僕と水泳とお嬢様   作:京勇樹

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嵐の前の静けさ

翌日の日曜日

 

明久はかねてからの約束を守って、静歌と街中に出向いていた

 

「しっかし、本当にこの街は凄いねぇ……あれなんて、高級メーカーの支店だし」

 

明久がそう言った視線の先には、LVというロゴマークが特徴の店があった

 

「なんでも、基本的に街から出ないように済むように作られたそうです」

 

という静歌の説明に、明久は納得しながらも視線を向けて

 

「それじゃあ、どこに行こうか?」

 

と問い掛けた

 

「それでは、あの喫茶店に行きましょう」

 

と静歌が示したのは、やはり高級そうな喫茶店だった

 

「ん、了解」

 

明久は静歌の要請を受け入れて、その喫茶店へと入った

 

そして、メニューを見て明久は固まった

 

「予想よりも高かった……っ! なに、コーヒー一杯二千円って! アップルパイなんて、一個三千円ってなに!?」

 

もはや、金銭感覚が狂いそうになりそうな金額だった

 

「あ、大丈夫ですよ。私、ここのゴールド会員なんで、半額になりますよ」

 

静歌はそう言うと、財布から自分の顔写真入りのカードを取り出した

 

「そ、そっか……」

 

明久は頷くが、視界の隅に見えるポスターに

 

《年会費二万円で会員募集中! 今なら、特待セットももれなく付きます!》

 

と書かれてあった

 

(年会費すら高いから! 僕が知ってるのは、大体千円位だから!)

 

と明久は心中で突っ込みつつ、注文を済ませた

 

しかも、静歌は再びブラックカードで払っていた

 

(ダメだ……本当に金銭感覚が狂いそう……)

 

明久はそう思いながらも、受け取ったトレーを持って空いている席に座った

 

そうして談笑を始めたが、そんな二人を離れた場所から撮影している人影があった

 

その人物はシャッターを素早く数回切ると、素早くその場から離れた

 

「フッフッフ……これはいいネタになるわぁ……これで、今年のエトワール部活賞はこの私、古升京子(ふるますきょうこ)に決まりよ! 待ってなさい! ピューリッツァー賞!」

 

とメガネを掛けた少女、古升京子は駆け出した

 

そして翌日の月曜日

 

明久は登校時から、視線が集中してるのを感じていた

 

「なーんか、嫌に注目されてるなぁ……」

 

しかも、その視線が好奇心だけでなく、懐疑的なのが混じっているように感じられた

 

そして、明久と静歌が校門を超えた瞬間

 

「あ、居た!」

 

「あの新聞は本当なんですか!?」

 

という声と共に、校舎から十数人の少女達が駆け出していた

 

「何事!?」

 

明久が驚いていると、横合いから悠が現れて

 

「明久くん。静歌くん。こっちだ!」

 

と言って、明久の手を握って走り出した

 

「静歌ちゃん!」

 

「は、はい!」

 

明久は咄嗟に静歌の手を握って、悠と一緒に走った

 

「ゆ、悠さん! これは一体!?」

 

「今はとりあえず走って!」

 

明久が問い掛けるが、悠は答えずにそう言った

 

そのまま一行は学園の裏側に入った

 

その時、前方の生け垣の中から雅が姿を現して

 

「悠さん、こっちです!」

 

と手招きした

 

「ん!」

 

悠は軽く頭を下げると、その生け垣の中へと明久達と一緒に飛び込んだ

 

「うわっ!」

 

「きゃっ!」

 

二人は驚きの声を上げるが、そんな二人の口をそれぞれ悠と雅が覆った

 

すると、バタバタという音が聞こえて

 

「居ないわ!」

 

「どこに行ったのかしら?」

 

「あの新聞のことを聞きたかったのに!」

 

と少女達の悔しそうな声が聞こえた

 

「あなた達、落ち着きなさい」

 

(え、くす姉?)

 

突如聞こえた久住の声を聞いて、明久は首を傾げた

 

「く、久住会長!」

 

「す、すいません……」

 

少女達が謝ると、少ししてから

 

「それで、理由は何かしら?」

 

と久住が問い掛けた

 

「え、えっと……」

 

「新聞部の新聞を読んで、真相を知りたくって……」

 

と少女達が言うと、久住は深々と溜め息を吐いて

 

「また、あの新聞部ですか……わかりました。まったく……あなた達も、あの新聞部は信憑性の無い記事を書くので有名なのは知ってるでしょう? それだったら、一々流言飛語に惑わされずに、淑女らしく落ち着いて対応しなさい。いいですね?」

 

「はい……」

 

「すいませんでした……」

 

久住に注意されて、少女達は落胆した様子で肩を落とした

 

「それでは、あなた達は教室に戻りなさい。いいですね?」

 

「「「「「はい……すいませんでした……」」」」」

 

少女達が謝って、数十秒後

 

「いいわよ。出てきなさい」

 

と久住が促した

 

「よっと」

 

「驚きました……」

 

促されて、明久と静歌が先に出て明久はそのまま悠と雅に手を貸した

 

「一体、何があったのさ?」

 

「ちょっと待ってね」

 

「今、巴が原因の解明をやってるわ」

 

明久が問い掛けるが、悠と雅は答えなかった

 

その直後、巴が近くの窓から現れた

 

「お姉様、これを」

 

巴はその手に持っていた一枚の紙を、雅に手渡した

 

その紙の状態から察するに、掲示板に張り出されていたのを剥がしてきたらしい

 

「やっぱり、こんなんだろうと思ったわ……」

 

雅は一読すると、その新聞を明久に差し出した

 

「なんじゃこりゃ?」

 

記事の見出しを見て、明久は思わず疑問の声を上げた

 

そこには

 

《お姫様と交換留学生の熱愛発覚!? 婚約まで秒読みか!》

 

となっており、下には先日の明久と静歌の喫茶店での写真の他にいつ撮影したのか。と言いたい写真と共に、とんだデマが書かれていた

 

「記者の名前は……古升京子?」

 

明久が首を傾げていると、雅が額に手を当てて

 

「またあの子なのね……まったく」

 

と呟いた

 

「知ってるの?」

 

と明久が問い掛けると、雅は頷いて

 

「ええ……私が仕事を始めた時期に、私の有りもしない記事を書いて出したパパラッチよ……いい迷惑だったわ」

 

雅はそう言うと、深々と溜め息を吐いてから

 

「私の時はしばらく無視してたら、諦めたのか静まったわね」

 

と言った

 

しかし、悠は唸ってから

 

「しかし、この子は懲りないね……」

 

と頭を振った

 

「常習者なんですか?」

 

明久が問い掛けると、久住が溜め息混じりで

 

「ええ……星令会でもブラックリスト入りしてるの」

 

と語った

 

「とりあえず、僕達のほうでもこの新聞に関しては対処するから、明久君達は普段通りに過ごして」

 

「わかりました」

 

悠の言葉を聞いて、明久は頷いてから静歌や悠を伴って教室へと向かった

 

だが、この時はまだあんな事件に発展するとは明久達は思っていなかったのだった

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