紅蓮の男 作:人間花火
ヴァーリが反旗したときのBGMがドロドロしたような曲調でかなり燃えた。 素晴らしい。
テレビアニメ準拠
あと、処女を奪われるのって、死ぬより怖いよね、たぶん
バルパー・ガリレイを追って行ってしまったゼノヴィアとイリナを、ナインが追っていった後、二つの悪魔の眷属が一同会していた。
「ソーナ、まさかあなたがここに来るなんて」
「緊急ですから。 堕天使の幹部がこの地に入り込んでいることを知って何もしない訳にはいきません」
夕刻を過ぎ、すでに夜の帳が落ちている。 火事現場から場所を変えた二人はお互いの眷属を連れ立って人目に付かない場所に来ていた。
ソーナが眼鏡を上げる。
「お話は分かりました。 放火されたのが兵藤くんの自宅というのは驚きましたが、思いの外、敵は激しく動いているようですね」
「ええ、悔やまれるけれど、いまは早急に対応しなければならないわ。 私とイッセーの愛の巣を滅茶苦茶にしたこと、後悔させてあげなければならないでしょうし」
紅のオーラがリアスを包む。 今となっては、あの教会三人に言われたことも聞いてはいられないだろう。
下僕の家が燃やされ、灰にされたのだから。
部外者として振る舞うのにも限界というものがあるのだ。
現にいま、兵藤一誠は怒り心頭だ。 仕掛けられたのだから、返すのが礼儀というものだと。
教会からの警告が引っ掛かるが、こんなことをされて黙っているわけにはいかないのだ。
「………………父さんと母さんはさっき電話したらちゃんと出てくれました。 驚いてたけど、すぐ冷静になってくれて……」
拳を握った。
「絶対許さねぇ…………!」
歯ぎしりがするほどに噛み締めて悔しがるイッセー。 そうね、と返したリアスに、ソーナが聞いた。
「しかし、敵は堕天使組織、
「魔王さまのお力をお借りした方がよい選択かもしれませんわよ、リアス?」
「………………」
朱乃の提案に、首を振ってしまうリアス。 若気の至り……なのだろうか。
身内、ましては位の高い人物に世話になることは、彼女にとって何を置いても嫌だった。
しかし相手は堕天使の幹部、コカビエル。 聖書にも名を連ねる存在。 そんな存在には、やはりそういった同じような規格の外を行くような実力者を立てなければ敵うまい。 二人とも現魔王の妹とはいえ、いち悪魔には荷が重すぎる相手なのだ。
そのとき、沈黙するリアスの脳内に兄の顔が浮かんでいた。 魔王を立てるか……否か――――
◇
「確かこの辺りだ。 気配がまだ残っている」
「うん、エクスカリバーの波動の気配もある。 途切れてるあたり、この先に行ったとは考え難いわね」
エクスカリバーを手に持って身構える二人の少女。 周りを注意深く見回しながら言葉を交わす。
ナインの忠言を無視し、犯人であるバルパーの追跡にあたった二人。 リアスの眷属の木場祐斗もその場にいた。
教会から派遣された、聖剣を奪還するべく結成された異色のメンバー。
その内の二人――――ゼノヴィアと紫藤イリナは、逃走を図ったあの三人を追ってとある広場に来ていた。
「テレッテー! まんまと嵌ったビッチ二人とイケメン一人、一丁上がりっすよ旦那ァ!」
『!』
相変わらず耳障りな台詞を吐くな、と辟易していたゼノヴィアとイリナ。 見上げると、白髪の神父と――――
「…………お、お前は……」
「ハっ……あれがそうか」
それを目にすると、毒づく余裕がすべて消し飛んだ。 不敵に笑む祐斗ももはや内心自虐するしかない。
言葉が続かない。 息が詰まる。
ゼノヴィアとイリナはいままさに完全に石化したように硬直してしまった。 エクスカリバーを持つ手が無意識に震える。
任務のためなら、主のためなら命を捨ててもいい、どうなってもいいと思っていた信徒二人、少女二人。
しかし、死を知らぬ者には抗えることの無い死への恐怖。
まさに、彼女たちにとっての死の形が、自分たちの遥か上空に居る男だった。
「バカな信徒だ。 昨今、本当に死を恐れない人間などこの世にいるまい――――いたとしたらそいつは、本当に頭がイカれているか、死、以上の何かを味わった者だろうな」
黒い翼が10枚。 戦争の狂気にあてられた赤に染まった鋭い双眸が愉快そうに下々を見下ろしている。
「コカビエル……こんなにも早く出てくるの……!?」
「なるほど、血気に逸って嵌められたか――――まずいぞ」
「これは…………」
桁外れの気圏がその場の空間ごと包み込み蹂躙している。 堕天使の幹部としての力量はもはや語るに及ばず。
常闇のような上空で、玉座のような椅子に腰かけた聖剣強奪の首謀、コカビエルが現れていた。
コカビエルの横で、同じく愉快そうに嗤う白髪の神父、フリード・セルゼンは腹を抱えて大笑する。
「ひゃっははっはぁっ―――――マジで嵌るとは思わなかったぜ☆ 爆弾野郎も止めたのにね~。
やっぱりお前ら、戦うだけしか能の無ぇ脳筋エクスカリバー使いだよなぁ。 あ、そっちは魔剣使いだったっけぇ?」
一振りの剣を取り出したフリードは地面に飛ぶ。 ひらりと上着をはためかせながら着地したフリードの持つ剣に、三人はより一層身構えた。
「くそッ――――――!」
「シャキーン! エークスカ~リバ~でぇす。 いまはボスもいるし、安心して斬り刻めるぜ!」
コカビエルが不敵に口角を上げたのが、戦闘開始の合図だった。
「手始めだが……死んでくれるなよ――――フリード、少し退いていけ」
「へいへいボスぅ!」
眼にも止まらないスピードでフリードの姿が消えたと思うと、瞬間移動したように後退していた。
しかも大幅移動。
距離を広められたゼノヴィアとイリナが、その動きに気を取られている瞬間――――
「そら」
まるでおもちゃで暇をつぶすくらいのやる気の無さそうな、しかしこれからの大きな展開に期待するような声音で、コカビエルは攻撃をおこなった。
大砲の着弾のごとき、否、それ以上の衝撃を伴った光の一撃が三人を襲っていた。
堕ちた天使、天使。 光の槍が使えるのは原則この二つの存在である。
前者であるコカビエルが使用できるのは想定の範囲内だったがこれは――――三人にとっては些かすぎるほど強力だった。
「がぁぁぁぁぁハ――――!」
「あぅッ―――――!」
「ぐッ!」
華奢な体が三つ吹き飛ぶ。 羽のように軽く。
まるでゴミ屑のように吹き飛んで壁に叩き付けられた。
――――あまりにもレベルが違いすぎる。 フリードを相手にしようにもコカビエルの光の槍がいまなお三人の戦意をくじいている。
それぞれ手に持つ魔剣やエクスカリバーの力もコカビエルの気迫に呑まれているといえる。
「この程度か……つまらん――――もしあと一発、お前らに見舞ったら、」
コカビエルは自身の手に再び光の槍を作り出し始める。 今度は先ほどとは大きさが違う。
口を開いて笑った。
「フリード、お前のエクスカリバー、天閃の聖剣も振る必要が無くなってしまうかもな」
「えぇぇー! そんなぁボスぅ! お願いですからぁそんな意地悪しないでくださいな。
殺して殺すのが、おれっちの役目、いや――――」
フリードの瞳孔が開く。
「生き甲斐なんですからね!」
「…………ふん、いいだろう。 ただしリアス・グレモリーのネズミ眷属一匹はこちらが始末する――――サーゼクスの妹に対するはなむけとしては上々だろう」
「本当は三人いっぺんにぶっ刺して串刺し人間団子にしたかったんですがね――――ボスがそう言うなら従いますわ」
「いま、バルパーが準備をしている。 護衛として葛西が付いているため心配は無い。
それまでは余興に興じるのも良かろう」
その瞬間、祐斗はコカビエルの視線を察し、一人離脱していった。
「馬鹿者、なぜ一人で!」
「こうした方がいいんだろう? コカビエルは強すぎる。 標的が僕一人になった手前、離れれば君たちは残るだろ」
要は引き算だよ、と冷や汗を垂らして強がって見せる祐斗。
しかし、ゼノヴィアは言い放った。
「ここは一度退いて立て直す…………そもそも、ジルハードを連れてきていない!」
「――――今更気づいちゃっても!」
「――――遅いな」
二発目の光の槍。 今度こそ致命傷に成り得る一撃。
逃げなければまずい、そう心底思った三人は足をコカビエルたちの反対方向に向けた。
「そのナイン・ジルハードとやら、フリードとバルパーから話はよくよく聞いている。
そいつも大概フリードに近しい頭のおかしな奴らしいな」
「旦那ぁ! あんな野郎と一緒にせんでくださいよ!」
「ふっ、同族嫌悪かフリード、可愛いな」
「あいつはお前らとは違う!」
ゼノヴィアが立ち止まってそう叫ぶと、なにが違う、とコカビエルが笑い出す。
「教会で仲間殺しとなり、捕まった。 快楽の上に成り立った殺害だったそうじゃないか。
まぁ、エクスカリバーを研究するという馬鹿げたことをやっている奴らを一人残らず吹き飛ばしてくれたのは俺としては愉快極まる――――俺がバルパーだったなら、牢をぶち壊してでも奴を連れ出して使ったがな」
「だが、教会はそんな素晴らしく優秀な男を二年もの間封じ込めた」と再び槍を浮かび上がらせるコカビエル。
「…………お前たちのように誰彼構わず殺しをするような奴じゃない。 確かにあいつは本当に危ない奴だ」
ゼノヴィアは手で振り払うようにして握った。
「これが、こんなやつが、私たちと同じ人間なのかと思えるほど、冷たく、子供のような瞳と色をしている。 けど――――」
思い出す。 短かったが、長いようにも感じたナインとの日々を。
「そんな、薄情な奴じゃない―――何か理由があるはずなんだ」
「それは幻想だっつの。 ナイン・ジルハードは常人のフリして振る舞ってるだけだ」
輝く金色の瞳を持つナインがゼノヴィアの脳裏に思い浮かぶ。 すると、フリードが舌を出して人差し指を立てた。
「本質は違うぜ。 あいつは本物の爆弾狂さ。
だって俺、まだ俺とあいつがヴァチカンにまともにいた頃――――一緒に仕事したこともあったんだけどよ、
最年少でエクソシストになったこの俺でも驚愕もんの戦闘センスを持ってた!
あと、あいつがいつも口ずさんでたぁーえーっと? 爆発に対しての、なんてーの? 美学っつーか、造詣っていうのかな。 そういうのがオカシイんだって。 なんでこんなイカれたこと思いつくのかって、俺ですら思ったぜ」
エクスカリバー――――「
「異端者も悪魔もみーんなみんなあの手で爆破してってよ! すんごかったんだぜ?
お前らあいつと仕事したことねえからわかんねぇだろうがな、ありゃマジでイカれた錬金術だ――――科学者じゃねえよあんな奴。 テロリストとどこが違うんだよぉ!」
「見えない――――!」
この男の叩き出す超速度の動きは、イリナを翻弄させた。
変幻自在に形状を変えるエクスカリバー、擬態の聖剣――――エクスカリバー・ミミックで応戦するも、当たる気配すらない。
鞭状に変化させてしならせても、フリードはその隙間を紙一重で躱し続けて斬撃を繰り出してくる。
そして、極めつけは――――
「がっ――――」
「う―――――っ!」
「くっ――――」
コカビエルの有無も言わさない力技の前に、三人は徐々に距離を離されていってしまう。
いつの間にか、イリナはたった一人でフリードとその場で戦っていた。
「ゼノヴィアと彼は――――」
見回しても誰も居ない。 あの二人とは完全に離れ離れになったと解ったイリナは、フリードに向いた。
「コカビエルはあの『
「旦那が居なくなったからって安心しとりゃぁいませんかねぇツインテールのお嬢さん!」
再びフリードの姿が掻き消える。
応戦しようとするが、やはりまったく見えないものはどうしようもないほど打開などできない。 闇雲に振り回しても相手は最年少でエクソシストになった天才児だ、どう足掻いても絶望的な実力差しかない。
フリードの動きには、聖剣使いのイリナをしても暗中模索の状況を呈させているのだ。
「あッ!」
「ヒャハハ! そ~れ獲ったりミミックぅッ―――――ついでにお嬢さんもいただき!」
得物が手元から弾かれて宙を舞った直後、フリードに首を掴まれ近くの大木にたたきつけられた。
「うぅ…………」
「いや~、すんげいい感じ。 俺さま最強」
己の強さに恍惚とするフリード。 もはや勝負ありだが、この男は剣を収めようとしないし、イリナの首を絞めるのも止めない。
そして、ここにきてイリナは死よりも恐怖する呪言を聞くことになる。
「いやいや、やっぱり教会の女戦士ってのは鍛えてて張りもある! 素晴らしい体!
日本人ってのはぁ、どいつもこいつも貧相な体しか持ってねぇと思ってたが、お嬢さん案外その枠から抜けてるのかな?」
勝者は敗者へ屈辱と凌辱を。 塗り付けて塗りたくって、穢して汚して殺してしまおう。
フリードは戦闘狂であり、下衆な考えも持つ。 以前赤い籠手を持った少年に捻じ伏せられた一人の女堕天使を思い出しながら――――フリードはイリナの戦闘服をビリビリと破き始めた。
白魚のような肌が見える。
胸元が露わになった自分の身体から目を背けたイリナの頬に、わずかに涙が伝った。
死にたくない――――しかし、それ以前に、女として死ぬのは死後、悪夢としても彼女を未来永劫苦しめるだろう。
「いや…………やめて、よ…………」
「あらら、泣いちゃったー」
フリードは、片手でイリナの首を大木に叩き付けたまま彼女の顎をぐいと持った。 目を無理やり剥かせて掠れるほどに笑い上げる。
「ヒャハッハハハハハハハハハハッ! 諦めろ助けは来ねぇって。 よくあるっしょ? 罠に嵌った聖戦士は、凌辱されて堕ちるか死ぬかどっちかで――――ハッピーエンドな終わりは無いって」
「やめて……お願い…………!」
「バァッドエェェンドっ。 快楽堕ちしてそれで終わり。 大丈夫、おれっち超上手いから安心してね☆」
誰の助けも来ない。 希望も無い。 仲間と離れ離れになった哀れな女戦士は敵方に犯され、殺される運命にあるのだと。
下衆な笑い声を響かせるフリード・セルゼンは、今度はイリナの戦闘服の下腹部に手を伸ばす。
「あ―――――?」
彼女のを…………撫でようと手を伸ばしたその瞬間だった。
「なん――――」
フリードの周りが陰る。
しゃがみ込んで、女性側にとって不本意な情事を成そうとするフリードは瞬間的に硬直した。
少し陰った泣き顔のイリナの視線が、自分から、自分の背後に注がれると――――フリードはその直後振り返る。 表情が―――――大きく歪んだ。
フリードが見ていたものは、先ほどの怯える少女の表情から――――不気味に笑いかける狂気の瞳のそれにすり代わった。
両手を広げ、迫り来る魔手がイリナからフリードを弾かせる。
「マジ――――かっ! クソが!」
気付いたとき、地面が下から突き上げられる。
地鳴りとともに態勢を崩す際、数条の雷をその目で見たフリードは、すぐにその場から離れようとした。
イリナを置いて離れようと――――したのだが。
「おいおいおいおいおいおいおい、この感触は――――!」
後退したと同時に、後退した足が不可思議な感触を覚える。
足場が窪んだ。
そのとき振り返ったフリードは、長い黒髪を後ろで束ねた冷たい瞳の男を視界に捉えたまま叫ぶ。
「地雷か――――! クソが死ねよ爆弾野郎ぉぉぉぉおぉぉぉぉぉぉぉぉッ!」
「…………そこに材料があったら、錬成したくなるのが錬金術師の性でして――――くはっ」
カチリ―――不気味な音が耳元ですると同時に、フリードの足元が大爆発で吹き飛んだ。
◇
「あはは……ふふはは、ハッハハハ…………いま、私の鼓膜が悦びました。 良い…………」
広場に大きい穴がぽっかり空いた。 ゼノヴィアの持っていたエクスカリバーすら上回る大爆発。
にも関わらず、フリードは左腕を失っただけで済んでいる。
一方の爆発の張本人―――紅蓮の二つ名を持つ狂気の錬金術師ナインは、イリナを抱き上げたまま爆心から離脱していて難を逃れていた。
「がっふ…………あぁ…………ふざけやがって…………自分も巻き込まれる可能性もあっただろうが――――なんであいつはああも無茶をしやがる――――退くか、クソ!」
シュっと消えるフリード。 気配が消えたことを確認すると、ナインは薄ら笑いで赤い上着を脱いだ。
「…………逃してしまいましたか、まぁ、今回はこれで上々。 左腕は貰った――――これで後々の戦闘がいくらか楽になる」
「…………ジルハード」
イリナは――――泣いた、年甲斐も無く――――いや、女の子ならば、発狂すること必至だろう。
「う…………うぇ……怖かった……怖かったよぅ……!」
顔を両手で覆って涙する。
「死ぬのは別に良くて……でも怖くて。 女として死ぬのが怖くて……あいつに、フリード・セルゼンに私、犯され――――」
「さぁ帰りましょうか」
淡々と言うナインにイリナは涙を拭って立ち上がる。 そして、唇を尖らせるようにして涙声で言った。
「なんか…………全然ロマンチックじゃない」
「わがままな。 命が助かっただけありがたいと思ってください。 私はフリードの花火が見たかったから彼を襲った――――あんな初歩的な誘導策略にまんまと嵌ったあなたたちの尻拭いをするつもりはありませんでしたよ」
「剣と盾になってくれるって言った!」
ブー、と頬を膨らませるイリナに、ナインは肩を竦める。
「その剣と盾を自分たちから置いて行ったのは誰だ、まったく…………」
戦闘服が破けて露わになった胸になんの感慨も湧かないナインは、静かに自分の赤い上着をイリナに羽織らせる。
黒いタンクトップになったナインは、フリードが向かって行った反対方向に足を向けた。
「…………態勢を立て直しましょうか。 ゼノヴィアさんも行方が分からなくなってしまった。 二人では動こうにも動けない」
「でも、バルパーは何かの準備をしてるって!」
焦るイリナに、しかしナインはニヤける。
「町に立ちこめるこの独特の波動…………おそらく錬成陣だ。 バルパーさんは聖剣用の錬成陣で何かを成そうとしている」
「…………え?」
「しかし、聖剣の錬成となると困難を極めます。 一ミリの欠損でも、錬金術で聖剣を精製し直すには二、三日はかかると言われています。 陣を書く時間も要するのを計算すると……」
片手の指を折り、折り…………目を瞑って笑う。
「バルパーさんの優秀さで差し引いても、およそ三日ほどかかる」
「そんな悠長に――――!」
「養生しましょう。 そのようなナリでは満足に仕事もこなせない」
歩き出すナイン。 そんな彼の後ろ姿を、イリナは眺めることしかできなかった。
◇
「ありがとう、ジルハード……ううん、ナインくん」
「は?」
自宅に戻った二人。 今度はこちらからではなく、あちらから何かしらのアプローチがあるまで自宅に待機することになった。
バルパー・ガリレイ、フリード・セルゼン、葛西炎条、そして、コカビエル。
念のためということも兼ねて、要人――――魔王の妹であるリアス・グレモリーの動きも逐一調べることにした。
「ありがと……ね? いままで犯罪者とか言って……ごめ―――ナイン?」
するとナインは鬱陶しそうに立ち上がった。 本当に迷惑そうに、イリナを捨て置く。
「勘違いをしない方が良い。 これはあなたの理想の物語ではない」
髪を掻き上げた。
「白馬の王子様然とした登場を期待していたのなら、諦めなさい」
ポケットに手を突っ込んだまま、肩を揺らしてほくそ笑む。
両手をひらひらさせて――――その直後、イリナの両肩にその手を置いた。
「―――――!」
「こうやって、私は教会の同僚である錬金術師たちを花火に仕立て上げた。 正直言えば、出所する際もあなたたちを錬成したくてこの両の手が疼いてやまなかったのですよ」
ゆっくり、ゆっくりと手を放して踵を返す。
ナインは、性欲を知らない異常者。 これは彼自身も自覚しているし、開き直っている。
彼を絶頂させることができるのは、ただ一つだ。
――――私はただ、また花火を見たいだけです――――
「私はゼノヴィアさんを探してきます。 あなたはここで養生していなさい。
いいですかー、決して
そう言ってナインは、神父服を着て十字架を首に掛けると、赤いスーツの上着を羽織ってマンションを出た。
「……………ふんだ」
再び口を尖らせて、イリナは下げた自分のツインテールの髪の毛を一束つまんで弄り始めた。
ナイン・ジルハードという男の異常な人間性を理解せずに。
こういう恋的展開は今後もありますが…………ナイン・ジルハードは無性欲。 これは鉄板。
はっきりしないなぁとむずむずする人は合わないかも分かりません。
彼の賢者タイムは、爆破直後のみ。 女体を想像したり、妄想したりして絶頂に至るなど有り得ない異常性癖人間です。
※作者は、お気に入り登録と高評価と大きいお胸様に絶頂する変態です(あ、ごめ(ピチューン☆