少ない………
フグウ………
料理教室の翌日から、巴は練習を始めた
そこで巴の腕を見て、明久は驚愕していた
確かに、雅や悠から巴が優れたテニスプレイヤーだと言うのは聞いていた
しかし、聞くのと見るのとでは大きな違いがある
「凄い………」
実際、明久は目の前の光景に驚愕して固まっていた
なぜならば、巴は練習試合でなんと二人相手に善戦していたのだ
相手は雅曰く、今年入部したばかりの一年生二人だ
その二人相手に、巴は押していた
明らかに、巴の実力が頭一つ飛び抜けていた
(マネージャーでよかったかも……)
明久はそう思いながらも、胸を撫で下ろした
なお、他の部員に聞いたところ、雅と巴の二人が、今のテニス部の実質トッププレイヤーらしい
では、そんな巴に誰が勝ったのか
それは、引退した三年生
先代の部長らしい
先代部長は、全国大会で優勝を果たした選手らしい
なんでも、既に有名な運動系の大学に進むのが決まっており、悠々自適な学生生活を謳歌しているとか
しかし、悠から聞いた話では、その三年生もテニスに出場するらしい
もしかしたら、当たるかもしれない
もし巴が当たったら、まともに対戦出来ない可能性がある
明久はそれが気掛かりだった
すると、巴と二人の対戦が終わったらしく、ネット越しに互いに頭を下げていた
それを見て、明久はスポーツドリンクとタオルを持って
「巴ちゃん。お疲れ様」
と巴に手渡した
「あ、ありがとうございます。先輩!」
巴はタオルで汗を拭きながら、スポーツドリンクを飲み始めた
なお、スポーツドリンクは温めである
暖まった体に急激に冷たい飲み物を飲むと体が驚き、とても負担が大きいのだ
下手すれば、命に関わる場合すら有り得るのだ
これは、スポーツに関わる選手ならば常識である
巴はスポーツドリンクをある程度飲むと、点数表を見て
「やっぱり、鈍ってるなあ……」
と呟いた
「あれで、鈍ってるの……?」
二対一で勝ったというのに、鈍ってる発言をした巴を明久は、驚愕の目で見た
すると巴は、得点表を見ながら
「昔の私なら、後三点は差を開けた筈なんです……やはり、約半年は大きかったみたいですね……」
と言った
それを聞いて、明久はテニス部が活動毎に付けるという日誌を開き、四月頃のページを見た
そして、ある日付のページには
『噂には聞いていたが、凄いプレイヤー! あの子は確実に、世界にも通用するレベルになる!』
と興奮した様子で、文章が書かれてあった
名前を見たら、三年光組、金田彩乃と書いてある
恐らくは、その金田彩乃というのが、件の先代部長なのだろう
文章から察するに、以前から巴のことを知っていたようで、期待しているのが分かった
しかし、翌日のページには
『しまった……やり過ぎてしまったみたい……コールドゲームで勝ってしまった……もしかしたら、巴ちゃん、テニス部から去るかもしれない……』
という、後悔している旨が書かれてあった
どうやらこれが、巴がテニスコートに立った最後らしい
更に翌日のページには、去らなかったことを喜びつつ、巴からテニスプレイヤーとしての自信を奪ったことを後悔していることが記されていた
それからしばらくの間、巴に復帰するように促していることが書かれていたが、芳しくなかったらしい
そして、夏の大会で優勝後に引退したようだ
その最後には
『せめてもう一度だけ、巴ちゃんと試合がしたかったな』
と書かれてあった
どうやら、巴が二度とテニスコートに立たないと予想したらしい
しかし今目の前には、巴がラケットを持って練習しているのが見える
もし、その光景を先代部長が見たら、喜んだに違いない
それに、もしかしたら体育祭で当たるかもしれない
巴の目標は優勝だ
優勝するためには、その先代部長に当たっても勝たないといけない
明久はそれまで、巴をサポートしようと決めた
もちろんのこと、無理をさせないように
そして、時間は過ぎていく………