旅は終えても勇者の苦労は終わらない   作:アオノクロ

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前回までが一章みたいな感じです。

今回が二章、の前日譚?


第15話 得意があっても人の好きは変わらない

 後悔はない。

 むしろ知らずに倒してしまった方が、後悔はあっただろう。

 だから自分の中にあるのは感謝だ。

 勇気を出して、助けてほしいと言ってくれた魔王へ。

 教えてくれてありがとう。

 これで自分は動ける。

 

 

 

 

 

「勇者助けてくれ!! 着ていく服がない!!」

「ちゃんと洗濯してんだろ!! なんでないんだよ!?」

 

 どうも勇者です。

 ただいま魔王を助けています。

 嘘です、お世話しています。

 

「ほらあった!!」

「おー洗濯はしたのにどこへやったのか忘れるとは、魔王一生の不覚」

「一生やってろ」

 

 積み上がった本の下から服を引っ張り出すと、魔王へ投げつける。

 ちゃんと畳まれていたあたりちゃんと家事はしていたらしい。

 無意識に本を積んでいたために気づけなかったのだろう。

 家の中を見渡しても、埃が溜まったり変な匂いもない、

 ただ至る所に本が積まれているだけだ。

 

「と言うかなんでその服がいるんだよ」

 

 先ほど引っ張り出したのはよそ行きのかなりしっかりとした服だ。

 そんな服を着る予定があるとは、いや待て? こいつ外に出てるのか?

 

「失敬な、私だって外に出るぞ」

「お前自分の姿見たか?」

 

 そうプンプンと頬を膨らます魔王だが、部屋着でいまだに角に服が引っかかっている姿はニートとしか言えない。

 

「今日はミーアの誕生日会に呼ばれていてね」

「相手子供かよ!!」

 

 子供の誕生日会に呼ばれる魔王とは、魔王なのか?

 

「ケイタには虫取りを教わって、シャーシャは花冠を作るのが上手いんだ。ジルは私を部下にしてくれた」

「知らないとはいえすげーなジル」

 

 親御さんが知ったらひっくり返るだろうな。

 

「これが魔王を超えた魔王と言うものだよ」

「カッコつけんなさっさと着替えろアホ」

 

 誕生日会に行くならちゃんとしたドレスに着替えねーとダメだろ。

 うちに魔王が着れるドレスはないから調達しに行かないと。

 

 

 

「で、なんで外で走り回ってんだよ」

 

 ずっと角に服を引っ掛けたままの魔王を着替えさせ、村の服屋へドレスを買いに行った。

 なんて説明するかずっと考えていたら、魔王を見た服屋のおばちゃんは「あらミカちゃん、今日の誕生日会用のドレス? いいわねぇ」とのん気に談笑しはじめた。

 正体を隠して大人しくしてろと言っていたはずなんだが、思ってたよりも魔王がアホだったのか、村に危機感がないのか……どっちもか。

 ドレスを買った後もいろんな店で声をかけられるし、極力隠そうと思ってたのにむしろ村全体が知っているようだ。

 

「にーちゃんも遊ばないの?」

 

 ため息をつきながらままならない世の中に諦めていると声をかけてきたのは村の男の子。

 確か虫取りが上手いケイタだっけか。

 

「んーいいんだよ、俺は付き添いだから」

「ミカの付き添い? ジルが知ったら怒りそうだな」

 

 理由は聞かないでも分かる、魔王を見て顔を赤らめながら時折コッチを睨んでくる男子がいる。

 いいのかジル、その道は険しいぞ。

 

「そーいやミカってなんだ? 名前とか聞いたことないんだが」

「にーちゃん名前も知らない女を家に泊めるとかヤラシーな」

「あいつの家の様子見てから言えよ」

「どんな欠点も魅力になるってとーちゃんが言ってた」

 

 どんな英才教育してんだとーちゃん。

 分け隔てなく愛すると言う点においてはあってるか。

 

「そんなケイタのタイプは?」

「虫みたいな人」

「それ好きな子に言うのやめときなよ? 絶対怒られるからな」

 

 理由は経験から。

 似たようなことをして怒られたことがある。

 

「そんでミカって?」

「ミカって魔王って自称してるバカじゃん?」

「いきなりぶっ込んでくるんじゃねぇよ、笑うだろ」

 

 そういう扱いになってるのか、そりゃ子供からも大人からも親しまれるわけだわ。

 角を隠していないのも作りものかオシャレだと思われてるんだろうな。

 

「しかも魔王より強いんだって魔王なのに」

「あーそうだな」

 

 それは事実です。自分が証人です。

 

「だから魔王、マオウ、一個ずらしてミカにしたんだ」

「……それ誰が考えたんだ?」

「ミーアだよ、ほら今ボール蹴ってる」

 

 三つ編みにして先頭で走ってるあの子か、なかなかお転婆だな。

 かと思ったら良い名前をつける頭の良さもある…………そういやあの子村長の孫じゃね?

 

「良い名前だな」

「考えた時のミーアも自身満々で可愛かったよ」

 

 まさかの関係性。どっか虫っぽいのか? 三つ編みが虫の羽とか尻尾とか、いや早計に判断するのは良くない。

 

「む、虫らしくて可愛い子だな」

「ミーアが虫らしいわけないじゃんバカなのおじさん?」

「おいおじさんはやめろ、そんで理由を聞かせろ」

 

 これだから子供の相手は難しいんだ。ルーシーやカレン、ミディアの方がまだ…………いやどっちもどっちか?

 大人で身体がデカい分あいつらの方が厄介な気もする。

 

「虫ってのはね、自分の目的のために体を進化させていくんだよ。調べれば調べるほど目的に合わせた綺麗な形態になって「その辺で一旦終わろ?」まだあるのに」

 

 将来有望すぎるだろこの子。いずれ国お抱えの博士にでもなってほしいものだ。

 

「ミーアは自分の得意なことは分かってるんだ。自分が可愛いってことを分かってる」

「それは見れば分かる」

 

 オシャレの具合が女の子の中でも頭一つ飛び抜けてる。

 カレンに教わったが、したいオシャレと似合う化粧は別物らしい、本人はなんでも似合うと言った後二人に厚化粧にされていたが。

 

「でも本人は他の男子たちみたいに走って遊びたいんだ。それを諦めるんじゃなく、どっちもを選んだ」

 

 自分の似合うや得意だけ、やりたいことだけ、ではなくどっちも両立させると言うのはなかなかに難しいものだ。

 それをミーアはこなしているという。

 

「可愛い女の子なら走らない、でもミーアは走る可愛い女の子を選んだ。そんな自分の目的のために工夫してなっているのはかっこいいよ」

「なるほどね」

 

 目的のために頑張る姿、そんな様子に惚れちゃったのか。

 

「ま、こっちは気持ち悪いし走るのが嫌いなやつだから無理だろうけどね、ミーアと虫なら虫を選ぶだろうし」

 

 そう自嘲気味に言いながらも視線はミーアのまま。手に持っていた虫ではなく、応援する女の子ではなく、男の子たちの中で走り回る彼女を見続けていた。

 

「そう自分を卑下するもんじゃないぜ」

「まだヒゲ生えてないけど」

「そういうのじゃない」

「かーちゃんがとーちゃんを怒る時ヒゲって呼んでるから」

 

 そうかケイタのとーちゃんヒゲなのか、いらん情報だな。

 

「かっこいいから気にするなって言ってんの、保証するぜ」

「同棲してる女の名前を知らない人に言われても…………」

「おいそろそろ泣くぞ?」

 

 前にもあったけど最近の子供強すぎないか? ちょっと目が潤んできたぞ。

 

「大人なのに泣き虫だなんだ」

「良いじゃないか、ケイタの好きな虫だぞ」

「泣き虫は虫じゃない」

「あ、こけ「ミーア!!」…………ほーらな」

 

 コケたミーアの元へ一直線に入っていく男の子。何が好きなのか、何が大事なのか、それが分かっている男は強くなる。

 昔誰かが言ってた言葉だ。

 誰に向けた誰の言葉なのかは分からないが、コケた女の子に手を差し出す男の子はきっと成長するだろう。

 虫のように逞しく。

 

「おーい、そろそろご飯の時間だ!! 全員家に戻るぞ!!」

 

 そう声をかけると一斉に走ってくる子供たち、このままだと踏み潰されるので横によけると真っ直ぐに突っ込んでくる一人大人のアホ。

 ゆっくりと倒れる中、すごい目で睨んでくる男の子と手を繋ぎ合う二人が見えた。

 こんな日常をもとにもっと成長するが良い。

 別に親というわけでもないが。

 

 

 

 

 

「勇者リヒトよ、お主の勇者の称号を剥奪する」

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