(1)反抗
何歳の頃の話だろうか。私が凄く小さかったときのキノコ王国は平和だった。パパとママからクッパ大魔王の話をいつも聞かされていたけれど、絵本でしかその姿を見たことがなかった。
ある日の、先生から勉強を教えてもらっているとき、私はじっとしているのが嫌になって部屋を抜け出した。年老いたキノじいが息を切らしながらすぐに追いかけてきた。
キノじい「姫様、お待ちください!」
私は振り向きもせずに「嫌よ!」と声を上げた。
キノじい「姫様、あなたは、お母様の次にキノコ王国を担う者です。もしもクッパにさらわれでもしたら――」
ロゼッタ「国を治めるなんて嫌よ!」
私は芝生の生い茂る広大なバルコニーを走り抜けて、そこから思い切り飛び降りた。
キノじい「姫! なんと危険なことを!」
キノじいの心配をよそに、私は魔法で悠々と空を飛んでいった。
空中で一瞬だけ振り向いて、「夕方には帰るわ」と大きな声で言った。去り際、がっくりと膝をつくキノじいの姿が見えた。
――今日はどこへ行こうかしら――
しばらく考えた末、先ずは本屋に行って地図を見ようと決めた。
上空から見慣れた景色を眺めて、城下町にある大きな本屋の前に降りた。お城の図書室に比べれば置いてある本はずっと少ないが、それでも地図くらいはあった。
いつものように素足でお城から逃げてきたので、足が汚れないように浮遊しながら本屋の中へ入った。
入口を通るとすぐに、本を並べていた店長が少し困った顔で声を掛けてきた。
店長「おや、ロゼッタ姫ではありませんか」
ロゼッタ「ごきげんよう」
私はぶっきらぼうに挨拶して、そのまま奥へと進んでいった。
並べてある本の中から、地図を手に取って開いた。キノコ王国のどこに何があるのか細かく記されていた。
――この前は、カエルの湖に行ったから、次はお化けの森にも行ってみたいわね。それか、神殿に行くのもいいかもしれないわ――
楽しい思いを巡らせていると、先程の店長が近づいてきた。
店長「ロゼッタ姫、もしや、また抜け出してきたのですか?」
ロゼッタ「ええ、そうよ」
店長「姫は将来国を担う御方なのですから、勝手に出歩いて、クッパにでもさらわれたら大変ですよ」
ロゼッタ「私は強いから、そう簡単には捕まらないわ。それに、もし捕まってしまっても、パパがいれば大丈夫よ」
私は本に目を向けたままそう言った。
店長「そうですか……」
店長は困った様子のまま、私から離れていった。
私はすぐに本を元の場所に戻して、足早に店を出た。あの店長がいる本屋には二度と行かないと決めた。
遠くでたくさん遊んで、いつの間にか空が赤くなり始めていた。宣言通り、日が沈む前には帰宅した。
バルコニーにゆっくり着地すると、息を荒くしたキノじいが「姫! じいは心配しましたぞ」と言いながら走ってきた。
ロゼッタ「ただいま」
私はキノじいと目も合わせず、足早に奥へと歩いていった。
足音を大きく立てながら広々とした廊下を進んで、木製で両開きの扉を開けた。
「ただいま」と私の声が響いた。
広々としたキッチンにはエプロンを着けたママがいた。ママは包丁を動かす手を止めるとこちらを見た。
ママ「おかえり、ロゼッタ」
ロゼッタ「ママ、今日はね、おばけの森に行ってきたんだ」
私は大きな声で話しながらママに近づいた。
ママ「そんな怖いところに行ってきたの?」
ロゼッタ「全然怖くないよ、だっておばけと友達になれたもん」
ママ「ふふふ、ロゼッタは凄いのね。普通はおばけと仲良くなるなんて出来ないことなのよ」
ロゼッタ「そうなの? あ、そうだ、そんなことより、キノじいがまた私に『国を治めないといけない』って言ってきたの」
ママ「あら、キノじいも困ったわね……また注意しておくわ」
ロゼッタ「ありがとう。あと今日のご飯はなに?」
ママ「今日はシチューよ。まだ出来るまで時間が掛かるから、パパとルイージと一緒に待っててね」
ロゼッタ「はーい」
私はキッチンから出て、パパと弟がいるリビングに向かっていった。