旅は終えても勇者の苦労は終わらない   作:アオノクロ

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第20話 バレた嘘でも誤魔化しきけば怒られない

 聖女は走っていた。

 

(まずいまずいまずい、いつか使おうと思っていた勇者の称号を取り消すための書類一式、いつでも使えるように一歩手前で止めていたのが仇になった!)

 

 いつも通りにつまらない仕事をお得意の笑顔でこなしていた時に来た報告。すなわちリヒト、勇者の称号剥奪である。

 

(誰にも手出しできないようにしていたけど貴族数人がかりは無理だった。でもそれだけの動きがあるなら、なんで事前に気が付かなかったの!)

 

 その報告を聞いて焦りを顔に出すことはなかったが、溜まっていた仕事を即座に片付けて王都へ向かった。勇者に八つ当たり気味の恨みや権力争いの道具に使おうとしている貴族はそれなりにいる。しかし、貴族の中でも上の立場になればなるほどパーティーメンバーの力を理解しているので手を出すことはない。ならば今回の主犯は下級貴族、それでも動けば目立つには変わりない。

 

 さらにルーシーが一番解せないのは、

 

「バンク! 貴方がいてどうしてこうなったの‼」

 

 王都に着いたルーシーが真っ先に向かったのは王都の財政大臣を担う顔見知り、旅の最中に協力もしてくれたことのあるバンクである。

 

「やぁルーシー、まずはお茶でも飲むかい?」

 

 今にも人を殺しそうな視線を向けられるも、呼ばれた優男はのんきな返事を返した。

 

 つかつかと部屋の中に入ると、乱暴に椅子を引いて座り、ゴン! と組んだ足をテーブルに乗せた。聖女どころかどこの荒くれ者だといわんばかりの態度だが、バンクは何もいわずにお茶をいれ始めた。

 

 子どもなら失禁、大の大人でも腰を抜かしそうな圧が部屋の中に充満する。だというのに見えていないのか、のんびりとお茶を入れるバンク。

 

 準備ができたお茶道具一式をテーブルへ運び、注ぐとルーシーの前に突き出した。

 

 ちゃんと持ちやすいように向けられたティーカップの持ち手を無視して鷲掴みするルーシー。大の大人が酒を飲むかのように煽ると、一息で飲み干した。

 

 ガン! と空になったティーカップを叩きつけるように置くとバンクに向かって口を開く。

 

「説明しなさい」

「相変わらず話が早くて助かるよ」

 

 自分の用意したお茶を上品にひと息飲むと、水面を眺めながら答えた。

 

「結論から言おう、リヒトの頼みだ」

「っ~~~! ~~~~~ぁ!」

 

 頭を抱えて呻き出すルーシー、だがバンクは何もすることなく、優雅にお茶を楽しんだ。

 

「あ~~~っ! 一から説明しなさい‼」

「もちろん」

 

 そしてバンクは話し出した、リヒトが旅立つまでの出来事を。

 

 

 

 

 

 

 はい、こちら絶賛ぼっちの勇者です。付き添いのミカは貴族様たちに囲まれています。本来自分があの立場だったのです。

 

「なんで?」

「うーんミカさんの方が分かりやすく強かったからかな?」

「俺だってフッ飛ばして目立ってなかった?」

「その衝撃が霞むくらいだったからね」

 

 全ての疑問がバンクに答えられる。マジかよどうしよう。

 

「で、結局彼女は何者なんだい?」

「秘密」

 

 まぁ気になるよね。サラッと聞かれたけど口滑らせません、だってバレたらとんでもないことになるし。

 

「あ、別に信頼してないとかそんなんじゃないけど、秘密」

「……そうかい」

 

 納得、はしてないけど引き下がってくれた感じかな。踏み込んでこないのはありがたい。改めて考えると迷惑しかかけてねぇなぁ。

 

「これからどうするつもりだい、貴族たちも一度取り消した勇者の称号を復活させようとしている。もっとも対象は君じゃないけど」

 

 バンクの視線の先では数々の料理を持ち寄られているミカ。あいつの胃袋どうなってんだ? 片っ端から食べてるけど明らかに身体の体積超えてるだろ。太らないのか? 太らないのか。

 

「僕が口添えすれば、君は再び勇者になれる」

「いやそれはいいや」

 

 あっさりと返した答えにバンクの目が見開く。お前そんな顔するのな、意外だわ。

 

「それは……また、どうしてだい?」

 

 かろうじて出てきた言葉、普段のバンクとは思えないほどカタコトであやふやだった。まぁ気になる気持ちはわかる。分かるがどーしよっかなー、これどこまで答えたものか。

 

 うーんと頭を捻ると、落ち着いたのかバンクが冷静になって質問をしてくる。

 

「リヒトが何か考えていることがあるのは分かってる。でもその上で不思議なんだ、勇者の称号はおいそれと誰でもが貰えるものじゃない。ちゃんと選ばれたものに与えられるものだ」

 

 バンクが言っていることは正しい。国に認められたその称号はかなりの影響力を持つ。ちゃんと発揮できれば。

 

「これから何をするにせよ、武器はあった方がいい。称号だってその一つだ」

 

 うんまぁ、そうなんだけど。

 

「あんまり役に立たないんだよね勇者の称号」

 

 なんか行く先々で伝えたんだけど本人か否か怪しまれるし、田舎だとそもそもよく分かってない。勇者すごい、で泊めてくれた。代金は畑仕事だった。タダじゃないんかい。

 

「…………」

 

 頭を抱えるバンク、大きな街とかなら良いんだがそもそもそれくらい大きいと確認とか簡単に済むし買い物とかも楽。本来必要となるべき、小さな村とかで効果を発揮してくれない。まぁ難しいけど。

 

「だとしても、じゃないか?」

 

 なんか食いつくな。こだわりでもあるんだろうか。しかし、

 

「必要ないからいいよ、大丈夫」

 

 使うこともなく終わる目的だ。

 

 少し落ち込むバンクから目を逸らしてなんでもないかのように呟く。

 

「そういえばちょっと頼みたいことがあるんだけど」

 

 俺の言葉に少し驚くと、バンクはまた笑みを浮かべた。

 

 

 

 

「なるほど、理由があってリヒト自身が断ったと」

 

 少し落ち着いたのか、部屋を充満していたルーシーの圧がおさまる。バンクも知りたいことは伝えたと満足気に空になったカップへお茶を注ぐ。

 

 態度は悪いが最初の時のような乱暴ではなく、ちゃんと取っ手を持ってひと息でルーシーは飲み干した。

 

「で、その理由は?」

「分からない」

 

 バンクを見つめるルーシーの眼が輝く。使われている、と気づきながらもバンクはいつも通りに答える。

 

「聞いたけど答えてもらえなかった。これは予想だけど、僕に、じゃない。君たちにもだ、きっとね」

 

 そこいらの人なら飲み込まれそうなルーシーの瞳を前に平然と答えるバンク。少しだけ手が揺れたのは隠し事があるのか、それとも、

 

「…………いいでしょう、認めましょう」

 

 一度目を閉じると、瞳の輝きはなりを顰め、いつも通りの碧眼が瞬いた。

 

「で、リヒトはどこへ」

「旅に出たよ」

 

 音が消える。

 

 さっきまでの圧もなく、顔をあげて天井を見つめるルーシー。懐へ手を伸ばそうとしてやめた。かわりに腕を組み、身体を後ろへ逸らしてイスをグラグラと揺らす。

 

 ただそれだけの行為なのに緊張感が部屋を満たす。さっきまでの分かりやすい殺気のような圧ではなく、動いたものから消えるような緊張感。

 

「……どこへ」

「分からない」

 

 端的な言葉に端的な返し。

 

「誰と?」

「…………」

 

 ここへきてまさかの無言である。

 

「バンク」

「…………分かる、けど分からない」

 

 ルーシーはそれが正確な表現だと分かっていた。故に嘘ではないため咎めない。

 

「何者なんだ、君たちも知らない。表現もできない、換算もできない。そんな人物がリヒトと長い付き合いのように親しかった」

 

 いつもの笑顔ではなく、俯き気味の顔の前で手を合わせる。それは祈りとも言える動きだった。

 

「…………バカなことを言うよ」

 

 ルーシーに動きはない、変わらず天井を見上げている。

 

 それを了承とバンクは受け取った。

 

「僕は彼女を」

 

 ゴクリとツバを飲み込むと、冷や汗を流して少し震える手を無理やり押さえつけて言った。

 

 

 

「魔王だと思った」

 

 

 

 

 

 

 

「へっくち」

「おいおい、風邪か?」

「魔王はつよい子、風邪ひかない」

「鼻水垂らしてんぞ」

 

 近くの川で顔を洗わせてタオルで拭かせる。

 

 誰かが噂でもしてんのかな? あ、バンクか。たぶん気が付いてたっぽいし。まぁ誰かに言っても笑われるだけだし、大丈夫だろ。

 

 荷物を背負いなおすとミカと共に歩く。

 

 向かう先は魔王の谷、かつてミカが魔王として暮らしていた場所だ。




 お久しぶりの投稿です。

 ちょっと賞に出したら、リヒトのオリジンともっとイチャイチャ書いてって言われました。参考になりました。
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