僕と水泳とお嬢様   作:京勇樹

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断罪と結果

雅が掲げたのは、二枚の紙だった

 

一枚は、三日前に麗が明久に突きつけた《吉井明久追放署名》

 

そしてもう一枚が、雅と巴の二人が風紀委員会会室で見つけた議事録の紙だ

 

それを見て麗は、目を見開き

 

「このっ!」

 

と雅に向かって飛びかかった

 

だが、雅はスルリと避けて

 

「ンフフ~♪ ダメよぉ? ゴミ箱に捨てた位で安心しちゃ。せめて、シュレッダーに掛けないと」

 

と言いながら、二枚の紙をヒラヒラと揺らすと、悠に差し出した

 

悠はタオルで手早く水気を拭くと、その二枚の紙を受け取った

 

そして、その二枚を見比べると

 

「こっちはこの前のやつで、こっちは……議事録だね」

 

と雅に視線を向けた

 

「はい……その二枚の署名部分を見比べて下さい」

 

雅がそう言うと、悠は再度二枚の紙に視線を向けた

 

そして、数秒後に片眉を上げて

 

「これは……名前の並びが一緒だな」

 

と呟いた

 

その時、水泳部員にタオルを掛けられた久住が近寄って、紙を覗き込んで

 

「あっ……この二枚、順番だけじゃない。筆跡が完全に同じ!」

 

と言った

 

すると、静歌と水泳部員に支えられて近寄ってきた明久が

 

「くす姉、よく分かるね?」

 

と問い掛けた

 

すると、久住はエッヘンと胸を張って

 

「毎日毎日、膨大な量の書類と睨めっこしてると、自然と分かるようになるの♪」

 

と答えた

 

そして、二枚の紙を指差して

 

「しかも、その二枚は字の書き方とかも全く一緒。普通だったら有り得ないよ」

 

と指摘した

 

普通、同じ字を繰り返し書いたとしても、どうしても少しは違いが出る物である

 

例えば、線の長さが違ったり、跳ねの角度や幅が違ったりする

 

だが、その二枚に関しては、完全に同じだった

 

それは、二枚を重ねて明かりに透かしても分かった

 

久住の指摘を聞いて、雅は頷いてから

 

「それを可能にしたのは……これです!」

 

と言いながら、ファイルの中からソレを取り出した

 

雅が取り出したのは、一枚の黒い紙だった

 

悠はそれを見ると、目を細めながら

 

「それは……カーボン用紙?」

 

と首を傾げた

 

カーボン用紙

 

それは、それ単体では意味を成さない

 

だが、それを挟むように二枚の紙を重ねて、上側の紙に文字を書くと、下の紙に全く同じ字を写すことが出来るのだ

 

今では、その機能が直接付加された書類が主流ではあるが、カーボン用紙も一部では根強く使われている

 

それは、詐欺等である

 

一部の詐欺師は、アンケートと偽って名前を書かせて、その下にある契約書等に名前を写させるという手口を使う

 

麗がやったのは、正にそれである

 

議事録の下にカーボン用紙と追放署名を重ねておき、他の風紀委員会の少女達に書かせたのである

 

これは立派な、公文書偽造だ

 

「麗……どういうことかな?」

 

悠が二枚の紙とカーボン用紙を掲げながら問い掛けると、麗は唇を噛んだ

 

その直後、麗の後ろに立っていた他の風紀委員会の少女達は俯いて

 

「すいません、麗様!」

 

「これ以上は無理です!」

 

「耐えきれません!」

 

と口々に言いながら、麗の傍を離れた

 

「あなた達!!」

 

それを見て麗が諫めるように口調を荒げたが、少女達は止まらずに、悠の背後に立った

 

悠はそれを無視して、紙をヒラヒラとさせながら

 

「麗、どういうことか説明してくれるかい?」

 

先ほどよりも語気を強めて問い掛けると、麗はスカートをギュッと握り締めて俯いた

 

それを見て、悠は大きく深呼吸してから

 

「答えろ、麗!」

 

と語気を荒げた

 

それが珍しかったらしく、久住は目を見開いている

 

久住の記憶では、悠は確かに男言葉である

 

だが、悠が怒る現場はなかなか見たことは無い

 

あったとしても、意外に懇々と言うタイプだ

 

だから、悠がこれほどまでに語気を荒げたのは、初めて見た

 

悠の怒声を聞いて、麗は俯いたまま呟くように

 

「許せなかったんです……」

 

と語り出した

 

「あの男のせいで、久住様は変わってしまった……それが許せなくって、あの男を排除すれば、久住様が元に戻ると思ったんです……」

 

麗がそう言うと、悠は麗を睨み付けたまま

 

「だからと言って、今回はやり過ぎだ。証拠の偽装に公文書偽造……いくら何でも、度を越している。前々から、多々問題だったが……」

 

麗の話を聞いて、悠はそう言いながら首を振った

 

実を言うと、この麗

 

以前から久住に近付いてきた生徒に対して、執拗に風紀委員会の強権を発動させて追い込んでいたのだ

 

しかし、そのほとんどは途中で悠か久住が気付いて止められることが出来た

 

だが中には、麗の行動が理由で不登校になった生徒すら居るのだ

 

星令会や職員会議でも度々議題に上がったが、麗の成績の良さや風紀委員会委員長としての実績も有って、今までは不問となってしまっていた

 

だが、今回は明らかに度を越していた

 

「風紀委員会委員長、北条麗。星令会副会長、桐島悠が君に処分を言い渡す……」

 

悠が其処まで言った時、久住が一歩前に出て

 

「待って、悠。それは私が言うから」

 

と悠を引き止めた

 

「久住……」

 

「任せて、悠」

 

短くやり取りをすると、悠は久住に譲った

 

そして、久住は麗を見ながら真剣な表情で

 

「風紀委員会委員長、北条麗。星令会会長、苧島久住が処分を言い渡します」

 

と告げた

 

それを聞いて、麗は無言で頷いた

 

「まず、風紀委員会から執行権と発言権の無期限の剥奪。風紀委員会は校則違反者を見つけた時等は、その都度に星令会か教職員に判断を仰いで下さい」

 

と言いながら、指を一本立てた

 

それに対して麗は何の反応もしなかったが、久住はそのまま二本目を立てながら

 

「次に、麗の風紀委員会委員長としての役職を剥奪します。これは、度重なる越権行為を見越してです。そして最後に」

 

久住はそう言いながら、悠が持っていた紙を一枚取って

 

「風紀委員会全員で、これを実施して貰います」

 

と麗に向けた

 

それは、風紀委員会会室で見つけた

 

《トイレの使用マナー悪化悪化に伴う、見回りの強化について》

 

という議事録だった

 

久住はその紙を軽く指で叩いてから

 

「この紙に書いてある見回りに、簡易的でいいので、清掃もやること。期間は1ヶ月で、毎日報告を悠に行うこと」

 

と言った

 

それを聞いて、悠は久住をジト目で見ながら

 

「さり気なく人に押し付けたね?」

 

と呟いた

 

それを聞いて、明久は苦笑いを浮かべて

 

「押し付けましたね」

 

と同意した

 

久住は二人の言葉を聞き流して、紙を麗に渡しながら

 

「これにて、今回の件は終わりとします! なお、当然のことながら、吉井明久君の追放は無効とします!」

 

と宣言した

 

こうして、追放騒動は幕を降ろしたのだった

 

なお、明久の足は多少ダメージを負っていたが、二三日の安静で済んだ

 

そして、悠の記録は最高新記録だったらしく、過去の記録を大幅に超えていたようだ

 

これに関して、悠は

 

「本当に、明久君は凄いね」

 

と語った

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