僕と水泳とお嬢様   作:京勇樹

12 / 67
本来の目的

その日の放課後

 

「大丈夫ですか、明久くん?」

 

「なんとか……」

 

小早川先生からの問い掛けに対して、明久は疲労困憊といった様子で答えた

 

理由は言うまでもなく、あの新聞が原因である

 

久住達が早急に対応したので、新聞はすぐさま剥がされた

 

だが、女子の噂の伝達速度はまさしく電光石火である

 

新聞の内容はあっという間に学院全体に広まり、至る所で明久への視線が半端ではなかった

 

もし視線を実体化したら、明久は間違いなく蜂の巣になっていたと断言できる程だ

 

それ程の視線に晒されて、明久の精神はかなり削られていた

 

「どうします? 今日は遠慮しておきますか?」

 

「いえ……行きます。それが、ここに来た目的なんですから」

 

小早川先生の問い掛けに明久はそう答えると、姿勢を直して歩き出した

 

二人が向かっているのは、水泳部が活動する屋内プールである

 

この屋内プールで行うリハビリこそが、明久がエトワールに来た目的なのだから

 

数分間移動すると、二人は巨大な建物に入った

 

そして、小早川先生はあるドアの前に立つと

 

「明久くんは、右側の更衣室を使ってください。放課後は明久くん専用としますので」

 

と説明した

 

「ありがとうございます」

 

「いえいえ……では、中で会いましょう」

 

明久が感謝で頭を下げると、小早川先生は手を振ってから左側のドアを開けて中に入っていった

 

明久は小早川先生を見送ると、言われた通りに右側のドアを開けて中に入った

 

「やっぱり広い……なんか、申し訳なくなるなぁ……」

 

更衣室の広さに明久はそう呟くと、手近なロッカーを開けて中に脱いだ制服を仕舞っていった

 

そして水着を着ると、タオルを持って奥のドアをくぐり抜けた

 

「うわぁ……どこの競技場?」

 

中に入っての明久の第一声がそれだった

 

しかしながら、それも無理ないことだ

 

その規模は、テレビなどでしか見たことない世界大会規模の広さと設備だったからだ

 

プールは10レーンは軽くあり、それでもなお更には一部が自由区画として使われている様子だった

 

そして、明久が呆然としていたら

 

「ようやく、この時が来たね。明久くん」

 

と言われて、明久は振り向いた

 

そこには、水着姿の悠の姿があった

 

「悠さん……」

 

「では改めて、聖エトワール女学院星令会副会長にして水泳部部長の桐島悠だ。よろしくね」

 

悠の自己紹介を聞いて、明久は軽く目を見張った

 

「悠さん、部長だったんですか……」

 

「うん……だから、ここでリハビリする間は僕がサポートするよ……」

 

「よろしくお願いします」

 

明久が深々と頭を下げると、足音がして

 

「これで揃ったわね」

 

と小早川先生が現れた

 

「はい、皆さん。集まってください!」

 

小早川先生が手を叩きながら呼ぶと、二十名近く集まった

 

「今日からこの水泳部で一緒に活動する、吉井明久くんです」

 

「唯一の男なので、色々とご迷惑をお掛けすると思いますが、よろしくお願いします」

 

「「「「「よろしくお願いします!」」」」」

 

明久が頭を下げると、女子達は元気よく声を出した

 

受け入れられている様子に、明久は内心で安堵していた

 

すると、悠が近づいてきて

 

「それと、明久くん……皆、明久くんがエトワールに来ることになった理由を知ってるよ」

 

「ちょっ!?」

 

悠の言葉を聞いて、明久は驚愕で目を見開いた

 

明久としては、自身がエトワールに来ることになった理由を話さずに去るつもりだったのだ

 

「なんで話したんですか……」

 

明久がジト目で見つめていると、一人の少女が近づいてきて

 

「皆が、あの新聞内容を信じかけててね……」

 

と説明した

 

「あれ、くす姉……」

 

「やっほ、アキくん」

 

そこに居たのは、水着姿の久住だった

 

「悠ったら、凄かったんだよ? あの新聞内容を信じて、水泳部に来ることになってたアキくんを疑ってたら、悠が凄い剣幕でアキくんがエトワールに来ることになった経緯を話したんだ」

 

久住が説明すると、悠が少し恥ずかしそうに頬を染めながら

 

「僕だけじゃないだろ? 久住だって、必死に説明してたじゃないか」

 

と反論した

 

その光景に明久が固まっていると、数人の少女達が集まってきて

 

「あの、明久くん……ごめんなさい!」

 

「明久くんがエトワールに来た理由が分からなくって、あの新聞もあって少し邪推してしまったの」

 

「それがまさか、お姫様と部長のお二人を助けて、車に引かれてたなんて……」

 

「しかも、2ヶ月近くも意識不明になってて、復帰したら選手として絶望的になってたなんて知らなかったわ……」

 

「それなのに、エトワールに来たのを親のコネとか、変に考えてしまって……」

 

と少女達が謝ってくると、明久は少し気恥ずかしい様子で

 

「いやまあ、普通はそう考えるよ……僕だって、まさかエトワールに来ることになるなんて、その時は思わなかったし」

 

と言った

 

すると、少女達は首を振って

 

「そうでしょうけど、お二人を助けた明久くんを疑ってしまってすいません!」

 

「お詫びといってはなんですが、私達も明久くんをサポートしたいと思います!」

 

と宣言した

 

「え、でも……」

 

明久が言いよどんでいると、悠が近づいてきて

 

「実を言うと、数分前に新聞部の子があそこに居たんだ」

 

と客席の方を指差した

 

「それに気づいて、あの子達が追い出してたよ」

 

久住がそう説明すると、明久はその少女達に視線を向けて

 

「大変、ありがとうごさいました」

 

と頭を下げた

 

今のタイミングで新聞部に来られたら、また変な内容の新聞を出されかねなかった

 

「ううん、大丈夫よ」

 

「あんな記事書かれたら、大変だしね」

 

「それに、私も昔新聞部にあらぬ記事を書かれたからね。意趣返しよ」

 

明久が感謝すると、少女達は口々にそう言った

 

どうやら、新聞部は敵のほうが多いらしい

 

「それでは、談話もここまでにして活動しましょう」

 

「「「「「はい!」」」」」

 

小早川先生の言葉を聞いて、全員部活動に精を出した

 

ちなみに、久住はカナヅチなのだが、水泳部に居た理由はエクササイズ目的だったとか

 

こうして、明久のリハビリが始まった

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。