翌日、明久は普通に授業を乗り越えて、何時ものようにリハビリに臨んでいた
最近になって、明久は普段の水泳部の活動時間が終わっても限界ギリギリまで残ってリハビリするようになっていた
なおその際は、久住、悠、小早川先生の誰かが必ず残って、明久が無理しないように監視するようにしている
そして、今日は久住が残って監視していた
「アキくん! そろそろ時間だよ!」
時計を見ていた久住がそう言うと、ちょうどタッチして立った明久が
「わかった! 今上がる!」
と返事をして、ハシゴの方に進んだ
久住はそれを見て、座っていたベンチから立ち上がった
何時もだったらそのまま待っている所だが、今日の明久はかなり飛ばしていたので、心配になったのだ
そして明久がプールサイドに上がり、一歩前に踏み出した時だった
「あ……」
足に力が入らなかったのか、明久は膝がカクリとなって倒れそうになった
「やっぱり!」
久住の懸念通りで、久住は明久を支えようと両手を広げだ
だが、明久の方が身長が高く、しかも久住も大きく一歩前に足を踏み出していたので支えきれず、久住と明久は一緒に倒れた
「っ……くす姉、大丈夫?」
「う、うん……アキ君は、大丈」
明久からの問い掛けに答え、久住が大丈夫かどうかを明久に問い掛けようとした
その時だった
「キャアァァァ!?」
という悲鳴が聞こえて、明久と久住は視線を悲鳴の聞こえた方に向けた
二人が視線を向けた先、つまり更衣室のドアの所に、あの麗が居た
「吉井明久! あなたはやはり、そういう輩なのですね!?」
確かに、端から見たら、今の状況は明久が久住を押し倒したように見えるだろう
麗が誤解していると思い、なんとか立ち上がった久住は
「待って、麗ちゃん! これは違うの!」
と言うが、麗は聞かずに
「やはり、あなたがこの学園に居るのは間違いですわ!」
と言うと、ドアを開けて出ていった
「待って、麗ちゃん!」
出ていった麗を久住が追い掛けたが、追いつけないだろう
なにせ、久住は運動音痴なのだから
「面倒な事が起きそうだ……」
これから起きるだろう事態を考えると、明久は頭を抱えた
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
翌日明久達が登校すると、校門の所に麗が立っていた
そして明久に気付くと、持っていた鞄の中から一枚の紙を出して
「待っていましたわ。吉井明久! あなたに勧告します!」
と言いながら、その紙を掲げた
その紙には《吉井明久追放署名》
と書かれてあった
それを見て、それまで気まずそうな表情を浮かべていた久住が一歩前に出て
「麗ちゃん……お願いだから話を聞いて……あれは事故なの!」
と釈明するが、麗は久住の方に手の平を掲げて
「わかっていますわ、久住会長。久住会長は、その男に口止めされているのでしょう? ですから、風紀委員会代表たる私が、その男に正義の鉄槌を下しますわ!」
と言い放つと、それまで黙って事態を見ていた悠が前に出て
「麗君、どういうことか、説明してくれないかい?」
と麗に説明を求めた
すると麗は、昨日のことを悠に話した
説明を聞き終わると、悠は数瞬してから
「明久君、どういうことだい? 本当にそういうことが目的だったのかい?」
と言いながら、明久に詰め寄った
すると、久住が慌てた様子で
「待って、悠! それは違う!」
と言うが、悠は目も暮れずに
「明久君、どうなんだい?」
と、明久の襟首を掴んだ
明久はそんな悠に一瞬驚くが、悠とアイコンタクトで
(明久君、合わせて)
(了解)
と手早く会話すると、首を傾げながら
「その子の話が本当だったら、どうするんですか?」
と問い掛けた
「アキ君!?」
「明久さん!?」
明久の言葉を聞いて久住は驚き、それまでオロオロしていた静歌も驚いた
巴もオロオロしているが、雅は感づいたのか落ち着いていた
明久の言葉を聞くと、悠は手を離して
「もしそうだったら、僕は許せない……だから、明久君……」
そこまで言うと、今度は明久を指差して
「僕と勝負しよう」
と宣言した
「勝負?」
「そう……水泳のフリースタイルで勝負するんだ……もし僕が勝ったら、明久君には出ていってもらう」
明久が首を傾げると、悠はそう説明した
「悠!」
許せなかったのか、久住が声を張り上げるが、明久が久住の肩に手を置いて
「分かりました、悠さん……その勝負、受けます」
と受諾した
「アキ君! 何言ってるの!?」
「明久さん!?」
「明久先輩!?」
明久が受諾したのが信じられなかったのか、久住達は驚愕した
「わかった……それじゃあ、勝負は三日後の放課後。場所は屋内プールだ」
悠がそう言ったタイミングで、騒ぎに気付いたらしい教師達が駆けつけた
その後、教師達により女子達は教室に向かったが、明久と小早川先生の判断で、明久は寮に戻って、勝負の日まで自室待機することにした
その日の放課後、明久はもちろん自室に居て、明久の部屋の中には悠以外のメンバーが全員揃っていた
悠は朝のこともあり、勝負の相手である明久の部屋に来る訳にはいかなかった
だが、明久達は話し合っていた
「え!? 演技だったの!?」
『うん、そうだよ』
パソコンの画面越しに悠と明久の会話の真相を聞いて、久住達は驚いていた
『いくら何でも、麗の準備は早過ぎる』
「あ、それは僕も思いました」
ここ、聖エトワール女学院では、寮の各部屋毎にパソコンが設置されていて、更にそのパソコンには映像ボイスチャットがインストールされていた
そして、今明久達が話し合っているのは、水泳部のグループチャットだった
これは水泳部だけでなく、各部活や委員会毎に存在している
そして、もちろんのことだが、そのグループチャットには、許可された者以外は入れないのだ
それはもちろん、《星令会や風紀委員会の会員だろうが、例外ではない》
『昨日事故が起きたというのに、今朝には明久君の追放署名を出すなんて、有り得ない。しかも、風紀委員会全員の署名まで集めるなんて……』
「ええ、僕も思いました」
悠の言葉に明久が頷くと、水泳部の少女達が
『ああ、やっぱりそうなんですね』
『明久さんが、そんなことするわけ無いですよね』
『というか、悠さん。明久さんと勝負したいだけなのでは?』
と口々に言うと、悠が宥めてから
『それで、明久君の所に雅君は居るかい?』
と明久に問い掛けた
「ここに居ます」
悠に呼ばれて、雅はパソコンの前に立った
すると、悠は真剣な表情を浮かべて
『聡明な雅君なんだ。僕の言いたいことは分かるよね?』
と言った
すると、雅は悠然と微笑みながら
「わかってます。内偵ですね?」
と悠に問い掛けた
『その通りだ。お願いしていいかい?』
「わかりました。任せて下さい」
「私も頑張ります!」
悠の頼みを聞いて、雅と巴は頷いた
『今回の件、間違いなく裏があるはずだ……三日後にしたのは、麗君に言い逃れ出来ないようにするために、スピード勝負にしたんだ』
「なるほど……」
「麗が違反してる可能性があるからね?」
悠の説明を聞いて、明久は納得し、久住は自身の考えを口にした
『その通りだ。だから、雅君、巴君、頼んだよ?』
「ええ」
「お任せ下さい!」
改めて悠が頼むと、二人は笑みを浮かべながら頷いた
『それじゃあ、この話は絶対に口外しないようにね?』
「「「「「はい!」」」」」
『『『『『わかりました!』』』』』
悠の言葉を聞いて、明久達は全員揃って頷いた
そして三日後、運命は決まる……