トガカエデの復讐アカデミア   作:あーさん

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日常の幕開け

「人の血?そんなもの吸うわけないです」

 

 その言葉の一週間後、姉さんは行方不明になった。

 

 

 

 

 

──────

 

 

 

 

 

 

「あー、体育祭が終わったすぐ後でなんだが一つ伝えておくことがある」

 

 雄英高校ヒーロー科。それは偏差値79という超難関の筆記試験に加え実力が試される実技試験を兼ね備える学科、そしてその倍率は驚くべきことに300を超える。

 

もちろんそのうちの半数以上は記念受験であり、偏差値などの理由から最初から入ろうとしていない学生たちだろう。だがそれを加味してもあまりに多い受験者数、排出した人気ヒーローの数、ヒーローを志す誰もが一度は通いたいと夢見る高校と言えるだろう。

 

 そんな名門校の1-Aのホームルームにて、今とある情報が教師から伝えられようとしていた。いったい何が来るのかと多くの生徒が考え、情報通の生徒は『まさか職業体験か?』と期待し、上鳴は抜き打ちテストがあるのかと怯えていた。

 

「転校生が来るぞ」

 

「「「「青春っぽいのきたああああああ!」」」」

 

 いったいどんな人が来るのかという興味、この時期に雄英に来る転校生という特殊な存在への好奇心、面白い人や優しい人だったらいいなという期待、さまざまな要素が重なり合った結果として上鳴や芦戸を筆頭に多くの生徒が歓喜の声をあげたのだ。

 

 そんな生徒の様子をいつものことだと流しながら、相澤先生は教室の外に待機している転校生に入ってくるように声をかける。数秒の間が空いて、ガラりという音と共にドアが開いた。

 

 赤い髪の、少女だった。まるで血のように赤い深紅の長髪は無造作に垂れ下がっていて、その背丈は170を超えているように思えた。その顔立ちはかなり整っているが、流石に雄英トップクラスの美形である波動ねじれには一歩劣る。というより、釣り上がった目尻からも感じられるように可愛さではなく綺麗さが際立っているようだ。

 

 少女は黒板の前に立つと、白いチョークを使って自分の名前を書き始めた。勿論、前世ではなく今世に於ける名前だが。それが終わると、少女は教卓越しにクラスを眺めながら自己紹介を始めた。

 

「今日からこのクラスで授業を受けることになった渡我カエデだ、これからよろしく頼む」

 

 少女はお辞儀を終えると、同時に簡潔な自己紹介を終えた。

 

「自己紹介の時間を5分取る、その間に質問やら何やら済ましておけ。それが終わったら一限はヒーロー情報学の小テストだ」

 

 そう言い終えると相澤先生は教室の隅の方へと進み、懐から目薬を取り出した。ドライアイには適度な水分が必要なのだ。

 

 『小テスト嫌だ…』『トガちゃんの個性って何?』『背高いわ……余裕でウチ負けてる』などなど様々な言葉が教室を飛び交う。無論クラスの一員である峰田実も転校生に質問していたのだが、放送禁止コードどころか倫理コードに引っかかるセクハラ質問だったのでここでは割愛する。

 

 その様子を、青山優雅はじっと眺めていた。冷たく、困惑に満ちた目だった。

 

 

 

 

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 あまりの質問攻めに、渡我カエデは少々参っていた。確かに彼女自身自分の存在がいかに特異であるか自覚はしている。この時期に、しかも天下の雄英高校に転校してくるという普通では考えられない事を自らの身で実践しているからだ。

 

「個性は血液操作、色々制限はあるけど割と便利だぜ」

 

 自らの個性を吐露しながら、彼女は変な感覚に陥っていた。前世、つまりは個性がない世界で生きていた頃は自己紹介に超常の力の紹介が含まれるなんて思ってもいなかった、その感覚が引き継がれているのだ。

 

 小学中学と、様々な人間に出会い様々な個性関連の事象に出会ってきたがそれでもまだ慣れないのだろう。それに加え、彼女は()()()()()()()()()()()という漫画の既読者だ。

 

 紙面上で、TV越しにアニメーションで、あるいはストラップなどのグッズとして、様々な媒介で彼らを眺めてきた身としては現実の世界に生きているA組の姿に戸惑いを怯えてしまうというのが本音だろう。

 

 流れる血潮、舞うこの葉、青い海、ありとあらゆる全てがこの世界は現実であると渡我カエデに示した。そして彼女自身も五歳に満たずして物語の中に入ってしまったなどという認識を改め、この世界で生きていく覚悟を決めていた。

 

 だが、実際にかつて憧れたキャラクター達が目の前にいるという状況は彼女の脳みそをヒートアップさせるには十分過ぎたようだ。こればかりは慣れだ、三日も彼らと過ごせば平常通りの生活が出来るだろう。

 

 姉が渡我ヒミコだと分かった時は、しばらくの間正気ではいられなかったが。

 

「趣味?漫画とか好きかな。後はパルクールとか──」

 

 次々と襲いかかってくる質問をどんどん捌きながら、彼女は少しばかりの違和感を感じていた。青山優雅が自分の席から動かないのだ。ただただこちらを眺めるだけで何もしない、それだけなら別に不自然な行動ではない。

 

 違和感の原因は彼の目だった。何処かで、何処かで見たような目なのだ。思い出そうとするが一向に出てこない、さして重要な事ではないと結論付けた彼女はそのまま質問に答えていく。

 

「憧れのヒーロー?やっぱりレディナガンかな、戦闘スタイルから何からかっこよ過ぎるしさ」

 

 ただただ時間は過ぎていく、仮初の平穏の日々が始まったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 しばらくすると、彼女の知っていた通りコードネーム決めが始まった。余談だがヒーロー情報学の小テストは免除されたらしい、流石に前回授業内容がそのまま出ている問題を転校生に出すのは合理的ではないというのが相澤先生の判断だった。

 

「輝きヒーロー『I can not stop twinklig』」

 

 青山優雅は名前の通り優雅にヒーロー名を発表した。短文かよ、という質問がクラス中から上がる中、渡我カエデはちょうどいい機会だと感じていた。

 

 彼女が転生しては常々感じていた疑問、それは()()()()()()()()()()()()()()()というものだった。転生という事象が己だけに訪れた特異なものであるというより、普遍的とは言わないまでも前例がある事象だと彼女は考えたのだ。

 

 今までに自分と同じような人間には会っていないが、まだまだ自分だけだと確信するのは早いと彼女は考える。人類は八十億以上も存在するのだ、そのうちのたった数百人相手に確かめただけじゃないかと理性が叫ぶのだから。

 

 そして彼女の直近の疑問は『このクラスに主要なキャラクターに憑依した人間はいるのか?』である。いくらここが現実の世界とはいえ、僕のヒーローアカデミアという漫画に似通っていることは間違いない。

 

 憑依という形でこの場所に紛れ混んでいる奴が、己以外にもいるのかどうか確かめようとしているのだ。いたからと言ってどうするというものではない、ただただ気になるだけだ。

 

「じゃあ次オレがコードネーム発表するよ」

 

 結論として、このクラスに転生者が自分を除いて一人もいなかった。だがその代わりに気になることもできたので、放課後恩人に連絡しようと考えていた。

 

 これが彼女の最初の1日、可もなく不可もないヒーロー志望の高校生らしい日常だ。だが、すでに悪意は近くまで迫ってきているというのを彼女は気づいていない。

 

 それを悪意と形容するかどうかは、神にも判断できはしないだろうけれど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 時刻は午後6時、授業を終えクラスメイトとの親睦を深めた彼女は小さなビルの屋上で佇んでいた。そして懐からスマホを取り出すと、慣れた手つきで電話番号を入力していく。通話先は公安に務めるとある男、少々調べて貰いたいことがあるのだ。

 

「昨日ぶり、元気してる?……あぁ学生生活は順調にいけそうだよ」

 

 公安暗部所属のヒーロー志望、ローラー。それが彼女のもう一つの居場所とそこでの名前。そう、彼女は若くして自ら公安所属のヒーローへと名乗りをあげたのだ。

 

 有り余る個性のポテンシャルと公安の暗部を調べ上げた情報調達能力を買われて彼女はその場所にいる。無論そこで『尊敬しているヒーローはレディ・ナガン』と自称することがどのようなことなのか知らないわけではない。

 

「あ、そうそう。でさ、ちょっと調べて欲しいことがあるんだけど……」

 

 日常は異常へ、夢は現実へ。

 これは渡我カエデという少女の復讐譚の記録である。

 

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