紅蓮の男 作:人間花火
行くぞボンバーマン、火薬と変態の貯蔵は充分か[∩∩]
あらすじ
アーシア攫われた、一誠たち追いかける。
以上。
「ナイン、私とデートしなさい」
「………………え、嫌です」
唐突に飛び出たダイレクトな発言に、周囲が唖然とする。 もちろんディオドラの眷属の女性たちもいままでのやり取りを見ていただけに、リアスの言葉に驚いていた。
そして案の定、ナインは嫌そうな顔をする。
「どうして私がそんな面倒くさいことをしなければならないのだ。 あなたは馬鹿か?」
「…………う、うるさいわね。 だ、だって…………」
チラリと、リアスが一誠の表情を見た。 チクリと、両者の胸が痛む。
「ぶ、部長?」
「…………イッセーが朱乃とデートするなら、私も…………」
「だから、どうして相手が私なのだ」
さすがのナインもこの事態には対処に難航しているようだ。 なぜリアスがこんなことを言いだしたのか。
彼女は一誠が好きなのではないか……いや、それ自体を間違っていないし変化も無いが……
「ねぇナイン、私では嫌かしら?」
「…………」
「メリットはあると思うのよ? 日本のことはあなたより知っているつもりだし、行き先とか、計画とかは全部こっちで組む……面倒なことはさせないから……ねぇ?」
「………………」
「…………な、なんとか言いなさいよ、ナイン。 私じゃ、不満?」
困ったような苛立っているような、そんな感情の混ざった顔をしたナインは、リアスの潤んだ瞳を見詰めた。
何か考えがあるのか? リアス・グレモリーのことだ、何の考えも無しにこのような行動に出るなど有り得ない。
しかし、ナインはリアスを厳しく睨んだ。 縋るように熱を孕んだ瞳が揺れる。
「なんで私なのですか」
「そこを押して頼んでいるの。 お願いナイン!」
「むぅ…………」
普段ならくだらない却下と一蹴するはずだが、リアスにも考えはあるようだと先の言葉で分かった。 要は個人の違いだ。
どうして自分を選んだのか。
男なら同じ下僕である祐斗が居るのではないか。 その理由を明言するでもなく言葉を濁す。 これが一誠や小猫など、素直で正直な者たちが言えばナインはきっと疑い続ける。
しかしそれが比較的頭の回るリアスなら、後からでも理由を聞き出しても嫌とは言わないだろうと判断した。
何より、彼女は必死だ。
「…………」
一誠がかなり複雑な顔でリアスを見ているが、これはこんなになるまではっきりとしなかった彼の自業自得であろうとナインは断じた。
複数の若い女性を相手取るのは構わないと言ったが、自己管理できなければ崩壊するのが世の常だ。
(あんな痴態を晒し合ったにも拘らず尚も中途半端な関係を続けていたことに私は驚きだ)
痴態とは、言わずと知れた兵藤一誠の
あのような、他人には言えないような秘め事を共有しておきながらこの状態はなんたることだと。
「よろしい、承諾しましょう」
面倒だから嫌だという言葉を取り下げ、ナインはリアスの誘いをここに受けた。
自分が一切手を尽くす必要が無いならばいいだろう。 仕事が無ければ一日中錬金術の読み物に耽っていたはずの毎日の、たった一日間にそういう催しがあっても不満は無かった。
むしろ、人と接するのは色々とためになるし、何だかんだと楽しい。
そしておそらく、リアスは一誠の気を引きたいだけだ。 ならばこちらも利用させてもらうとしよう。
「本当!?」
「しかし、そうと決まったからには私も楽しませてもらいますよ」
「ぜ、善処するわ………」
「そ、そんな、部長…………」
もはや何が起こったのか解らない一誠は唖然とするしかない。
朱乃も、このときばかりは空気を読み一誠から離れた。 後ろめたさでも感じているのか、リアスは朱乃と一誠を交互に見遣り、そしてナインの腕に抱き着いた。
「…………ごめんなさい、とは言わないわ。 い、イッセーが悪いんだからね」
「お、俺の所為ですか!」
「…………ごめんなさいっ」
結局謝っているじゃないか、とナインは大きな溜息を吐いた。 まぁだが、黙っているよりいくらか誠実だろう。
精神的には削れていくがそれも仕方あるまい。
奥手な一誠、本音を素直に言えないリアス。
ナインはリアスに囁く。
「だから前にも言っただろう。 あなたたちの関係はどこかで瓦解しかねないと。
どちらかが歩み寄らなきゃ進歩しない。 それがお互い立ち止まったままなのだ、上手く行くはずがないよ」
男が察してくれない、もしくは察してもその一歩が踏み出せないなら、女から手を引いてやるしか道は無い。
いまの一誠とリアスの在り方では、溝が余計に開くばかり。 その点きっかけは別としても、朱乃が一誠をデート相手として獲得したのは、朱乃の積極性が功を奏した結果と言える。 もっともこの状況は小猫が作り上げたも同然であるが。
「では、話が纏まったところで――――」
そう言ってナインは、改めて敵眷属たちに向き直った――――その瞬間。
「ぐっ――――」
「がぁッ…………!」
「なに――――くぁッ!?」
――――指弾三連。
再び爆弾の魔石がナインの指の上で炸裂し、三人に飛来していた。
爆弾に錬成された石が猛スピードで弾かれたのだ。 その直撃を受けたディオドラの眷属たちは、焦がされた腹から煙を噴出させた。
エクスプロージョンを起こしている。 一歩間違えれば腹の皮膚が根こそぎ焼き切れ、中身が飛び出るというグロテスクな場面がそこに現れていただろう。
――――殺せば外野がまたうるさいことを言ってくる。
ゆえに不殺。
爆煙を背景に、着いてくるリアスたちに鬱陶しさを感じながら歩き始めるナイン。
「…………あぁ、むしろ先ほどまでの外野は私だったか」
その場で蹲って悶絶している敵眷族たちの横を、スッと通り過ぎていった。 そしてつぶやく。
「まぁいいか」
◇
ナインたちが神殿内を駆け抜けている頃、こちらでもテロリストたちの襲撃に対抗する人物がいた。
もとよりあちら側からこちらに攻め込んできたと言っても過言ではない。 ゆえに土俵で言えばこちら―――冥界側の士気が高いのは当然のことだった。
飛んで火に居る夏の虫。 冥界側、特に三大勢力で同盟を締結した以上主要陣は魔王だけではない。
この男――――堕天使を統べる総督アザゼルも、テロリストを文字通り掃除をし終えたところだった。
宙に飛び上がり、眉を顰めた。
「…………」
手元にある自前の
――――「
それを手掛かりに、アザゼルはその高反応する何かへと駒を進め…………そして辿り着いていた。
後ろ姿を察するに、幼い少女然とした者だった。 腰まである黒髪の少女。
黒いワンピースを身に付け、細い四肢を覗かせている。
その者の後ろから、アザゼルは声を掛けた。
「…………お前自身が出てくるか」
声に反応し、顔を向けた。 薄く笑う。
「アザゼル、久しい」
「以前は老人の姿だったが……今度は美少女とはな。 何を考えている――――オーフィス」
アザゼルもすでに何年も生きている堕天使ゆえに、この者のことは知っていた。
姿形は変えても、そのオーラは隠し通せないほど強大だからだ。
『
現在は「
「見学、ただそれだけ」
「高みの見物か…………なら、お前をここで倒せば世界は平和になるか?」
苦笑しながらアザゼルはその槍の矛先を突き付けるが、オーフィスは首を横に振った。
「無理、アザゼルでは我を倒せない」
「――――では二人ではどうか」
そこに、巨大な翼を羽ばたかせながら降りてきたのは、紛う事無きドラゴンの勇姿だ。
「タンニーン! 外は片づけたのか――――なんて、元龍王にそりゃ愚問だったな」
降り立ったタンニーンは、大きな眼でオーフィスを睨む。
「せっかく若手悪魔が未来をかけて戦っているというのに、貴様がつまらぬ茶々を入れると言うのが気に入らん!
あれほど世界に興味を示さなかった貴様が、今頃テロリストの親玉だと!? 何が…………」
「…………」
「…………何が貴様をそうさせた。 なぜ
悲痛、そして憤怒の表情で睨む元五大龍王の気迫は凄まじいものがあった。 味方であるアザゼルですら、頼もしいを通り越して、敵に回したときのことを考えて身震いをしていた。
アザゼルが頷く。
「暇潰しなんていまどき流行らない理由は止めてくれよな。 お前の行為ですでに各地で被害が出ている」
「我、力を貸しただけ。 旧き魔王も、勝手にやっているだけ」
「だから、なぜ『力』を貸しているのだ!」
何がオーフィスを突き動かし、テロリスト集団の上に立たせたのか。
アザゼルもそれだけが解らなかった。 いままで世界の動きを静観していた最強の存在がなぜいまになって動き出したのか。
「静寂…………」
「なに?」
「我は、静寂を得たい。 故郷である次元の狭間に戻り、真の静寂を得たい」
つまり、静かな場所。 オーフィスの故郷、それはアザゼルでも知っていた。
しかしあそこには――――
「そう、グレートレッドがいる」
「
現在それが次元の狭間を支配権を握っているのだ。
「そうか、それがお前の…………オーフィスの本当の目的か」
家である次元の狭間。 しかしそこにはグレートレッドが居る。 それを追い出すため、テロリスト集団を結成したのもうなづけた。
オーフィスはタンニーンからアザゼルに視線を移した。
「我、グレートレッドを追い出してくれる力を求める。 ゆえに、アザゼルに一つ聞きたいこと、ある」
雰囲気が変わった。 それは、一番の目的から話が逸れたからに他ならない。
他愛も無いことだと、オーフィスはその表情で語っているが…………
「『
その直後、オーフィスは水晶を宙に出現させ、映像を映した。
そこには、神殿を駆けるリアスたちが居る。
傘下に存在している? ヴァーリチームならともかく、その他大勢にオーフィスが気が付く程の者が居たのか。 アザゼルは疑問符とともにその水晶を覗いた。
「こいつらは俺が担当している悪魔眷属たちだが…………。 !」
正直、驚愕した。 オーフィスは水晶に映し出されたリアスたちを指したのでもなく、それに混じって行動する一風変わった男を指差したのだ。
差した指が徐々に距離を詰め、水晶にコツンと当たる。
「誰」
「…………」
「誰、アザゼル。 お前に訊いてる」
「いやいやいやいやいや! いまお前、自分の傘下の者って言ったろ。 なら分かるはずだよなぁ!?」
「いちいち調べていない。 特に知っているのはヴァーリチームだけ」
「いや、そのヴァーリチームの一員なんだがな、一応」
「情報が少なすぎる」
眉間を指でつまんで考え込んでしまうアザゼル。
そうかこいつ、この男のことまるで何も知らないんだな。
だがどうしていまになって気になりだした? 眼中に無いのなら聞く必要がないはずだから。
「なんで知りたいんだ」
「…………魂」
「?」
オーフィスは、真顔で言った。
「魂が、この男だけ大きい」
「なに…………?」
その、よくわからない龍神の言葉にアザゼルは眉を顰める。
「複数個の命を持っているわけではない、かと言って、魂そのものに変質も見られない。
純粋で強大な魂を感じる。 人間単体でここまで至るのは、異常。 人の皮を被れていることに、我、驚いている」
「…………なんだと」
飛びつくように水晶に映るそのオーフィスの目に留まった人物――――ナイン・ジルハードを見た。
そして、オーフィスが笑っているのに気づき……
「何がおかしい、オーフィス」
ゆっくりと振り返ってその笑みを睨み返した。
すると、それでも笑みを止めないオーフィスが、そのままの表情で小首を傾げる。
「アザゼル、いままで気付かなかった?」
「――――――」
アザゼルは言葉に詰まる。
あの、爆発が好きでイカれた価値観を持った紅蓮の男。 うちのコカビエルを斃したんだ、ただ者ではないことくらい分かっていたが、まだ何か隠しているのか、もしくは無自覚か。
分かったのは、この龍神が目を付けたこと自体が異常事態だってことだ。
しかも、オーフィスくらいの人物でなきゃ見破れない何かを持っている……?
「俺たち以上の大御所クラスでなきゃ見極められねえってのか……」
「我の他に会っているなら、北欧も気付いていると思う」
北欧ということはオーディンか。 確かにそれらしい思わせぶりな態度を取っていたような。
考えていると、オーフィスが言った。
「名には興味が無い。 けど、興味がある」
と、再度水晶に映るナインを指差し、笑った。 アザゼルが呆れるように顔を手で覆う。
「あいつもとんでもない奴に目を付けられたもんだ……敵ながら同情するぜ」
「我が望みを叶えてくれるかもしれない――――使える」
これが他の者だったら、有り得ないぞ笑わせるなよと軽くあしらっていたところだが、如何せん発言者はこのオーフィスだ。 ナイン・ジルハードの存在がますます大きくなってきたと言える発言である。
「グレートレッドをどうにかできる力があんのかよ、あいつに…………」
「それはこれから見極めていく」
「俺はさすがに過大評価のしすぎと思うが――――」
言おうとしたとき、オーフィスの横に魔方陣が出現し、何者かが転移してくる。
そこに現れたのは、貴族服を着た一人の男だった。
その男はアザゼルに一礼すると、不敵に笑んだ。
「お初にお目にかかる。 俺は真のアスモデウスの血を引く者。 クルゼレイ・アスモデウス。
『
三大勢力の会談の折、襲撃してきた者がいた。
「終末の怪物」と謳われた、旧魔王の一人、カテレア・レヴィアタン――――この男はつまり、その同期の……
「旧魔王派、アスモデウスかよ。 ったく、カテレアといい、お前といい…………」
現れた人物を確認するやいなや、クルゼレイは全身から魔のオーラを迸らせた。
純粋な魔力という表現は変だが、いまのこの男から放射されるオーラは元来の魔力の性質から逸脱したものだった。
「旧ではないっ。 真なる魔王の血族だ! ……カテレア・レヴィアタンの敵討ちをさせてもらうッ!」
「いいぜ。 おいタンニーン、お前はどうする?」
「サシでの勝負に手を出すほど無粋ではない。 オーフィスの監視でもさせてもらおうか」
ドラゴンといっても、まるで武人のような気質を持っているのがタンニーンだ。
本来強力な能力を有するドラゴンは、それゆえに自由気ままな性格の種が多い。 しかし、タンニーンは他と比較して非常に平和的思考だ。
冥界に悪魔入りしたのも、彼の柔軟で実直な性格を買われたからだろう。
そして、現赤龍帝の特訓相手にも――――
「頼む。 さて、混沌としてきたが……さっきの水晶からして、俺の教え子どもは無事にディオドラのもとに辿りついている頃かな。 どうやら成り行き上ナインとも共同戦線を張っているようだしよ、こりゃお前のとこの旗色は悪いと思うが?」
それを聞いたオーフィスは小さく頷く。
「…………そのよう。 我の蛇を飲んだディオドラ・アスタロトでも、この男には敵わないと思う」
しかし――――
「でも、それに対処しないほど、今回の
「なんだと…………?」
◇
「さて…………」
神殿の最奥らしき扉に、ナインたちは居た。
これまでいくつもの扉を開け放ち、廊下を抜けて来たがこれほど巨大な扉はもはや何かあるとしか思えない。
「如何にもなデカイ扉だな。 来るなら来いってか?」
「そのようね。 さ、みんな準備はいい?」
紅髪をたくし上げて眷属たちに号令するリアス。
「アーシア、待っていて…………!」
ディオドラ・アスタロトは絶対に許さない。 大切な眷属であるアーシア・アルジェントを連れ去ったことも理由の内であるが、かつての所業にも胸糞の悪さを覚えていた。
「開けますよ~」
「ええ、お願いナイン」
ナインの声とは裏腹な重厚な音とともに動き出す巨大扉。 何があってもいいように、眷属皆臨戦態勢を取っている。 矢先――――
―――――ドクンッ。
「あ……れ? なんだこれ――――」
「方向感覚が…………!」
「…………」
「これは…………?」
本当に唐突だった。
開け放ったはずの扉の先が、まるで暗闇のように染まり何も見えぬ闇と化している。 そしてそれは瞬く間に開けた者を中心にリアスたちを呑み込んでいく。
「―――――」
いったい何が起こっているのだ。 こんな経験はいままでしたことがない、異空間に飛ばされる感覚はレーティングゲームで何度も感じているため知っているが、これはあまりにも――――
「この……呑み込まれるような感覚…………なんなの!?」
そして、その空間の歪みで発生した闇は、扉を開けた者を重点的に喰らおうとその食指を伸ばしている。
さすがのリアスたちもそれに気付いたのか、呑まれようとしている者――――ナインに手を伸ばした。
「ナイン!」
手を伸ばせば届く距離――――にも拘らずだ。
ナインは片手をポケットに突っ込んだまま目を瞑り、伸ばされたリアスの手を完全に無視した――――狂っている。
「絶えぬ霧は人を魔境へ誘う………ああ……懲りないねぇあなたも」
「え!?」
「いえ、単なる独り言です。 気にしないでください」
ナインは気づいた。 これはあのときと同じ感覚。
口角を上げ、愉快そうに笑った。
「部長!」
「手を取ってナイン! いまならまだ――――」
こんな状況でも落ち着いていられる人間は異常でしかない。
しかしナインは逃れることも、慌てることもせず、ただその歪みの空間をいつもの無表情の顔で冷たく静観していた。
「いやいや、あなたもお召しのようですよ? リアス・グレモリー」
「え――――ああッ!?」
それもそのはず。 ナインは、リアスもそうなっていることを知っていたから。
手を伸ばした先から、リアスもその歪みに捕らえられていた。 後ろを振り返ると、いつの間にか眷属たちの姿が居なくなっている信じられない光景が瞳に飛び込んでくる。
いや、自分たちが一誠たちから姿を消したのか。
「こちらだ、離れるんじゃない」
「――――きゃッ!」
宇宙空間のように歪む世界の中、ナインはリアスの腕を掴んで引き寄せた。
「あなた、次元の狭間は初めてだろう、私がリードしていこう」
「…………え、ええ……あ、ありがと――――」
「…………ほぅ、ふむ、霧使いは転移に成功したようだな」
第三者の男の声で、二人が現実に戻されるとともにアメーバのように揺らめいていた空間もやがて平常に戻る。
強制的な座標の移動だけが成されたのか、ここは先と同じような神殿内ではあるようだ。
辺りをひとしきり見回したナインは、顎に手を添えて苦笑する。
「次元の狭間を介しての強制転移ですか……また器用なことをする」
「お前がかの堕天使の幹部コカビエルを討ち倒した男か」
宙に浮き、マントを翻す。 外見から高貴な生まれであることが分かった。
そしてそんな雰囲気とは裏腹に迸る強大で禍々しいエネルギーが感じられる。
その男の視線がリアスに移った。
「お初にお目にかかる。 忌々しき偽りの魔王の妹よ。 私の名前はシャルバ・ベルゼブブ。 偉大なる真の魔王ベルゼブブの正統なる後継者だ。 突然だが、貴公はそこな人間の男とここで揃って死んでもらう」
◇
「『
驚愕するアザゼルに、旧魔王アスモデウスであるクルゼレイは口角を上げて笑う。
「その通りだよ堕天使の総督。 いま、シャルバが今回の目的のために動いている。
偽りの魔王の家族――――サーゼクスの妹君をこの世から抹消しにな。 そのため業腹ではあるが、
「…………それは本当か、クルゼレイ」
アザゼルの傍らに、魔方陣とともに現れる者がいた――――サーゼクス・ルシファーである。
一瞬驚いたもののクルゼレイはその紅髪の魔王の姿を視認するや、憤怒の表情でアザゼルから視線を変える。
「…………サーゼクス! 忌々しき偽りの存在ッ! 直接現れてくれるとは……貴様さえいなければ我々は…………ッ!」
旧魔王の間でもっとも忌避されている現魔王は、明確な理由は不明だがサーゼクス・ルシファーに集中している。
逆に考えれば、それほど強力な力を有した男だったことが分かる。
「…………クルゼレイ」
しかし、そんな怨恨を向けられようと怒ることをせず、逆に悲しみの表情でその魔王は旧魔王に語り掛けるのだ。
リアスの兄。 これだけでもはや説明不要。 彼女の慈愛も、兄を見ればごく当たり前の事だった。
そして、妹の危機を突き付けられようと大局を見失わない。
「クルゼレイ、矛を下げてはくれないだろうか? いまなら話し合いの道も用意できる。
私は、前魔王子孫の幹部たちと会談の席を設けたい。 貴殿とは現魔王であるアスモデウスであるファルビウムとも話して欲しいと思っている」
悪魔であろうと善性を持ち合わせる現魔王のサーゼクス。 それはこの魔王に限ったことではない。
先に出たアスモデウスのファルビウム。 レヴィアタンのセラフォルー。 ベルゼブブのアジュカ。
いずれも現在の冥界の魔王であるということは、皆平和を望んでいる者ということだ。 反対意見を持っているとしたらいまの魔王職など放り捨てるだろうから…………。
だからこそ、目の前のクルゼレイは魔王になれなかったのだろう。
いまは亡きカテレアや他の旧魔王とともに、他勢力との徹底抗戦を訴えているから現在がある。 いわば、自業自得であるが。
「ふざけないでもらおう! 堕天使どころか、天使とも通じ、汚れきった貴様に悪魔を語る資格などないッ。
それどころか、俺に偽物を話せという…………大概にしろ!」
「よく言うぜ。 てめぇら『
すると、口の端を吊り上げる。
「手を取り合っているわけではない。 利用しているのだ。 忌まわしい天使と堕天使は我々悪魔が利用するだけの存在でしかない。 和平だと? 笑わせるなよ! 悪魔以外の存在はいずれ滅ぼすべきなのだ!
オーフィスの力を利用することで俺たちは世界を滅ぼし、新たな悪魔の世界を創り出す! そのためには貴様ら偽りの魔王どもが邪魔なのだ!」
「破滅願望かよ…………この絶滅主義者が」
奪い、欲し、人間の魂を奪い、地獄へ誘う。 それこそが悪魔の本来の在り方だ。 主張するクルゼレイにもはや話し合いは通用しない。
いつの時代も、過激な者たちの頭には歩み寄り理解するという選択肢が存在しない。 平行線だ。
「…………理解した上で我が道を行く誰かさんの方がよっぽど清々しいぜ、なぁナイン…………」
このときなぜ話に関係の無い紅蓮の男の姿が浮かんだのか、アザゼルでも解らなかった。
ただ一つ言えることは、クルゼレイよりもナインの方が大きく見えることだった。
世界を滅ぼし、再構築し、悪魔だけの世界を望む孤独主義。 そんな願望に着いて来れるのは文字通り昔の先人しかいない。
世代というものを分かっていない旧魔王たち。
対し、周りに迷惑や被害こそかけたり被ったりしているものの、一種の哲学めいた望みを持っているあの男の方が見ていて飽きない。
厄介な相手だろうが、こちらの話が通じる時点でこいつらとは敵としての毛色がまったく違ってくる。
なによりあいつと戦っていると、いつも新しい発見を得ることできる。 そして、人間の無限に近い可能性を感じることができる、面白い。
「サーゼクス。 時間がねぇよ…………」
旧魔王がお前の妹、リアスに手を出した時点で話し合いなんてものは無駄なのだ。
「…………」
「そうだ、それでいい。 サーゼクス、行くぞォッ!」
両手に禍々しいオーラを持った魔力を持ち、突撃していくクルゼレイ。 オーフィスの「蛇」の力が働いているのがよく解る。
しかし――――
「…………どうしてお前らじゃなくてサーゼクスたちが魔王になったのか。 今の時代に考えが合っているから?
それもあるが、違う。 お前それを解ってねぇよ…………」
ここで、クルゼレイは思い知る。
過ぎ去った者は、いまを真面目に生きる者に勝てないということを、この旧魔王の血族は知ることになる。
単純な話。 旧式は、最新式には勝てぬということを。
◇
「そんな、部長!」
「ウソだろう? ナインが居なくなってしまった……」
何者かの強制転移により、リアスとナインが飛ばされた。
残された眷属たちは、王の喪失にその統率を失いつつある。
突然の出来事に対応できない。 いま彼らは、前時点での最強戦力と統率者を失ったのだ。
そして最悪なのはこの状況。
「ふふ…………ようやく来たねぇ。 どうだい、目の前で頼りにしていた人たちを失うさまは」
「…………ディオドラ!」
リアスとナイン二人を呑み込んだ闇はすでに無く、扉の奥は広大な神殿を映していた。
そして、巨大な装置を中心として、その足元に討ち倒すべき男が笑みを浮かべて立っている。
「どうやら上手く行ったようだね。 はは、あの錬金術師には居て貰っちゃ困るからねぇ、僕のシナリオにはあんなの必要ないんだよ。 まぁついでにキミたちの王様も飛ばしてあげたけど、アハハッ!」
「…………イッセー、どうやらここは我々だけでやるしかないようだぞ」
ゼノヴィアの言葉に、一誠が重く頷く。 彼ももとより、ディオドラの顔面を吹き飛ばしたいのと、アーシアを助けたい一心でこの神殿を駆けぬけて来たのだ、是非も無い。
逆に、一人二人失ったからと一気に隊列を崩壊させるようなら貧弱極まりないであろう。
「もし二人が生きていて、転移されただけであれば――――」
「二人は同じところに飛ばされたってことか…………」
すると、祐斗が口を開いた。
「まさかナイン・ジルハードがこれを機にリアス部長を殺すなんてことはしないだろうけど…………」
「祐斗くんはナインさんを意識しすぎだと思いますわ」
「…………朱乃さんはどうしてそんなにナイン・ジルハードを信じているのですか?」
問われた朱乃が、胸に手を当てる。
「部長も言っていましたわ。 彼は、悪党だけど下衆ではない。 騙し討ちなどというものに、無縁でしょう」
「………………」
「それは、祐斗くんも思うところがあるのではないですか?」
目を逸らし、口を噤んでしまう祐斗。
未だ彼は聖剣計画についてナインから聞き出せていない。 謎のまま。
かのバルパー・ガリレイに協力して組織を運営していたことははっきりしているが、その全容が迷宮入りしているのである。
だが、ナイン・ジルハードという人間が、どんなことをするにしても真正面から堂々と来る人間であるということは分かっている。
「ディオドラ、アーシアを返してもらう!」
目の前の怨敵に、一誠が叫ぶ。 ディオドラは不敵に笑んだ。
「はは、君が僕を倒せるつもりかい? 薄汚い赤龍帝くん?」
「…………ひくっ……うっ……」
「アーシア!?」
遠目でよく見えなかったアーシアから嗚咽を聞いた。 一誠は聞き逃さなかった。
両腕を頭上で、両足を括られたまま、その聖女から確かに聞こえた、
その瞬間、アーシアが泣いていたことをその場の全員が悟る。 一誠は歯が欠けるほど食い縛り、ディオドラに怒気を放つ。
「…………アーシアに、事の顛末を話したのか!」
「ん~?」
にやにやと勿体付けるように手を振るディオドラは、薄ら笑う。
「いやぁ、良かったよ。 自分がしたことは真実善行だったのだと思い込んで今日まで生きてきた彼女。 それを綺麗さっぱりぶち壊してやるのは。 おかげでとても良い表情が見れた――――記録映像も残しているんだ、見るかい? はは、はははは! 真実を知った時の彼女の絶望はとても美しかったよ!」
「黙れ」
赤く煮えたぎる煉獄のドラゴンから破滅の波が放たれる。 持ち主の人間、兵藤一誠を介して確かな怒りが音も無く震えはじめる。
兵藤一誠はこのとき、殺意を抱いていた。
そんな明白な力の塊を察することができていないディオドラ・アスタロトは、未だ「蛇」を保有している自分が有利なのだと幻想を抱いていた。
――――肉薄され、一発の拳が己が顔を撃ち抜くまでは。
「べを―――――ッ!?」
まったく見えない。 近づかれたことすら気づけなかった。
「ディオドラ、お前だけは許さない――――覚悟しろ」
主の無事を祈りつつ、眼前の敵を叩き潰す事を決意した。
次回は、真の魔王(予定)の二人が、偽りの魔王()のシスコンニーソマンや、リア充のボンバーマン(変態犯罪者)を退治しようと頑張るお話。
色々カオスやな。
―現在の状況―
―神殿奥―
味方:イッセー、朱乃、祐斗、小猫、ゼノヴィア、ギャスパー、アーシア(トラワレノオヒメサマ)
敵:ディオドラ・アスタロト(アーシアハボクノモノダァフヒヒ)
―神殿外―
味方:サーゼクス、アザゼル、タンニーン
敵:真のまおークルゼレイ・アスモデウス
ニート:オーフィス(ユビデッポウジュンビチュウ)
―神殿(?)―
味方:デート確約済みの二人(ナイン、リアス)。 黒い猫がアップを始めたかもしれません()。
敵:真の(ry しゃぶr……シャルバ・ベルゼブブ
霧の人(ナインコワイヨー ブルブル)
オーケー分からない。 だが良い、状況だけ把握してもらえれば。
最後まで読了ありがとうございます。 またよろしくお願いします。