紅蓮の男   作:人間花火

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いまのところ一週間に約一更新を保てているが……今後どうなるか。

では、4発目どうぞ


4発目 教会vs悪魔

「ん、あ~おはようございます紫藤さん」

「おはよ。 って……あなたって髪下ろすとまんま囚人みたいだよ?」

「…………そりゃ、仕方ないでしょ」

 

朝。 向かいの部屋から同時に出て来た二人はバッタリと出くわした。

昨夜、あのあとゼノヴィアは黙り込んでしまい、そのまま就寝を迎えることになったのだ。

 

「というより、ゼノヴィアがいま傷心中なんだけど」

「はい?」

 

イリナの隣の部屋からは、まだゼノヴィアは出て来ない。

自分たちの生き甲斐を、生きる意味を根本からナインに否定されたから落ち込んでいるのだとイリナは言う。

 

ナインはチラリとゼノヴィアの部屋を見て頭をボリボリ掻いた。

 

「昨日のこと、長ったらしく話しましたが。 要約すれば『他にやりたいことないのー?』という話だったのですがね。 随分と思い悩んでいるようで」

「誰のせいだと思ってるのよ」

「紫藤さん」

「なんでよ」

「あのときゼノヴィアさんの拳を止めたから、消化不良だった……とかですかね」

「あなたねぇ…………」

 

溜息を吐くイリナは、瞳を細めてナインに詰め寄る。 いつものツインテールを下ろされた栗色の髪が、ナインの鼻腔に付いた。

 

「あなたには分からないかもしれないけど、主は……神様は私たち信徒のすべてなの。 だから、昨日のあれは、私も少し傷付いたわ」

 

詰め寄るような姿勢から、徐々にしおらしくなってしまうイリナ。

減速してしまった詰問に、ナインは鼻で笑った。

 

「分かってましたけどね……あなたたち信徒は、主を崇めずにはいられない人間だ。 そして、救いを求める。 正しい道が自分では分からないから、そうやって絶対神として奉り、功徳を積み、正しい道がどれか、なんなのかを主から教授を受ける――――完璧な人生なんて、あるはずないと思うんですけどねぇ」

 

陳腐な表現だが、一般人視点のナインと、信徒である二人の価値観は違う。 あまり交わることの無い道。

 

間違えながら進むのが一般人(ナイン)

正しく導いてもらうのが信徒。

 

いやむしろ、ナインは間違えたまま進んでいる狂人なのかもしれないが。

 

「こんなことであなたたち信徒と議論しても終着点が交わらないことも実は承知していました。 ま、気にしないでください。 それよりも、今日は改めてリアス・グレモリーさんのところに挨拶に行くんでしたよね……あの、紫藤さん?」

 

おーい? と唖然とするイリナの顔を覗き込む。 しかし無反応。

 

「…………」

 

昨日あんなに攻撃的に捲し立てて来たくせに、今日はなんで引き際が良いのだろうか。

謝られるのではなく、まして昨日のように攻められるのでもなく……。 唖然とするイリナは思考する。

 

『縋ったその瞬間、ただの傀儡に成り果てるのですよ人間は』

(ジルハードは、私たち信徒の本懐が主に縋ることだって解っててあんなこと言ってたのね……相変わらずよく解らない人間)

 

結局あちらから引くのなら、傷付いていた方がバカみたいだ。

イリナはナインの呼びかけに気づくとふい、とそっぽを向いた。

 

「その前に、朝食でしょ。 私お腹減っちゃった」

「そういうところはちゃっかりしてらっしゃる……ん? なんですかその手は」

「…………お金ちょうだい」

 

イリナが片手をナインの目の前に突き出す。 その態度に、ナインは意地悪な笑みを浮かべた。

 

「さて、どうしましょうか。 そのような態度では私も貸す気になれないのですがね」

「ぐ……」

 

苦虫を噛んだような表情をするイリナ。 ナインの嫌な笑みを浮かべるその様は、本当に悪人そのものの顔だったが、堪える。 いや、堪えるしかなかった。

 

この高級宿も、そしてこれからの食事も、生活も、すべてはナインの財布から出る貴重な生きる糧である。

自分よりもこの元犯罪者の方が生活力がある事実に悔しがりながらもイリナは引きつった目元を直さずにちょこんと頭を下げる。

 

「…………く、ください」

「よろしい、では来てください」

「ちょ、ちょっと……そっちは玄関じゃないわよ?」

 

いいから、と少し不機嫌そうに言うイリナの手を引いて玄関とは反対の方向に歩を進めた。

イリナとしては、いまからでも早く近くのコンビニか、レストランでお腹を満たしたかったのだが、急に踵を返したナインに疑問を持った。

 

立ち止まったのは、冷蔵庫の前。 イリナはさらにむっとした。

 

「…………冷蔵庫? 海外のホテルじゃあるまいし、何か入ってるわけないでしょ? 第一、昨日まで何も入って……なか……た……」

「はい」

 

冷蔵庫を数秒ほどごそごそしたあと、ナインは何かを取り出してイリナに手渡していた。

されるがまま、渡されるがままにイリナはそれを受け取った。 狙ったかのようにタイミングよく朝のにわとりの鳴き声が響く。

 

「海苔弁当…………え?」

「まぁ、昨晩グレモリーさんのところに挨拶に行った帰りに少しね。 夜中だったので気の利いた物は用意できませんでしたが」

 

そう言いながら、イリナの持つコンビニ弁当の上に緑茶を置く。

唖然とする彼女に、ナインは踵を返して人差し指を立てて言った。

 

「人で無し犯罪者殺人狂爆弾魔変人狂人などなど…………。 どう言われようと構いませんが、私もこれで人間なんで。 これくらいの生活力がなければ…………ね。 でなければ、いままで独り身で生活なんてできないからねぇ」

「ちょっと悔しい」

「なぜ」

 

わなわなと震えたまま、イリナは顔を上げた。 

 

「どうしても!」

 

ゼノヴィア起こしてくる! と言いながらズンズンと足を鳴らして部屋に行ってしまった。

 

イリナはテーブルに弁当と緑茶を置いたあと、ゼノヴィアの眠る部屋に歩いていく。 その際、ナインのあの勝ち誇った嫌味な表情が脳内で蘇る。

 

「なんなのよ……ただの殺人者だと思ってたのに……」

 

見境いなく人を殺していく男で、そういったことには無頓着だと思っていたのに、さりげなくスペックが高いところを見せてくる。 悔しい。

 

「そういえば錬金術師って、やっぱり頭良いのかしらね」

 

頭が良すぎて危険なことを平気でしでかす。

ニュースでもよく見かけるが、犯罪を犯す人間の大半は高い頭脳を持っているきらいがあるとイリナは勝手に認識しているのだ。

 

「有名な作家さんとかも変わった人が多いし、まさかジルハード……実はかなり頭良かったりして…………?」

 

そこで頭を振った。

 

「いやいやいやいや、気が利くのと頭が良いのはまったくのベツモノだしね! 決定! ナイン・ジルハードは変人! 賢人じゃなくて変人!」

「おい、少しうるさいぞイリナ。 せっかく気持ち良く寝ているのだから静かにしてくれ」

「あ、ゼノヴィア」

 

ゼノヴィアの部屋の扉が開いた。

顔だけ出したゼノヴィアは、部屋の前で一人問答をしているイリナを訝しげに眺めていたのだが、あまりにも長い独り言だったので呼びかけることにしたらしい。

 

「ゼノヴィア、もう朝だし、起きれば?」

「眠い…………む?」

 

扉に手を掛けたまま瞼を再び閉じようとするゼノヴィアの鼻がピク、と動いた。 閉じられそうになっていた瞼は開き、「ちょっと!」と驚くイリナを押しのけてリビングに直行していった。

 

「ちょっとゼノヴィア、いきなりどうしたのよ…………」

「良い匂いだ……」

 

パジャマ姿のゼノヴィアは、ものすごい速さでリビング中を見渡した。 イリナもその様子には引き笑いを隠せない。

 

「ゼノヴィア犬…………」

「面白い犬種ですね、是非ともお目にかかりたい」

 

一瞬で犬と化した親友を見て引きつった笑みを浮かべていたイリナの後ろに、身だしなみを整えたナインが立っていた。 う、とさらに引きつった笑いをするイリナ。

 

「おお、これは!」

 

ゼノヴィアが声を上げる。 彼女の手に持っているものは弁当。

イリナと同じ海苔弁当をまるで崇めるがごとく頭上まで持ち上げて鑑賞していた。

 

ナインは目を閉じて笑った。

 

「空腹では満足に仕事もこなせません。 仕事は徹底的に確実に、スマートに行わなければ」

 

身だしなみを整えている間に海苔弁当を三人分レンジで温めたのだろう。

すでにバリバリと開封して箸まで割ってスタンバイしているゼノヴィアを見て、ナインは肩を竦めた。

 

「まぁ、空腹を押してまで仕事をする人ではないようですがね…………」

「はぁ…………」

 

溜息を吐くイリナの横を通り、ゼノヴィアの向かいの席に向かった。 それに続いてイリナもナインの後ろを付いて行き、朝食にありつくのだった。

昨晩のナインとの論争も、ゼノヴィアの頭からは根こそぎすっぽ抜けていた。

 

 

 

 

 

 

 

「なんですかこの恰好は」

「それが本来の教会の制服だ」

 

朝食後、身支度を整えた教会一行はリアス・グレモリーの根城である学園に向かっていた。

ゼノヴィアとイリナは、ピタッとした動き易そうな戦闘服の上に、大きい白いローブを羽織っている。 以前ナインと地下牢で対面したときと同じ服装だ。

 

それに対してナインは――――神父服だった。 白装束、そして胸に十字架を提げた聖職者。

 

「あ、お前! 神父服の上に上着を着るなど邪道だぞ! 脱げ!」

「うるさいですねぇ、これくらい問題ないでしょう?」

 

真っ白い神父服に耐えられなくなったのか、ナインはいつもの赤いスーツの上着を上に羽織った。 ますます変になる。

 

「ダッサ…………」

「神父服の方がよっぽどそれに当て嵌まると思うのですがね。 というか、あなた方のそのローブの中身と比べたら全然ましじゃないですか」

 

十字架の架かった真っ白な神父服に、赤い上着という奇抜な恰好に、イリナはうわー、と意地悪な笑みで日頃のナインへの仕返しをする。

すると、ナインが両手で上着を整えていると、見覚えのある建物に気づいて立ち止まった。

 

「着きましたよ」

「む」

「ここが…………悪魔らしい雰囲気の出てる場所ねぇ……」

 

本来はゼノヴィアとイリナが先頭に立って行くのだが、いまは道案内ということでナインを先頭に歩いていった。

この地を管理する悪魔――――紅髪の美女、リアス・グレモリーが居る校舎。

 

するとナインは、旧校舎の前に立っている人影を視認して目を細めた。

 

「…………こんにちは、御機嫌よう……ナイン・ジルハードさん」

「あなたは…………」

 

ナインは笑みを浮かべた。 予想外にも、出迎えたのは黒髪を後ろで束ねた気品溢れる大和撫子―――リアス・グレモリーの「女王(クィーン)」。

 

「姫島朱乃ですわ。 先日は突然斬りかかってしまい、誠に申し訳ありません」

「ほう、悪魔にも理性はあるのかむぐ―――――!?」

 

好戦的になったゼノヴィアの口を、ナインは手で塞ぐ。 しかし彼に慌てた様子なく、ゼノヴィアをさらに後ろに退けて朱乃の前に立った。

 

「いやいや、こちらもとんだご迷惑をね。 本当ならば私のような色々な意味でインパクトの大きい人間にアポイントを取りに行かせるこちらにも非があるのですよ」

「むー! むー!」

 

ナインは深々とお辞儀をする朱乃に返礼をする。 そして、彼女に包みを持たせた。 花柄の可愛らしい包み袋を見て、イリナは「だからどこから出したのよ……」とつぶやいた。

 

「あら、これは……」

「なにも戦争しに来たのではないのだから、餞別です。 ローマの土産……ああ、毒は当然ながら入っていないのでご安心を―――――なんなら、ここで試飲しますか?」

 

ナインの顔を覗き込む朱乃。 長い黒髪が揺れて、ナインの至近距離に彼女の顔が迫る。

いつもの笑みで朱乃の整った顔を迎えるナインは微動だにすることはない――――神父服のポケットに手を入れたまま、微笑んだ。

 

「悪魔にヴァチカンの名産はお嫌でしたか」

「…………その前に、私たち、未成年なんですわよ」

「あ…………」

 

包みに入っていたのは、酒だった。 ナインは自分の額をお茶目にバチンっと手で叩く。

 

「おっとこれは失敗」

「…………アーシアちゃんの言っていた方とは随分イメージが違いますわね」

「…………ちなみにどんな?」

 

朱乃はナインから体を一歩離し、半身になって手で誘うように返答した。 いや、これが返答とは納得し難いが、そのことにはナインは触れもしなかったことは言うまでも無い。

 

「主が待っています。 こちらへどうぞ」

「では遠慮無く。 ほら、ここからはお二人が先立つ手筈でしょう?」

「ああ……」

「ええ」

 

朱乃に続き、ゼノヴィア、イリナを先に行かせナインは最後尾に付いて旧校舎に入って行った。

昼間の出来事だった。

 

 

 

 

 

 

「初めまして、私がリアス・グレモリーよ……二人は……」

「先日、この男に挨拶に向かわせた……随分と世話になってしまったようだがな」

 

魔方陣が張り巡らされた部屋に何の疑問も抱かず、堂々と悪魔の居る教室に入った三人。

誘導した朱乃は、いつの間にかお茶を入れて相応の対応している。

 

すると、リアスの側から驚きの声が上がった。

 

「イリナ…………お前、イリナなのか!?」

「イッセー……くん。 懐かしいわね」

 

感動の再会……なのだろうが、イリナは憂いを秘めた表情で自分を知る茶髪の男の子を見る。

リアス・グレモリーの「兵士(ポーン)」。 快活な見た目の少年。

 

「こら、イッセー挨拶なさい」

「あ、すみません部長! …………え~、俺、リアス・グレモリーさまの『兵士(ポーン)』をしております、兵藤一誠と言います!」

 

主であるリアスに小突かれ、ビシっと挨拶をする一誠。

 

「二人は知り合い?」

 

イリナが頷いた。

 

「はい、幼馴染でした。 でも…………」

 

再び憂えた瞳で一誠を見た。

 

「悪魔になっているなんて…………運命って、やっぱり非情なものなのね、イッセーくん」

「俺も、驚いたぞ……クリスチャンだって聞いてたけど……もうそんな立派に教会の人間やってたなんてな」

 

見つめ合う二人。 この様子を見て、ナインは聞こえないように、見えないように笑みを浮かべた。

 

「感動の再会……とはならなかったようだけれど、本題に移るわ……いいかしら?」

「構わないわ」

 

そう聞くリアスに、イリナがはきはきと返事をした。 そして、ゼノヴィアが前に出て説明を始める。

 

「単刀直入に説明すると――――聖剣が奪われた」

『…………!』

 

一同が反応する。 悪魔が危惧する聖なる剣…………悪魔の鬼門と言ってもいい教会の対悪魔のリーサルウエポン。

それが、何者かに奪われた。 教会ですら所在不明となってしまったその聖剣は、教会が管理しているよりもずっと危険度が増す。

 

リアスは紅髪をたくし上げて冷静に聞いた。

 

「奪った者は……何が目的で?」

「目的は解らない……だが、判明しているのは、教会の人間と、堕天使、コカビエル」

「コカビエル…………そんな、大物が出てきているの?」

 

ああ、とゼノヴィアは頷く。 今度はイリナが口を開いた。

 

「聖剣を奪い返すことが本命だけど、コカビエルとの戦闘もたぶん避けられない」

 

リアスが僅かに生唾を飲み込んだのを、ナインは見逃さなかった。

嫌らしい笑みを浮かべて佇む赤い神父…………それはなんとも魔的で、神父とは思えない風情を感じさせる。

 

すると、リアスもその笑みを見逃さず、二人の後ろに隠れるように佇むナインを睨んで言った。

 

「…………先日は悪かったわね――――ナイン・ジルハード。 アーシアから大体の貴方の素性は理解したわ」

「ほう、アーシア・アルジェントさんが? すごく震えていたので、私のことなど話す気力も無いかと思いましたが……案外強い精神だ」

 

ゼノヴィアとイリナが道を空けたので、ナインはお構いなしに正面まで歩いて行く。 リアスと対峙したナインは、そう言葉を紡いだ。 それに、リアスは目を細める。

 

「正直驚いたけれど、教会の上層部の正気を疑うわ。 大量殺人者を釈放するなんて……いくら聖剣を取り返すと言っても、もっと違う術師はいたはずよ?」

「”紅蓮の錬金術師”という名誉の称号を与えられながら、同錬金術を使う研究者たちを爆殺――――後、投獄された……そして現状。 これは天界は承知の上なのかな」

 

先ほどまで黙っていた金髪の少年――――木場祐斗もナインの経歴と現在ここに健在している事実を指摘した。

 

「天界が承知かどうかは私たちも与り知らない。 なにせ、教会の上方からこいつを釈放して戦力として連れて行けとだけ言われたからな」

 

ゼノヴィアが真剣な眼差しでそう言った。 ナインは黙ったまま、今度はイリナが前に出た。

 

「教会の錬金術師で、称号を与えられるのは一部で、しかも極稀にしか選出されない……上からの厳選の下、考えられ、与えられるもの。 ここにいるナイン・ジルハードはその狭き門をくぐり抜けた実力がある――――他の錬金術師では、替えは利かなかったのよ」

「それも、アーシアからは聞いていたけれど……でも……」

 

それでも納得はいかないようだが、それも当然だ。

殺人者は殺人者。 能力があろうとなかろうと、この男は人の理道を外れ狂った犯罪人。 その爆殺の理由がどうあれ、魔が差したのであれ、こんな――――。

 

「こんな危ない目つきの人を解放するのは、得策ではないと思うの…………」

「それは余計なお世話というものだよリアス・グレモリー。 現に奴は言動こそおかしいが、社会一般常識は弁えている。 釈放されてからも、私たちに危害を加えたり、それを示唆する言動や行動もしていない」

 

そこに、イリナが割って入った。 彼女しか聞いていないナインのあの言葉。

忘れもしない、記憶に残る、あの――――。

 

「それに、ジルハード本人からも聞いた――――裏切る時は、ちゃんと宣言するって」

「ますます怪しいわね……」

「でも、私たちを裏切るなら、もうとっくに行動に移しているはず。 今になってもこうやって私たちと一緒にいるんだから、問題は無いと思うのよ」

 

その言葉に、一瞬笑みを失くしたナインだったが、すぐに表情は戻った。

 

「…………分かったわ。 悪かったわね、話しの腰を折ってしまって」

「いや、こちらの事情を少しは理解してくれて感謝している。 どうにも、こいつは敵を作りやすい男みたいだからな」

 

横目でナインを見ると、肩を竦めただけで何も言い返そうとしなかった―――自覚はあるようだが。

よし、と頷くとゼノヴィアは本題に話を戻す。 余計なお世話と言ったが、ナインについてはあちらにも理解してもらう必要があった。

 

「その奪われた聖剣を取り返す我々の任務だが――――その最中、あなたたち悪魔には目を瞑って、干渉もしないでもらいたい」

「理由は聞いても?」

 

そうリアスに問われたゼノヴィアは、意を決した表情で青髪を揺らした。

 

「この街に巣食う悪魔が、堕天使と組んだらこちらも困るのでね……聖剣は、キミらも嫌悪するアイテムの一つだろう?」

 

その言葉に、リアスは足を組んで軽く睨んできた。 彼女の身体を、赤い波動が静かに激動する。

 

「私たちが……堕天使と組む? それこそ有り得ないわ」

「そうか、その言葉を聞ければ満足だ、どうにも私たちの判断では信じられないのでね。

この街で一騒動起こす挨拶と合わせて聞いてみたのだが……どうやら杞憂だったらしいな」

 

悪魔が嫌う聖剣を堕天使が奪った。 聖剣を持つ堕天使に協力し、これを機に教会に仇を成そう。 そういう恐れがあったからこそ訊ねた疑問だったのだが、どうやらその心配はなさそうである。

 

しかし、先ほどのオブラートにも包まないゼノヴィアの物言いで、さっきの部室の雰囲気が悪くなっている。

金髪の少年は―――ナインを睨み続けていて止まないくらいだ。

 

そんな雰囲気を気にせず、ゼノヴィアは更なる爆弾を投下した。

 

「話は終わりだ。 お互い敵同士ゆえ、言いたいことも多々あると思う……魔女に早変わりしてしまった元聖女がいるようだが、いまとなってはこちらは何も言わないよ」

 

なにも言わないのなら、そのまま当たり触らずにそのまま去れば良かったのだが―――それをゼノヴィアは理解していなかったようだ。

 

そのとき、ナインはまた笑みを深めた。

無頓着とはときに素晴らしい効果を発揮する。 何も知らずに、自分が戦火を広げているにも関わらず気づかず突き進む猪武者のような短絡な者。

 

悪魔眷属というのを、その仲間の目の前で貶したり侮蔑したりするような言い方をすればどうなるか。 ナインは身を持って知っていたからこその笑みだった。

 

――――戦場の匂いが高まってきた。

 

「お前…………お前らが……アーシアを聖女と言って持ち上げたんだろう!? それを!」

 

茶髪の少年、兵藤一誠が怒号を上げた。 怒りをぶつける。

尚も笑みが止まらない。 可笑しくてたまらない。 するとナインは、高まってきた紅の滅びの魔力の主を一直線に見つめる。

 

論争が繰り広げられる中、リアスは視線を感じてナインを見た。 見つめた。 見つめ返した。

 

ナインはその表情でリアスを察す。

怒っている。 表情は平然としているが、あれは明らかに怒っている者の表情だ。 私には解る。

眷属は家族、家族を傷つけるのは許さない。 問答無用、それが悪魔、それが――――本能最優先の悪魔なのだ。

 

見つめ合う中、その論争に割り入った。

 

「あれは教会の管理不足でしょう」

「な、ジルハード!?」

「…………ジルハード、あなた……自分が何を言っているか――――」

 

予想外の意見に、さっきまで一誠と論争していたゼノヴィアとイリナの視線が一気にナインに集まった。

教会が教会の非を認めてしまったら、面倒なことになる。 それを分かっているのか解っていないのか。

ナインは軽快に舌を滑らす。

 

「アーシア・アルジェントは、自身の神器である聖母の微笑……トワイライトヒーリングを遺憾無く発揮させ、『ケガ人』を治した」

 

そもそも、と指を立てるナイン。

 

「神器とはなんなのか。 セイクリッド・ギア————神の器物の中でも、聖遺物―――レリック、神滅具――――ロンギヌス、色々ありますが、その代物……なにも教会が悪魔や堕天使を傷つけるためだけに宿るモノではないと私は思うのです」

「…………」

 

つまり、

 

「アーシアさんは、己が本分を全うして、そのケガ人という『悪魔』を治したのでは、ありませんかねぇ」

 

だから、教会側はアーシアを咎める資格も、権利も無い。

しかし、教会側にも非は無いとこの男は言う。 責を負う必要はどちらにも無い。 だって――――

 

「アーシアさんは、自分の意志で悪魔になったのだから、ここは彼女の新しい一歩を祝ってあげるのもまた、元同志の役割でしょう。 はい、拍手ー、パチ、パチ、パチー、と。 こんな感じですかね」

「バカにしてんのかテメェ!」

 

一誠がナインを睨みつけてそう吠えた。 こういう人間と会話をすることに耐性が無い者ならば、間違いなく激怒するであろう。 この茶髪の少年は何も悪くない、これは仕方のないことである。

 

「バカになんか……してるわけないじゃないですか。 本当に祝しているのですよ私は。

新たな人生を歩み出したヒトを祝ってはいけないのですか」

「言い方がムカつく!」

「私は話しの内容を問うているのですが……ああ、私の喋り方が癇に障りすぎて話しの内容が頭に入って行かないのですか、それは困った――――ゼノヴィアさん、要約をお願いします」

「嫌だ、お前の言う事はいちいち遠回りで訳すのが面倒だ」

 

おや、それも残念、とナインは肩を竦める。 そこに――――リアスの後ろから出てくる人影が存在した。

 

「聖剣の作成、研究に関わる者は、皆こうなのか」

「いや、こいつが特殊なだけだ――――グレモリーの『騎士(ナイト)』」

 

ナインの態度に対する憎悪の念が、木場祐斗を怒り奮わせ前に出させた。

 

「研究者……錬金術師」

「はい」

 

キッと、ナインを睨んだ。

 

「聖剣計画を知っているか」

「否か応かと聞かれれば応ですよ」

「僕は聖剣のせいですべてを失った」

「はぁ……」

 

ナインはきょとんとした風に祐斗を見た。

 

「キミたちの研究する物のせいで、どれだけの人間が……仲間たちが犠牲になったか」

 

震える声で祐斗はナインに一歩踏み出る。 ナインは瞳を細めて考えた。

以前も感じたこの憎しみの情――――仲間を貶されたからでも、自分をバカにされたからでもない。

本能的に、ナインは感じた、この少年の憎悪の正体を。

 

「あ~、なるほど。 聖剣計画の……被験者でしたか。 それはお気の毒……ですね」

「―――――」

「祐斗、ダメよ下がって!」

 

リアスの声に、祐斗は瞬間的に動きを止めた。 しかし、ややあって祐斗は再びナインに躍りかかって行く。

ズァァァ、と不気味な音を響かせて、しかし流れるように魔剣を空間から抜き放つ。

 

「僕は、僕たちは――――お前たちの画策した聖剣計画のせいで――――」

「あ~……………………下がってください、ゼノヴィアさん、紫藤さん…………この人の用があるのは私です」

 

ゆったりとした口調で、聖剣を抜こうとしたゼノヴィアとイリナを手で制した。

あのときと同じく、再び、黒い剣を振りかぶってくる少年を見て――――笑みを深めながら両手を合わせる。

 

「許しましょう、あなたの憎悪は確かに正当。 そして、本能を、悪魔に抑えられるわけないんですから仕方が無い――――ですが、恨む人を間違っている」

「おい、お前――――」

 

ゼノヴィアが目を見開いた。 両手を合わせた瞬間に、聞き慣れない音が響いたからだ。

合わせた際に鳴る音にしては酷く響きすぎる。

 

「でもそれも別にいい。 私を恨んでもいいですよ。 私はただ―――――」

 

絢爛な絨毯が広がる床に、ナインはその両手を叩き付けるように触った。 その瞬間、祐斗が斬りかかる直前に、地鳴りは起こり始める。

雷が――――部室中に駆け巡ったその瞬間、光に包まれる。

 

「――――花火が見たいだけなので」

 

――――大規模爆発が引き起こされる。 部室を走った数十条の雷は、壁、扉、窓、すべてを巻き込んで一つの危険な爆弾と化した。 あまりにも大きな揺れに、斬りかかろうとしていた祐斗も若干バランスを崩す。

 

「くッ…………!?」

 

旧校舎が――――こんなにも大きな建物が倒壊していった。

リアスやゼノヴィアたちの他、術者であるナインをも巻き込み、崩壊していく。

 

「イッセー! 皆!」

「部長!」

 

この旧校舎には結界や障壁が張られている場所が何か所もあるのに……それを嘲笑うかのようにこの謎の爆発は結界ごと食い破って呑み込んでいく。

 

リアスはナインを見て、一瞬だけ恐怖を覚えた。

倒壊している最中も、自分の足場が崩れる様すらも笑みを浮かべて見送るナイン――――。

 

旧校舎は、全壊に近い半壊で原型も留めずに無残に崩れ去って行ったのだった。

 

 

BOMBER is MADNESS.




急降下爆撃ならぬ、旧校舎爆撃を敢行。

祐斗の再度の好戦的な態度にナインくんもついに我慢し切れず感化されてしまったもよう。 仕方ない、爆弾魔だもの。 こういった行為がなければ爆弾魔、犯罪者、殺人者なんて呼ばれていませんものね。 語りすみません(汗)

甘いラブコメ? 無いスよそんなの。 爆発させて爆発させて花火を見るのがこの人の趣味なんだから。
ナインは火薬の匂いでもイク作者公認の変態くんです※ただし作者は至って正常です。

ひょか、感想受け付けます。 この超展開に耐えられる読者はいるはず(確信)

あと、誤字脱字も報告お願いします。 直します!
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