僕と水泳とお嬢様   作:京勇樹

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起きてしまった事件

二日目の活動の大半が終わり、明久は悠に手伝ってもらって体を解していた

 

その時

 

「ごめんね、明久くん」

 

と悠が謝ってきた

 

「え、なんですか、いきなり」

 

悠が謝罪してきた理由が分からず、明久は首を傾げた

 

なお、静歌は足がつった久住のフォローに回っている

 

閑話休題

 

「ほら、新聞で僕が明久くんの愛人の第一候補みたいに書かれてただろ? 僕みたいな男女が愛人だなんて、明久くんに迷惑だったかなって」

 

と悠が言うと、明久はキョトンとしてから

 

「何言ってるんですか。悠さんも美少女じゃないですか」

 

と言った

 

「え? 僕が美少女?」

 

「はい。まあ、確かに口調は変わってるかもしれませんが、掛け値無しに美少女ですよ。むしろ、僕みたいな一般人が釣り合うかが心配ですよ」

 

と明久が笑いながら言うと、悠は顔を赤らめながら

 

「美少女……僕が……」

 

と呟いた

 

(初めて言われたな……そんなこと……)

 

悠は家族が男ばかりの環境で育ったので、口調や仕草も男っぽくなった

 

これに関しては、母親から

 

『もう少し、女の子らしい格好をしなさい』

 

と窘められることが多々あったが、悠は気にしていなかった

 

今までそれで困ったことはなかったし、これからもそうだと思っていた

 

だが、明久の言葉を聞いて

 

(もう少し、女の子らしい服装してみようかな……)

 

と悠は思った

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

時は経ち、数日後

 

「あの新聞部……いい加減、どうしてくれようか……」

 

明久は数日の間に新聞部が出した新聞の内容を思い出して、グルルルルと唸っていた

 

「まあまあ、落ち着いて、明久」

 

「そうですよ、今日は全校集会ですから。あの騒動は起きないですから」

 

明久の唸り声を聞いて、雅と巴が明久を宥めた

 

なお、巴の言った通りに、今日は朝から全校集会が行われるのだ

 

小早川先生から聞いた話では、なんでも、新聞の内容を知った親から苦情の電話が殺到したらしい

 

だから、今日の全校集会には来れる親も来ているらしい

 

故に、今日はまだ静かではあった

 

だが、明久は静歌の顔色がここ数日で急激に悪くなっているのに気づいていた

 

話し掛けても反応が鈍く、時々ボーっとしては、壁にぶつかりかけていた

 

そんな矢先に、今日の全校集会である

 

明久は、静歌が倒れないか心配だった

 

そして、数十分後

 

『という訳で、新聞部が出した新聞の内容は事実無根のデタラメです。生徒や両親方は節度を持って判断してください』

 

とエトワールの校長が説明したが、二階席の一番前に座っていた女性が立ち上がり

 

「そんな話、信じるわけがないでしょ! さっさと、その汚らわしい男を追い出しなさい!」

 

と声を張り上げた

 

すると、それに続くように、数人立ち上がって

 

「そうよ! どうせ、エトワールに来たのだって、薄汚い欲望からよ!」

 

「とっとと追い出しなさい!」

 

と声を張り上げた

 

その言葉を皮切りに、次々と親が立ち上がり、抗議の声を上げた

 

それを校長が宥めようとするが、親達は聞かずに喚いていた

 

親達が喚いているのを見て、明久は壇上に上がろうか悩んでいた

 

その時だった

 

ガタンという物音がして、明久が視線を向けた先では、静歌が倒れていた

 

「静歌ちゃん!」

 

その光景を見て、明久は思わず静歌に駆け寄った

 

静歌は気を失っており、明久が呼び掛けても返事はなかった

 

「とりあえず、医務室へ運ぼう」

 

明久はそう言うと、静歌をクラスメイト達に手伝ってもらって背負って立ち上がった

 

「はい、ちょっとごめんね」

 

明久がドアまで行くと、ドア近くには雅と巴が待機していた

 

「雅ちゃんに巴ちゃん!」

 

「なんとなく、こういうことが起きそうな予感がしてたからね」

 

「お姉様と一緒に待機してました!」

 

明久が驚いていると、雅と巴はそう言いながらドアを開けた

 

「静歌をお願いね」

 

「お願いします!」

 

「ありがとう!」

 

雅と巴の声援を背中に聞きながら、明久は医務室へと向かった

 

「ふん! やはり、薄汚い男ですね! あんなことをして、露骨にポイント稼ぎなんて!」

 

明久の行動を見て、一人の女性は吐き捨てるように言うが、少し離れた場所に座っていた一人の男性は笑みを浮かべた

 

場所は変わって、明久が医務室の近くに到着すると、そこには小早川先生が居た

 

「小早川先生!?」

 

「さあ、早く中へ!」

 

明久が驚くが、小早川先生は無視して、明久に中に入るように促した

 

明久も促されるがままに、医務室へと入って、静歌をベッドへと寝かせた

 

そして、待機していたらしい先生が静歌の診察を始めた

 

そして、少しすると明久と小早川先生に視線を向けて

 

「極度の疲労ですね……しばらく休んでいれば、すぐに良くなりますよ」

 

と告げた

 

医師の言葉を聞いて、明久と小早川先生は安堵の息を漏らした

 

そして、明久はキッと講堂の方に視線を向けた

 

「行くのですか?」

 

小早川先生が問い掛けると、明久は頷いて

 

「今回の事は、ある意味で僕が原因です……だったら、僕が鎮めるのが道理です」

 

と言った

 

「場が紛糾するだけかもしれませんよ?」

 

「それでも行きます……僕には、行く責任があります」

 

明久はそう言うと、講堂へと向かって走り出した

 

講堂のドアまでだと言うのに、明久の息は上がり、膝はガクガクと笑っていた

 

「情けないなぁ……」

 

明久がそう言いながら前を見ると、ドアの前には雅と巴の姿があった

 

「行くのね……明久?」

 

雅が問い掛けると、明久は頷いて

 

「多分、今回の騒動を静められるのは、僕だからね」

 

と答えた

 

すると、巴がポケットからスポーツドリンクを取り出して

 

「これを飲んで落ち着いてください」

 

と明久に手渡した

 

「ありがとう」

 

明久は受け取ると、一気に半分近く飲んでから

 

「よし、行きますか!」

 

と中へ入った

 

明久が中に入った瞬間、それまで騒いでいた親達が静かになった

 

理由は簡単である

 

明久の全身から、凄まじい(プレッシャー)が放たれているからだ

 

この時の明久は、はっきり言って怒っていた

 

それも、自分でも分かる位に今までで最大級に怒っていた

 

明久が歩いていると、二階席から数人の親達が汚らわしいモノを見るかのような視線を向けてきていたが、明久は無視して、壇の近くまで歩いた

 

すると、明久が近寄ってきたからか、校長が明久の近くに来て

 

「話すのかね?」

 

と問い掛けた

 

「はい……そうしないと、今回の騒動は静まりそうにないので」

 

明久がそう言うと、校長は渋面を浮かべて

 

「わかった……すまないね」

 

と謝ってから、明久に壇上に上がるように促した

 

明久は壇上に上がると、講堂を見回した

 

そして、ドア近くに居た雅と巴、更に小早川先生が微笑みながら手を振っていることに気づき、前の三年生の中から悠と久住が同じように微笑みを浮かべているのを見つけた

 

それだけで、明久は勇気を分けてもらったような感覚になり、深呼吸すると

 

「皆さん、どうも初めまして。僕の名前は吉井明久と言います。僕が壇上に上がった理由は、今回、僕がエトワールに来ることになった理由を話そうと思います」

 

明久はそこまで言うと、夏休みの大会に行く途中で起きた事故からの経緯を話した

 

事故にあい、約2ヶ月近く意識不明だったこと

 

目覚めてみたら、体がボロボロで、身体能力は事故前の半分以下にまで落ち込んでいたことを

 

それでも諦めず、自主練していたら、小早川先生が来て、エトワールに留学することを告げられたこと

 

そして、今に至る

 

「ですから、僕はリハビリの為にエトワールに来ました……ですから、新聞部が出した新聞内容は全くの事実無根です」

 

明久がそう言うが、それまで静まっていた親の一人が立ち上がり

 

「そんな作り話、信じるわけないでしょ!?」

 

「とっとと、エトワールから去りなさい!」

 

と騒ぎ出した

 

その時

 

「いや……彼が言ったのは真実だよ」

 

と言いながら、一人の男性が立ち上がって、二階席から階段で降りてきた

 

その男性はスーツを着ているというのに、一目で分かるほどに筋肉が凄まじく、何よりも、(プレッシャー)が凄まじかった

 

更に、久住が星令会の会長モードになった時よりも遥かに高い覇気を明久は感じた

 

「あなたは……?」

 

明久が首を傾げていると、男性は笑みを浮かべて

 

「初めましてだね、吉井明久くん。私は東方院宗継(とうほういんひろつぐ)。静歌の父親だ」

 

と名乗った

 

「静歌ちゃんのお父さん!?」

 

明久が驚いていると、宗継は教壇に近寄って

 

「すまないが、マイクを借りるよ」

 

と明久に断ると、マイクを握った

 

「皆さん、私の名前は東方院宗継と言います。東方院グループの現総帥をやらせてもらっています……」

 

宗継はそう言うと、講堂全体を見回して

 

「先ほど彼が言ったのは、全て真実だ……なにせ、彼はその事故の時に私の一人娘の静歌と桐島グループの娘の悠嬢を助けています」

 

宗継がそう言うと、講堂全体がざわめいた

 

なにせ、明久は先ほど二人を助けたことを言っていなかったからだ

 

「私は娘が彼のことを知りたがったので、独自に調べました……その結果、彼が将来有望な水泳選手であること、更にはその夏の大会を勝ち抜いていれば、全国大会のキップを手にしていただろうことも……だが事故にあい、彼は2ヶ月近くもの間、生死の境をさまよい続けた……しかも、目覚めたら選手としてはもはや絶望的なまでに、身体能力が落ちていた……だが、それでも彼は諦めず、がむしゃらに自主練習を続けた……それを知った私は、娘の願いを聞き入れて、エトワールに彼を受け入れるように話を通した……まあ、難色を示されたがね」

 

宗継がそう言ったタイミングで、二階席で新たに一人の男性が立ち上がり

 

「その提案を私も聞いて、儂が賛成した」

 

立ち上がったのは、白髪が特徴的な男性だった

 

明久は知らなかったが、宗継は知っていたようで

 

「桐島のご隠居……」

 

と呟いた

 

「すまんの」

 

白髪の男性はそう断りながら壇上に上がると、校長が差し出した予備のマイクを受け取り

 

「儂の名は桐島影章(きりしまかげあき)だ……この場を借りて、挨拶しておく」

 

影章はそう言うと、頭を下げた

 

そして、講堂を見回すと

 

「儂らは彼に娘を助けてもらった……だと言うのに、その恩人に対して恩を返さないというのは、人としてはどうなのか? 儂らはそこで同意して、彼を受け入れるように話したのじゃ」

 

「そして、今彼はここに居る」

 

影章に続くように、宗継は語った

 

そして、明久に視線を向けると

 

「最後は君が決めなさい」

 

とマイクを渡した

 

「あ、ありがとうございます……」

 

予想外の人物達の登場に、明久は驚きながらも気を持ち直して

 

「今、お二方が言ってくれた通り、これが僕がエトワールに来ることになった理由です……本当はエトワールを去るまで、話す気はありませんでした……ですが、ここまで話が大きくなっては仕方ないと思い、話すことにしました……最後にこれだけは言わせてください……」

 

明久はそこまで言うと、大きく深呼吸してから教壇を強く叩いて

 

「あなた達が僕をどう言おうが、どう思おうが別にいいです! けどね、周りの子達まで巻き込むな! 特に、静歌ちゃんや悠さんは僕をサポートしてくれているんだ! それをやれ恋人だ愛人だ!? ふざけるのも大概にしろ! もしこれで、二人だけじゃない。他の子達まで倒れたら、あんた達はどう責任を取る気だ!?」

 

と怒鳴った

 

明久の怒鳴り声に、二階席で喚いていた親達は座り込んでいた

 

「もし、僕に出ていけって言うなら、僕は出ていくよ。それがエトワールの安定に繋がるなら、僕は去るさ……」

 

明久はそう言うと、幾分か声を抑えて

 

「以上で、僕からの話は終わりです……ありがとうございました」

 

と頭を下げた

 

そして、数秒経って明久が頭を上げたタイミングで、割れんばかりに拍手が鳴り響いた

 

「おろ?」

 

まさか拍手されるとは思っておらず、明久はキョトンとした

 

すると、三年生席から久住と悠が近寄ってきて

 

「皆、アキくんの言葉に感動したんだよ」

 

「うん……後は、僕達に任せて、明久くんは休んでいて」

 

と言うと、明久と入れ替わる形で壇上に登った

 

そして、星令会と校長に呼ばれて、新聞部一堂が壇上に登った

 

だが、明久達の話を聞いていたからか、ガタガタと震えていた

 

そして、そんな新聞部に通達されたのは

 

1、新聞部の半年間の活動停止

 

2、新聞部の部費の半減

 

3、記事を書いた古升京子の部長権限の剥奪

 

4、古升京子の1ヶ月間の停学処分

 

だった

 

もちろん以後、明久のことに関してあらぬ記事を書いたら、更に追加制裁を加えることを言うと、新聞部一堂は揃って深々と頭を下げた

 

こうして、新聞部が原因の騒動は幕を下ろした

 

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