僕と水泳とお嬢様   作:京勇樹

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華の園への招待状

入室した明久が、中に居たシスターを見て考え込んでいると

 

「何をボケーッとしてるんだい。とっとと座らないかい。お客様を待たせるんじゃないよ」

 

「あ、はい」

 

学園長に促されて、明久は慌てるようにソファーに座った

 

すると、学園長は海に視線を向けて

 

「古畑もだ、座りな」

 

「はい」

 

そして、海が座ると愛子をジト目で睨み

 

「で、あんたはなんで居るんだい? アタシは呼んだ覚えはないよ?」

 

と言うと、愛子は苦笑いを浮かべ

 

「えっと、今はアタシが吉井君のサポーターだから、念のためにと思いまして……」

 

と、頬を掻きながら言った

 

すると、学園長はため息を吐いて

 

「仕方ないね……特別に許可しよう……とっとと座りな」

 

「はい、失礼しまーす」

 

学園長の許可を得て、愛子は喜々とした様子で明久の隣に座った

 

そして、三人が座ったのを確認すると

 

「さて、吉井を呼んだのはね」

 

と学園長が説明しようとしたら、シスターが片手を上げて

 

「学園長殿、私が説明しますわ」

 

と言った

 

すると、学園長はシスターに視線を向けて

 

「わかった。頼むよ」

 

鷹揚に頷きながら、そう言った

 

すると、シスターは微笑んでから体を明久に向けて

 

「はじめまして、吉井明久君。私は聖エトワール女学院にて講師兼シスターを勤めてる小早川美雪(こばやかわみゆき)と申します」

 

シスターこと、小早川美幸は名乗りながら優雅に一礼した

 

「あ、これは失礼しました。僕の名前は吉井明久と言います……って、聖エトワール女学院の先生?」

 

小早川先生が名乗ったので、明久も慌てて名乗ったが、名乗ってから困惑した様子で首を傾げた

 

そんな明久を見て、小早川先生は優雅に微笑んでいる

 

明久は念のために、視線を両側に座っていた二人に向けた

 

すると、海と愛子は驚愕した様子で固まっていた

 

どうやら、本当に知らなかったらしい

 

「えっと……なんで、聖エトワール女学院の先生がここに?」

 

明久が問い掛けると、小早川先生は僅かに頷いて

 

「はい。実は、吉井明久君にお礼を言いたいと思いまして、訪問させてもらいました」

 

「お礼?」

 

小早川先生の言葉を聞いて、明久は訳が分からないと言った様子で首を傾げた

 

すると、小早川先生も困惑した様子で

 

「えっと……身に覚えはありませんか?」

 

と問い掛けた

 

その問い掛けに、明久は顎に手を当てて

 

「えっと……痴漢撃退した事もないし……財布を拾った覚えも無いですし……」

 

と言ってから、うーん、と唸り出した

 

そんな明久の様子を見て、小早川先生は笑みを浮かべた

 

すると、今まで沈黙を保っていた西村が

 

「吉井……お前は、あの夏の事故を覚えているか?」

 

西村が問い掛けると、明久はキョトンとして

 

「ええ……そりゃまあ、自分の事ですから」

 

明久が答えると、西村は頷いて

 

「小早川先生はな、その時のことを言っているのだ」

 

「はへ?」

 

西村の言葉を聞いて、明久が首を傾げていると

 

「明久君が助けたのは、エトワール女学院の生徒なのです」

 

と小早川先生が告げた

 

すると明久は、視線を上に向けて数瞬考え込んで

 

「おおっ! そういえば、二人助けたっけ……元気ですか?」

 

手をポンと叩いてから、小早川先生に訪ねた

 

すると、小早川先生は微笑んで

 

「ええ。今も元気に、学び舎で過ごしています」

 

と答えた

 

小早川先生の返答を聞いて、明久はホッとした様子で

 

「それは良かった。怪我は無いって聞いてましたが、改めて聞いて安心しました」

 

明久の話を聞いて、小早川先生は明久を見つめて

 

「怒ってはないのですか? あの子達が原因と」

 

と問い掛けた

 

その問い掛けに対して、明久はフンと鼻息を荒げて

 

「そんなことしませんよ。あの事故に関しては、自分で走り出した瞬間から、今の状況まで自己責任と思ってます。それに……」

 

明久がそこで言葉を止めると、小早川先生が首を傾げながら

 

「それに?」

 

と、先を促した

 

すると明久は、優しい表情を浮かべて

 

「人を助けるのに、理由が要りますか?」

 

と言った

 

その明久の言葉を聞いて、西村と小早川先生は驚愕していた

 

「確かに、世の中には恩を売るためにとか、お金目的に人助けをする人も居ますけど……僕は、困ってる人が居たら助けたいんです。それが理由で自分が怪我しても構いません。もしかしたら、自分が損をするかもしれない。だけど、助けたいんです。ただ、それだけなんです」

 

明久の言葉を聞いて、西村と小早川先生は目を丸くして驚いていた

 

すると、愛子と海が明久の肩を叩いて

 

「本当に、明久らしいよ」

 

「でも、もう少しは自分を大切にしてよね」

 

と言った

 

二人からのその言葉に、明久は苦笑いを浮かべながら

 

「うん……ごめん」

 

素直に謝った

 

その時、小早川先生は学園長に顔を向けて

 

「学園長。彼ならば、我が校も構いません」

 

と言った

 

すると、学園長は頷いて

 

「吉井。大事な話がある」

 

と切り出した

 

「大事な話……ですか?」

 

明久が問い掛けると、小早川先生が頷いて

 

「はい……あなたを、我が聖エトワール女学院に招きたいと思います」

 

と衝撃的なことを告げた

 

「…………はい?」

 

あまりにも予想外過ぎる言葉に、明久は首を傾げた

 

すると、小早川先生は笑みを浮かべ

 

「実は、あなたが助けた生徒達の親御さん達が、あなたにお礼をしたいと申し出ているのです」

 

「はあ……」

 

小早川先生の言葉に、明久が呆然としながら頷くと小早川先生は続けて

 

「大変申し訳ないですが、あなたのことを調べさせてもらいました」

 

「まあ、隠すようなことはないですし……」

 

小早川先生の言葉に、明久がそう返すと、小早川先生は明久が将来有望な選手として上げられていること

 

あの事故により、水泳選手の命とも言える足に、一番の重傷を負ってしまったこと

 

医者が驚くような速度で回復したが、それは日常レベルであり、以前よりも選手としては格段に悪くなっていて、このままでは、大会で好成績を残すなど不可能なこと

 

そして何より、文月学園での設備では思うようなトレーニングが出来ないこと

 

これらのことを列挙した

 

明久としては悔しかったが、それは事実だった

 

「そして……あなたの夢も聞きました」

 

「うっ……知ってましたか」

 

小早川先生の言葉を聞いて、明久は気恥ずかしそうに頬を掻いた

 

「もちろんです。部長さんとその子も知っているでしょう?」

 

小早川先生が問い掛けると、海と愛子は頷いて

 

「そりゃもちろん」

 

「常々言ってますからね」

 

と答えた

 

明久の夢

 

それは《何時かは、水泳で世界一を取りたい》

 

という、大きな夢

 

「その夢を叶えるお手伝いを、私達にさせてほしいのです」

 

小早川先生のその言葉を聞いて、明久は頬をポリポリと掻いてから

 

「そのお話は嬉しいんですが……いいんですか? 僕は男ですよ?」

 

「はい。それがどうしました?」

 

明久からの問い掛けに、小早川先生は笑みを浮かべながら問い返した

 

「こういっちゃ何ですが、採算も取れないと思いますし……なにより、悪影響とかも考えられると思うんですが……」

 

明久のその言葉を聞いて、小早川先生は真剣な表情になり

 

「そうですね……実を言いますと、この話を職員会議で聞いた時、私は反対してました」

 

と告げた

 

「まあ、そうでしょうね……」

 

その言葉に明久が同意を示すと、小早川先生は頷いてから

 

「理由は先ほど明久君が言った通り、男性が入ったことによる悪影響……そして何より、今まで前例が無かったからです。いくら親御さん達からのお願いとはいえ、エトワール女学院に男性が転入してくることなど」

 

小早川先生はそこまで言うと、明久を見つめて

 

「ですから、私が直接確かめに来ました。明久君がエトワール女学院に来るのに相応しいのかを……もし相応しくなかった場合、私は自身の職を賭してでも阻止しようと思いました。しかし……」

 

小早川先生はそこで一旦言葉を区切ると、笑みを浮かべて

 

「しかし、そんなのは全くの杞憂でした。明久君はエトワール女学院に来るのに相応しいです」

 

小早川先生は再び区切ると、胸元で両手をまるで祈るように組み

 

「『求める無かれ。惜しみなく与え、愛せよ』己の行為に見返りを求めない、奉仕の精神こそ、我がエトワール女学院の目指す理念。それを既に備えてる明久君を迎えるためならば、性別の問題など些細なこと……私はそう判断しました」

 

さすがに、そこまで言われて恥ずかしいのか。明久は照れくさそうに頬を赤らめながらポリポリと掻いた

 

すると、小早川先生は脇に置いていた鞄からパンフレットを取り出して

 

「それに、エトワール女学院ならば、明久君が求めるトレーニングも行えると思いますよ」

 

と言いながら、パンフレットを明久に手渡した

 

パンフレットを受け取った明久は、開いて中を見た

 

その数秒後

 

「うばっ!?」

 

思わず、奇声を上げて固まった

 

奇声を上げた明久を見て、海と愛子の二人も明久の持っているパンフレットを横から見て固まった

 

「こ、これはまた……」

 

「実業団でも、ちょっと見ないレベルだね……」

 

そのパンフレットには、最新鋭の設備や熟練のスタッフ

 

更には、療養施設まで網羅されている

 

三人が揃って固まっていると、小早川先生はクスリと笑ってから

 

「それに、実を申しますと、私が水泳部の顧問をしておりまして、明久君がエトワール女学院に居る間は、最優先で使えるように便宜を計りましょう」

 

小早川先生のその言葉を聞いて、明久は驚愕の視線を向けて

 

「ま、マジですか……?」

 

「はい」

 

明久からの問い掛けに、小早川先生は即答した

 

そして、微笑みながら

 

「ですから、私達に明久君の夢の手助けをさせてください。私達は、明久君を助けたいんです」

 

「小早川、先生……」

 

小早川先生の話を聞いて、明久は泣きそうになった

 

正直に言って、明久としてはとても嬉しい話だった

 

だがそれだと、文月学園の水泳部仲間を裏切っているようで明久の心中には躊躇いがあった

 

そんな明久を見て、海と愛子は察したのか

 

目を見合わせると頷いてから、明久の背中を叩き

 

「行ってきなよ、アッキー」

 

「良い話じゃないか。僕達は応援するよ」

 

と言った

 

すると、明久の目元に僅かに涙が滲み出た

 

「海先輩……工藤さん……」

 

明久は二人の言葉を聞いて決心したのか、一旦目を閉じると真剣な表情で小早川先生に視線を向けて

 

「小早川先生。先ほどの話、喜んでお受けします」

 

と言いながら、軽く頭を下げた

 

「はい、わかりました。親御さんへのご説明は……」

 

「ああ、それは大丈夫だと思いますよ。僕の家は放任主義でして、多分、二つ返事で了承してくれるかと」

 

小早川先生は明久の話を聞くと、頷いてから

 

「わかりました。もし、説明を求められたら、こちらにご連絡ください。私が直接お話しします」

 

と言いながら、名刺を差し出した

 

「はい、わかりました」

 

明久が返事をしながら名刺を受け取ると、学園長が頷いて

 

「それじゃあ、吉井。あんたは一週間後から、エトワールに行きな。明日からは準備期間として、公休扱いにしてやるさね」

 

学園長のその言葉を聞いて、明久は少し驚いた様子で

 

「え? 一週間もですか? 別に、そんなに休まなくても」

 

明久がそこまで言うと、西村が片手を挙げて明久の言葉を止めて

 

「吉井、お前はほとんどジャージで過ごしているが、普通の服はあるのか?」

 

と言った

 

「あー……」

 

西村の言葉を聞いて、明久は箪笥の中の服を思い出した

 

(有るには有るけど、かなりボロボロのしわしわだなぁ)

 

明久はそこまで考えると、素直にうなずいて

 

「わかりました。準備に入ります」

 

と、言った

 

明久の言葉を聞いて、小早川先生は満足そうに頷きながら、カバンから茶封筒を取り出して

 

「こちらが、今回の事に必要な書類です。必要事項は赤い枠で覆ってあるので、そのすべてを記入したら郵送してください」

 

と言いながら、明久に手渡した

 

「はい、わかりました」

 

明久が茶封筒を受け取ると、学園長は頷いて

 

「それじゃあ、吉井は準備が終えたらエトワールに行きな。失礼をするんじゃないよ」

 

「はい!」

 

学園長の言葉に明久が頷くと、その場は解散となった

 

それから明久は親に連絡。そしたら、親は二つ返事で了承

 

姉に関しては、母親が

 

『玲ちゃんに関しては、お母さんに任せなさい。調きy、ごほん……もとい、黙らせておくから』

 

という、頼もしいお言葉が聞けた(明久としては、姉が若干心配になったが)

 

そして、準備にドタバタしているウチに一週間が経ち、明久はエトワールへと向かったのだった

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