紅蓮の男   作:人間花火

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6発目 紅蓮の爆弾魔と灼熱の放火魔

リアス・グレモリーへの挨拶を兼ねた釘刺しを終えた教会一行。

夕刻時、ゼノヴィア、イリナ、ナインの三人はマンションに帰宅していた。

 

暑苦しそうに十字架と神父服を脱ぎ捨てるナイン。 黒いタンクトップになった彼はソファーに寝転がってテレビを点けた。

 

「これで、リアス・グレモリーさんへの忠告は済みましたが……それで?」

「ん?」

 

ゼノヴィアとイリナは、ナインの問いに煎餅を咥えたまま返事をした。

テーブルの上にいつの間に用意してあった皿一杯に煎餅が盛ってある。 ナインは頭を掻いて口を曲げた。

 

「聖剣強奪犯の居場所を突き止めるのでしょう? こんなところで呑気していてよいのですか」

 

ゼノヴィアはもぐもぐと煎餅を咀嚼したあと、ごくんと呑み込む。

 

「当面は捜索。 なにぶんこちらも三人という少人数なのでな、人員がもう少しいれば良かったのだが、あちらは堕天使の幹部クラス————慎重に行かなければならない。 人数だけでもこちらが一人劣っているからな」

「なるほど……まぁ、本件はあなたたちが直接ヴァチカン本部から言いつかった任務ですので、私が主導を握るつもりはありませんから、好きにして結構ですがね」

「…………やけに素直ね」

 

寝転がるナインを訝しげにジトッと見るイリナは再び煎餅にかじりついた。

彼はニヤリと笑みを浮かべて身を起こす。

 

「あなたたちの盾や剣になってあげると言ったでしょう。 時が来れば戦います」

「そ、よろしく。 でも、単独行動はしないでよ?」

「はいはい」

「はいは一回!」

 

もう、と腰に手を当てるイリナ。

ナインは笑みのままテレビに視線を戻すが、何を思ったか――――ゼノヴィアもテレビに視線を送る。 何かの事件のニュースのようだったが…………。

 

『番組の途中ですが、速報です。 今日午後4時30分に、駒王町にある一軒家が放火される事件が発生しました。

家の中の人たちは外出中だったため怪我はありませんでしたが、現在警察の捜査と消防隊の消火活動が続けられています』

 

「うーわ…………」

「放火か…………世の中には、下衆な奴もいるものだ」

「…………」

 

テレビの中でリポーターがマイクを持って状況を説明している。

家はごうごうと呻きを上げるように燃え上がっていて、いくら消防車のホースの水を大量に注ぎ込んでも収まらない。

 

「この炎…………なにかおかしくないか」

「う、うん…………ただの火にしては勢いが強すぎて……一軒家くらいなら普通もう燃え尽きて鎮火がスムーズになると思うんだけど、私の勘違い……かな――――わっ!」

 

イリナが口元を少し押さえる。

ドォン! と燃え盛る家の一番近くに配置されていた消防車を莫大の炎が呑み込んだ。

一番近くとはいえ、だいぶ離れた場所にあったのだが、火の手は不自然にうねり、まるで狙ったように消防車を炎に包んでいた――――そして刹那。

 

「へへ…………爆発しましたね」

 

画面の向こうの惨状をにやにやと、まるで楽しく鑑賞するかのようにナインは見ていた。

消防車一台をまるごと巻き込んだ炎は、さらに大爆発を起こしていたのだ。

 

すると、ナインは立ち上がった。 テレビのリモコンをゼノヴィアに投げ渡すと、赤い上着だけを取って玄関に足を進める。

 

「どこ行くのよ! 単独行動はしないって、ついさっき話したばっかりじゃないのよー!」

「ふはッ――――ちょっとコンビニに」

「そんな気色悪い顔してコンビニ? アンタにしては下手な嘘――――って、ちょっと待ちなさいよー!」

 

そんなイリナの叫びを流して外に出るナイン。 画面の中の周りにあった目印になるような建物を思い出しながら、テレビに映っていた放火現場に歩いて行った。

 

「イリナ、とりあえず追うぞ」

「ええっゼノヴィアまで!? もう、なんなのよー!」

 

ナインに投げ渡されたリモコンでテレビの電源を切ったゼノヴィアは、ただちに白いローブを手に鷲掴んで足早に彼を追った。

 

「あれは…………フフッはっ」

 

単なる知的好奇心でも、野次馬根性でもなかった。

爆発に対して深い造詣を持っていると自負するナインが見た中でも不自然な炎の動き。 風もさほど強くないのに隣家にはなんの被害も及ばない怪炎だ。

 

しかし、あのうねる様に形を変え、意図的に包み込むように消防車を炎上爆発させた真紅の炎は、明らかに自然に発火するそれではなかった。

 

―――――火があのような動きをするわけがない。

 

そう思考しながらも、ナインは気分を昂ぶらせていた。 いままでも見たこともない未知の炎。 紅蓮の炎。

 

そして五分もしないうちにたどり着いた。 派手に炎上する建物の上を、煙がもくもくと立ち上る。

それを頼りにしたら、自ずと火事現場にたどり着いていた。

 

「やはり、こんな炎は有り得ない――――ふふ、へへへ…………ハッハハハッ!」

 

地獄絵図だった。 さきほどテレビで放送されていたときに映っていた数台の消防車はその場に無い。

いや、塵になっていた。 真っ黒く焦げた消防車だったものが周りに散乱している。

 

いまでも惨劇は続いていた―――火事現場をリポートしに来た数々のマスコミも、通りかかったであろう野次馬たちも炎に呑まれている。

 

画面の向こうであれだけ混雑していた火事現場は、いまでは一気に開放感が高まっていた。

 

「ぎゃぁぁあ! なんで、俺ンとこに炎…………来る…………んだよ…………ヴァァァァッ!」

 

断末魔を上げながら燃えている。 人が、あちらこちらで燃え盛っている。

そう、さっきまで人口密度を上げていたここの人たちはこの若者のように…………。

 

「塵と消え、灰になりましたか。 あ~、すごいすごい。 むごいむごい。

こりゃやった人極刑ものですよ。 死刑ですよ、神さまに懺悔しなきゃなぁアーメンっと、あ――――十字架置いて来たんでしたっけ確か」

 

胸で十字を適当に切ると、自身の胸に肝心の十字架が無いことに気づく。

祈っても意味ないですね、と肩を竦めるナイン。

 

「まったく、こんなことをするなんて狂ってますよ、そう思いますよね?」

 

ぽつ、ぽつと次第に焼失していく人だったもの。

若者一人が燃え散ったところで、追いかけてきたゼノヴィアとイリナが息を切らしてナインの横で手に膝を突いた。

 

「はぁ…………はぁ…………ジルハード…………いきなり飛び出すなんて……もう――――って――――」

「…………ジルハード、これは――――!」

 

息を整えて顔を上げると二人の瞳に地獄が映っていた。

無に帰した人の命。 そして、いままさに最後の一人が最後の炎に呑みこまれて喰われて――――消えていた。

 

しかし、ゼノヴィアは冷静に辺りを見回す。 イリナは、ゼノヴィアほど冷静ではない様子だが、火事現場の周辺を歩きだす。

 

「ひどいな…………」

「全部……燃えて、無くなったってこと? さっきまであんなに人がいたのに!」

「焼却炉に人間突っ込んだみたいに消えて無くなっちゃいましたね、いや、焼却炉でもこうはならない――――っと、まぁまぁ紫藤さん落ち着いて落ち着いて。 はい、深呼吸ー」

 

胸倉を掴んで揺らしてくるイリナの腕をポンポン叩きながらなだめるナイン。

ヒトが数十人焼け死んだ。 遺体も残らないほどの火力で焼き尽くされた。 その事実にはナインは鼻を鳴らすだけで別段何とも思わなかった。

 

ヒトが火で燃えた。 それだけ。

 

「なんだよ…………これ!」

「あ、あなたは」

 

狼狽した声が響いた。 三人が目を向けると、茶髪に学生服の少年が驚愕の表情で膝を落としていた。

 

「そんな、イッセーさんの家が…………」

 

さらに後ろから金髪の少女―――アーシアは狼狽える。

 

「これは一体、どういうことなのかしら」

 

祐斗を除く、リアス・グレモリーとその眷属たちが集結していた。

 

 

 

 

 

 

「来たときには、こうだったの?」

 

リアスが一軒家が建っていた場所を指差した。 いまでは燃え尽きて黒い残骸しか残っていない。

話を聞けば、放火された家は、この落胆する茶髪の少年――――兵藤一誠の自宅だったようだ。 ナインがその場の状況を説明して、ゼノヴィアが弁明する。

 

弁明とは、念のためであるが……自分たちは当然この放火事件については関与していないという証言をした。

結果として納得を得られたが、このあと犯人を捜し出すために自然と共同戦線を張る図式になった。

リアスが、ナインを見て聞く。

 

「あなたの言うには、この放火は人間業で行われたことではないと言うのね」

「ええまぁ。 まるで意図して炎が動いているかのように人を呑み込み、燃やし尽くしていました。 そして、死体も残らないほどの火力となると、どうしてもね…………」

「神器持ち? それとも、魔術? 魔法………というのも十分有り得るわね」

 

リアスが必死に思考する。 一誠が顔を上げた。

 

「父さんと母さんは…………」

「ニュースによれば、家の中には誰も居ないと報道していました。 外出中だったのでは」

「…………よ、良かった」

 

安堵する一誠に、リアスは心配そうに声をかける。

 

「両親が無事でなによりだわ……一誠、元気を出して」

「はい…………」

 

ぎゅうっと彼の体を背中から包み込むように抱きしめるリアス。

しかしそれを余所に、ナインは目を細めて笑みを浮かべた。

 

「傷心のところ悪いですが――――捜すまでもなくあちらから出向いてきましたよ」

 

放火のあった隣の家の路地から出てくる人影。

よく見ると二つあるのに気づく一同は、ナイン以外一気に臨戦態勢になった。

 

夕日がその二人を照らしていた。

 

「やっほー、お久だねぇ悪魔ども。 それと、おんやぁ?」

 

片方の少年は、リアスたちを見たあと、ゼノヴィアたちを見て口笛を鳴らした。

 

「教会の追手ですかー? いやもうお腹一杯なんすけどー? あ、でも今回は使えるやつ寄越してきたんだあのクソ教会! イヒャハハー!」

「フリード、テメェか!」

 

激昂する一誠。 歯ぎしりをして、家の仇を……何十年と住み慣れてきた家の仇を睨み叫ぶ。

白髪。 そして神父服。 その容姿だけでも、ゼノヴィアたちもこの男は誰なのか一目瞭然だった。

 

「フリード・セルゼン……はぐれ神父か!」

「こんな大々的に事件を起こすなんて……」

 

イカれた笑みを浮かべて笑うフリードという白髪の少年神父。 ナインは後ろにいた朱乃にコソっと聞いた。

 

「少し聞いても?」

「あ、え? わたくし……ですか?」

「ええ、あなた」

 

ナインに呼びかけられる朱乃は少し戸惑う。 さっきは戦った相手で、そして居場所をぶち壊しにした張本人だったのもあって、少しむっとなって返事をした。

 

「あの白髪くんのこと、ご存じで?」

「…………え、ええ。 以前もこの街で騒動があったとき、偶然遭遇したはぐれ悪魔祓い(エクソシスト)ですわ」

「へぇ」

 

それだけ聞くと、ナインは朱乃から視線を外した。

少し違和感があったのは、耳元にまで接近されても不快にはならなかったことだ。

それは、彼の胸に十字架が提げられていなかったゆえだが…………。

 

「…………」

 

自分たちの居場所を消して、しかしなんの物怖じもせずに気楽に話しかけてきた。 普通なら無神経と罵りたいところだが、彼のあまりのフレンドリーさに呆気に取られた朱乃。 そして思ってしまった。

 

彼は、どんな驚愕の事実や情報を知ってもさっきのように短い返事で終わるような人間なのではと。

ふっと、朱乃が顔を上げると、フリードがナインを指差していた。

 

「おいおい、テメェ受刑中じゃなかったっけ? 紅蓮の錬金術師ィッ!」

「あ~私、釈放されまして」

 

すると、「あぁ!?」とドスの利いた声でフリードは激昂する。 さっきまでのおちゃらけた雰囲気はどこかに吹き飛んでいる。

 

「ふざけんじゃねえ! こちとら死ぬ思いで処理班からも、神父の追手どもからも逃れて来たんだぞおい! それをテメェは――――俺と同じ仲間殺しで、どうしてテメェは粛清されねぇ!」

「それは、聖剣を強奪したお前たちを処罰するためだ」

 

ゼノヴィアがそうきっぱりと言い放つ。

再び怒号を捲し立てるフリードだったが、舌打ちをしてゼノヴィアに向いた。

 

「ナイン・ジルハードは、エクスカリバー奪還のために特例で釈放された…………」

「んだと…………!」

「…………真っ先に背を向けて逃げた臆病者とは違うということだよフリード・セルゼン」

 

言葉を詰まらせるフリード。 すると、黙っていたもう一人の中年の男が口を開いた。

 

「ちょっと落ち着けやフリードくん。 おじちゃん、若者の会話に付いていけなくて涙目」

「葛西のおっさんっ…………ちっ」

 

葛西と呼ばれた男が前に出た。

黒いキャップに、赤いジャケットを着込んだ、どう見てもどこかの中年男性にしか見えない男。

不自然に多量の煙を立たせるタバコを咥えて言った。

 

「俺、葛西炎条っていうんだけど…………キミ、もしかしてこの家の住人だったりするのかな」

 

一誠を指差してそう聞いた。 すると、フリードは先ほどとは打って変わり笑い出す。

 

「ぎゃははは! おっさんそりゃ、聞くだけ野暮だろぉ? 第一、分かってて燃やしたんだしさぁ――――昨日の夜、色男に神父ぶっ殺してるとこ見られちゃったんでね! やられる前にやる! って感じでさ!」

「俺の家を燃やしたのはテメェらか!」

「おっとと、勘違いしないしない。 俺はその場にいただけ、観客ですっ。

燃やしたのは~、この、葛西のおっさんこと、葛西炎条先生でーす!」

 

ゲストを紹介するように愉快に、手をひらひらさせるフリード。

葛西炎条。 これが、正体不明とされていた聖剣強奪犯最後の一人ということだ。

 

「そちらから出向いてくれるとはありがたいよ。 正直、そちらの中年は情報が無かったからな」

「強気言ってられんのも今の内なんだよこのビッチがぁ!」

「そう熱くなることないぜフリードくん。 今日のところは仕掛けるだけっつー命令だっただろ。 戦闘は命じられてない」

 

分かってんだよ! と葛西の手を振り払うフリード。 比較的テンションに余裕が見られる葛西は、口から夥しい煙を吐いてリアスたちに視線を投げた。

 

「それとも、ちょうど人気もないところだし、戦っちゃう? 命令っつってもそういう些細なことは気にしない人だからな……いや、人じゃなかったなぁ確か」

 

そう呟く葛西。 しかしその直後、見慣れた金髪がリアスたちの視界に映った。

 

「おっほ、これまたスペシャルゲスト!」

 

金属音。 剣と剣が交差する甲高い音が響く。

フリードは背後から繰り出された斬撃を光り輝く剣で防いでいた。

 

「木場!」

「祐斗――――」

 

一誠とリアスがそう呼ぶ。

おそらく、彼もこの放火事件を聞きつけてやってきたのだろう。 しかし、ナインは腕を組んで―――リアスをチラリと見た。

 

「眷属悪魔を放置するとは、はぐれになってしまったらどうするんですか?」

「あのあと、あなたたちと戦い敗れた直後、祐斗は単独で行動を取る様になってしまったのよ………」

「首輪は付けておかなければ、今度こそ私が花火にしてしまいますよ。 はぐれを始末するならば合法だからねぇ」

 

ナインはニヤけてリアスにそう言った。 その態度に睨むリアス。

 

「エクスカリバー、この前と同じものか!」

「大正解! さすがパツキンイケメン色男! 察しがいい!」

「くっそ、次から次へと……!」

「ふん、教会と悪魔が共闘? 堕ちたものだな」

 

リアスたちの後ろからも声がした。

今日は来訪者が多いと溜息を吐くナイン。

 

「おお? バルパーのじいさん。 今日ってギャラリー多過ぎねぇ? ギャハハハハハッ!」

「緊急の用だ、フリード、葛西。 多勢に無勢ゆえ、いまは退け」

 

初老の男がそう言っていた。 見覚えのある面影に、ナインは一瞬驚いたような顔をしたが、にわかに肩を揺らして笑い出す。

 

「あ~、今日は来る人来る人多いなぁと思っていましたが。 『元』大司教じゃありませんか、禿げ散らかっても元気ですねあなたは」

「バルパー・ガリレイ…………!」

「いかにも」

 

静かに憎悪を放つ祐斗。 そう、この男こそ、彼の仇。 聖剣計画の首謀者のバルパー・ガリレイ。

そして、己が追放される前に紅蓮の錬金術師ナイン・ジルハードを取り込もうと共逃亡をスカウトした大司教。

 

しかし、自分を睨みつける祐斗を無視し、バルパーはナインを睨んだ。

 

「…………紅蓮の錬金術師。 貴様そちらに付いたのか」

「…………久しぶりです。 バルパー元大司教、いや~、これも我々異端者の因果かなにかですか。 このメンバーで軽く同窓会とか開けちゃうんじゃないですか、フハハ」

 

あと、「付いた」とは違います。 とナインは付け加えた。

 

「こちらにもいろいろ事情がありまして。 いまは一時的に釈放されているだけでしてね。

あなたたちを捕縛または粛清して聖剣エクスカリバーを取り返せば上層部の機嫌を取れるみたいで―――まぁ、そんな建前よりも私は楽しい花火大会を期待しているから命令に甘んじているのであって……」

 

両手を合わせ、火事場に落ちている折れた鉄骨を拾う。 ギシギシと障害物を押しのけて、一メートル強にも及ぶ太い鉄骨を手軽に抜き取った。

すると、ナインはその鉄骨を槍投げの要領でバルパーに投げつけていた。

 

「そーれ」

「…………教会に頼らずとも、お前のしたいことはあの方ならばなんでも叶えてくださるかもしれんのに、残念だ」

 

空中で爆発が起こる。 投げられた鉄骨は光を伴って四散した。

これでバルパーは吹き飛んだだろう。 威力は劣るとはいえ、校舎を爆散させるほどのナインの手腕に耐えられる人間はいない――――と、リアスたちもそう思っていた、が。

 

「いい動きだ、葛西。 その狂った炎で奴らを焼き尽くせ」

 

バルパーは健在だった。 爆炎の中から姿を現したバルパー。

そして葛西炎条。 ナインと同じく紅蓮のような赤い上着を着ている中年の男。

その男が、バルパーの前に立ち鉄骨の爆撃を防いでいた。

 

揺らめく炎の壁が展開されている。 家を焼き、車両を燃やし、人を焼失させた真紅の炎がバルパーとフリードの周りに現れていた。 しかし、葛西はすぐにその炎の結界を解く。 ギリギリまで吸ったタバコを地面に吐き捨てて溜息を吐いた。

 

「今日は終わりって、さっき自分で言ったろハゲジジイ。 虎の威借りてドヤ顔ぶっこく前にさっさと指揮しろよ。

アンタはここだけしか取り柄ねぇんだから有効に活用しろ大ハゲ司教」

 

トントンと自分のこめかみを指で叩く葛西に、バルパーは顔を引きつらせる。

 

「『ハゲ』を文頭と文末に付けるな葛西! あと、私は大司教だ! 大ハゲでも司教でもない!」

「元、でしょ」

「ええい、黙れ紅蓮の錬金術師!」

 

そう言い合う三人を尻目に、フリードが閃光弾を懐から取り出して地面に叩き付けたのだった。

 

 

 

 

 

 

「追うぞ、イリナ!」

「うん」

「―――――!」

 

ただちに行動を開始するゼノヴィアとイリナ。

聖剣強奪の犯人を三人も見付けて逃す手は無いとばかりに追跡を始めた。

 

「祐斗、待ちなさい!」

 

リアス・グレモリーの眷属、木場祐斗もバルパーたちを追って行ってしまう。 主の言をももはや無視し、頭の中は復讐で埋め尽くされていた。

 

当然ここでナインも行くはずなのだが――――

 

「ちょっと――――あーあまったく」

 

舌打ちをして頭を掻く。

 

「あっちにも考えがあって逃げるんだから、罠があるって判断できないんですかね」

「分かるの?」

 

リアスがそうナインに聞くと、肩を竦めて当然のように言った。

 

「追撃に備えてない逃走なんて普通しないでしょ。 バルパーさんは毛が足りてないけど、頭は有り余ってるほどキレる人なんで。 対策してないわけがない」

「あなたはどうするの?」

 

ホントどうしましょうか、と少し困った顔で笑うナインは悠長に歩き出す。

 

「とりあえず追ってみますね。 あの速さだからちょっと面倒ですが、一応同じ仕事仲間ですからね」

「それは無謀というものです、紅蓮の錬金術師殿」

 

またですか、ともう突っ込む気も失せたナインは、鬱陶しそうに振り返る。

二人組の美少女が、回る魔方陣の中心から姿を現していた。

 

「ソーナ!」

「不規則な力の流れを察知したとき、まさかとは思いましたが」

 

二人の眼鏡の麗人がナインに近づいていく。 気怠そうにする彼は、その二人に体を向けた。

 

「無謀とは?」

「そのままの意味です。 いまあなたが、飛び出していった彼女らに協力しても、堕天使の幹部相手では敵わない、そう言ったのです」

 

眼鏡をくいと上げてそう言うソーナ。

彼を二つ名で呼んだということは、事情も概ね理解しているという暗示だった。

ナインがオカルト研究部に単独で訪問した際、他の悪魔の気配を察知していた。 その悪魔は、彼女たちだったのだろう。

 

「敵う敵わないは二の次だ」

「たとえ死ぬことになっても?」

 

険しい表情で言うソーナだが、ナインは口角を上げて笑った。

 

「仲間が二名飛び出した。 獲物にまんまと釣られてね。 本当に、聖剣使いが聞いて呆れる」

 

だが、とナインは続けて背を向けた。

 

「彼女たちが死んだら、私の教会出戻り計画が無に帰してしまう」

 

本当は、別に教会になど未練はないが。

 

「仕事は全うしましょう。 彼女らとともに戦うことが、私に言われた仕事のようなのでね。 あと、死ぬなんて私、微塵も思ってませんよ――――フフ、ハハハハッ!」

「………………」

「お前……ジルハード!」

 

一誠の叫び虚しく、低い声で哄笑を上げるナインはゼノヴィア、イリナを追うべく歩いて行った。




オリジナルキャラクターは苗字だけ拝借させてもらいました。 葛西炎条。

評価、感想、受け付けます。 原作と相違点あると思いますが。

少し杜撰になってしまったかもしれませんが、ご容赦ください。
次回、イリナを助けましょう回。 そしてコカビエル戦。 

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