僕と水泳とお嬢様   作:京勇樹

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お昼と二つ名

「ふー……疲れたぁ」

 

チャイムが鳴り、先生が教室から退室した直後、明久は背伸びをしながら呟いた

 

授業の進みは文月学園と大差なく、明久はなんとか追従できた

 

とはいえ、元々勉強があまり得意ではない明久としては、かなり疲れた

 

すると、雅が近寄ってきて

 

「明久、銀の河(アルジャン)に行きましょう」

 

と言った

 

「アル……ジャン?」

 

聞き慣れない言葉を聞いて、明久は首を傾げた

 

すると、静歌が近寄ってきて

 

銀の河(アルジャン)というのはですね、学園の食堂のことです」

 

と説明した

 

「なるほど……」

 

明久は納得すると、立ち上がって

 

「それじゃあ、案内してくれる?」

 

と言った

 

「はい!」

 

「ええ」

 

明久の頼みを聞いて、二人は頷いた

 

そして教室を出て数分後、静歌曰わく食堂に到着したのだが……

 

「ここが、食堂……?」

 

「そうですけど?」

 

明久が呆然としていると、静歌は不思議そうに首を傾げた

 

明久が呆然とするのも、無理はない

 

なにせ、明久の食堂のイメージは細長い大きなテーブルに食券方式の注文だからだ

 

しかし、銀の河(アルジャン)の見た目は完全に、高級レストランのそれだった

 

入り口に立ててある黒板には《本日のオススメ》と書いてあるメニューに、シックではあるが高級な内装

 

更にはメイドが歩き回って、注文を受けては専用のカートで運んでいた

 

明久が固まっている理由に気づいたのか、雅が苦笑いを浮かべながら

 

「まあ、驚くのも無理ないわね。見た目は完全に高級レストランだもの」

 

と言うと、銀の河(アルジャン)の中を見回して

 

「どうやら、少し出遅れちゃったみたいね」

 

と呟いた

 

雅の言う通り、銀の河(アルジャン)の中は満員状態だった

 

今からとなると、かなり待つことになるだろう

 

「うーん……どこか空いてないかな……」

 

と静歌が目を細めていると、近くの席に座っていた数人の女子達が立ち上がって

 

「静歌様! ここをお使いください!」

 

と席を譲ってきた

 

「え!? 悪いですよ!」

 

と静歌が申し訳なさそうに言うが、その女子達は

 

「《お姫様》を待たせるわけにはいきませんし、私達は食べ終わっています」

 

「そういうわけですので、どうぞ座ってください。それでは」

 

と言って、女子達は去っていった

 

「えっと……」

 

静歌が迷っていると、雅が席に歩み寄って

 

「あの子達の好意を無駄にするわけには、いかないわ。座りましょ」

 

と言った

 

そう言われた静歌は、数秒ほど黙考してから

 

「うん、そうだね」

 

と頷いてから座った

 

静歌と雅が座ったので、明久も続いて座った

 

すると、メイドが一人近づいてきて

 

「お客様、メニューをお持ちしました」

 

と言って、革張りのメニューを差し出してきた

 

だが、明久としてはそのメイドの声に聞き覚えがあった

 

「え、巴ちゃん?」

 

「はい。こんにちはです、先輩♪」

 

明久の視線の先に居たのは、雅のコンダクトの巴だった

 

「あら、巴。お昼休みは入ってなかった筈じゃ?」

 

「そうなんですけど、今日は一人風邪を引いちゃったので、私がヘルプで入ったんです」

 

雅が問い掛けると、巴は朗らかに返答した

 

「なんで、巴ちゃんが働いてるの? お嬢様の筈でしょ?」

 

巴が働いているのを不思議に思った明久は、首を傾げながら巴に問い掛けた

 

すると、巴は手をパタパタと振りながら

 

「違いますよ、先輩。私はむしろ、先輩と同じですよ」

 

と言った

 

巴の言葉に要領を得ない明久は、更に首を傾げた

 

すると、雅が

 

「明久。巴はね、明久と同じ一般家庭の出なのよ。スポーツ推薦でエトワールに入学したのよ」

 

「え、そうなの?」

 

雅の説明を聞いて、明久は目を丸くした

 

「はい、そうなんです。ただ私の家じゃ、入学費用だけで手一杯でして、お小遣いまでは無理だったんです。だから、せめてお小遣い位は自分で稼ごうと思ったんです」

 

巴の説明を聞いて、明久は感心したように声を漏らすと、視線を巴に向けて

 

「巴ちゃんは偉いね……僕はたまに、短期のアルバイトをするくらいだよ」

 

と誉めた

 

すると、巴は恥ずかしそうにしながら

 

「ありがとうございます、先輩♪」

 

と言った

 

そして、咳払いをすると姿勢を正して

 

「ご注文はお決まりですか?」

 

と問い掛けてきた

 

すると雅が右手を軽く上げて

 

「私は日替わりの魚をお願い。静歌は?」

 

先に注文すると、視線を静歌に向けた

 

「私も同じので」

 

巴は雅と静歌の注文を伝票に書き留めると、視線を明久に向けて

 

「先輩はどうします?」

 

と問い掛けた

 

明久は軽くメニューを見たが、寮よりはマシだが、相も変わらず、学生には不釣り合いな料理名が記載されている

 

メニューを見ながら明久が唸っていると、巴が右手の人差し指をピンと立てながら

 

「日替わりのお肉はどうでしょうか、今日のオススメですよ?」

 

と言った

 

巴の提案を聞いた明久は、数瞬黙考してから

 

「それじゃあ、それでお願い」

 

と言った

 

そして、巴は明久の注文を伝票に書いてから

 

「承りました。少々お待ちください」

 

と一礼してから、カウンターらしき場所へと向かった

 

明久は巴を見送ると、ふと思い出して

 

「そういえば、《お姫様》ってなに?」

 

と二人に問い掛けた

 

すると、雅はああと言ってから

 

「《お姫様》っていうのはね、静歌に与えられた二つ名よ」

 

「二つ名?」

 

雅の説明を聞いて、明久は首を傾げた

 

「そうよ。静歌の家柄と性格、容姿から呼ばれるようになったの」

 

雅の説明を聞いて、明久は納得した

 

静歌はかなりの美少女で、性格もかなり優しい

 

しかも、静歌の実家は名高い東方院グループである

 

アパレルから建築業まで、手広くこなしているマルチ企業である

 

それを考えると、確かにお姫様と呼ばれるのも納得だった

 

「うん、似合ってると思うよ?」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

明久が素直に言うと、静歌は顔を真っ赤にした

 

そのタイミングで、カートを押しながら巴が戻ってきて

 

「お待たせしました。日替わりのお魚セットと日替わりのお肉です」

 

巴はカートから各自の前に料理を置くと、手早く食器を置いて

 

「それでは、ごゆっくりとご堪能ください」

 

と言いながら、一礼して去った

 

その後、明久達は料理を堪能してから教室へと戻ったのだった

 

余談ではあるが、明久はやはりテーブルマナーに四苦八苦したのだった

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