クソッタレな世界だけど、本当に欲しかった物を手に入れた 作:ソーダ缶詰
今日は1日遅れの投稿になります。
「ダンジョンマスターだったら邪魔なエルフ達はさっさと処分するのです」
「スノーはそこんとこ本当に容赦ないよね。俺がダンジョンマスターで良かったよ」
弱肉強食を地で行くスノーの意見は当然ながら却下した。スノーも却下されることが前提なのか、特に気にした様子も無く俺の部屋の机を凍らせてへばりついている。
「このまま放置したらエルフ達の中に不安が広がる可能性があるだろ? だから方針だけでも決めとこうと思ってな」
前回はエルフ達の望むままに権限を与え過ぎた結果としてエルフ達の増長を招いてしまった。だから、俺は今与えている森の権限を半分ほど返還させるつもりだったが、スノーはそれに反対のようだ。
「エルフ達から森を取り上げるのは、人間から家を取り上げるのと同じなのです。森は渡してエルフ達には大人しくして貰うのです」
スノーはエルフの森を、現在のダンジョン最下層であるここよりもさらに下の階に移動させることを提案してきた。
「戦える力があるからと防衛を任せたのが間違いだったのです。邪魔にならないように安全地帯に押し込んでおく方が色々と楽なのです」
「色々とぶっちゃけすぎだけど、それが1番楽か」
「心配ならこことエルフの森の間に雪山でも置いておくのです」
「そこまではやらないって」
それから少し意見交換をして、大まかな方針は決まったのでエルフ達の森に2人で【転送】で飛んだ。
森の外から集落の中へと入ったが、ミリムは人間と一緒に外で活動しているようで集落には居なかった。
「出直すか?」
「その必要は無いのです。7人居れば過半数を超えているので十分なのですよ」
「いや、トップのミリム抜きは流石に無いわ」
まともに話せる奴が残っている保証は無いのでスノーの意見は却下だ。そして夜に2人で出直してみれば、エルフはちゃんと12人全員が揃って待っていたので少しほっとした。それから全員で村長を兼任しているミリムの家に集まることとなった。
そこで、話の中心となる俺とスノー、ミリムを含めた3人のエルフは丸机を囲んで椅子に座り、残りは壁際に立っていた。
そして、ミリムが口を開く矢否や、いきなり爆弾を投げ込んできた。
「死刑は私だけで勘弁してください!」
開口一番、机に額を擦り付けて謝罪し始めたミリムの姿に言葉を失ってしまったが、そんな俺の気持ちをスノーが代弁してくれた。
「意味が分からないのです」
「裏切り者を出してしまいましたから……」
「それはミリム達じゃないのです」
「人間の経験値になるのは私だけで許してください」
「いやいやいや、そんな事しないけど」
「はぁ、話を聞けない馬鹿なエルフにはお似合いの末路なのです」
「スノーも煽るな!」
エルフ達を斬ったりんさんが経験値を取得出来たのは事実だ。だからと言って、人間達に経験値を取得させる為だけに仲間を斬らせる程俺は外道ではない。
だけど、否定した所でエルフ達は聞き入れず、既に決まったことだと言わんばかりに雰囲気が暗くなってしまった。
「エルフ達は本当に馬鹿なのです。マスターの話すら聞かない大馬鹿なのです。ダンジョンマスターが私だったら即処刑なのです」
それを聞いたミリムはまるで処刑を待つかのようにスノーに向かって頭を垂れた。それを見た瞬間、スノーが無表情になってミリムを見た。
そこでやっと、俺はスノーが何故エルフを嫌っているのかを理解した。そして、スノーは椅子から立ち上がり、ミリムの元まで行って髪を掴んで無理やり頭を持ち上げて睨みつけた。
「ダンジョンマスターは私ではないのです。マスターが居ながらマスターを無視して勝手に話を進めるなです。そのふざけた態度が、とっても、とっても。不愉快なのですよ」
「そ、そんなつも――」
ミリムが喋り終わらないうちに、スノーがミリムを椅子ごと倒す様に突き飛ばす。椅子から投げ出されたミリムは痛そうに両手で頭を抱えたが、レベルの影響か比較的早く落ち着いたようだ。
「マスターから話があるのです。ちゃんと聞けです」
席に戻ったスノーのその一言で、エルフ達は全員静かに俺の方を見た。
「まずは、裏切者ではない君達を処刑するつもりはないし、経験値の為に殺したりはしない。そこだけは理解して欲しい。それと、勝手に召喚したのはこちらなのだから、特権を望まないのであればここで好きに暮らして貰って構わない」
「ほんと、お人よしなのです」
「ゴホンッ。今回の話し合いは、今後もダンジョンの運営に関わる意思があるのかどうかの確認になる。今までは特権が欲しいとのことだったので色々と仕事をさせて来たが、煩かった連中が軒並み居なくなったから再度確認に来たわけだ。運営に関わらないのであれば、スノーの同胞のように暮らして貰っても構わない」
そこまで言って、やっとまともに話を聞いてくれたエルフ達の表情が明るくなった。
「私達に、お咎めは無いと?」
「そうだ」
「まだ仕事を任せてくれると言うの?」
「条件付きだがな」
「マスターの話を聞かない馬鹿は私が処刑するです」
「解雇な解雇。処刑までは認めてないから」
後でスノーは締めておこう。そんなことを考えた時に、スノーは予定にはないことを話しだした。
「地上が何故、ダンジョンに支配されていないのかを考えた事はあるのです?」
エルフ達は誰も口を開かないが、それに関しては俺とスノーは1つの仮説を立てていた。
ダンジョンの最大の問題は、常に内乱のリスクを抱えていることだ。例え自分と同じ単一種族で固めたとしても、スノーのように優秀な個体が現れればダンジョンマスターを交代しろと迫られてもおかしくはない。その為にダンジョンマスターによる命令権があるのだが、俺達はこれこそが最大の罠なのだろうと予想して実験し、そして確信した。
この命令権は命令であって、洗脳ではない。命令の意味をはき違えた瞬間、ダンジョンマスターはスノーの様な優秀な個体に裏切られて死ぬことになるのだ。
だけど、スノーは話をそこにもっていかなかった。
「他所のダンジョンマスターが無能だったから? うちのダンジョンと比べて弱いダンジョンしかなかったから? 結論なんて出ないのです。でも、一つだけ言える事があるのです。うちのダンジョンマスターはかなりまともなダンジョンマスターなのです。召喚した奴が使えなくても、DPの無駄だからと処分したりはしないのです」
「そんなの当たり前だろ」
「当たり前じゃないのです。世の中は弱肉強食。使えない奴は餌になるのが当たり前なのです。ダンジョンマスターが"かなりまとも"だったことにもっと感謝した方が良いのです。私は同胞と話す時に、いつもマスターに感謝してるのですよ」
そこまではっきりと感謝を告げられると嬉しいけど、恥ずかしいな。でも、そのおかげでエルフ達も現状をきちんと理解してくれたようだ。
でも、泣いているエルフも居るのでそちらは見ない様に視線を逸らしておく。
「ここを安全なダンジョン最下層に移動させるのは決定事項なのです。防衛について考える時間とDPを話し合いに使えです。後はエルフ達の好きにしろです」
それだけ言うと、ミリムは用は済んだとばかりに【転送】で俺を置いてかえってしまった。
「今後どうするのか決めたらミリムが代表で話をしに来てね。何か質問は?」
「……本当に、私達が決めても良いと?」
「良いよ」
「裏切り者を出しました」
「君達じゃないし。それに、今も人間達の引率とかやってるじゃん。本当に処分する予定なら他の誰かにやらせるって。他に質問は?」
一度エルフ達全員の表情を確認し、何も思えたので切り上げることにした。
「終わりかな? じゃあ俺も戻るから、決まったらよろしく」
そう言って自分の部屋へと戻ると、スノーがぼーっとしながら凍った椅子に座っていた。
「それ、俺の椅子なんだけど」
「今は私の椅子なのです」
「そっかー。後で解凍して返してな」
スノーははときどきよく分からなくなるので、そういう時は放置するに限る。にしても、本気で怒ったスノーを見たのは初めてかもしれない。アレはちょっと怖かったな。
怖かったスノーを思い出していると、スノーがいきなり立ち上がった。
【邪なる心よ、封印せよ】
「うおっ、何するんだよいきなり!?」
その短い詠唱が終わると共に、俺の右腕はなぜか氷に包まれていた。反射的に腕を机に叩きつけ、氷の破壊を試みたら氷は簡単に崩れ落ちて消えた。
「何か邪なことを考えている気がしたから封印したのです」
「右腕を封印するのはやめろ、それはスノーでもライン越えだぞ」
「私は人間が良くやる遊びだと聞いたのです」
「やらねーから! やるのは流行り病にかかった奴だけだ」
問い詰めるようにスノーを見つめたその時には、スノーは俺のことを見て心から楽しそうにしていた。
長めの閑話はここで一区切りにして、次からはストーリーを進めていきます。
自力で解決できない問題は、対処法を紙に書くだけ書いて放置するのが1番楽だと悟りました。
眠れない程に悩んだけど悩むだけ時間の無駄だったなー。