アインクラッド第一層は特にテーマは決まっていない。いわゆるチュートリアルに相応しいフロアだった。草原に森、渓谷などいくつものエリアがありそのエリアでプレイヤー達を美しい景色と共に出迎える。そんなコンセプトだったはずだ。続く二層では基本牧草地帯が広がりフィールドには牛型のモンスターが出現していた。迷宮区では牛人間・・・所謂ミノタウロスが出現していた。そのことから恐らくテーマは牧場だろう。そして、オレ達4人は第三層のテーマだろうレリーフが彫られた扉の前に立っていた。
「ついに来たか。ミト、分かってるよな?」
「当然。SAOはここからが本番、でしょ?」
うちの可愛い恋人はしっかり覚えていた。その答えに思わず笑みが溢れる。そのやりとりを聞いていたアスナが尋ねる。
「そうなの?今までのは違うの?」
それを聞いたキリトは頷きながら答える。
「ああ、これまでは亜人型のモンスターが多かっただろう?あいつらもソードスキルは使うけど見た目はモンスターそのものだっだろ?だけど、三層からは人型のモンスターが出てくるんだ。見た目は完全にプレイヤーに近くてカーソルがなかったら多分見分けられないくらいだ。当然会話もするしソードスキルだってこれまでよりも上手く使ってくるはずだ」
「なるほど、それはなかなか大変ね」
アスナはキリトの言葉を聞いて納得するように頷いていた。キリトの言う通りこれまでとは一味も二味も違うモンスターが出てくる。ソードスキルも多様性が出てくるのだ。それを踏まえてオレたちは警戒を高める必要がある。
「さてと、そろそろ扉を開けるぞ。記念すべき第三層の第一歩な訳だが・・・最初の一歩は誰が行く?」
「いや、キリトここは4人全員で踏もうぜ。せっかく一緒に組んでんだからさ」
「・・・それもそうか。えと、2人はそれでも問題ないか?」
「当たり前じゃない。ここにいる全員で最初の一歩を踏み出した方が感動も大きいでしょ?」
「アスナの言う通りよ。全員せーので行きましょ」
「分かった。それじゃあ行くぞ」
四人で扉を押し開く。既にボスは倒されているのだ。扉は簡単に開いた。オレ達は全員でアインクラッド第三層の地面を踏み締める。三層のテーマは森だ。しかも、これまで見て来た森とは違う。一層や二層のものと比べて大きさも迫力も大違いだ。
「すごい・・・すごいよミト!この景色を見れただけでもここまで来た甲斐はあったわ!」
「そうね。ベータの時に比べて森の規模が大きいわ。ベータとの変更点も多いけどこの景色だけは感謝したいわね」
女子2人はワイワイしながら景色を楽しんでいるが今はそんな余裕はない。キリトもそう思ったのか咳払いをしながら2人に近づいた。
「ゴホン、それじゃあこれから主街区にいって転移門をアクティベートしよう・・・って言いたいところだけどここだと二つの選択肢があるんだ」
「二つの選択肢?」
キリトの言葉にアスナは首を傾げる。そういえばそうだったな。ここでは確かキャンペーンクエストがあったはずだ。それを思い出したであろうミトはアスナに説明する。
「そうよ。あそこの分かれ道があるでしょ?右に行けば主街区がある。だけど左の方も捨てがたいわよ。左の方はこの層にしかない大事なクエストがあるから」
「クエスト?それってどんなクエストなの?」
「キャンペーンクエストって言われるレアなクエストよ。一旦そのクエストを受けてから主街区に行くって選択肢。一応行く場所は同じだけどね」
「へえ、そんなクエストがあるのね!でも、大丈夫なの?ついさっきまでボス戦だったけど補給とか」
確かにそうだ。第二層のボス、《アステリオス・トーラスキング》は中々の強敵だった。真のボスとしての突然の出現でレイドは危うく崩壊したのだ。POTの量もフルとは行かない。
「いや、ここでキャンペーンクエスト受けとかないと後々面倒だぞ。後ろではリンドとキバオウの集団がいるわけだからな。モタモタしてたらクエストを受け損ねるかもしれねぇ」
「それに、今回は受けるだけだから安心してくれ。ちょっとした寄り道をしておきたいだけだからさ」
オレとキリトの言葉にアスナは顎に手を当て考える。アスナを除く三人はこの先がどうなっているのか知っている。ベータテストとの変更が無ければ効率良くレベルも上げられる。
「それじゃ、受けましょ。そのクエスト、キリト君とミトが言うってことはやっておいた方がお得なクエストでしょうし」
どうやら、決め手はこの2人らしい。まあ、アスナの言う通りだな。アスナの言葉に何故か納得するものがある。この2人はなんだかんだ似ている面もあるだろう。まあ、アスナの言葉を聞いた黒い方はズッコケているが。
「あら、よく分かってるじゃない。さすがアスナね。それじゃ行きましょ」
まあ、多少遅れたとしても問題はないだろう。最悪は後続の誰かが転移門を使えるようにするだろうしそうでなくても1時間で勝手に主街区は解放される。一層や二層で待ってる奴等には申し訳ないがこっちを優先させてもらおう。そう考えてオレ達は左の分かれ道を全員で進み始める。その先には巨大な樹が数多く生えた森が広がっていた。
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私達4人は森の中の道を進み続ける。森の中は薄暗く視界は僅かに狭くなっていた。こんな森の中を進んでいれば当然モンスターにも出くわす。今対峙しているのは《トレント・サプリング》と言うモンスターだ。このモンスターは周囲の木々に擬態してプレイヤーが近づけば攻撃してくると言うモンスターね。トレントと戦っている時に気をつけなければならないことは二つ。
「アスナ、一旦ストップ!森に引き込もうとしてるわ!」
「了解!そう言う時は退路を絶って動きを止める、だったわね」
アスナがトレントの背後に周り森の奥に引き込もうとするのを封じる。トレントとの戦いはこれが厄介だ。自身の攻撃力はかなり低いことから森の奥に引き込んでプレイヤーを分断させようとしてくること。それともう一つ。
「ちょっ!?いきなり後ろに!?」
「それがトレントの厄介なところよ。言われてないと対応できないでしょ?」
「これは・・・本当に厄介!」
アスナに事前に《トレント・サプリング》について説明しておいて良かったわ。そうじゃなければ不意打ちで一発もらってたかも知れないわ。アスナは直ぐに冷静さを取り戻すと細剣スキル二連突き《パラレル・スティング》を放ちトレントを撃退する。
「ま、これが《トレント・サプリング》との戦い方よ。流石アスナ、まさか一度目でこんな鮮やかに倒すなんて」
「ミトが教えてくれてなかったらもう少し手こずったと思うわ」
アスナにレクチャーしていると一層の頃を思い出す。あの時に比べて2人ともステータスや装備が上がっているとはいえどもこうやって頼りにされていると嬉しいわね。一方の男二人はというと・・
「うっらぁ!」
もう一体出現していたトレントを相手していた。タキが両手槍スキル範囲技《ワールプール》を放つ。この技は熟練度に応じて確率は変わるけど
「スイッチ!」
「了解!」
「ふう・・・ナイスアタック」
「そっちこそ、ナイスアシスト」
タキとキリトはお互いハイタッチで答える。この2人の戦闘力は私よりも高い。お互い連携を組むのは初のはずなのにここまで息ぴったりだと少し嫉妬しちゃうわ。
「にしても
「仮想世界に温暖化なんてねぇと思うがな」
アスナがぼやいた言葉に思わずと言った拍子でタキが突っ込む。まあ、確かにここアインクラッドで温暖化は・・・茅場のことだから設定あるかもね。タキのツッコミにキリトと私は思わず笑ってしまった
「って今はどうでもいいわね。三人ともに聞きたいのだけど・・・キャンペーンクエストってどこで受けられるの?」
「そうだったわね。まずは、クエストフラグの立ってる場所を探さないと。何せ場所はこの森のどこかにランダムで立ってるからね」
そう、これから挑むキャンペーンクエスト。それ自体はどこにクエストフラグを立てているNPCがいるのか分からない。森に入ってからかれこれ15分。さっきのトレントの戦闘に5分くらい使ったからざっと10分。まだ探しはじめたばかりだし仕方ないわね。
「えー、ランダム?それじゃ見つけるまでなかなか時間かかるじゃない。何か探すヒントはないの?」
まあ、確かに何かヒントが欲しいところよね。私とタキがベータテストでこのクエストを受けた時森の道に入って3分と経たずに見つけちゃったからヒント言えるものが分からないのよね・・・
「おっ」
「どうしたキリト?」
「それじゃ、アスナ。自分の耳に自信がある?」
「キリト君って・・・実は耳フェチ?」
「なしてそうなるんです?」
キリトの突飛な発言で動揺したのかアスナが耳を触りながらジト目をキリトに向ける。その姿は実に恥じらいがあって可愛らしい姿ね。その姿を見たキリトが焦りを見せるけど、アスナは最初から知っていたとばかりの表情で笑う。
「ふふっ、冗談よ。そもそも私達は今はナーヴギアを通して音を聞いてるんだから耳の良し悪しなんて関係ないでしょ」
「なるほど・・・そりゃそうだ・・・それじゃ、全員で探そう。聞き耳スキルを持ってたら楽なんだけどな・・・」
「探すのってどんな音なの?流石に木の葉が落ちる音とか言い出したら無理よ」
「そこは安心していい。聞くのは金属音、剣戟の音だからさ」
成る程、確かにあのクエストの開始はNPC同士の戦闘だからそれはそうね。凄いわね。私ではとても思い付かなかった方法だわ。
「うーん、聞こえないわね・・・」
「いくら金属音とは言えどもこんな広大な森だしね」
アスナが耳の後ろに手を当て音を聴こうとしている。私もアスナに習って同じ体制になる。その姿を見たキリトはニヤリと笑う。
「脳で聞いてるんだったらそのポーズも意味ないんじゃないか?」
「「っ!」」
途端にアスナは顔を真っ赤にする。さっきの冗談と違いガッツリ赤面状態だわ。そしてそれは・・・私も同じだった。
「・・・耳に自信がありそうなアスナさんにはいつかウサ耳をプレゼントしてあげよう」
「そんなのいらないわよ!」
「・・・ミトもいるか?具体的には猫耳のやつを」
「ちょっ!?この前のやつで味占めないで!!」
二層の体術クエストの罰ゲームで見せた猫真似をどうやらタキは味を占めたらしい。珍しくニヤニヤしていた。その笑みを見ると恥ずかしくなるが・・・私はタキに近づき耳元で囁く
「そう言うのはまた夜で」
「・・・へいへい」
タキはフッと笑う。その笑みは後が楽しみという顔ね。
「これからはこれが続いていくのかよ・・・」「口の中甘くなるわね・・・」
後ろの2人・・・ガッツリ聞こえてるわよ。そう思いつつキリトとアスナに文句の一つでも言おうかと思って振り返る。その途中だった。タキが何かに気付いた様子を見せて森の奥に視線を向ける。
「三人とも、聞こえたか?」
言われてみれば耳がキィンキィンと剣戟の音を捉えた。剣戟の音は少しずつではあるが近づいていたのだ。私達は全員頷くとタキは南西の方角を指差して森に入っていく。その様子を見たアスナは焦りを見せる。
「え?森の中に入って大丈夫なの?」
「大丈夫よ。クエストが受けられたら道には戻ってこられるから」
「ダメだったら?」
「その時は野営よ。これもゲームの醍醐味だけど、今は勘弁だから急がないと」
私はそう言いながらタキに続いた。その後ろで「本当に醍醐味なの?」とアスナの懐疑的な言葉にキリトが苦笑する姿が見えた。森に入ってから5分ほど歩いた。その間に剣戟の音は次第に音量を増していき剣戟の間の叫び声すらも聞こえてきた。そして、私達はたどり着いた。
「ハァ!」
「シッ!!」
2人の剣士がお互いの獲物を持って撃ち倒さんとする決闘の場に。1人は金と白、緑の軽金属の装備に身を固めた長身の男。ブロンドの長い髪を結んでいる北欧系っぽく見えるハンサムだ。私の好みの見た目ではないけどそれだけは分かった。右手にロングソード、左手にバックラーを構えてもう1人の剣士に斬りかかるが受け止められる。今ハンサムから受け止めた剣士は真逆とも言える容姿をしている。黒と紺の鎧に身を包みその上からマントを着込んでいる。私よりも濃いパープルのショートヘアー。緩く弧を描くサーベルとカイトシールドを携える色黒の女性だった。胸元の膨らみから性別は女性。2人の共通点といえば長く生えた耳だ。つまり2人はエルフだと言うことね。
「えっ?あの2人ってNPCなの?」
アスナは惚けた顔でそう言う。その問いに答えのはキリトだった。
「厳密に言うとmobだよ。彼らの耳を見てみろよ」
「え?・・・あ、耳が長くて尖ってる!」
「男の方が
そう、2人の頭上には【!】のクエストマークが立っている。つまり、2人のどちらかからイベント・クエストを受けられるってことね。
「このキャンペーンクエストはどちらかに味方した時点から開始される。クエストの長さはなんと九層だ」
「!?きゅ・・・」
アスナが驚きのあまり大声を出そうとするのを口を手で塞いで止めさせる。危ない危ない。危うくあそこで戦ってる2人に気付かれることだったわ。
「しかも、途中でミスをしても受け直しは不可、対立ルートへの変更もの不可、選んだ道を九層まで走り抜けなきゃならない」
「ちょ、あなたそう言うのは早く言いなさいよ!・・・って対立ルート?」
「そうなの。どっちかと戦ってクエストを進めるの」
そう。このキャンペーンクエスト・・・通称《エルフ・クエスト》は選択肢が二つのうちどちらかしか取れない。そのどちらかによってクエストの内容が変わってくる。だからこそ、慎重に選ぶ必要がある。今回は選択権はアスナに託した。
「アスナはどっちを受けたい?」
「・・・これって選択肢が無いじゃない。
「オッケー・・・ってアスナさん、なんで分かったんだ?」
了承した後になぜ分かったと言う表情でキリトがアスナに向き直る。それを見たアスナは鼻で笑うと勝ち誇った笑みで言う。
「むしろ分からないとでも?」
「うぐっ・・・いやでも、なんでタキとミトも
「
「お、アスナ。良い感してるぜ。確かにミトはあの
「いらんことは言わなくて良いから!」
まさかベータ時代の会話を覚えられているとは・・・凄く恥ずかしい。顔を手で覆ってしまうくらいには恥ずかしすぎた。
「それじゃ、早速・・・」
「待った待った!もう一つ大事なことがある」
アスナが飛び出そうとしているのをキリトは寸前で止める。
「何よ?」
「お姉さんの方に味方するのは良いけど・・・今の俺達じゃ絶対勝てない」
「勝てないって・・・どうするのよ!?」
「こちらのHPが半分以下になると、加勢した側のエルフが奥の手を使って相手を倒してくれるんだ。だから、こちらはガードに専念してくれ」
「その奥の手って?」
アスナの言葉に私達三人は静まり返る。あの奥の手は絶対使わせたくないけど・・・でも、下手に倒そうとしても誰か死人が出るかもしれない。そう思うとNPCに奥の手を使わせた方がまだマシかもしれない。その内容は・・・自爆攻撃だ。あの
「ああ、奥の手ってのは自爆攻撃。つまり、相打ちに持ち込むんだ」
私とキリトが黙っている間にタキがアスナに説明してくれる。その言葉を聞いたアスナは息を呑んだ。
「気持ちはオレとしても分かる。その後味は悪いだろう。だが、大事なのはオレ達の命だ。意地を張るのもいいが、これから先NPCの死は何度も目にすることになる。割り切った方が良い」
タキの言葉は非情かもしれない。でも、それがMMORPGというもの。アスナの表情は俯いていることから見えなかった。この場に重い空気が充満する。それを切り替えるようにキリトが努めて明るい声を出す。
「それじゃ、三つ数えてから飛び出すぞ。近づくと自動でクエが始まるから、俺達の近くにいるだけでいい」
アスナはこくりと頷くとレイピアに手を掛ける。それを見て私とタキも武器を構える。
「・・・・2、1、ゼロ!」
キリトが三つ数えた後私達は一斉に飛び出した。それを見た
「愚かな・・・ダークエルフ如きに加勢するとは・・・我が剣の錆となりたいらしいな」
「そうよ!でも、錆になるのはあなたよ!このDVエルフ!」
この状況だとどっちかと言うと私たちがこのハンサムをリンチする図では?そう心の中でツッコミながら構える。
「よかろう、ならば貴様らから始末してやろう。人間よ」
「いいな、ガード専念だぞ!」
「・・・」
キリトの言葉にアスナがなぜか本気になった時の表情をしていた。もしかして・・・いや間違いなく・・・
「あの、ガード・・・専念・・・」
「解ってるよ!」
アスナがそう叫びレイピアを構えるけど・・・貴方ガードする気ないわよね!?明らかに攻める気まんまんじゃない!?
「ハァアアアアア!!」
アスナは叫びながら
「ば、馬鹿な!この私が・・・」
た、倒しちゃってるぅ!?ベータの時に比べていくら私達がレベルが上だと言ってもまさか倒せるなんて・・・
「馬鹿な・・・」
「嘘・・・」
「マジかよ・・・」
上からキリト、私、タキの順で思わず絶句してしまった。唯一
「なんだ、やればいけるじゃない・・・」
思わず
最初は漫画ルート行こうかと思ったけどティルネル周りに何か設定明かされると怖いので原作の流れになりました。漫画で出てきた狼使いくん、済まない。