイリナを見てゼノヴィアに向いた。
「仕方ないじゃないですか。 あちらが突然仕掛けて来たんですから」
「なぜだ……?」
腕を組んで考えるゼノヴィア。
すると、すぐにイリナに豆電球が光る。 人差し指を立てて口を開いた。
「知り合いでも居た……とか? ほら、あなた元犯罪者だし、顔も割れてるんじゃない?」
実際、教会の錬金術師→仲間爆殺→二年間牢生活の囚人。 ナインはこういった異色の経歴を持っている。
教会で錬金術師として労働していた当時、優秀な錬金術師として称号を与えられたのはナインただ一人だ。
投獄前の彼を知っている者も、世界には少なくない。 教会の力で一般人には隠匿しているが、人の口に戸は立てられないという。
するとイリナの推測に、ナインは片方の手の平に息をフッと吹きかけて指で擦る。 これもまたナインの癖。 刻まれた錬成陣に不具合が生じないように、念入りに手入れをする。 これは彼の武器で……趣味なのだ。
二人に開いた手の平を見せながら笑った。
「それがなんと『聖女』がいたんですよ。 アーシア・アルジェント。 神器、聖母の微笑―――トワイライトヒーリングを持つ金髪の少女がね……経緯は不明ですが、いまはリアス・グレモリーさんの下僕になっているみたいですよ?」
「直接本人から聞いたのか?」
いえ、とナインは片手をしまう。
「眩しい紅髪、高尚そうな物言い。 間違いなく貴族出身の悪魔でしたよあれは」
この地を管理する悪魔があの魔王の妹、リアス・グレモリーということは三人とも知っている上での行動だった。
しかし、ナインはそういった要人の身内に会うのは初めてだったために、貴族という人種を珍しく思っていた。 ゼノヴィア、イリナも然りだが。
「魔に堕ちた元聖女がいたとなればそちらも気に掛けなければならないな」
「魔に堕ちたと言っても、小心なところは変わっていないようでしたよ」
「…………悪魔になっていたなら、関係のないことだ」
そう言い切るゼノヴィア。 悪魔を差別無く、区別も無く敵愾心を持つゼノヴィアの瞳に、ナインはデジャブを覚えた。
その様子にやれやれ、とナインは背を向けた。
悪魔なら、すべて悪か。 拙く、そして浅はかな考えだ――――ナインはニヒルに笑んで目を閉じた。
「あなたも、まだまだ犬から脱することはできていませんねぇ」
「なんだと……」
ナインの物言いに、ピクリとゼノヴィアの眉が釣り上がる。
「私が犬だと――――ならば貴様はなんなのだ」
「私は人間です――――少しいじくるだけでただの爆弾になる空っぽな人間ですよ。 しかしあなたは犬だ。 教会の家畜、使い走り――――まったく、あなたのような凛々しく美しい女性が、その他大勢と同じ扱いをされているなんてね。 自分のしたいことも自分で見つけられない哀れな少女ですねぇ」
アーシアが怯えたとき、周りの仲間が庇った。 嫌々であの輪の中に入ったのなら、あんな絆は生まれないだろう。 つまり、彼女は自分のしたいことを見つけたのだ。
一方で家畜……使い走り。 教会に従い、思考を停止させた従順なそれのようにいいように使われる。
ナインの所属していた研究所にいたベテランの錬金術師たちも、教会に求められるがまま従うだけで、考えることを止めていた。
誰一人、自分がやりたいことをやろうとしない。 皆同じことをし、同じような目標に向かって、変わり映えのしない研究生活を過ごしていたナインは、そんな研究機関に絶望した。
彼にとって、研究所はこの世の何よりも地獄に見えたのだ。 自分のしたいことが分かっているのに、なぜできないのか、と。
牢に入ることにより、その永遠に続く輪廻を脱したナインは、思うままに望める
教会の命令で牢から出たのなら、結局は教会に従っているのではないかと思うだろうが、彼は教会の命に喜び志願した。 戦場という特殊な場を提供してくれた教会に感謝すらしている。
すると、ゼノヴィアだけでなくイリナの細い眉も動いた。
「私たちは教会に従っているが、真の心は我が主に捧げている。 主を犬の飼い主と貶めるつもりか――――紅蓮の錬金術師!」
「神も、結局は人間と同じような本質を持っているかもしれませんよ? ならば犬飼いと比喩されてもおかしくない」
人間か、犬か、飼い主か。
「誰かに使われているあなたたちは、結果的に犬になっている」
「私たちは…………」
聖剣。 適性。 任務。 悪魔は主の敵。 そういったことを当たり前に教えられてきた――――否、本人たちは気づいていないが、「植え付けられた」に等しいのかもしれない そして――――
「自己犠牲。 こんな無意味なことをしているあなたたちより、悪魔に身を投じたアーシア・アルジェントの方がよっぽど人間らしい……」
「…………なぜだ」
ゼノヴィアが、拳を握る、ギリギリと。 それ以上言うなと言わんばかりに。
「なぜ我々のすべてを否定するようなことを言うのだお前は!」
「…………フフフ、ハハハ。 信じるのと、縋るのとでは意味がまったく違ってくる。 信じるのは良い、人間誰しも心の拠り所というのは必要です…………しかし、縋ったその瞬間、ただの傀儡に成り果てるのですよ人間は……ろくな爆発もしない醜いものにね……」
なおも拳を握り込み、いまにも殴り掛かりそうなゼノヴィアをイリナは押さえる。
「ダメよゼノヴィア、こんなところで仲違いなんて……!」
「お前は…………」
押さえられていることを良しとしているのか、ゼノヴィアはそれ以上イリナの中で暴れようとしなかった。
「お前は、いま、自分のしたいことをしているのか……?」
そう聞くと、ナインは満面の笑みを浮かべた。
「ええ、赴くままに。 私は、私のしたいことをしている……そう、二年前からね」
その狂気の視線は再び両の手の錬成陣に向けられたのだった。
わんわんおの介護がリアルに忙しい人間花火です。
今回、SEKKYOUになってしまった。 嫌いだったなら私を鞭打って下さい読者さま。
はいそれはそうと、ナインの仲間殺しの理由が描かれました。 探究し続けるのが錬金術師。
いやしかし、我ながら無謀な設定の作品を作ったものです。 原作で錬金術がスポットライトに当たり始めたら確実に詰むなこの作品。
あと一応、主人公の人物紹介を執筆しているのですが、まだ明かされていない部分も多々あるため当分あとになりそうです。
感想受け付けます。 バシバシ投げて来てください。
何度も言うが、これは触覚白スーツキンブリーではない(ry
誰か一期押しはいないのか(迫真)
言いたいことを言って去る作者でした。 あ、メッセも受け付けます。