決勝戦、巴と雅は向かい合っていた
時刻は夕方に差し掛かっており、少し肌寒い位だ
しかし、それは巴と雅には関係なかった
むしろ、二人にはちょうどいい位だった
その証拠に、二人の体から白い煙
蒸気が登っていた
「巴……この時を待っていたわ」
「お姉さま……」
二人は短く会話すると、握手を交わした
そして、試合は始まった
サーブ権は、巴からとなった
巴はボールを高く投げると、体を大きく反らしてボールを打った
巴が打ったボールは、今までよりも早く飛翔した
それに雅は食い付き、打ち返した
しかし、その表情は苦々しいものだった
(ボールが、重い!)
巴の打球が、雅の予想を遥かに越えて重かったのだ
雅は何とか打ち返したものの、ボールは緩く上がってしまっていた
そして、そのチャンスを巴は見逃さなかった
「ふっ!」
短い呼気と共に、巴は思い切りラケットを振るった
それにより、ボールは雅の横を通り過ぎた
最初の点は、巴が取った
これは、明久と巴の作戦だった
はっきり言って、巴の手首は限界に近かった
だから、短期決戦
短い試合時間で、勝利しようと
第一試合はそれが功をそうし、巴がストレート勝利した
試合時間は、たった五分足らず
それにより、巴の手首の負担は最小限で済んだ
しかし、第二試合は雅が技巧で食らい付き、ラリーが長期化
巴も頑張ったものの、試合は雅が制した
試合時間は、約二十分近く
明久は時間を貰い、巴の手首の処置を行った
はっきり言って、巴の手首は最悪の一言だった
赤かった手首は紫色に変わり、手首の太さは一回りは太くなっていた
(これは……)
明久は苦渋の表情を浮かべながら、テキパキと処置をした
この時明久は、巴の手が震えてることに気づいた
顔を見ると、巴の表情は普通だった
しかし、恐らくそれは、痛すぎて感覚が麻痺してるのだろう
本当だったら、今すぐ試合を棄権し適切な処置をするべきだろう
しかしそれは、巴の思いを踏みにじる行為だ
だから明久は、最後まで見守ると決めていた
処置を終えると、巴の肩に優しく手を置いて
「巴ちゃん、頑張ってね」
と応援した
「はい!」
巴は立ち上がると、コートに入った
そして、ネット越しに雅と向かい合って
「泣いても笑っても、これが最後よ」
「ええ……全力で行きます」
と短く話した
そして、サーブは巴からだった
「ふっ!」
巴の打ったボールは、真っ直ぐにコートに突き刺さった
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
試合を激戦となり、共にマッチポイントとなっていた
二人は全身から汗をかき、呼吸も荒かった
誰から見ても、満身創痍
もう、長く続かないのは一目瞭然だった
そして、最後のサーブは巴だった
それを雅は打ち返し、ボールは巴の右側に来た
それを巴は、当然のように右手で打ち返した
巴が打ち返したボールは、雅の左側に来た
雅は素早く追い付くと、バックハンドで打ち返した
それは巴の左側に来て、巴も同じようにバックハンドで打ち返した
それは、まん中辺りに向かい、雅は普通に打ち返した
ボールは巴の右側に飛び、巴は片手で打ち返した
しかし、巴が打ち返したボールは雅の真正面に飛んでしまった
「これで!」
雅はそう言いながら、ボールを渾身の力で打った
ボールは巴の左側に飛び、誰もが間に合わないと思った
《右手で打つのならば》
そして、巴には切り札があった
前の2セットでは使っていなかった、《左手へのスイッチ》が
巴は前の2セットでは、敢えて使わなかったのだ
そうすることで、巴がスイッチプレイヤーだということを忘れさせるためだ
そして、その策は成功した
雅は巴がスイッチプレイヤーだと忘れていて、打ち返せても前側に落ちるだろうと予測し、前に出ていた
そのタイミングで巴はラケットを左手に持ち替えて、ボールを打つ体勢になった
(しまった! やられた!?)
雅は己の失策に気付き、後ろに戻ろうとした
だがそれより早く、巴が打ったボールが雅の頭上を越えて、コートに突き刺さった
その直後、審判の試合終了を告げる笛が、鳴り響いた
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
テニス部門は巴が制し、表彰式も恙無く終わった
なお、他のメンバーはと言うと
悠、陸上短距離走優勝
静歌、乗馬部門準優勝
となっている
久住は、言わずもがな
バトントワリングに出場したが、初戦敗退である
そして、大会終了後、巴は………
「はい、これで処置は終わりました……まったく、無茶をする」
「す、すいません……」
エトワールお抱えの病院にて、処置を受けていた
「全治二週間です。その間は、激しい運動は控えてください」
「わかりました……」
「お大事に」
処置が終わり、巴は退室した
そして、廊下で待っていた何時ものメンバーの方に視線を向けたが、首を傾げた
なにせそこでは、明久が廊下に正座していたからだ
「明久君……なんで止めなかったんだい?」
「いや、あの、最初は止めましたよ? けど、あれですよ? ここで試合を棄権したら、後悔が残ると思いましてね?」
どうやら、悠からお説教されているらしい
「だからって、無茶をしていいと?」
「えっと、あの………すいませんでした」
悠のプレッシャーが怖かったのか、明久は深々と土下座した
すると、付いてきていた彩乃が
「まあまあ、悠。その位でいいじゃないの」
「彩乃君……しかしね」
「明久君は、巴ちゃんの意思を尊重したみたいだし。それに、大会が終わったら、すぐに巴ちゃんを医務室まで連れてきてくれたじゃないか」
と説得をした
そのタイミングで、巴が
「そうです。私が明久先輩に頼んだんです。最後までやらせてほしいって」
と言った
それを聞いて、悠は深々とため息を吐き
「分かった……そこまで言われたら、僕からは何も言えないね」
と言った
そして、巴に視線を向けて
「それで、診断結果は?」
と問い掛けた
「あ、はい。全治二週間だそうです。これ、診断書です」
巴はそう言いながら、悠に診断書を手渡した
悠はそれを見て
「確かに……だけど、今度無茶したら、本気で怒るからね?」
と言った
「はい。すいませんでした」
巴が謝ると、まだ土下座していた明久に
「明久君……何時までしてるつもりだい? 明久君だって、足のリハビリがまだなんだ。今は、負担になる行為は避けるべきだろ?」
と言った
それを聞いて、明久は立ち上がった
すると、久住が
「それじゃあ、私達は帰りましょうか。雅ちゃんが、巴ちゃんと話したいみたいだし」
と言って、明久の腕を掴んだ
その反対側の腕を、静歌が掴んで
「行きましょう!」
と言って、歩きだした
「ねえ、歩けるから。僕、自分で歩けるから!」
引きずる二人に明久は抗議するが、二人は無視して明久を引きずり続けた
その後を、悠と彩乃も付いていき、廊下には巴と雅だけになった
すると、二人は向き合って
「頑張ったわね、巴」
「はい、お姉さま……」
と会話を始めた
「けど、無茶したわね……手首、大丈夫?」
「はい。全治二週間ですが……」
巴の言葉を聞いて、雅は巴の頭を撫でた
そして、雅が手を退けると巴は真剣な表情で
「お姉さま……約束です。私と、コンダクトを結んでください」
と言った
それを聞いて、雅は頷き
「約束だものね……それに、今の巴ならいいわ」
と言った
こうして、二人はまたコンダクトを結んだのだった