クソッタレな世界だけど、本当に欲しかった物を手に入れた   作:ソーダ缶詰

1 / 11
コレジャナイセカイ

「仕事終わって無いんだ。お仕事手伝ってくれない?」

「定時なので帰ります」

「他の人は皆まだ働いてるんだよ? 手伝おうとは思わないの?」

「タバコ休憩の時間に働けば定時で帰れるんじゃないですかね。俺はサボらずに働いていたので帰ります」

 

 今日も仕事、明日も仕事。明後日も仕事。働くのは嫌いだけど、限りある人生の時間を無駄に消耗している奴らはもっと嫌いだ。もっと無駄なく効率よく、そして楽して仕事する。それが俺のやり方だし、その為には努力もしているのだ。なのに、同僚達は残業代を稼ぐ為に仕事をサボって会社から残業代を掠め取る事が努力だと思っている。

 皆が皆、口を揃える様に子供を育てるのにはお金がかかるんだよ! とか主張するが、同僚達に必要なのはお金ではなく知能である。

 

(俺は独り身だけど、家族で寿司が食いたいと思うのならさっさと定時で帰れば良いんだよな。そして刺身をいくつか買って家族で巻き寿司でもやれば良いんだ。そうすれば家族と楽しい時間を過ごせて寿司屋より安価。家族の団欒には最高だと思うんだけど、何で寿司屋に拘るんだろうな。どうせ見栄だろうけどさ。疲れないのかね、そんな人生)

 

 寿司屋に車に乗って行くのなら、卵焼きを子供と一緒に焼けばいい。そう考えてしまう俺には現代社会ってのは生き辛くってたまらない。金も時間も有限だというのに、残業代が欲しいという理由だけで貴重な人生の時間をゴミの様に浪費していく。そんな会社の空気にどうしても馴染めなかった。転職も何度か行ったが、高卒だった為か目を付けていた企業には全てお祈りされてしまった。

 

(時間の無駄だと思ったから行かなかった大学の学歴にここまで足を引っ張られるなんてな。英語だってフランス語だって、ドイツ語だって中国語だって全部スマホがリアルタイムで会話を日本語に翻訳してくれるじゃん。好きでもないのに学歴の為に英語学んで必死こいて受験してる奴らは狂ってるよ。せめて時代遅れな解雇規制が無くなって、駄目なら解雇すればいいからお試し雇用してみるって企業が増えれば俺もそこそこの所に就職出来たんだろうけどな。時代の流れが俺でも速すぎると感じるレベルなんだから、年寄りはさっさと後進に道を譲らないと国と企業はどんどん時代遅れになる社会が来てるってのに、人間ってば年寄りになればなる程地位や権力にしがみつく様になるからどうしようもないんだよね。そうだよ俺が働いているクソブラック企業の事だよ。電話に出ろとかキレてるんじゃねーよ相手の時間を無理やり拘束する電話とか既に時代遅れなんだよ。さっさと電話帳アプリを削除しろ。ついでに粗大ゴミみたいな仕事PC買い替えろ。むしろ粗大ゴミに捨てられてるPCの方がマシまであるぞ)

 

 そんな時代でもサラリーマンが優遇されているのは、俺が思うに企業単位で税金の徴収が出来るからだ。昔ならそのやり方が1番効率が良かったんだろうが正直今の時代には合っていない。

 税金を無駄なく効率よく、そして楽に徴収するにはスマホ決済をもっと流行らせれば良い。スマホ決済なら銀行の記録に支出収入、その全てが記録として残るのでリーマンを優遇するより遥かに効率よく税金を徴収できる筈だし脱税だって減らせるだろう。

 

(問題があるとすれば、社会が新しい税金の徴収システムに移行する気が全く無いって事くらいかな。せめて現金を一切使わないフリーランスとかだけでも新しい税金徴収システムに移行させて新時代に適応する準備を進めていればまだ希望はあるんだけど。つまり、俺がホワイト企業に就職出来ないのは社会が悪い。選挙に行ってもお年寄りしか居なくて虚しさしか感じなかったし。もう二度と行かねえ)

 

 個人の力ではどうしようも無い問題にため息をついた時、電柱に貼ってある張り紙が目についた。

 

『あなたの願い、叶えます』

 

(うっわすっごい胡散臭え張り紙。SNSでスパムされてる"安心安全"高収入バイトよりひでえや。しかも連絡先無いんだけど、新手の都市伝説ごっこかな? 子供の悪戯なら可愛いものだけど、バレたら罰金食らう可能性があるし程々にしとけよー)

 

 電柱を管理している行政にとっては頭の痛い悪戯だとはいえ、無邪気だった子供の頃を思い出した俺は、社会への不満を忘れて少しだけ楽しい気分になった。

 もし願いが叶うとしたら、今の俺なら何を願うだろうか。きっと、何物にも縛られる事なく、自由な暮らしがしたいと願うだろう。具体的には――。

 

「まずレベルがあるファンタジー世界でダンジョンマスターになるだろ。そうしたら、頼れる配下達と一緒に魔法関係のアイテムを効率よく生産して、のんびり暮らしながらエロい事もしたい! ついでに、たまーに訪れる気の良い冒険者達と交流して、襲ってくる奴らは全員返り討ち。そんな感じで自由で縛られない暮らがしたいわー、よろしく。なんてな」

 

 そんな叶いっこない願いは置いといて、帰ってゲーム配信でもするか。今日も帰り道の激安スーパーで野菜とお肉と卵を補充しておやつにヨーグルトを買い、自宅へと帰った。いや、帰った筈だった。

 

「どこだよ、ここ」

 

 自宅へと帰ったら暗い洞窟だった。そんな馬鹿な事ある? 不意に浮かんだ疑問を解消すべく後ろを振り向いたが、そこにあったのは外から光が差し込む洞窟の入り口だった。

 

「新しい自宅の玄関はコレですってか。そんな事ある?」

 

 手元にあるのは買い物した中身が入っているレジ袋と仕事道具のくたびれたスーツと黒い鞄だけ。つまり、俺は何者かに瞬間移動、あるいは転移させられたのだ。

 

「そんな事ある? いやなんで? えっ、まさか俺がふざけた事を願ったからで、その願いが叶ったとか? じゃあここは俺の自宅兼ダンジョン? そんな事ある??」

 

 ふざけた憶測を元に、やけに足元が整っていて不自然な洞窟の奥へと進んでいく。それから一分もしないうちに、頭の大きさと同じくらいの、赤く光るダンジョンコアらしき物体が鎮座している台座を発見した。ダンジョンコアらしき物があるならば、俺のやるべきことは一つ。

 ダンジョン! 鑑定! ステータス! システム! メニュー! システムメニュー! ……どうやら声でも意識でも駄目なようだ。触れるパターンを試すべく、ダンジョンコアらしき物体へと触れてみた。

 

『ダンジョンマスターを登録しました。これよりダンジョンコアを起動します』

 

 虚空に突如現れたシステムウィンドウが、戸惑う俺に新しい現実という名のダンジョンを突き付けて来た。そこには明確に、ダンジョンLv1と書かれていた。つまりここは、俺の願いが叶った最高の世界だ。

 今すぐにやるべき事は――。そう、ダンジョンの外の確認だ。ここがダンジョンだと悟られたら冒険者達に襲撃されるかもしれない。襲撃されるまでの時間を少しでも延ばす為にはここがダンジョンだと悟られてはいけない。もしも今、強欲な異世界人に遭遇し、交渉の甲斐なくダンジョンを奪われ、破壊されてしまえば俺の人生は即座に詰みかねないのだ。それだけは何としてでも阻止しなければならない。

 急いでダンジョンの外へ出た時、俺は自分の目を疑った。そこにあったのは、どう見ても現代建築物にしか思えない五階建てのマンションだった。いや、人の気配が全くしないから廃墟の街と言った方が正しいのかもしれない。

 人の気配がしない五階建てマンション。真っ暗で商品の無くなったコンビニ。事故車が道を塞いでいるのに放置されている車道。このゴーストタウンの様な世界には――。

 

『ウアァ……アア……』

 

 徘徊するゾンビらしき生物も居たのだった。

 ここにはレベルもある。ダンジョンもある。きっと、魔法もあるのだろう。土地は掃いて捨てるほど余っているのでスローライフだってやり放題と来た。エロい事を考える馬鹿な俺を縛りつけるルールも存在しない。偶に訪れる異世界人との交流もきっとある。ダンジョンを守る為に異世界人と戦う事だってあるのかもしれない。そんな俺の理想を体現した世界なのだろう。それでも言わせてくれ。

 

「俺が求めていたファンタジー世界ってのは、コレジャナイセカイだから!」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。