僕と水泳とお嬢様   作:京勇樹

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少女の慟哭

そして、今に至る

 

「来たのはいいけど……凄い見られてるよ……」

 

明久はそう言いながら、苦笑いを浮かべて頬を掻いた

 

明久が言ったのは自意識過剰ではなく、事実だった

 

明久が到着して、早十数分が経過している

 

なお、この場所に来るのに明久は私鉄を使ってきた

 

書類を郵送したら、数日後に私鉄に乗るためのパスと一緒に色々な物が郵送されてきた

 

そのパスを見て、明久は本当に私鉄がある事を驚いた

 

そして、その私鉄から降りて既に十数分ほど経っているのだが、周りを歩いてる人や私鉄から新たに降りてきた人達が驚いた様子で明久に視線を向けるのだ

 

そして、明久も待ち人を待ってる間に観察していたのだが、通る人の九割以上が女性なのだ

 

彼女達からしたら、明久が居るのが異常なのだろう

 

ちなみに、明久は知らないのだが、聖エトワール女学院の教職員の内の八割がエトワールの卒業生なのである

 

ようするに、この学園は閉じられた世界なのである

 

小早川先生としては、そこも危惧すべき点なのであった

 

閑話休題

 

多くの視線に晒されて明久は落ち着かないのか、持っていた鞄から一枚の紙を取り出して

 

「えっと……うん、ここで待ってれば、案内係の人が来るって書いてある」

 

と確認した

 

それはパスと一緒に郵送されてきた紙で、今日の昼過ぎに駅前で待っていてください

 

といった旨が書かれている

 

(早くお迎えの人、来てくれないかなぁ……)

 

視線の集中砲火に明久は辟易して、ふと視線を逸らした

 

その時、明久の視界にこちらに向かってくる一人の少女の姿が見えた

 

別に、近くを歩いている人はたくさん居る

 

だが、明久の視線は自然とその少女に吸い寄せられた

 

見た目もかなりの美少女で、スタイルも良い

 

しかし、その美少女から滲み出ている雰囲気が何よりも明久の視線を吸い寄せた

 

気品の良さに穏やかな微笑み

 

それらが見事に相まって、明久はジッとその美少女を見ていた

 

それは周囲の人達も同じだったらしく、歩く人々は皆、その美少女に見惚れていた

 

そして、その美少女は明久の近くまで来ると、明久を数秒間見てから

 

「吉井明久さんですよね?」

 

と問い掛けてきた

 

「え……あ、はい! そうです!」

 

まさかそんな美少女から声を掛けられるとは思っておらず、明久は思わず一瞬固まった

 

「良かったです。私は小早川先生の代わりに迎えに来ました。東方院静歌(とうほういんしずか)と言います」

 

美少女、東方院静歌は名乗りながら優雅に一礼した

 

「あ、小早川先生の言ってた迎えの人ですか。僕の名前は吉井明久と言います」

 

静歌が迎えの人だと知り、明久は内心で少し安堵しながらも緊張した面持ちで挨拶した

 

すると、静歌はクスリと微笑んで

 

「ここでは、流石に人目を集めてしまいますね。近くに静かな公園があるので、そこに行きましょうか」

 

と提案してきた

 

その提案を聞いた明久は、すぐさま頷いて

 

「是非ともお願いします」

 

とお願いした

 

「では、案内しますね。こちらです」

 

静歌はそう言うと、明久を先導し始めた

 

先導されている明久は、周囲の景色を見て驚いていた

 

(私鉄が本当に引かれてるのも驚いたけど、本当に一つの街になってるよ……)

 

明久が驚くのも無理はなかった

 

明久が見た限り、周囲には娯楽施設もあればスーパーもあり、銀行もあった

 

まさに、至れり尽くせりである

 

そして、明久が周囲を興味深そうに見回していると

 

「フフっ……」

 

と、静歌が笑った

 

静歌の笑い声が聞こえて、明久は恥ずかしそうに頬を掻いて

 

「あぁ……まるで田舎者みたいだね……」

 

と呟いた

 

すると、静歌は胸元に手を当てて

 

「いえ、お気持ちはわかります。私も、外と比べて驚くこともありますから」

 

と言った

 

「そう言ってもらうと、助かるかな……」

 

静歌の言葉を聞いて、明久は安堵のため息を吐いた

 

その後、数分間歩くと、明久と静歌はわりかし大きめの自然公園に入った

 

その自然公園を見渡して、明久は

 

(ここ、走り込むのに良いかも)

 

と思ってから、視線を静歌に向けた

 

すると、静歌がどこか落ち着かない様子でそわそわしていた

 

その様子は先ほどまでとは違い、まるでなにか困っているような感じだった

 

「あの、どうし……」

 

明久が静歌に問い掛けようとした途端、静歌は勢い良く頭を下げて

 

「ごめんなさい!」

 

と謝ってきた

 

突如、静歌が謝ってきたので明久は困惑した

 

「えっと……いきなりどうしたの?」

 

明久が問い掛けると、静歌は明久と同じように困惑した様子で

 

「お、怒ってないんですか……?」

 

と聞いてきた

 

「怒る? なんでさ?」

 

静歌の言葉に明久が不思議そうに首を傾げると、静歌は泣きそうな表情を浮かべて

 

「だって……私のせいで、大事な大会に出られなかったって聞いて……」

 

静歌のその言葉を聞いて、明久はまさかと思って、あの事故の時を思い出してみた

 

そして、目の前の静歌がその時の一人と重なった

 

「おお! あの時に飛び出してた子か!」

 

明久が思い出した言わんばかりに手を叩くと、静歌はビクッと体を震わせて再び頭を下げて

 

「は、はい! その通りです!」

 

と叫ぶように言った

 

そんな静歌を見て、明久は微笑みながら

 

「で、元気だった?」

 

と問い掛けた

 

明久の問い掛けが予想外だったらしく、静歌はキョトンとしながら

 

「は、はい……ケガも無く、元気に過ごしてました……」

 

静歌の返事を聞いて、明久は満足そうに頷いて

 

「それは良かった。君みたいな可愛い子にケガさせたら、責任なんて取れないしね」

 

と言った

 

すると、静歌は驚いた様子で明久を見つめて

 

「なんで、怒ってないんですか?」

 

と問い掛けた

 

静歌からの問い掛けに明久は、意外だなぁ、という表情を浮かべて

 

「いや、あれは自業自得だし。自分で行動した結果だから、後悔はしてないよ? まあ、大会に出られなかったのは残念だけど」

 

と答えた

 

すると静歌は、強く手を握りしめて涙を滲ませながら

 

「その大会ですよ! 私、お父様に頼んで明久さんの事を調べてもらいました。明久さんは将来有望な水泳選手で、あの大会で優勝すれば、全国大会に出られた筈なんですよ!? それなのに、私のせいで……」

 

と言うと、俯いて涙をこぼした

 

そんな静歌を見て、明久は静歌を抱きしめた

 

「あ、明久さん……?」

 

明久が抱きしめたのを不思議に思い、静歌は視線を明久に向けた

 

すると、明久は静歌の頭を優しく撫でながら

 

「ごめんね……僕の行動で、君の心に傷を付けてたみたいで」

 

呟くように、優しく語り出した

 

「でもね、これは僕が自分で決めてやった事なんだ……だから、静歌ちゃんは気に病む必要なんてないんだ」

 

「でも……」

 

明久の言葉を聞いても、静歌は俯いた

 

「だったらさ、これは僕からのお願い」

 

「お願い……ですか?」

 

静歌が首を傾げると、明久は頷いて

 

「そう……ここに居る間、僕をサポートしてくれないかな?」

 

その明久の言葉を聞いて、静歌は目を見開いて固まった

 

「僕はここ、エトワールに関しては素人で、なにも分からないんだ……もし、静歌ちゃんの気が済まないって言うのなら、罪滅ぼしってわけじゃないけど、僕の手助けをしてほしいんだ……」

 

明久はそこまで言うと、静歌の顔の涙をぬぐってから見つめて

 

「お願い、できるかな?」

 

と、問い掛けた

 

すると、静歌は顔をクシャっと歪めて

 

「はい……はい……」

 

と頷いてから、声を上げて泣き出した

 

その後、明久は静歌が泣き止むまで、優しく頭をなで続けたのだった

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