クソッタレな世界だけど、本当に欲しかった物を手に入れた 作:ソーダ缶詰
余裕があれば金曜日も更新します。
「『本物の魔法使いになってみませんか?』これって地上で拾った求人広告って奴ですよね? これがどうかしたんですか?」
「これはな、地上に住む人間達がダンジョンを攻撃していた証だよ」
「なるほど、この依頼書で人間達を集めてダンジョンから魔法を奪ってたんですね」
「言い方。いや、実際そうだったのかもしれないけどさ」
俺達が地上で見つけたのは、ダンジョン探索を行う企業の求人チラシだ。会社の設立日が203x年xx月でチラシの発行日がその3年後だ。
ここから分かる通り、民間企業にダンジョンが開放されて3年間は平和だったはずだ。もしダンジョン探索が死と隣り合わせの仕事だったのなら、まるで一般企業の求人の様な広告を出したりはしないだろう。
「エルフ達のリーダー、ミリムはどう思う?」
「外での出来事には興味ありませんね」
「人間達が攻めて来たらどうするつもりだ?」
「返り討ちにします」
俺と雪女のスノー、そしてエルフワーカーの女性でリーダーでもあるミリムの3人で今後について話し合っている。だけど、特殊な個体であるスノーとは違い、ミリムは他のエルフワーカーの性格特徴と似たような性格を持つ、いわゆる通常個体だ。それ故に長寿であることを過信し、人間を見下している。
「このチラシから分かる通り、人間達はダンジョンに潜り、レベルやスキルの恩恵を受けていたことは確定だ。少なくとも、魔法は手に入れられたようだ」
「でも、今のところ周囲に人間は居ません。このままダンジョンを拡張して私達のレベルを上げていけば、人間の侵略者程度なら問題無いですよ」
ミリムの言葉には、まるで俺達の勝利を確信しているかのような自信が感じられた。
確かにDPによるレベルアップはとても強力だし、周囲の物資を集めればDPにも困らない。しかし、そこには一つの落とし穴がある。
「問題しか無いからな。もし人間がダンジョンの脅威を克服した場合、次に始まるのはダンジョンの管理か絶滅だ。そこに俺達が求める自由は存在しない。また、ダンジョン側が勝利した場合も最悪だ。人間を滅ぼすような存在が、俺達を滅ぼさない理由がない」
「敵は排除すれば良いのでは?」
「敵との総力戦が100年後ならそれでいいけどな」
「今すぐ総力戦になったら、私が50人居ても勝てませんね。1年後でも難しいんじゃないですか?」
スノーも俺と同意見のようで、新人ダンジョンの力では、資産を貯めこんだ先輩たちに勝ち目が無いとみているようだ。
「ダンジョン関連の問題は、決着まであと10年もかからないと思っている」
「何故ですか?」
「俺なら、今から10年もかからずに人間を絶滅させる事ができると思っているからだ」
「私も同じですね。外の人間の強さ次第ですけど、急げば1年で終わるんじゃないですか?」
DPをスキルや経験値に変換できてしまうダンジョンマスターはとても強力だ。
DP獲得の容易さとレベルの上げやすさを説明すると、ミリムも現状を理解したようで、苦々しい表情をしている。
もしダンジョンが俺達しか存在しないのなら何の問題も無かった。だが、俺達より3年以上も前に出現し、DPを稼いでいるダンジョンがいる以上、状況が悪化して詰んでしまう前に何としても情報収集をする必要がある。
(雷魔法でスマホの充電が失敗したのが痛いな。まさかバッテリーが爆発するとは。もうスノーのストレス発散に付き合わされるのはコリゴリだ)
リチウムイオン電池を雷魔法で過充電したことでスマホが爆発したのだ。地上の暑さ対策としてスノーに【火属性耐性】を習得させていたからやけどは負わなかったが、爆発の衝撃を直接受けたスノーは床をのた打ち回るハメになった。
「情報収集の為に、人間の生存者か発電機を探しに行くぞ。まずは日帰りで行ける距離を遠征だ」
「DP集めはどうするんです?」
「それはレベルをあげたゴーレム達とミリムにやらせる。俺とスノーは遠征だ」
「信頼の厚いスノーでは無く、私にダンジョンの防衛を任せると?」
「魔法の杖やポーションの製造も順調なようだし、エルフワーカーのリーダーのミリムなら問題無くできるだろ?」
「はい」
エルフワーカーは長寿故か他種族を見下していてプライドが高い。だからこそ、俺とスノーを見返してやると奮起して欲しい所だ。
「人間が来たら、穏便に対応してくれ」
「穏便に追い返します」
「実力行使はやめてくれよ?」
「善処しましょう」
不安になる返事だとはいえ、ミリムも了承してくれたので第一回目のダンジョン会議は終了だ。
「ミリム、昨日は俺達の装備にエンチャントをしてくれてありがとな」
「いえ、それが私達の仕事ですから」
会議が終わったと理解したミリムはすぐに【転送】を使ってエルフの森へと帰って行く。
エルフの輪の中だと普通に笑ったりするミリムだけど、エルフ以外には相変わらず素っ気ないし、理解しづらい性格をしている。
もう少し笑顔を見せてくれたら、印象も変わって話しやすいんだけど。種族の差や文化の違いは難しいな。
「マスター、私も美味しい物が沢山食べられて感謝してますよ」
「スノーもダンジョンの外に付いてきてくれてありがとな」
「マスターのお守りが私の仕事ですからね」
「それでもだよ」
ミリムを含めたエルフ達との交流は後でするとして、今は遠征の準備に取り掛かろう。
俺とスノー、ついでにミリムのステータスと装備を確認して、持っていく魔法の杖とポーション、そして食料を鞄に詰めていざ出発だ。
HP100% MP100% 状態:正常
身体能力補正x2.8
魔力補正x2.8
装備補正x2.8
アイテム補正x2.8
生産技能補正x2.8
配下総数0/10
【保有スキル】
【水魔法適性】【強化魔法適性】【精霊言語理解】【妖怪言語理解】【人間言語理解】【転送】
【装備】
【軽量バックラー】 腕に付ける小さな丸盾。 【エンチャント】重量を軽減する。
【上質な金属繊維の服】 軽い金属で編まれた服。 【エンチャント】物理ダメージを軽減する。
【防御力強化の腕輪】 魔法が付与された腕輪。 【エンチャント】物理ダメージを軽減する。
【肉体強化の指輪】 魔法が付与された指輪。 【エンチャント】身体能力が向上する。
スノー 雪女Lv23 経験値21%
身体能力補正x1.46
魔力補正x3.3
装備補正x1.46
【保有スキル】
【危険回避】【水魔法適性】【氷魔法適性+++】【雷魔法適性】【治癒魔法適性】【火属性耐性】【氷属性無効】【人間言語理解】【転送】
【装備】
【上質な氷水晶の杖】 杖の先端に大きな氷水晶が付けられた杖。氷魔法適性が向上する。 【エンチャント】魔力が少し向上する。
【上質な雪女の服】 雪女がいつも着ている厚手の着物。氷魔法適性が向上する。 【エンチャント】物理ダメージを少し軽減する。
【肉体強化の腕輪】 魔法が付与された腕輪。 【エンチャント】身体能力が向上する。
【鑑定の指輪】 鑑定魔法が込められた指輪。【錬金術】の【鑑定】魔法が使用可能になる。
ミリム エルフワーカーLv20 経験値71%
身体能力補正x1.20
魔力補正x1.60
アイテム補正x2.00
生産技能補正x3.00
【保有スキル】
【統率】【土魔法適性】【植物魔法適性】【付与魔法適性】【錬金術】【魔道具制作】【念話】【人間言語理解】【妖怪言語理解】
【装備】
【消費魔力軽減の腕輪】 魔法が付与された腕輪。 【エンチャント】消費する魔力が少し軽減する
スノーやミリムの俺より高レベルなのは必要経験値の差だ。ダンジョンマスターの必要経験値はとても高く、必要経験値が召喚ランクに依存している2人は俺の半分以下の経験値でレベルアップ出来てしまう。だから、俺よりも少ないDPで強くなれる仲間を強化したのだ。
「マスター、早く出発しましょうよ」
「今日はゴーレム置いていくから、リアカーは使わないぞ」
「えっ」
「今日はこいつを使う。乗り方は昨日教えたから大丈夫だろ?」
スノーがリアカーに乗っていたところを制し、スノーの氷魔法で鍵を破壊した自転車に跨った。
「あ、昨日私が沢山転んだやつですよ! 痛かったんです……」
「昨日頑張って乗れるようになったじゃないか。ほら、出発するぞー」
「うぅ……ポーションはちゃんと用意しておいてくださいね」
「【治癒魔法適正】なら覚えてるでしょ」
交易品として治癒の杖を背負い、自転車に慣れないスノーを引率しつつ俺達は出発した。
目的地は無く、方角だけを決めて移動している。それでも問題無いのは、ダンジョンマスターとその配下は、ダンジョンの位置や配下の居場所を感覚としてわかるからだ。だから、スマホが動かなくても迷子にならないしはぐれたりもしないのだ。だから、自転車に慣れたスノーは気楽に俺を追い越して自由に走っている。
最初の探索では北の方角に向かったが、その結果、ここが俺の知っている日本ではないと理解させられた。地図上ではここは関東地方のどこかのはずだが、県の名前や有名な地名が明らかに違う。そもそもこの地図の『関東区』ってなんなんだ。誰か説明してくれ。
そうして北から南東の方角、ダンジョンから見て東の方角に向かっている途中で俺達は遭遇した。
「あの、【危険回避】で戦闘の気配を感じます!」
「は? 敵とかじゃなくてもう戦闘してるの?」
「そうです! あっちの――」
スノーの発言は大量の銃声によってかき消された。
「どう考えたってライフルの銃声だ。本当にここは日本かよ!」
「帰りますか?」
「いや、行くぞ。戦ってるのが自衛隊だったら治癒魔法で恩が売れるだろ」
しかし銃か。俺達が銃を試した時はレベルによるアイテム補正で威力があがり、銃本体が射撃の反動に耐えられなくて簡単に壊れていたが、高レベルの人間専用の特注品だったらかなり厄介だ。
「鞄は自転車と一緒に放置して、ここからは予定通り歩きで行く。やばそうだったらスノーを抱えて全力で逃げるからな。ポーションはちゃんとポーチに入ってるか?」
「だいじょうぶー」
スノーが急に背中に飛び乗って来てとにかく冷たいんだが。男なら背中の感触に感謝しろだって? いいか、雪女の体温は0~4度なんだぜ? やわらかいとか考える以前にとにかく冷たいんだよ。いや、【氷属性耐性】があるから今はかなりマシになったけどな。
「いや降りろよ」
「足遅いですし。リーダーに捕まっていた方が楽です」
「あー! くっそ、ちゃんと捕まってろよな!」
身体能力補正の差はとても大きく、足の速さに違いがありすぎる現状ではスノーの言い分にも一理あるのだ。
仕方が無いので1度だけ大きく息を吸い、背中の感触を頭の中から排除するようにゆっくりと息を吐く。
「よし行くぞ。『俺達は生物の限界を超える。【身体能力強化】』」
スノーからの返事はない。
それで準備が整ったと判断し、そのまま壁をよじ登って3階建ての建物の屋上に飛び移る。
そこからは建物の上を移動して戦闘している場所へと近づいていく。そして理解した。
(人間同士の争いかよ……!)
人間と魔物でもなく、人間同士の戦いだ。本気で殺す気はまだないのか、銃撃は建物狙いで撃たれている。
(いやいやいや、銃弾が頭に当たったら俺でも最悪死ぬぞ。ポーションがあってもスノーが動けなかったら治療が間に合わないだろ)
よくよく観察すると、銃撃しているグループは片方だけで約20人、他方のグループは剣や盾、鈍器、杖といったファンタジー装備を身に着けている。グループの総数は……隠れているので良くわからないな。
日本人と異世界人の争いかもしれないが、どちらも普通の人間に見える。妖怪の可能性もあるが、それはスノーの鑑定結果次第だろうな。
「全員人間ですね。攻撃されて逃げている側の方が強いけど、銃の数の差で辛そうですね」
「平均レベルは?」
「攻撃している側は全員5以下。逃げている側は全員レベル10台……あ、逃げている人達はレベル1とか3の人達を庇いながら逃げているみたい」
こいつら、レベル1の一般人にも銃撃してるってのか? 銃を大量に保有して、維持管理までできる力を持っているってのによ!
「隠れて! 鑑定がバレた!」
逃げている側に1人だけ突出した36レベルの女性が居るようで……その人に鑑定したのがバレて姿を見られたようだ。
実戦慣れした歴戦のアタッカーが相手だ。仲間を守るために命をかけて襲い来るかもしれない。ここは逃げるべきか?
(……あ? 俺は今何を考えた? 一般人を銃撃してる暴徒から逃げる人達を、全員見殺しにして逃げるべきだと考えたのか? 部下を道具としか扱わない上司を嫌い、共存できそうな相手なら共存すると決めた、この俺が?)
『大人しく投降しろ! 投降しない場合には銃殺していいと許可も貰っている! 大人しく投降すれば電気も使えるし食糧も分けてやるぞ!』
『何が分けてやるだ、こちらを馬鹿にするのも大概にしろ! 少しの食料だけで毎日毎日ダンジョンから湧き出る魔物と戦わされて、納得するとでも思っているのか!』
今叫んだリーダー格の女性が鈴野りん。36レベルの強者にしてブロードソードとポーションポーチを装備しているアタッカーだ。
(りんさんは強い。明日の生活すら保障されていないこの世界で、仲間を率いて立ち向かっている)
『私達の仲間がダンジョンの魔物に3人も殺されているんだぞ!』
『おかげで厄介なネームドを殺せたのだ! 彼らもダンジョン攻略の日が近づいた事にきっと満足している!』
『何が満足しているだ、ふざけるな!』
そう言われた事でブロードソードを背負った女性が剣をいつでも抜けるように手を掛けた。
『私達はここを出ていく、これ以上邪魔しないで貰おうか!』
『我々が貴様らを養っている。その対価として戦うのは当然だろうが!』
『黙れ! 黙らないなら斬るぞ』
遂に我慢の限界を超えたのか、リーダー格の女性がブロードソードを抜いた。
「マスター、見ているだけで良いんですか?」
「深呼吸だけさせてくれ」
『俺達を捨て駒にした癖によ!』
『何が義務だ、死んだ仲間を返せ!』
それぞれが近接武器を抜き、遮蔽物に身を隠した。
このまま戦闘になれば始まるのは完全な殺し合いだ。衣食住用意して貰う側だったとはいえ、仲間を捨て駒にされた彼女達の叫びは本物だった。
(俺がなりたいダンジョンマスターは、仲間を守れるダンジョンマスターだ)
隣にいるスノーを見る。失敗すれば死ぬかもしれない状況だが、スノーは頷くだけで俺を引き止めなかった。
「鈴野りんさんが指揮する側に加勢するぞ。良いか?」
「いつでもどうぞー」
「よし。飛び降りるから人のいないマンションを派手に氷漬けにしてくれ。2人に【身体能力強化】」
『
俺が飛び降りるのに合わせて、スノーが対立する2つのグループの近くのマンションをド派手に氷のオブジェへと造り変えた。
氷によって反射した太陽の光が、周囲の物影に隠れていた人々を幻想的な灯りで照らし出す。それからの行動の差はかなり大きかった。
戦闘に慣れた人が多い印象を受けるりんさんのグループは素早く物影に隠れていた。でも、銃で威嚇していたグループの大半は、ただただ銃を握りしめ、敵を探して周囲を見回していた。
そこには、生き残る事に特化した人間と、攻撃する事になれた人間の違いがはっきりと現れていた。
「何者だ!」
それを皮切りに、鑑定を見抜いていたりんさんが大声で叫ぶ。俺の背中から飛び降りたスノーも物影に隠れてマナポーションを一気に呷る。
「こちらに居るりんさん達を守るのが亡き友人との約束でな、迎えに来たんだよ」
例え虚勢だとしても、俺はただ堂々としていればいい。後は俺達にとって都合よく解釈してくれた人達が話を勝手に真実にしてくれる。
「そんな話は聞いていないぞ!」
「当然だろう? ここにダチがいないって事は、もう死んでいるって事だからな!」
「黙れ!」
先走った馬鹿が一人、いきなりライフルで撃ってきた。それを咄嗟にバックラーで弾き返す。
それを見た相手が驚いているが、内心では咄嗟に何とか弾き返せただけなので心臓の音がうるさく鳴り響いていた。
(あっぶねえ。でも、撃ってくる奴が一人だけならいけるな)
「お前らは今俺を攻撃した訳だが……俺達と戦争するって事で良いんだな?」
「何が戦争だ、俺達には原発と銃の製造工場があるんだ。それなのに勝てるつもりでいるのか!」
「だからどうした。『空から襲いて貫き爆ぜろ、水の槍』」
『
俺の水の槍が上空に撃ちあがり、スノーが生成した大きな氷の壁を飛び越えて敵陣側へ着弾した。禍根を残さないように人は狙わなかったが向こうは大混乱のようだ。
「ここで引くのなら今回は見逃してやるよ。だがな、
そう言って立ち去る俺とスノーに続いて、こちらを味方だと勘違いした人達が俺達に続くように走り出した。
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