旅は終えても勇者の苦労は終わらない   作:アオノクロ

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第18話 つみ重ねても届かぬ思いは消えやしない

 勇者と言っても元は一般人、選ばれて即ドラゴンだって倒せます。なんてことはない。

 確かにそこら辺のモンスターなら勝てるようになるが、その程度。モンスターの弱点も、剣の振り方も、魔法の使い方も、旅の仕方だって経験を積んでできるようになるしかない。

 そしてその旅は進めば進むほど困難なものとなる。

 まぁなんだ、できるようになった喜びはあれど強くなった実感というものはなかなか得ることができないのだ。

 

 

 

「はっ‼︎」

 

 バンクに用意してもらった頑丈性に特化した大剣を振るう。剣とはいうが岩も切るより砕く方が楽な鈍もいいとこだし、重さもあるので誰が使うんだと倉庫に眠ってたらしい。

 そんな埃の被った大剣も、

 

「うぎゃー⁉︎」

「ウオッホー‼︎⁉︎」

「助けてママぁー‼︎‼︎‼︎‼︎」

 

 腕力にものをいわせてふるえば、風を起こし砂を巻き上げ人が飛ぶ。

 

 うん、

 

 

 

 たーのしー‼︎

 

「アッハッハッハ‼︎」

 

 思わず笑ってしまうほどに高揚してる。

 今までこんな簡単に勝つことなかったし、頭も使わず力任せに振り回すだけで勝てる。こんな楽な戦闘は今までなかった。

 

 魔王のもとへ近づけば近づくほど強くなる相手とそれに合わせて鍛えられる自分の身体。つねに実力が拮抗した状態で戦っており、簡単に勝てる相手などはいなかった。

 それがいま、

 

「オラオラ! 死にてぇやつからかかってきやがれ!」

「ヒィー! 勇者の力を見るだけの模擬試合って聞いてたのに怖いよこの人‼ 絶対勇者じゃないよこの人‼」

「残念‼ お宅の雇い主のおかげで今はただの職なしだ‼ 恨むなら雇い主を恨むんだな‼」

「その言動で勇者は無理があrぎゃああああぁぁぁぁぁぁ‼」

 

 何か言っていた気もするが気にせず大剣で吹き飛ばす。

 当たれば死ぬほど痛いだろうがギリギリ当ててはいないので死ぬことはないだろう。

 どうせ裏には治癒魔法の使い手もいるのだ、骨の一本や二本、折れたくらいじゃ無傷に等しい。もちろん痛みはあるが、どうせ治るのだ。

 

 それすなわち、

 

「ヒャッハー‼ このまま憂さ晴らしに付き合ってもらうぜ‼」

「「「「いやだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼」」」」」

 

 無双である。

 

 

 

「元気そうだねぇ」

 

 闘技場の見学席に座りながらリヒトが今までにないくらい元気にはしゃぐ姿を見て、僕はつぶやいた。

 実際に戦っているところを見るのは数回ほどしかないが、なんというかこう、丁寧だった気がするけどねぇ。戦闘は自分の分野ではないのではっきりとは言えないのだが、荒っぽいような気がなぁ。

 

「ストレスでも溜まっていたのかな?」

 

 旅の話を聞くたびに思ったものだ、あんな自由で我儘なパーティーメンバーと一緒に過ごすだなんて、とんでもなく忙しくてとてつもなく苦労して…………とても楽しかったのだろう、と。

 

「フゥーハハハハハハハハハハハハ‼︎」

 

 それはそれとして疲れてたんだろうね。あんな笑顔は見たことがない。疲れる原因となったのはあの三人だけじゃないだろうけど。

 

 チラリと横を見れば真っ青な顔の貴族たち。これほどとは思ってなかった、といったところだろうか。

 

「そんな、元勇者とはいえこの数の兵士が……」

 

 チュラ・ビヒゲ、リヒトとミカの友人の誕生会を邪魔したという貴族の地位にあぐらをかくだけの三流。

 似たような仲間の貴族を集めてリヒトにちょっかいをかけにきた。

 

(理由はルーシーたちへの妨害、もしくは取り込もうって算段くらいか)

 

 リヒトは間違いなく勇者だ。

 普段の言動や見た目から疑われることは多いがこれは絶対の事実だ。目立つのが他の三人というだけでその実力は勝るとも劣らない。

 だけど不思議なことにその活躍を耳に知ることはない。

 大まかな理由は分かるが、確証はないし事実ならしょうもないので確かめる気も起きないけどねぇ。

 

 なので世間一般では勇者リヒトの名は広まらず、聖女ルーシー、魔法使いカレン、貴族ミディアばかり有名になっている。

 

 それを面白く感じていないのがチュラ、ちょびヒゲのような奴らだ。大事なものは地位、名誉、財産、欲にまみれた奴らは自分たちよりも力があるものを疎ましく思う。

 

 彼女たちを崩すその足がかりとしてリヒトの称号剥奪、そして適当な罪を着せて芋づる式に、という策略とも言えない策略。

 

 もしちょびヒゲたちがリヒトのことをちゃんと調べていたら?

 まず自分の提案した「見せしめに闘技場でボロボロにしてやりましょう。皆様の私兵を使い数で押せば楽勝です」なんて言葉に乗ることはなかった。

 

 もしあの三人についてちゃんと調べていたら?

 名前だけのお飾り勇者についていくわけがない。ルーシーなら騙して失敗したと旅を終わらせる、カレンなら一人で魔王へ向かう、ミディアならそもそも興味も持たない。

 

 そして何より、このバンクが敵対することがあり得ない。

 

 この金勘定しかできない僕を、王国の財務大臣まで押し上げてくれたのは紛れもなくリヒトのおかげだ。

 こんな仕事やりたくないが、リヒトのためならと続けているんだ。

 彼への恩を返すために、勇者の手伝いをするために、僕にできることで僕は友だちを助ける。

 

 

 

「バンク、バンク、ちょっといいか?」

 

 大柄な兵士を真正面から押し返したリヒトを見て、笑いを堪えていると、後ろから裾を引っ張られた。

 振り返ればミカが口の周りにお菓子の食べカスをつけて立っていた。

 

「んー? どうしたの、お菓子がなくなった?」

「お菓子は食べきって満足したからヒマ」

「そっかー」

 

 ………結局彼女は誰なのだろうか。

 リヒトのことだ、何かに首を突っ込んでいつものように余計なお世話をしているだけな可能性もある。とはいえ、あの三人にも秘密にしていながら自分も把握していない天文学的な価値の付く女性がタダ者であるわけがない。

 言われないことを自ら聞くことはないが、何でもないというには見逃せない要素が多すぎる。

 

「ミカさんはリヒトから何もきいてないのかな?」

「聞いた気もするけど忘れた、なんで勇者は遊んでるのだ?」

「そっかー」

 

 悪い人ではない、間違いなく。あまり世間知らずなのか見た目よりは幼いように感じる。

 どこかの貴族の娘? いや顔立ちからして自分の情報には当てはまらない、養子の可能性はあるがその程度なら見抜ける。

 

「暇だなー」

 

 つながりはどこだ? 旅の最中ならルーシーは必ず知っているはず。なのにリヒトは誰も知らないといった、なら三人が関わりのない時期、場所。

 

「わたしも遊びにいこー」

 

 出身の村、そこしかない。

 

 前なのか、後なのかは分からないがそこは関係ない。

 ほんとうは秘密を暴くなんてしたくはないが、情報はあればあるだけ、正しければ正しいだけ良い。そのぶんだけ正確な勇者のサポートができる。こんな自分が国の財政大臣なんてめんどくさい仕事についているのもそのため。

 

 僕は、僕を助けてくれた友達のために僕ができることを全力でやる。

 そのために、

 

「ちょっと聞きたいことがあるんだけど………ありゃ?」

 

 振り向けば誰もいない。

 彼女が立っていたはずの足元には、お菓子の食べかすだけがこぼれていた。

 

「………はぁ~」

 

 ため息をひとつ吐いて、見上げれば快晴。

 音もなく、こちらが気が付くこともなく立ち去る技量。

 それに合わせてこちらに何も言わず行動する自由さ。紛れもなくリヒトの仲間だ。

 きっと彼女はリヒトと旅をしても問題のないくらいの強者なのだろう。

 

 

 

 

「………………………羨ましいなぁ」

 

 零れた本音は誰にも聞こえずに空へと消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゆうしゃーわたしも遊びに来たぞ」

「え、バンクは?」

「なんか考え事してたから放っておいた」

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