クソッタレな世界だけど、本当に欲しかった物を手に入れた   作:ソーダ缶詰

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毎週土曜9時更新。

余裕があれば金曜日も更新します。


ダンジョンと人間

「助けてくれてありがとう。2人は誰と友人だったんだい?」

「いやあ、それにしても強いね。どこかのエースなのかな?」

 

 俺達と一緒に逃げて来たりんさん達が、俺達を囲んで口々にお礼を言ってきた。だけど、俺からすれば現状の強さでもエース扱いされてしまう事実に驚きを隠せなかった。

 人間達の戦力は意外と少ないのだろうか?

 

「マスター、この人達にどこまで話すんです?」

「えっ? あぁ、全部話すよ。当然だろ?」

「じゃあ、騙して連れていく事も話しちゃうんですか?」

「おい、その冗談は洒落にならないからやめろって! 戦闘中は的確な援護をしてくれたんだからここでも援護してくれよ!」

 

 ポカンとしているりん達と焦る俺を他所に、一人スノーだけがクスクスと笑っている。

 りんさん達とちゃんと馴染めるように気を遣ってくれているのは分かるのだが……。

 

「私達はどこにも属していないただの独立勢力ですよ。それでも貴方達を見捨てずに助けに入ったマスターに感謝するんですね」

 

 スノーのおどけた様子から、これが俺達の日常だと伝わったようだ。若干怯えていた非戦闘員の人達も一息つけて落ち着いた様にみえる。

 どんな状況でもマイペースを貫くスノーは、相手が初対面でも物怖じしないからこういう時は頼りになるね。

 

「後ろの子達はまだ子供か?」

「うちの子は既に14歳です。隣の子も12歳です」

 

 子供の父親らしき人が我が子らしき子供の頭を撫でる。

 

「身長が伸びないんだ。食料が足りなくてな……」

 

 空腹が原因か、その声には力が無かった。だけど、その目には子供を守る強い意思が垣間見える。

 

(あぁそうだ。逆境でも諦めずに最後まであがく人達が1番怖いんだ。死ぬ覚悟を決めて抗われると泥沼の殺し合いになりかねない。絶対にこの人達を含めたまだ諦めていない人間達を敵にまわしてはいけない)

 

 争いになるかもしれない未来について悩んでいる間、スノーは手際よく子供達全員に治癒魔法を施していた。

 

『汚れし者たちに清浄なる魔法の奇跡を。【浄化】』

『傷つきし者たちに治癒の奇跡を与える。【治癒】』

 

 放浪生活での疲れが見えた子供達が、身軽になった体を動かしながらスノーに感謝を伝えている。

 

「対価は情報交換でお願いしますねー。私とマスターは情報が欲しいんですよ」

 

 スノーが取り囲まれ、代わる代わるお礼を言われている。それでも特に気にすることなく、要求を伝える辺りはまさにスノーと言えた。

 それと同時に、今の逼迫した状況だからこそ、ダンジョン側である俺達がりんさん達と関係を深めるチャンスがあると思えたのだ。

 

「治療までしてくれて……本当にありがとう。だが、私達には治療に対する対価として支払えるものが無いのだ。情報だけではとても……」

 

 りんさんが前に出て申し訳なさそうに頭を下げた。

 

「別に対価が欲しくて治療した訳じゃないから。そうだろ? スノー」

「いえ、私はお人よしのマスターとは違います。情報交換ですよ情報交換。吐かせられるだけ吐かせましょう」

 

 右腕で力コブを作るようなポーズをしながら俺を見るスノーに呆れつつも、報酬は情報で良いと改めて説明した。

 

「本当に……それが報酬でいいのか?」

「いいですよね、マスター?」

 

 こちらを見ていたスノーを見て頷き、りんさんと握手を交わしてお互いに笑みを浮かべて自己紹介をする。

 俺は本名の楽一悟と名乗り、仲間に助けられながらも名前もない小さな独立勢力のリーダーをやっていると説明した。

 りんさん達はコミュニティが壊滅し、それでも生きる為に故郷の関東から放浪を続けている放浪者集団だと明かしてくれた。

 

「関東って、東京から来たのか?」

「東京……あぁ、東京都のことか。10年前の大規模統廃合で消えた地名を使う辺り、元東京出身なのか?」

「いや浮かんだ地名が東京だっただけで深い意味は無いよ」

 

 なんて言ってやり過ごしたが、内心では『えっなんで東京ないの!? 大規模統廃合って何だよ!?』と叫びたかった。

 何とか作り笑いを浮かべる俺の肩を雪女の冷たい手で叩くスノーがニコリと笑う。

 

「マスター、私も"握手"していいですか?」

「……まあ待てよ。まずは荷物置き場に戻って食料を分けてあげてからにしないか?」

 

 交渉が決裂しても、食料を渡した後ならりんさん達の生存率があがるかもしれないからな。

 

「はぁ、マスターの思考は分かりましたよ。私の名前はスノー。お人よしを拗らせたマスターのお守りが私の仕事です」

 

 そう言いながらりんさんに向かって手を差し出したスノー。その手を握ったりんさんは……一瞬だけ目を見開いただけだった。

 

「……恩人に対して仇で返すつもりはない」

 

 異常なまでの冷たい手触りから、スノーが普通の人間ではないことを悟った筈だ。それでもりんさんは若干言い淀んだだけで、決定的な決裂にはならなかった。

 

「色々と思う所はあるだろうが、まずは俺達が食料を置いてきた場所まで行かないか? そこで食料と情報を交換しよう」

「……分かった。みんな、行くよ!」

 

 りんさんの様子に疑問を持つ者もいるようだったが、りんさんの一声で皆が動き出した。

 俺とスノーが先頭に立ち、子供達が遅れないように確認しながら、10分ほど歩いたところで自転車を置いてきた場所へとたどり着く。

 

「これだ。鞄の中に食料がある。好きに分けて食べてくれ」

「全部くれるのか?」

「そうだ。俺は要らないから好きに分けてくれていい」

 

 りんさんに鞄をそのまま渡すと、若干涙ぐみながらも感謝の言葉を述べ、頭を下げた。その後、仲間達とダンジョン製のレトルトシチューやシチューの具となる乾燥野菜を分け合い始めた。

 その光景を見たスノーが、ジト目で俺を見つめている。

 

「何で全部あげてるんですか。マスターの分はともかく、私はどうすればいいんです?」

「俺達は別に問題無いだろ?」

「はぁ、付ける薬がありませんね」

 

 呆れるスノーを他所に、りんさん達は鞄から取り出したカセットコンロ……ガスボンベも電気も使っていない魔道コンロに鍋を置き、水を魔法で生成して火にかける。

 期待に満ちた目で鍋を囲む子供達を見て満足していたところ、溜息をついたスノーが鞄からダンジョン製のビスケットの紙箱を一つとリンゴを1つ抜き、残りをりんさんに手渡した。

 

「そのビスケットは日持ちしないです。だから遠慮しないで全部食べるんですよ」

 

 りんさん達のグループから離れて戻って来たスノーは俺を見て意地悪そうな笑みを浮かべている。

 

「ちゃんと自分の分は確保しましたからね。あ、マスターの分は無いですよ」

「ビスケット一枚くらいは貰っていいだろ?」

 

 スノーが無言で指差したその先には、ビスケットを分け合って笑顔で頬張る子供達がいた。

 

「子供達から貰って来いと?」

 

 ビスケットを頬張るスノーが無言で頷いた。よし。スノーから奪おう。そう思って手を伸ばすが、ビスケットの箱が氷で閉じられている。

 

「そこまでやる?」

「お馬鹿なマスターにはいい薬です。お人よしも度が過ぎれば無意味な自己犠牲になるんです。反省してください」

「自己犠牲ね……そんなつもりは無いが気を付けよう」

 

 食料は全てダンジョン製でDPさえあれば無限に生産する事が出来る。しかも、ダンジョンからDPを直接供給されて生命を維持しているスノーは食料を必要としない。

 だけど、元人間である俺は餓死する可能性があるし、そもそも今回はスノーと共同管理すべき物資なのだ。それを俺の一存で全部渡したのだから反省すべきは俺の方である。

 

「悪い。食料については安全に関わるから、最終決定権はスノーにあったな」

「ん? 今回はそこまで危険な相手ではないですし、決定権で無理やり覆すことまでは考えてないですよ。ただ単にマスターで遊んでいるだけです」

「酷いなおい! もうちょっと俺のことを労わってくれてもいいんじゃない?」

 

 そう言うと、スノーが珍しく不機嫌そうな顔をした。

 

「命懸けで一緒に戦うだけでは足りませんか?」

「ああ、ごめん。いつもありがとう」

「分かれば良いんです」

 

 スノーは召喚された中でも雪女の性格特徴を持たない特殊な個体だ。しかし、スノー自身は決して戦闘が好きなわけではない。

 スノーは何でもこなしてしまう器用さを持つが、『できる』と『やりたい』は別の話だし、戦闘に関しては『できる』けど『やりたくない』ことなのだ。

 それでも俺に付いてきてくれるスノーへの感謝の気持ちは、絶対に忘れてはいけないことだろう。

 

「情報交換が上手く行かなさそうだったらちゃんと私を担いで逃げてくださいね」

「当たり前だろ。もしかして置いて行かれるとでも思ったのか?」

「いえ。マスターが出ていく可能性を考えていました」

「えっなんで? 俺はどこにも行かないよ? つーか行けないし」

 

 ダンジョンマスターの俺に何を聞いているんだと思ったが、次のスノーの言葉で全てを理解した。

 

「あの人達の中に、人の輪の中に戻りたいとは思わないんですか?」

「思わないな」

 

 なるほど、俺が元人間である事を気にしていたから雰囲気がトゲトゲしかったのか。

 だからこそ、スノーを二度と迷わせないようにはっきりと言葉にしておこう。

 

「俺は今の生活にそれなりに満足している。仲間達を見捨てるつもりは全く無いし、最後まで皆で足掻いた結果として死ぬとしても俺はそれで満足だけどね。もちろん死ぬ気は無いけど。スノーは今の生活に満足していないのか?」

「……突っ走った挙句に死にそうな人の面倒を見るには戦力が少なすぎて不安ですよ」

「まあ否定はしない」

 

 襲ってくる可能性が低いとはいえ、りんさん達と敵対して逃げることになったらかなりきつそうだしな。【鑑定】魔法が使えるスノーには俺とりんさんの実力の差が良く分かってしまうのだろう。

 そんな警戒の対象であるりんさん達は仲良く談笑しながら野菜シチューを食べている。その中でもりんさんは飛びぬけてレベルが高いので俺達の会話が聞こえている可能性があるが、こちらを振り向いたりはしなかった。

 

「ちゃんと逃げ切れるんですか?」

「いざって時は全力を尽くす。それで許してくれ」

「本当にどうしようもないマスターですね。頼りにしてますよ」

「俺も頼りにしてるよ。援護よろしく」

 

 呆れるスノーの頭に手を乗せ、クシャクシャになるまで撫でまわした。

 その髪を弄りながら不満そうに俺を見るスノーが、ふっと微笑んだ。




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