クソッタレな世界だけど、本当に欲しかった物を手に入れた 作:ソーダ缶詰
和気あいあいとした食事を終えたりんさん達が俺達の元へと集まって来る。
親と思しき人達に促され、子供達が代わる代わるお礼を言う姿に、彼らの日常を見た気がした。
そして、最後にはりんさんがお礼を言った。
「情報交換が目的だと言っていたが、私達が話せる範囲で構わないのか?」
「問題無い。それより先に俺達の自己紹介をしておこうか」
「そちらが不利益になる事まで話す必要は無いのだぞ?」
「お気遣いありがとう。だが、こちらにも事情があってね」
忠告を無視された形になったりんさんが、本当にそれで問題無いのかと確認する意味を込めてスノーを見た。
「私の代わりにマスターのお守り、します?」
「遠慮しておこう。全員、何があっても武器は抜くな」
りんさんの発言で、何かあると悟った皆の表情から笑顔が消えた。
(失敗はできない。だけどやるしかない。あぁ、緊張する。一度だけ、一度だけ深呼吸しよう)
ゆっくりと時間をかけて心を落ち着かせ、世界を変える仲間を得る為に一歩踏み出す。
「ダンジョンの無い世界の日本から来た楽一悟だ。いわゆる異世界人って奴だ。今はダンジョンマスターとしてダンジョンの管理人をやっている」
「ダンジョンマスターに召喚された妖怪の雪女でスノーです。マスターのお守りが大変なので部下を募集中です」
スノーが普通の人間では無いと知っていたりんさんは冷静でいられたが、仲間達はざわつき始めた。
その騒めきの声の中にはダンジョンの魔物達に家族を殺されたことに対する恨み言も交じっている。
その中でもスノーは変わらず、俺の方を見ながらわざとらしくため息をつく。
「こんな馬鹿正直で、嘘もつけないマスターのお守りが大変なので部下を募集中です。誰か手伝ってくれないですか?」
そんなスノーの勧誘で少しだけざわめきが収まったが、それでも猜疑心は拭えなかったようだ。そこで説得を諦めたスノーは両手で耳を抑えながら体を振り子のように揺らしていた。
「全員沈まれ。彼らは仲間を殺したわけじゃない、むしろ私達を助けてくれた恩人だ」
騒めきを制したのはりんさんだった。だけど、そんなりんさんを敵でも見るかのような目で睨みつける者が居た。彼は……父親らしき男に頭を撫でられていた、14歳にしては小さな男の子だった。
「こいつらが居なけりゃ父さんや母さん、それに姉ちゃんまで殺されずに済んだんだぞ!」
「君が家族を殺されて、ダンジョンを憎むのは当然だと思う。だけど、俺達は人殺しはしていない。俺は確かに異世界人のダンジョンマスターだが、元はただの日本人だったんだ。好き好んで殺しなんてしない」
小さな男の子が怒りで拳を握りしめ、振り上げた拳を……ゆっくりと下ろした。そこで、今まで心配そうに見守っていた男の子の義父が、我が子をあやす様に男の子を抱きしめた。
男の子の鳴き声が響く中で、スノーが男の子に向かって告げる。
「マスターが道を踏み外したら殺してもいいので、一緒にお守り役やらないですか?」
「勝手に俺を殺すな」
いつもと変わらないスノーの態度に、ピリピリしていた場の空気が少しだけ緩んだ。そこで、りんさんが背負ったブロードソードを抜いてアスファルトに突き立てた。いや、アスファルトに突き刺した。
「一つだけ聞かせてくれ。何故正体をばらしたのだ」
「俺達が生き残るには、どうしても外の人間の協力が必要だからだ。俺達だけでは暴れたいダンジョンマスターには勝てない。それ位にダンジョンマスターの力は強大なんだ」
「その為に私達を利用すると?」
「そうだ」
りんさんの威圧で体が竦みそうになる。助けを求めるべきスノーは俺の背中に陣取っていた。
逃げ場のなくなった俺は、俺達の最終目的を嘘偽りなく話すことにした。
「俺は、全世界に、ダンジョンの情報を公開する! この世界が俺の居た世界と似ているのなら、AIが必ずあるはずだ。対話型AIにダンジョン産のファンタジー言語を学習させて翻訳させる。もし実現すれば、ダンジョンと停戦交渉ができるかもしれない。その為に協力して欲しい」
世界を変えることになるかもしれない。夢に見た平和な未来が持つ力は絶大だ。
「翻訳できるかは分からないけど、アメリカの対話型AIはまだ生きてるよ」
「発音も学習させれば合成音声で行けると思う。ファンタジー言語は実例が無いけど……」
「ここじゃスターリンクのアンテナが無いからネットに繋げないよ。関東に戻るの?」
「アンデッドに土地まで汚染されるこの生活も終わるのか?」
「アンデッドとは話し合えないんじゃないか?」
「他はやってみる価値はあるだろ。殺しあわなくて済むならその方がいい」
皆が思い思いに話し合う姿を見て、りんさんはブロードソードを背負いなおした。
そこでやっと一息付けた俺は、隣に戻って来たスノーを見たが、スノーは楽しそうにこちらを見ているだけだった。
「俺を盾にするなよな」
「何がです? 逃げる準備をしていただけですよ?」
スノーが不満を表すべく軽く足で小突いてくるので、すまんとだけ謝っておく。
それで納得したスノーはりんさんに一つ質問した。
「なんでここには人間が居ないんですか?」
「ここにはアンデッドが居ただろ? アンデッドは土地を汚染する。汚染された土地は水を腐らせるんだ」
アンデッドダンジョンの本当の脅威は土壌汚染。水道水すら駄目になるのなら誰も住めない街になって当然だ。
知りたかった情報が知れたことに嬉しくなっている中で、一人が気になる発言をしたので会話を遮って尋ねた。
「魔物が会話しているのを見た事があるって、それって事実か?」
「私は分かんないけど、りんさんは魔物が会話しているのを見た事があるって」
「それは事実だ。しかも、私が遭遇した個体は指揮官として動いていてな。綺麗に撤退されたよ」
(やっぱりスノーの様な特殊個体かな。戦うとしたら本当に厄介だぞ)
当のスノーは……。
『怠惰な生活よ来れ』
徐に氷の椅子を生成して座って聞く姿勢に入っていた。
そんな姿に苦笑しつつも、俺もスノーを見習っていつも通りにやるべきことをやることにした。まずは注目を集めるべく、両手を叩いて皆の注意を引く。
「全世界にファンタジー言語を公開する。そのためには、何が必要だと思う?」
「スターリンク……人工衛星を利用したネットワークだけど、それを利用する為に専用のアンテナが必要」
「ダンジョンに発電機はあるの?」
「残念ながら無いな」
「パソコンも必要かな? スマホでもできるけど、パソコンも必要だと思う」
「そもそもファンタジー言語は電子データとして保存されているの?」
「発電機が無いって話だから、駄目そう」
「あの時AIが言ってた予言は正しかったんだな……」
若者が中心になって、思い思いの発言をし始めるので彼らが満足するまで話させることにした。
そんな中でもりんさんは喋らずに腕を組んでじっと仲間を見守っているが、あれは多分話についていけていないだけだと思う。
それにしても、この世界のAIは面白いな。アメリカの対話型AIがダンジョンによる文明崩壊を警戒して防衛を固めさせた話とか面白すぎるだろ。
気になったので詳しく聞いてみた。
『もし文明崩壊が起きた時、インターネットと対話型AIに依存した社会構造が、致命的な欠陥となる可能性があります。インターネットと対話型AIを失った人間は、文明を取り戻すのに50年はかかるでしょう』
そんなAIの助言を元に、いざという時の備えとして宇宙開発に軍事予算までつぎ込んで後押しして、学習データが蓄積されたサーバーの防衛を強化したんだとか。文明崩壊の可能性をAIが示唆するってのも面白いけど、それを信じて防衛力を強化したアメリカもよくやったよな。
「つまり、そのアメリカのAIは今も生きていて、今も稼働しているんだな?」
皆が頷いたので、今もAIは生きていると判断しても良いだろう。
一つだけ懸念があるとすれば、言語スキルを駆使して人間と会話しようと試みたダンジョンマスターが今まで居なかったことだが……。
そこは対話してみないと分からないことだ。
俺の内心を他所に、彼らの話は盛り上がっていく。しかし、現状では何もかもが不足していて、しかもファンタジー言語は電子データになっていないのだ。
「関東には帰れないし……」
「発電機も無い」
「ファンタジー言語の入力……どうやるの? プログラマーなんて居ないよ?」
「じゃあ、次にやることは決まりですね」
暗くなりそうな空気を遮るようにスノーが立ち上がった。そして、無言で俺の背中を叩いてきた。
「発電機とアンテナを用意して、全世界にファンタジー言語を公開する。公開方法は文字や文書を写真撮影し、画像データをアップロードする。その後のことは世界中に生き残った天才達に丸投げする。それなら何の問題も無い」
「もし天才が居なかったら?」
「戦力を強化して人間を滅ぼしかねないダンジョンを潰す」
「そんな日が来ないことを祈るよ」
りんさんが差し出してきた手を握り、俺達は今日、世界を変える仲間となった。
読んでくれてありがとうございます。
一章完結。幕間を挟んだら二章に行きます。
下手でも良いから何とか試行錯誤して全世界配信編までは書きます。
そこまで書いても読者の反応が薄かったら申し訳ないけどそこで完結させて次考えます。
小説って難しいなあ。