旅は終えても勇者の苦労は終わらない   作:アオノクロ

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寒さに耐えた結果電気代がヤバいです。


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第13話 勇者になっても帰る故郷は変わらない

 旅を終えて帰ってきたはずなのに家にいた記憶があまりない。

 そのことに気がついた時、食べかけのステーキを飲みこんでデザートを頼むと決めた。

 

「一度帰るか」

 

 

 

 旅に出て思うのはいつだって家は最高だということ。

 旅の最中、どこかの町や村に泊まることができたら御の字、大半は野宿が当たり前だった。

 最初はベッドで寝たいなど文句を言っていたアイツらも次第となれたのか、野宿より装備やその日の出来事について文句を言うようになった。

 でもミディアが入ってからは高級な魔道具(家そのものがポンと現れる)など、資金が潤沢になったおかげで快適になった。

 ミディア本人は狭いと言っていたが、初めて見た時は自分も含めルーシーもカレンも目が点になった。

 内装も豪華だし(設置された家具を見たルーシーの顔が引き攣っていた)そこに無駄な魔法技術が使われているという(カレンはキレながら理屈を学んでいた)がミディアがたいしたものじゃないと言っていたのでそんなものだと使っていた(後で細かい値段を聞いて白目を向いた)。

 おかげで道中の宿泊には困らなくなったが余裕ができたせいか、寝る前にケンカをするようになった。

 どうも空間をいじることで、外観もでかいのに中身はさらにデカくなっている。部屋もたくさんあるおかげで日替わりで部屋を決めていたのだが、先に入ってたルーシーに着替えを見られたと殺されかけ、部屋を変われとカレンに燃やされたり、圧のある笑顔に気圧されて寝るまでの間これまでの話をミディアにしたりと騒がしさが途絶えない日々。

 思い返せば穏やかさとか静けさとか、そんなものとはかけ離れた毎日だった。

 

 そんな思い出を振り返りながらたどり着いた、生まれ育った村。

 なんでも温泉が出るらしく、昔から観光業としてそこそこ賑わっている。

 店の並びも変わったなぁと眺めながらまっすぐ向かうのは我が家、ではなくこの村唯一の宿泊施設。

 飲食店も兼ねており、連日多くの人が行き来している。

 暖簾をくぐれば今日も繁盛、働く人や楽しんでる人の熱気がぶつかってくる。

 

「よ、飯奢ってくれ」

「今忙しいんだよ、座ってろ!!」

 

 ちょうど通りかかった友人に声をかけるもすげなく断られる。

 いろいろ言いたいこともあるが、邪魔にならないよう、行き交うお客や店員にぶつからないようすり抜けて、店の隅に座る。

 席についてすぐ水は置いていってくれたあたり、放置されることはないだろう。

 この宿の主人として今日も頑張っている友人を眺めながら水を飲み始めた。

 

 

 

「ありゃリヒト、いつ来てたんだ?」

「忘れてやがったなこの野郎」

 

 再び戻ってきた時には日は暮れて客の出入りもまばらになった頃。

 忙しく動き回る店員や友人に声をかけることもできず、水を飲んで過ごすこと数時間。

 その間何も食べていない。

 つまりだ。

 

「なんで飯屋で餓死しかけてんだよ、アホかお前」

「……!! ……っ…………!?」

 

 呆れた目で見てくる友人に言いたいことはたくさんあるが、口は目の前の食事にありつくばかりで喋ることはできない。

 恨みを込めて睨んでみるが笑うばかりで何も通じていない。

 たくさん食べてひと息ついたところ、酒を注がれた。

 

「仕事中に酒飲んでいいのか?」

「もう外向けの時間は過ぎてんだよ、この時間帯は身内しかいない」

 

 そう言って掲げたグラスを鳴らした。

 

「だからさ? 我が村から勇者が出たってことでさらに観光客が増えたんだよ!!」

 

 飲んで顔が赤くなった友人から聞かされているのは仕事の愚痴。

 

「村長が勝手に勇者饅頭とか勇者温泉卵とか作ったせいでそりゃー売れたぞ? 売れたけどな? その分忙しくなって疲れてんだよこっちは!!」

「おい、本人に許可取れよ。聞いてねぇぞ」

 

 まさかの勇者商品の発売。もちろん自分は聞いてないし許可してない。

 

「あー? 別にいいだろリヒトの許可なんて、今でもお前が勇者だってみんな信じてないんだぞ」

「目の前に本人いるだろうが何言ってんだテメェ!!」

「俺だけじゃねぇしー。村のみんなも信じてねぇよ、なー」

「ですねー」

 

 皿を回収しにきた店員も悩むことなくうなづく始末。

 おっかしいな、間違いなく勇者としてあれこれしてきたはずなんだが、もしかして田舎すぎてニュースが届いてない可能性が?

 

「ほらこれ見てみろよ」

 

 友人が差し出してきたのはいろんなニュースを取り上げている情報誌。そこそこ前のものだが、いつかの自分たちが解決した事件が載っている。

 ルーシーがメインでカレンやミディアも写っている写真に、文章でも勇者パーティーが活躍したと記載されている。

 何もおかしいところはないが、

 

「リヒトって名前どこにもないぞ」

「は? そんなわけ、」

 

 …………ない。

 確かに勇者パーティーのメンバーが活躍した、とあるがそこに自分の名前はない。

 というか勇者の名前すらない。

 

「なーないだろ?」

 

 他にも情報誌を見させてもらうがそのどれもにリヒトの名前がない。どれもこれもルーシーたちが活躍したと言った話ばかり。

 ……………………たまに通信魔道具で話しているのを見たことがあるが、もしやあの時に。

 

「お、リヒト帰ってきてたのか、メンバーのねぇちゃんに頼ってばかりじゃダメだぞ」

「あらおかえりなさいリヒト、ちゃんとご飯食べてる? 何も聞かないから心配してたのよ」

 

 久しぶりに会う村の知り合いに返事をするでもなく、自分の口から出たのは、

 

「酒くれ」

 

 

 

「だから〜俺だってがんばってんだよ? でもなぁ? アイツらいつもやらかすから、見えないところで尻拭いしてんだよ」

 

 ニヤリと笑った友人が注文した酒を片っ端から煽る。

 そのまま自分の活躍を垂れ流す。

 プライバシー? そんなもん酒の前には無力だ。

 

「勇者なんて下の下の下っ端職業なんだよ!! あっち行ってこっち行って頼み事聞いて解決して!!」

「そうだなー大変だよなー」

 

 笑顔でどんどん酒を注いでくる友人、いいやつだな。

 

 

「いい飲みっぷりじゃねぇかリヒト!! こっちもおかわりくれ!!」

 

 自分と友人の2人だけで飲んでいたはずが、いつの間にか人がいる。

 どこかで見たことあるやつばかりなので、気にせず飲んで食える。

 隅で飲んでたはずなのに、気がつけば店のど真ん中で夜にも関わらず大勢いる。

 

「なんじゃ騒がしいと思えば帰ってきておったのか」

「あ、そんちょー!! 勝手に勇者の名前使いやがって、使用料よこせ!!」

 

 頭は禿げているくせに髭は立派な村長が来た。村の観光業のアレコレを担うがめついジジイだ。

 

「ハテ? なんのことやら?」

「ボケたふりしやがってこのジジイ!!」

 

 都合が悪くなるとすぐにボケたふりをするのは昔から変わらない。

 

「勇者がどこの誰なのか分かれば許可ももらうんじゃがのぅ? どこにも名前が書いておらんので分からんのじゃ」

「目の前にいるだろうがボケジジィ!!」

「聞こえんわい」

 

 耳元で叫んでも気にかけることなくシレッと酒を飲み始める村長。そしてさらに笑い出す友人に村の連中。

 ルーシィたちとは違った方向で相手にできない。

 何を言っても酔っ払いには通じない、こちらにできることはただひとつ。

 

「なんだもー知らねぇ!! 今日は飲む!!」

 

 やけになって飲めばこっちも酔っ払いだ。

 手元にあった酒をとりあえず煽って飲み干す。

 それ見てさらに盛り上がる酔っ払い。

 

「おーいいぞいいぞ!! 帰ってきた自称勇者に乾杯!!」

「「「「かんぱーい!!」」」」

「自称じゃねぇ!!」

 

 知った顔も知らない顔も、わけも分からないままはしゃぎ出す。

 飲んで食べてはしゃいでしゃべって。

 誰かが笑えば誰かが泣いて、誰かが怒れば誰もが笑う。

 気がつけば空が白んでいた。

 

 

 床や机で寝ているみんなを踏まないように店を出て、振り返れば友人が手を振っていたような気がするからフラフラと振り返す。

 酒と眠気で足元がふらつきながらもたどり着いた我が家。

 村の中でも端の方にあるのは、親が朝の日差しが一番に届くから選んだと村長に聞いた。

 天涯孤独、というほど独りだと思ったことはないが1人暮らしなのは間違いない。

 旅に出た後、1度しか帰ってきていない我が家の扉を開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、おかえり勇者」

 

 扉を開けると、そこには魔王がいた。

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