紅蓮の男   作:人間花火

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([∩∩])<遊びは終わりだ


8発目 紅蓮火柱

「ナイン……ジルハード―――――!?」

「どうも、リアス・グレモリー。 先日ぶり、また会えて嬉しいです」

「………………」

「くッく、嬉しくなさそう? それは残念」

 

とある廃墟でリアス・グレモリーとナインが向き合っている。 向き合っている、とは一概に言っても、ナインは不敵そうに笑っている。

 

リアスは胸の下で腕を組んで首を傾けた。

 

「用件は」

「木場祐斗の所在――――あなたの下に戻ってきていないか確かめに来たのですが、無駄足だったようですね」

 

逸った三人の内、イリナはナインが無事に回収したが、他に行方不明なのがゼノヴィアと、リアス眷属の木場祐斗。

悪魔なら主の下に戻ってくるのが当然だろうが、空振りだったようだ。 ナインは頭を掻いて息を吐いた。

リアスが目を細めて手を上げる。

 

「まさか、あの聖剣使いの女の子たちも?」

「言わずもがな。 しかし、紫藤さんに関しては私が回収しました。 ゼノヴィアさんの方が所在不明です。 困ったものですよ」

 

相変わらず世話の焼ける信徒だ、と肩を竦めるナインを見て、朱乃が口を挟んでくる。

 

「コカビエルとは遭遇したのですか?」

「いいえ、私が来たときはフリードさんと紫藤さんだけでした。 他は散り散りに」

「祐斗…………やっぱり力づくでも連れ戻しておくべきだったのかしら」

 

デスクの上で組んだ両手に額を当てて項垂れる。 彼女としても、眷属一名が出て行ってしまったのは大打撃だ。

「はぐれ」になれば討伐対象にもなってしまうためなおさら。

リアスが考え込む中、ナインの方も一人で思案し出した。

 

 

「ふぅむ、やはり街をしらみつぶしに探すか……いやそれでは効率が悪すぎる。

仕方が無いから私が一人で出てエクスカリバーだけでも破壊するか―――あ~それではコカビエルさんを爆弾にできるか試せない。 ど~しますかね~」

 

本当ならばナインも自分の頭を抱えたい状況なのだが、へらへらしてこの状況を楽しんですらいる。

 

「…………提案があるのだけど、いい?」

 

笑って茶をすするナインに、リアスが真剣な表情で手を上げて言った。

 

「一つ、共同戦線を張らない?」

「む?」

 

訝しげに眉を吊り上げるナイン。

 

「そちらは構わないのですか?」

 

聞くと、リアスは少し言いづらそうに肩を落とす。

ナインは先の旧校舎爆撃について気にしているのだろうとリアスは察した。

 

あれから考えたものだが、この男を一方的に敵視するのは間違いなのではないか、自分たちの早とちりと誤りで目の敵にしてしまったのではないか、そう思えてきていた。

 

そもそも、教会の上層部が解放したということはそれだけの大きい事件なのだ。

この男でなければいけなかったのであれば、あくまで部外者である自分たち悪魔に何かを主張したり訴える権利は無いに等しい。

 

アーシアの件に関しては驚いたけれど。 どうしても煽り口調になるのはこの男がそういう性格で気性だからと割り切ってしまえば、あのときもスムーズに話が進んだはずだ。

 

「構わないわ、全然。 というより、私はあなたに謝罪しなければならないこともあるの」

「うん?」

 

すると、リアスは立ち上がってナインの目の前で頭を下げた。

 

「ごめんなさい、あなたは任務を全うしているだけなのに、目の敵と決めつけてしまって」

「部長…………」

 

薄々、兵藤一誠も感じた。 犯罪者という人種に、本能的に拒絶してしまっていたこと。

犯罪者だから正しくないとか、悪だとか、制裁の対象であるとか――――事情も知らずに突っ走ってしまった。

 

いままで普通人だった彼は、殺人犯罪者と出会ったことなどなかっただけに、脳が反射で彼を斃すべき敵と認識してしまっていたのだ。

 

しかし、神妙そうに頭を下げる紅髪を前に、ナインはきょとんとした顔で、「は?」と訳が分からないと言う風に苦笑いした。

 

「人を殺した犯罪者の私を目の敵とするその精神は間違っていない。

それは、あなた方の精神や考え方が正常な証拠だ。 これから協力する仲になるためだけにそのような関係修復は必要ない――――あなたたちは、ただ正常であればいい。 無理に私を肯定したり、私に頭を下げたりする必要は皆無、でなければ、逆に失笑を買ってしまいますよ?」

 

私はもうすでに売ってしまいましたがね、と笑った。

 

すると、リアスは呆気に取られるが、反芻して言葉の意味を噛み砕いた。 手をナインの前に伸ばす。

 

「でも、やっぱりあなたを目の敵にするつもりは無いわ」

 

こんな状態だもの、と拠るべき拠点を二つも失くしたリアスが自虐気味に肩を竦めた。

 

「そこまで言うなら、断る理由は無い。 すべて水に流しましょうか、お互いね」

 

和解……してもなお不気味な笑みを止めない変態、ナイン・ジルハードも手を出した。

 

「よろしくお願いするわ――――」

 

ぐっと、握手をしたその瞬間だった。

――――錬成反応が両者の手で発生する。 バチっと見慣れた電撃がうねると、やけに仰々しい腕時計がリアスの握手した腕に現れた。

 

「え、ちょ――――これって? え?」

「部長――――それ…………秒針が、カウント―――――!」

 

ナイン以外の全員が息を呑む。 無機質な機械の音――――時計の針が秒を刻んでいくのを耳にして、戦慄した。

 

しかし、静かに自分の腕を見るリアスは、ゆっくりと冷静にナインを見た。

いやらしそうににやけた笑いに目を見開く。

 

「…………」

 

冷静……だが、内心は超と言っていいほどリアスは焦燥に駆られている。 

秒針、針が動いて、時を刻んでいる。 さっきまで自分の巻いていた腕時計とは違う。

光ったあと変形した――――これは……

 

ゆっくりと、リアスの柔肌に汗が伝う。 制服の中の背に、そして、頬に。

そして鼓動が速くなり始めた直後、秒針が――――ついに一つに合わさった。

 

「え…………?」

 

しかし、ポンと、時計から可愛らしく出て来たのは、小さな人形。

小柄の悪魔をモチーフにしたのか、チープな人形に悪魔の翼が付いている。

 

『僕は悪魔、よろしくな☆』

 

さらに音声付きでびっくり箱のように出てくると、さっきまで引いていたリアスの汗が流れてくる。

 

「……………………なに、これ……」

 

息切れすら催しているにも関わらずに目を引きつらせて時計に指を差すリアス。

その様子に内心大爆笑のナインは、おどけるように右手で空気を破裂させた。

 

パンッという風船くらいの破裂音でビクっと一同が驚く。

若干の黒煙を立たせるとその手をポケットに突っ込み、ナインはまるで、悪戯が成功した子供のように笑いかけた。

 

こんな非常時にも他人で遊ぶ余裕があるのかこの男は――――どこまで図太い男なのだろうかと、リアスは感心すら湧いた。

 

「あなた方も家を灰にされるという被害を被っているようですし、緊急事態のため先の約定は一旦取り下げましょう」

「心臓に悪い…………」

「ハ…………はぁ…………――――やっぱり、あなたのこと人間的に好きになれないわ、私」

 

ではよろしく、とナインが廃墟を出て行こうと――――したときだった。

 

「悪魔貴族さまがこんな廃れたとこで集会たぁ落ちぶれちまったねぇ!」

 

ヒヒヒャ! と耳障りな笑い声が聞こえる。 振り向くと、白髪の神父、フリード・セルゼン。 エクスカリバーを右手で肩にトントンしながらこちらを見ていた。

 

施錠もなければ結界も張っていないこの廃墟などでは、外部からの侵入など容易く許すであろう。

 

「フリード、テメェ!」

「いや~、あの火事ボーボー燃えてて超萌えちゃったよ俺さま。 ついでに中の奴まで燃やしてくれたらさらに超面白かったんだけどなぁ。 あんのおっさん、『気分じゃないわ』と来たもんだ―――つまらねぇよ!」

 

けどぉ、とフリードは不敵に笑んで上を――――廃墟の天井を指した。

 

刹那に敢行される光の一撃が廃墟の天井を根こそぎ破壊していた。

フリードとナインたちの間に突き立った神々しいまでに光る槍。

こんなにも巨大な光を作り出せるのは、この街の現状、コカビエルしかいない――――。

 

「――――翼が、10枚も!?」

 

驚くイッセーに、リアスが返答するように口にした。

 

「コカビエル…………」

「御機嫌よう、リアス・グレモリー、魔王の妹。 その艶やかな紅髪を見てると吐き捨てたくなるほど殺意が湧くぞ」

 

取り払われた廃墟の上空。 そこには隠しがたい程の巨大なオーラを纏った堕天使がそこにいた。

 

「へぇ、あなたがコカビエル……」

 

ナインがそう呟くと、コカビエルは視線をリアスからナインに落とす―――嘲笑うように口角を上げた。

 

「ふん、教会と悪魔が連合するか。 雑魚がいくら集まろうと雑魚にすぎんが――――なぁ、紅蓮の」

「私の別名を知っているとは……あなたの使役する『駒』たちはだいぶおしゃべりが好きなようですね」

 

目を瞑ってほくそ笑むと、コカビエルは眼下にあるリアスたちをゆっくりと見回して言った。

 

「いまなら、貴様だけ命を救ってやってもいい」

「ほぅ…………それは美味しい」

「おい!?」

 

コカビエルの予想外の発言に、さらに予想外の返答をしたナイン。

一誠が慌てたように叫ぶのを、ナインは指を立ててお構いなしに進めた。

 

「一つ、条件を」

「ほう、この俺に条件だと、自分の立場が分かっている奴の言う事とは思えんが……まぁ、いい、言え」

「――――触らせてください」

 

その直後、周りが凍り付いた。

 

「おま、おま、そういう趣味だったのか!?」

 

一誠以外の静観するリアスたちを横目に、ナインは続けた。

 

「あなたの体、とても興味がある――――爆発させたい」

 

その瞬間、コカビエルに向かって何かが投擲された。

ビュッという鋭い音とともに、コカビエルは手をかざしてそれを防ぐ――――

 

横薙ぎに振るわれたナインの手から、石が飛ばされたのだ。

 

石はコカビエルのかざした手に吸い込まれるように――――爆発。 手に当たったと思われるなんの変哲も無い拳大の石――ナインの錬成により着弾と同時に爆発を起こした。

当然そのくらいの小規模爆破では堕天使の幹部は傷一つ付かないが――――煙の中で、コカビエルはわなわなと震え出す。

 

服が、尊大な彼の服が汚れた。 煙と爆発の衝撃でほこり塗れになった己の姿に嫌悪したコカビエルがそこにいる。

 

「それが答えか、紅蓮の錬金術師…………!」

「行きますよみなさん――――敵が待っています。 遊び相手が……命を賭けるに足る遊び相手が…………」

「は…………?」

 

上空からのコカビエルの返答を完璧に無視して歩き出す。 フリードすらも呆気に取られて簡単に自分の真横を通過することを許してしまった。

 

「敵…………って」

 

敵ならここにいるだろう、首謀者もいるだろう。 なんでここで素通りなんてできるのだろうか。

しかしナインは振り返ってにやけた。

 

「バルパーさんは駒王学園でエクスカリバーの錬成をおこなっている。 決戦場ならそこでしょう。 フハハ、ははは、へっへへへ…………」

 

錬成完了には複数日かかると思いますが、事ここに至ってはいくしかないでしょう。 と、猫背で歩きながら不気味に笑うナインに、コカビエルは憎々しげに呪詛のように呟いた。

 

「…………面白い。 お前は殺そう、紅蓮の錬金術師。

その薄気味悪く腹立たしい笑みをこの世から消してやる…………!」

 

確かな戦意と殺意を抱きながら、コカビエルはフリードとともに消えていった。

行先は当然、駒王学園。 バルパー・ガリレイの実験場となっている校庭である。

 

ナインが廃墟から出て行ったあとも、リアスたちは汗が止まらなかった。 あの場でゴミ屑のように吹き飛ばされてもおかしくなかった。 相手は幹部格―――聞いていたのと実際に見るのとでは桁外れに相違があった。

 

一誠も足の震えが止まらなかった。 止まれよ、止まれ! と内心叫んでも本能がそうしているため収まらなかった。 しかしあれは…………あの男は、

 

「なんで……腰が引けないのよ、あの状況で…………おかしい、おかしすぎるっ」

 

自分たちは悪魔で、ナインは人間。

人間だ。 ただの人間。 なのにどうして、あの怪物のごとき堕ちた天使を前にして正常でいられる、あんなに舌が滑るのだ。 リアスは思わず。人差し指を額に当てて苦悩した。

 

「一種の…………なんというか、いままでも彼の感覚がおかしい節がありましたが、今回のは顕著にそれが出ていましたわね」

「…………人としての感性をどこかで根こそぎ置き去りにしてる――――狂ってる…………っ」

 

でも、とゆっくりと顔を上げたリアス。 息を大きく吐き、一誠たちを見回した。

 

「とりあえず、ナイン・ジルハードの後を追うのよみんな!」

『はい!』

 

ナイン・ジルハードに続き、リアス・グレモリー眷属も駒王学園に足を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

「………………」

「あの光は――――!?」

 

廃墟から駒王学園に場所を移ったリアスたちはその光の柱を見て声を上げる。

学園の外からでも分かるまばゆい輝きに目を奪われていると、結界を張っているソーナ・シトリーとその眷属たちが目に入った。 リアスが声を掛ける。

 

「ソーナ……」

「この結界の向こうに、コカビエルたちはいます。 なんらかの儀式を執り行っているようですが、油断はなりません。 それと、リアス、いまからでも、サーゼクスさまに連絡を――――」

「通りますよっと」

 

会話をする二人の横を、ナインが通る。 お構いなしに結界の中へと向かっていく。

 

「待ってください、ナイン・ジルハード」

「…………」

「事態は深刻の一途を辿っています、いまもその深刻さは濃くなるばかり。 現状、仲間の内二人が欠けて、あなた一人でどうするつもりですか」

 

ソーナの諫言を背中で聞き流したあと、ナインは振り返った。

 

「私はもともと囚人です。 死刑になるはずだったこの身――――免れたあとも、あの地下牢で一生を過ごすはずだった」

 

肩を揺らして笑った。

 

「ふ…………いまさら生きるか死ぬかなどと拘ってられないでしょ。 要は楽しめるかどうかが私の人生の表題なんですから」

 

そう言って手の平に息を吹きかけると結界の中に入り込んでいく。 その後ろ姿を見て口をつぐんだリアスに、朱乃が口を開いた。

 

「サーゼクスさまには先ほど打診しておきました」

「な――――!」

「リアス、ことは一刻を争います。 魔王様の力をお借りしましょう」

 

リアス自身、兄の――――魔王の力に世話になるのは嫌だった。 というより、迷惑をかけたくなかったのだ。

手間を取らせたくない一心で連絡しなかったのに、朱乃がすでに報せていたなんて。

 

リアスは内心で歯噛みしたが、やがて諦めたように笑顔になる。

 

「仕方が無いわね……」

「サーゼクスさまの軍勢は一時間程度で到着する予定です……それまで」

「ナイン・ジルハードと共闘して時間を稼ぐ。 こればかりは少し悔しいけれどあの男、実力は本物みたいだしね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一筋の光の柱が立ち上っている。

駒王学園校庭。 そのど真ん中で呪文をぶつぶつと唱えている初老の男がいた。

元大司教、バルパー・ガリレイ。 しゃがみ込み、校庭全体に張り巡らされた陣に手を付いているのを見て、ナインは舌打ちをする。

 

「…………エクスカリバーの錬成はもう少し時間がかかると思いましたがね――――あの様子ではすでに最終段階にまで入っている」

「そういう取引だからな」

「む……」

 

上を見上げると、コカビエル。 尊大な玉座に座り込み、頬杖を突いてナインを出迎えた。

 

「ただ錬成するには、お前の思う通り数日かかったはずだ。 だが、俺の力を利用すれば、錬成を瞬く間に早めることができる。 バルパーの考えだ」

 

未だ詠唱しているバルパー・ガリレイを見て、ナインは鼻で笑う。

 

「『力量』という単純なエネルギーを術に上乗せして錬成を強力、且つ迅速に実行しているのですか。 なるほど、やはりバルパーさんは優秀だ。 素晴らしい、素直にそう思いますよ」

「そうさ、奴は優秀だ。 エクスカリバーの凄まじさなら俺も知っている。

それだけに、そういった離れ業を成せるのもエクスカリバー狂いのあいつらしいといえばあいつらしい」

 

リアスたちが駆けつけると、コカビエルが手を出していた。 尊大に座したままナインに右手を差し伸べている。

 

「もう一度聞こう。 お前は破壊活動にはもってこいの能力を持っている――――俺と共に来ないか? いや、来い!」

「しつこい男は嫌われますよ――――!」

 

ナインが素早く地を蹴った――――突撃した先は、まだ錬成の最中のバルパー・ガリレイ。

それを見たコカビエルは、口元を笑ませて指を鳴らした。

 

「葛西」

「はーいはいっとぉ」

「っ――――」

 

気色の悪い笑みを浮かべながらエクスカリバー錬成に熱中するバルパーの前に、赤いジャケットの中年男が立ち塞がる。

走るのを止めず、ナインは右手をそのまま立ち塞がる男―――葛西炎条に突き出した。

 

「火火火……ヒ……」

「…………っそら!」

 

まるで写し鏡のごとく葛西も左手を突き出した。

ぶつかり合う衝撃が突風を呼び起こす。 

 

やがてお互い弾かれるように後退すると、ナインが右手首をさすりながら眉を吊り上げて言った。

 

「んー、邪魔ですよあなた」

「そう言うなよ兄ちゃん。 楽しいこと、しようぜ」

 

黒いキャップの帽子を指でつまみ上げる葛西がニヒルに笑うと、タバコの火勢が引き上がった。

ボシュ、遊戯花火のように発火する。

 

「葛西、お前はその紅蓮の男を釘付けにしていろ、直、エクスカリバーは完成する」

 

バルパーがそう言うと、コカビエルが上空からリアスを見降ろす。

 

「『保護者』に泣き付いたのだろう? リアス・グレモリー。

ならば来るのはどいつだ、サーゼクスか、セラフォルーか。 どちらでも構わんが、その間俺を退屈させることだけはしてくれるなよ」

「お兄さまたちの代わりに、私たちがあなたの相手をするわ」

 

なんだつまらん、と、リアスの発言に心底つまらなそうに、表情をしかめてそう呟いたコカビエル。

ガラにも無く溜息を吐いてしまったコカビエルは、しかしやがて、不敵に笑んで玉座の下から光を放出させた。

 

リアスたちの前に落ちる光の柱は、やがて形を成していく。

巨大で鋭利な爪と、凶悪そうな牙を持つ魔獣がその場に召喚されていた。

 

「ケルベロス…………!」

「冥界の門に生息する魔獣…………人間界に持ち込むなんて!」

「俺のペットとでも遊んでいろよ、リアス・グレモリー。 貴様のような皮も剥けていないひよこ悪魔に、俺の相手がまともに務まると思うなよ――――ふふは、カッハハハ!」

 

コカビエルの高い笑いで、地獄の番犬は低い地鳴りを轟かせながら動き出した。 焼けるような鬣は地獄の業火を思わせるほどの凄まじい迫力を伴った獣の肉体。

 

それを静観していたナインは、無表情のまま葛西から踵を返し始める。 予想外の相手の行動に、葛西は思わず咥えていたタバコを落とす。

 

「小猫、朱乃! イッセーのブーステッド・ギアの力が溜まるまで、ケルベロスの気をそちらに引きつけて頂だ――――」

 

眷属たちに指示を出したそのとき、リアスは自分の目の前を影が通り過ぎるのを僅かだが目撃した。

 

「ちょっとあなた!」

「伏せてくださいね」

 

リアスたちに気を取られるケルベロスから一定距離を保ったまま、彼は地面に両の手を叩き付けていた。

一条の電撃が走る。

 

「ギャアアアアアアアァァァアァォォォォォッ――――!」

 

その瞬間、ケルベロスの真下から爆発の火柱が次々と現れる。 爆風と火柱を伴った爆発の線は、レーザーを彷彿とさせる高熱の柱となり、ケルベロスを下から蜂の巣にしていた。 竹槍のように下からドスドスと串刺しにされた魔物は激痛の雄叫びを上げる。

 

単なる爆破ではない。 強靭な魔物の肉体には、一点集中の攻撃が有効だと判断したナイン。

地面内部で錬成した爆発物をそのまま爆発させるのではなく、拡散させ、さらに爆発のエネルギーを一本一本のレーザーの柱と化し、対象を下から貫かせる。

 

泣きそうな顔をしてリアスは紅髪を振り乱してナインの肩を掴む。

 

「またあなたは勝手を!」

「部長、伏せましょう―――――!」

 

一誠に腕を引かれたリアスは、キャっと可愛い声を上げながら無理矢理屈ませられていた。 当然、それと同時に掴んでいたナインの肩もリアスが引いていたが。

 

「…………重い、目障り。 私の鑑賞の邪魔をしないでくださいよ、まったく」

「あなたも伏せるの!」

「節介な…………」

 

刹那、轟音が響き渡る。

 

「耳……い――――てぇ」

「節介ってどういう意味よ……な、これは――――」

「ほう…………」

 

感嘆したコカビエルは、上空で喉を鳴らした。

しかし、やはりそれだけでは終わらない。 この地鳴りが本命の締め。

地面が割れ――――突き破るようにして破壊していく必殺の爆発力。

 

いまなおリアスに肩を掴まれたまま、ナインはぐいぐいと両手を地面に押し付ける。

まるで念力でも送っているように、地面は凶悪な爆薬と化していった。

 

目と耳を同時に覆いたくなるほどの地盤爆破。 その最後の爆発による煙が晴れたとき、数匹のケルベロスは一匹になっていた。

 

「貴様、し、質量保存の法則を―――――!」

「すみませんね」

 

さらさらと儚く消滅していくケルベロスの群れを背にしたナインに向かって、バルパーは驚愕の声を上げていた。

錬成の中途でもバルパーは、有り得ないと言う風に叫ぶ。 その様子に、心底大笑いしながらナインは彼を憐れみの瞳で見た。

 

「あなたは堕天使の幹部というコカビエルの力を利用し、聖剣錬成を早めることに成功している。 なら、無差別に拡散しているその力の波動――――それを私も使えばいい」

 

バルパーは頭を抱えてぐしゃぐしゃと掻き乱す。 錬成失敗しちゃいますよ、とへらへらするナインを睨みつけて、捲し立てた。

 

「~~~~~~~! 私が考えた錬成法だぁッ! 第一、他人の力の気配を察知するだけでも達人レベルの肉体の鍛錬が必要なのにそれを利用するなどっ、口で言うほど容易ではないはずッ!」

「そう、あなたが考えた効率的な錬成法だ。 コカビエルは意識的にあなたに『力』という材料を向けたから、肥満体質で運動不足なあなたでもその力を受け止め、聖剣の錬成に当てることができたのだ」

 

不気味ににやけ、ナインは両手をバルパーに見せた。

 

「私は、漏れ出る上級の堕天使の力は簡単に察せたし、使えた。

この方法は始祖はあなただが、使えるのはあなただけというわけでは無い」

「はは、ふはははははははは! 俺の力を材料に術法を増幅させたのか! 確かに、俺の力は辺りに漏れすぎる。 なるほど、漂っているそれを有効に活用したわけだ! これは…………これは酷く面白いぞ!」

 

哄笑を止められず座したまま腹を抱えて大笑するコカビエル。 ナインも低い声で短く笑った。

 

「――――――面白いのは…………まだこれからですよ」

「――――――ぬ」

 

瞬間、最後の一匹のケルベロスの首が、物の見事に両断された。

携えるのはエクスカリバー。 破壊の聖剣―――エクスカリバー・デストラクション。 切っ先が三つに分けられた、破壊の権化。

 

「ナイン。 まったくお前は無茶をする!」

「すみません、ゼノヴィアさん。 こちらで勝手に始めさせてもらいました」

「イリナは?」

 

ケルベロスの首を瞬く間に両断したのはゼノヴィア。 いままで何処にいたのかはあえてナインは聞かないが、彼女の質問に不敵に笑んで首を振る。

 

「正直言いますと、彼女はいまは使い物にならない」

「ひどいなお前」

「外面上問題ないが、本当は『ド』の付くほど精神が不安定だ」

「…………そうか」

 

ならば、仲間を脅かした彼奴らを成敗しなければな、とゼノヴィアは再びエクスカリバーを構えた。

 

「…………背を任せるのがイリナではなくお前になるとは、なんだか不思議な気分だよ」

「そうでしょうとも」

 

くつくつと低く笑い肩を揺らす。

ナインは両手をポケットに入れたままコカビエルの方に、ゼノヴィアはもう一匹の魔獣に剣を向け、背中を合わせるのだった。




鋼の錬金術師の錬金術は本当にまるっきり科学といった感じですが、こちらで出ている錬金術は科学の一線を超えてしまっていることに最近気づいた。
オーラを材料に錬成するとか……お前ら人間じゃねぇ!(タケシ

確か、ハガレン作者さんが、ハガレンの錬金術は魔法みたいな錬金術って言ってたような……。


次回、葛西のおじちゃんと変態ナインくんがぶつかru


ps ハガレン一期のキンブリー。 まぁ二期もそうなんですけど。
彼の後ろの長い黒髪。 あれってなにで一つに束ねてるんですかね。 謎だ
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